そこで二人の人物が対峙している。
一人は氷のような笑みを浮かべている。
「彼女たちをどうしたんだ?」
「どうしてって……」
これはとある洋館で起こった悲劇の記録。
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古い洋館、その中央広間に集められたアイドルたち。シアターをあげてのドラマ撮影ということもあって、全員気合いは十分だ。
「それじゃあ、今回の撮影にあたって注意点がいくつかあるそうなのでよく聞いておくように」
そう言ってプロデューサーが下がると、代わってひげをたくわえた男性が前へ出る。鋭い目つきが作品への真剣さを物語っていた。
「今回の撮影で監督を務めさせてもらう。よろしく頼む。早速だが君たちに了解してもらうことがある。一つ目は撮影に関することを撮影が終わるまで一切口外しないでほしい。家族はもちろん友人、今回参加しない君たちの仲間にもだ」
「事務所のアイドルにも、でしょうか」
口を開いたのは豊川風花だ。今回の撮影では被害者の一人を演じる。
「そうだ、これはプロデューサー君の意見もあるんだが……」
「まあ、それはいいじゃないですか。内容は漏れない方がインパクトがあるだろうと監督と相談したんだよ。なんせ内容が内容だからな」
内容といっても古い洋館で起こる連続猟奇殺人を題材としたよくある推理物だ。変わっていることと言えば、この作品の犯人役をプロデューサーと監督、犯人役のアイドルしか把握していないことだ。
「か、帰るんですか……?」
おどおどとした声の主は篠宮可憐だ。流れるような金の長髪が洋館の雰囲気に見事にマッチしている。可憐も風花と同じ被害者役としての出演だ。
「この洋館から、という話だ。命を絶たれた人間からは一切の手助けを受けられない、そんな感覚で撮影に臨んでもらいたい」
「というわけだ。出ていくと言ってもほかに場所をしっかり確保してあるし、可愛いアイドルたちに不便はさせないさ。あと、撮影を終えた子との連絡も指示がない限り取らないこと。不安とは思うが、頼むよ。お前たちのレベルアップにもつながると信じてるんだ」
説明を終えてすぐに撮影は始った。綿密に組まれたスケジュールの下、撮影はどんどん進んでいく。第一の被害、それに伴う事後処理のシーンを終えたのは二日後のことであった。初めの退去者は風花だ。
「出てすぐのところに車を停めてるからそこに……っと鍵が……そうだ風花」
プロデューサーは鍵を忘れた旨を伝えて、改めて風花に指示を出す。
「はい。それでは行ってきますね」
プロデューサーは屋敷に戻り、風花は挨拶をして外へ。撮影はすぐに再開された。
おびえた表情の可憐。この洋館に残っている人間も少なくなってきた。今まで一緒に寝泊りしていた人間が去っていき、連絡も取れないことがこれほどまでに恐怖を煽るものなのか。被害者役として去った人、ストーリーの中で身を隠した人、そういった人が本当に人を殺害してるのではないか。被害者役に知らず知らず没頭していた可憐はそう思わずにいられなかった。
「ドラマの撮影だぞ?実際に殺されるわけじゃないさ。それに明日で可憐の役も終わりだろ?そうしたら、向こうで皆とゆっくりすればいいさ」
「そ、そうですよね……!」
頑張ります、そう言って胸を張った可憐は素晴らしい演技を見せてくれた。ほっとした顔で駆け寄ってくる可憐。
「お疲れさま。すごいかったぞ、可憐」
「えへへ……ちゃんと出来ました」
笑顔の可憐。開放感にあふれた魅力的な表情だ。
「それじゃあ可憐も終わりだな。あとは……ラストシーンだけだ」
「ついに犯人の……」
「ああ、そこで可憐にもお願いしたいんだが様子を見てきてくれないか?多分不安にしてると思うんだ」
あれだけ禁止されていた犯人役への接触。
「いいんですか?」
「実はみんなにもお願いしてたんだ。屋敷の裏、ちょっと山に入ったとこに小屋があってな」
