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このSSの真サイドですけど読まなくても平気です。
せっかくお洒落をして事務所に行ったというのにプロデューサーときたら、『おー、今日も元気だなぁ』なんて言ってボクの格好についてはスルーして美希や春香といちゃいちゃいちゃいちゃ……
確かにボクはあの二人と比べるとそこまで女の子らしくはないのは分かるけど、雪歩にアドバイスを貰って目一杯お洒落をしたのになにも触れてくれないなんて……
別にプロデューサーだけが悪いなんて思ってはないのだけれどやっぱりモヤモヤしてしまう。
ボクだって美希みたいに素直に「好きだ」って伝えられたら。春香みたいにお菓子を作って差し入れできたら。
勇気の出せない自分が恨めしい。
慌ててラジオの電源を付けてチューニングを合わせる。
ザザッと一瞬のノイズの後、聞き慣れた小鳥さんの声が聞こえてくる。
東京都にお住みのラジオネーム、恋する乙女さんからです。あら、17歳なんですね。
私は今、歳上の彼に片想いをしています。しかし、彼は私のことを異性として見てはいないようで色々なアプローチをしても気付かれません。
また、私はよく王子様と呼ばれたりしている上、彼の周りには私以外にも女性が多く、同性の私から見ても魅力的な女性ばかりなので彼の興味は私より彼女たちに向いているのか不安になってしまいます。
一体どうすれば良いでしょうか。とのことですね」
事務所内じゃ小鳥さんにこんなこと聞けるに聞けないし、まさか顔見知りのメールが読まれるなんて思っていなかった。
「王子様ってことはボーイッシュな子なんでしょうか。
それなら思い切って今までと違った服装をしてみたり、お弁当やお菓子を差し入れして女子力をアピールするのもいいかもしれませんね。
もし既にそういったことをしているのであれば……うーん、思い切ってデートに誘ってみるのはどうでしょう。デートの最中に、彼がドキッとするようなことを言ってみればきっと気付いてくれますよ! 頑張ってくださいね!
……さて、それでは次の曲に行きましょう」
デート、デートかぁ。
美希がよく誘っているのは知ってるけどどうなんだろう。
自分で言うのもなんだけどボクたちはだいぶ人気が出てるし忙しいからそんな時間が取れるのかな。
そんなことをぼーっと考えていると放り出していたスマホがメールの受信を知らせた。メール? と首を捻りながらメールBOXを見ると小鳥さんからのメールが来ていた。
あの人はオンエア中になにやってるんだ……なんて思いながらそれを開くと『さっきのメール、真ちゃんからでしょ? 明日時間取れる? お姉さんが相談に乗るわよ!』との文面が飛び込んできた。
思わず笑ってしまう。小鳥さんってこういう話好きだもんなぁ。お願いします、と返信し再びベッドにごろんと寝転がる。
ラジオから流れてくる小鳥さんの声を聞きつつボクの意識は微睡みの底へと沈んでいった。
○
「おはようございまーす!」
「おはよ、真」
「おはよ、真ちゃん」
「おはようございます、プロデューサー、小鳥さん」
挨拶を済ませると小鳥さんからちょいちょいと手招きされる。
昨日のことかな? と思い浮かべながら近寄る。
「どうしました?」
「昨日のあの話、せっかくだし今しない?」
「も、もうですか!?」
「ほら、善は急げって言うでしょ? さ、さっ」
立ち上がった小鳥さんに手を引っ張られる。何事かと驚いた様子でこちらを見るプロデューサーにぺこりと小さく頭を下げて社長室へと入る。
○
「それでそれで! どうやってプロデューサーさんを誘うの?」
「えっとどうしようかって思ってて……っていうか! 勝手に社長室なんか使っていいんですか?」
「へーきへーき。しばらく社長は来ないから大丈夫よ」
「それならいいんですけど……」
「ふふ、その辺はバッチリだからね。と、プランはある?」
「プランですか、正直なところ全く思いつかなくて」
「そっか。でもそんな難しく考えることないわよ?」
「え……?」
「プロデューサーさんとお仕事に行った帰りにでも、『デートしてくれますか?』って言っちゃえばプロデューサーさんはイチコロよっ!」
「……いや、そんな簡単に聞けるわけないじゃないですか」
「えー、真ちゃんならいけるわよ!」
「……小鳥さんはそれができないからこの歳になっ」
「真ちゃん?」
「ごめんなさい!!!」
うん、小鳥さん相手にこのことは良くなかった。反省。別に小鳥さんの目力が怖かったわけじゃないから、うん。
「……とは言ってもですね。プロデューサーは美希からのデートの誘いなんかよく断ってますし、デートする時間なんか正直あまり取れない、と思うんですけど……」
「うーん……美希ちゃんは普段からよくベタベタしてるし、しょっちゅうプロデューサーさんに色々とお願いしてるでしょ?」
小鳥さんからの問いかけにこくりと頷く。