「そ、それじゃあ行ってきますね」
歩いて行く可憐を見送るとプロデューサーは監督のもとへ向かった。ラストシーンの調整である。最後は犯人が動機を語る場面だ。最高の演出を見せなければならない。話し合いの結果、撮影は三日後となった。
「調子はどうだ?」
「ノープロブレムですよプロデューサー!それよりも見せたいものがあるんです!」
彼女は判田ロコ、ロコ語と呼ばれる横文字を話すアーティスティックなアイドルだ。あまりに飛び抜けたセンスのため、理解され難いがプロデューサーは彼女を高く買っていた。実際に今回の配役で犯人役に彼女を指名したのはプロデューサーである。
「見せたいもの?」
「そうです!フロアのボードを外すと……」
あらわれたのは地下へ続く階段。
「でも、入っていくのは少しアフレイドで……その、プロデューサーと」
背中を押してくるロコに了解を返し、下へ降りていく。降りるにつれて感じる臭気。その正体は階段を下りきったところで判明した。
「どうですかプロデューサー!パーフェクトなアイドルです!」
赤、赤、黒、赤。おぞましい液体に濡れた床と壁。転がる道具から何が起きたかは一目瞭然だったがあえてプロデューサーは問いかける。
「どうしたって……ベストなパーツにディスアセンブルしてアセンブルし直したんです!」
「パーフェクトなフォルムだと思いませんか!?」
「……」
「まず、ボディはフウカ、ヘアーはカレン、アームはライトがマツリ、レフトがトモカ……」
「ふとももは美也、膝から下は海美」
「……わかるんですか!?」
「ああ、アイドルのことだからな。手首から先は麗花だな」
「それでこそプロデューサーはロコのプロデューサーです!」
「でも足りないものがあるんじゃないか?」
「……そうなんです。ハート、一番インポータントなパーツ……そこで」
思いついたんです、と隠したナイフを握ってプロデューサーに飛びかかるロコ。二つの影が交差して赤い血が飛び散った。
「惜しかったな、ロコ。でもな、この体格差だと届かないさ」
ナイフを持った手をひねりあげて、ロコからそれを奪う。
「……っ」
「刃物を怖がって目をそらすような奴ならまだしもな」
「プロデューサーはわかってたんですか?」
「ああ、うまく出来てただろう?一人ずつこの小屋に来て、道具もあって場所もあって……俺が思った通り、ロコは最高のアイドルを作ってくれた。それで、俺を添えて完成させようとしたんだろ?」
「でもそれじゃあ駄目だ。俺じゃ駄目なんだよ。俺はアイドルじゃないからな。そんな粗悪品が混ざっちゃ駄目だろう」
プロデューサーは氷のような笑みを浮かべる。
「だからお前なんだよロコ。今では俺と同じくらい十分にあの『アイドル』を理解してるはずだ。確かに仕上げに失敗しかけたが……体に関しては完璧だ。俺の見立て通りだ。あれとお前で完成だ。完成するんだよ。ああ、大丈夫だロコ。お前も最高のアイドルの一部、いや、お前が最高のアイドルのセンターだ」
ロコに駆け寄りナイフを振り下ろす。刹那、先ほどとはケタ違いの赤が噴き出した。
この悲惨な事件はすぐに明るみに曝された。犯人の遺書などが発見され、その内容から一部では『最高のアイドル事件』などと呼ばれて世間を賑わせた。奇しくも歴史に残るアイドルになったのは事実である。
>>2
豊川風花(22)Vi
http://i.imgur.com/ANzIth1.jpg
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>>3
篠宮可憐(16)Vi
http://i.imgur.com/liYT8Iw.jpg
http://i.imgur.com/SeOowzi.jpg
>>5
伴田路子(15)Vi
http://i.imgur.com/zbYXRvT.jpg
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