「でも真ちゃんはそういうの全然してない……というかそんなことしなかったでしょ?」
「そう、ですね……」
「だからこそ、そういうことを普段してこない真ちゃんからのお願いだったらプロデューサーさんも断わらないと思うわよ。なんだかんだ言ってあの人もアイドルのみんなに甘いからね……」
「……なるほど、確かに…?」
「まあ、不安よねぇ」
「えぇ……」
「だったら、はい! これあげる!」
はい、と小鳥さんから黄色のカチューシャを手渡される。
「これ、小鳥さんのじゃ……」
「そうだけどそっちは別。お守り、みたいなものね」
「お守り?」
「ええ。それを持っていれば真ちゃんは一人じゃないでしょう? だからお守り、ってこと」
「…ありがとうございます、小鳥さん…!」
「ふふっ、どういたしまして」
「それじゃ、ボクはレッスンに行ってきますね!」
「気を付けてね。あ、そうそう。真ちゃん、きちんと自分を信じてあげてね?」
「自分を?」
「そう。誰でもない、真ちゃんが自分の想いを信じること。言葉にするのは勇気がいるけれど、自分の想いを真ちゃんが信じてあげればきっとその想いはつながるから。それだけは、忘れないでね」
「わかりました、ありがとうございます!」
自分を信じること。その言葉はどことなくふわふわしていたけれど、何故かすっと胸に入ってきて、不思議と不安が立ち消えていくのがわかった。
「真ちゃんがちゃんと好きだって気持ちを伝えられれば大丈夫よ。プロデューサーさんも……同じなんだから」
真が立ち去った後、誰にともなくぽつりと呟いた小鳥の言葉は静かに消えていった。
○
「お疲れ様、真」
「お疲れ様です、プロデューサー!」
「はは、真はまだまだ元気そうだな」
あははと笑うプロデューサーに、貴方と一緒にいられるから元気なんですよ、という言葉を必死に堪える。どんなに疲れても、プロデューサーの顔を見れば元気が湧いてくる。笑いあえればどんな疲れも忘れることができる。プロデューサーもそんな気持ちだったらいいな、なんて思う。
「さてと、じゃあ遅くならないうちに帰ろうか」
「ええ、そうですね」
車内が静寂に包まれる。デートに誘うならここだと分かっているのに言葉に出せない。『デートしてくれませんか』という短い言葉がどんな言葉よりも重く感じる。
「真、なにかあったか?」
「ふぇ……?」
「んんっ、ふふ。面白い声を出すんだな。
まあ、それは置いといて、さっきから様子が変だからな。なにかあったのかと思って」
「よく分かりますね……」
「真のプロデューサーだからな。で、どうしたんだ?」
すうっと大きく呼吸する。
「ぷ、プロデューサー!」
「ん…?」
「で、デート! してください!」
プロデューサーが驚いているのがわかる。そしてボクの顔が真っ赤なのも。
「デート、か」
「駄目……ですよね、ごめんなさい……」
「いや、いいよ」
「え!?」
はいはい、断られ…え? いい、って言った? OK?
「真から言い出したのになに驚いて……」
「てっきり断られると思っていたので……」
「まあ、美希ならともかく真に誘われたらな」
「そ、それってボクのことが…!?」
「いやいや、違う! 真に誘われるのが嬉しいとかじゃないから!」
「……」
そんなに否定しなくてもいいのに。ボクに気持ちが向いてないのは分かってるけどそんなに全力で否定されたらやっぱり悲しい。
「あ、その…ごめん……」
「いえ……」
「あー、その。次のオフでいい?」
「あ、はい!」
「うん、それじゃあ何処に行きたいとか希望をまた教えてな」
「分かりました! えへへ……」
○
ショーウインドウの前で今日の服装を確認する。雪歩や小鳥さんに相談して今日のためにボクに似合って、かつ女の子らしい服装をしっかりと選んで貰ったから間違いない、はず。
プロデューサーに似合ってるなんて言われたら……えへへ。
なんてことを考えていたらとんとんと肩を叩かれる。振り向くといつものスーツ姿ではなく私服のプロデューサーだったので思わず見とれてしまった。
「お待たせ」
「いえ、ボクも今来たところなんで!」
「ふふ、そうか。にしてもせっかくのデートなのにこんなのでいいのか?」
「ええ、プロデューサーとこうしてゆっくり買い物するのも悪くないかなって」
「確かにここのところ俺も真も仕事仕事だったもんなぁ」
「忙しいのはいいんですけど、ちょっと忙しすぎですよね」
「ははは、まあ嬉しい悲鳴かな」
「っと、今日はお仕事のことは忘れて楽しみましょう!」
「そうだな。よし、行こう!」
○
「わあ、これ可愛くないですか!?」
「えっ、いやそれはヒラヒラすぎないか?」
「えぇー、そんなことないですよ!」
「いや、真だったら…うん、こっちのがいい」
「むぅ……あ、でもこれも悪くないですね」
「だろう? 真は可愛いんだからそんなゴテゴテしたものよりもこれくらいが似合うよ」
「か、可愛い…えへへ……」
「真ー? おーい」
「うぇへへ…可愛い、プロデューサーが可愛いって……」
「はぁ……聞いてないな。まあ、この隙にこれ買ってこよう」
○
「あの……これ、本当に良かったんですか?」
「いいって言ってるだろ? いつも頑張ってる真にプレゼントだ」
「やった、ありがとうございますっ!」
「ああ、そんなに喜んで貰えるから良かった」
「うむむ、こうなるとボクもなにかお礼をしないといけませんね」
「真が喜んでくれたらそれでいいんだけどなぁ」
「それじゃボクがよくないです!」
「うーん……じゃあ、これからも時々それを着て俺に見せてくれよ。それがお礼ってことで」
「そんなのでいいんですか?」
「ああ、こんな可愛い真が見れるんだからな」
「も、もうっ! そうやってすぐ……」
「ごめんごめん。そんな怒ると可愛い顔が台無しだぞ?」
「~っ!!!」
遂に耐えきれなくなり思わずプロデューサーをぽかぽかと叩いてしまう。恥ずかしいけれどそれでも幸せで、こんな時間がずっと続けばいいのに、と思った。
○
「にしても……あっという間だったな」
「そうですね……もうお別れですか」
「そんな悲しそうにするなよ。ほら、まだ今日は終わりじゃないぞ?」
「……?」
「あれ、気付いてなかったのか?」
「なにがですか……?」
「今日は流星群が見れるらしいぞ。せっかくだしそれを見てから帰ろう」
「はいっ…!」
思わぬサプライズにさっきまで沈んでいた心が一気にワクワクしてしまう。きっと今のボクは、とても嬉しそうな顔をしているんだろうな。
○
プロデューサーに連れられた場所は小さな公園だった。
都会だというのに驚くくらい静かでゆっくりと星を眺めるには絶好の場所だと思う。
「それにしても、よくこんな場所を知ってましたね」
「あぁ、貴音に教えてもらったんだよ。なんかやたら嬉しそうにしてたなぁ」
「へえ、貴音に感謝しないとですね」
「そうだな、明日お礼言っておかないとな」
「えぇ……」
暫く二人で空を眺めていると、キラリと夜空に一筋の光が奔る。
するとそれに釣られるかのようにいくつもの光が雨のように降り注ぐ。
「綺麗ですね……」
「あぁ、綺麗だ」
流れ星に願い事を三回唱えるとそれが叶う、なんて言われてたな、なんて思い出す。今お願い事をしたら叶うだろうかと、プロデューサーの横顔を盗み見る。
すると、ふっと小鳥さんの言葉が聞こえてきた、ような気がした。
『言葉にするのは勇気がいるけれど、自分の想いを真ちゃんが信じてあげればきっとその想いはつながるから』
行動するなら、今だ。プロデューサーにこの想いを伝えるなら、今しかない。
カチューシャをそっと握り、深く、深く呼吸する。
夜空を見上げるとまだまだ星は流れている。
小鳥さんに背中を押されたように、ボクは口を開く。
「プロデューサー」
「……どうした、真」
「……好き、です。貴方のことが大好きです。ずっと、ずっと好きでした」
「……」
プロデューサーの顔を見つめる。困ったような、泣きそうな、よく分からない顔をしていた。
ああ……駄目だったのかな。仕方がない、かな。仕方ない……そう思っているのに視界が滲む。
「……ふぅ、先に言われるとはな」
「え……」
「真、俺もだ。俺も、真のことが好きだ」
「プロデューサー……も……?」
「ああ、本当は俺から言おうと思ったんだけどな。真に先に言われちゃったよ」
「あは、あは…ははは……」
涙がぽろぽろと零れる。嬉しいのに、悲しくなんかないのに涙が止まらない。
「真……」
プロデューサーの顔が近付いてくる。そっと抱きつき、目を閉じる。
唇に柔らかくも温かい感触。頬を伝う冷たさと唇の温かさがはっきりと分かる。心地よいその感覚を味わいながら、ボクたちはそのまま抱き合っていた。
○
え、なんでそんな勇気があるのか?
そう言われてもボクは全然だよ。勇気があるのは春香とか美希とか……
そうじゃない?
え、うーん?
ああ、なるほど。
怖がらないで、誤魔化さない勇気が欲しいってことか。うん、それなら答えられるよ。
秘訣?
あはは、そんなのないない。ボクが殊更強いわけでもないかな。
もっと、ずーっと簡単なこと。信じることだよ。
うん、そう。
自分の気持ちを、抱いた想いを信じること。
誰でもない、キミこそが。
うーん、それでも不安かぁ。
じゃあ、はい。これあげるよ。
なにかって? お守り……かな。
言葉にするっていうのは勇気がいるけど、でもきっとその紡いだ想いは必ず繋がるから。
それがあれば、ボクがついているみたいなものだよ。
うん、ボクにはもう必要ないからね。
あははっ、言ったじゃん。
『想いは、必ず繋がる』
って。
読んでくださりありがとうございました。
前作でちょっとアレな扱いだったので書きました。
真はアイマスにハマったきっかけとなるアイドルだったので難しかったです。
次は飛鳥に戻るかと思います。
飛鳥の汗ばんだ足で塩分補給したい。
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