765プロ事務所
伊織「……よいしょ、これで全部終わりっと」
テーンテーテーテーテーテーテー
伊織「17時のチャイム……こんな時間に自由なのも何時ぶりかしら」
P「お疲れ、伊織。……もう帰るのか?」
伊織「ええ、……いつまでもここにはいられないもの」
P「そうか……折角だし送って帰ろうか?」
伊織「あんたに送って貰わなくても一人で帰れるわよ」
P「……さいですか、大人な伊織ちゃんには余計なお世話でしたね」
伊織「ええ、大人なレディーの伊織ちゃんは一人でも平気なの」
P「そうか」
伊織「……」
P「……」
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P「……」
伊織「…ね?」
P「……はあ、仕方ないな」
P「……伊織様、どうか私に帰り道の付き添いの命を頂けないでしょうか」
伊織「にひひっ、そうやって初めから素直になれば良いのよ♪」
P「本当に機嫌がコロコロ変わるお嬢様だこと」
伊織「そんなこと言っておきながら、結構まんざらでもなさそうじゃない?」
P「……俺の大事な伊織様が事件に巻き込まれても困るしな」
伊織「まあ、そういうことにしておいてあげるわ」
P「やれやれ……」
P「じゃあ戸締りとかするから先に出ておいてくれ」
伊織「わかった、下で待ってるわ」
P「悪い、結構待たせたな」
伊織「まったく……この伊織ちゃんを寒空の下放置するなんて良い度胸じゃない!」ピトッ
P「うわっ!いきなり手を首元にあてるな!」
伊織「……誰のせいでこんなに手が冷えたと思ってるの?」
P「……返す言葉もございません」
P「仕方ない、ほら」
伊織「…どうしたの?手なんて差し出して……気でも狂った?」
P「違うわ!」
P「……ほら、俺のせいで冷たくしちゃったから、……少しでも温めようと思って」
伊織「……思って?」
P「思って……」
伊織「……」
P「……ああ!もうわかったよ!言えば良いんだろ!」
P「手、繋ぐぞ」
伊織「にひひっ、だから素直になりなさいって言ってるじゃない♪」
P「はあ……」ギュッ
伊織「……♪」ギュッ
伊織「……」テクテク
P「……」テクテク
伊織「……まだこんな時間だというのに、もう真っ暗ね」
P「そうだな」
伊織「何だか私たちが出会ったばかりの頃みたい…」
P「……ああ、まだ伊織の予定がレッスンだけだった頃か」
伊織「……なんか腹立つわね、その言い方……まあ、間違ってはないけど」
伊織「仕事なんか無くて、朝からレッスンを続けても夕方には終わってて」
P「んで、何故だか俺と一緒に帰りたがって、無理矢理手を繋いできたんだよな」
P「当時の俺は驚いたよ、高飛車でわがままなイメージしかなかった伊織が、まさかしおらしく手を繋いでくるなんてな」
伊織「さっきから何だか言い方に棘がある気がするのは気のせいかしら」
伊織「……まあ、あの頃は不安だったのよ」
伊織「アイドルになったばかりで、この先がどんな道かもわからなくて」
伊織「やってることは毎日レッスンばかりで、『本当にアイドルとしてやって行けるのか』なんて」
P「……」
伊織「でも、……いえ、だからこそ周りには弱いところ見せられなくて」
伊織「弱いところを見せたら失望されそうで、アイドルとして見限られちゃうんじゃないかって」
P「伊織……」
伊織「それでも……何でかな、あんただけは信じられると思ったの」
伊織「……だから、あんたの手を握ってるときだけは安心できた」
P「……そうだったのか」
伊織「……えっ?」
P「伊織ってさ、高飛車で意地っ張りで不器用で」
P「偉そうで、傲慢で、猫被って」
伊織「……」
P「でも俺に対しては正直でいようとしてくれていた」
P「あの素直になることが苦手な伊織がね」
伊織「……ふんっ」
P「それにさ、俺だって不安だったんだぞ」
P「俺が取って来た仕事が足りないんじゃないか、とか」
P「俺の力不足のせいで伊織に苦労させてるんじゃないかって」
伊織「あんたが悩んでる姿にどれだけ私が追い詰められてたと思ってるのよ」
伊織「私がへこんでる時に、あんたまでへこんでたら余計責任感じちゃうじゃない……」
P「ははは……まさか俺のせいで伊織に気負わせてるなんて思わなかったよ」
伊織「笑い事じゃないわよ!」
P「本当にごめんって!……とにかく、俺も伊織は信じられるような気がしたんだ」
伊織「……」
P「気が付いてたか?」
P「俺にとって、伊織の傍にいられることが、どれほど大きなことかって」
P「ん?」
伊織「気が付いていたかしら?」
伊織「私にとっても、あんたの傍にいられることが、どれほど大きなことだったかって」
伊織「私は……少しだけ気づいてたわ。当時は……そう思いたかっただけかもしれないけど」
伊織「あんたはどうなの?」
P「……俺も…少しだけ、かな」
伊織「……そう」
P「……俺たちの関係は変わったけどな」
伊織「……そうね」
P「……」テクテク
伊織「……」テクテク
伊織「……ねえ、少し寄り道して帰らない?」
P「…あまり遅くなると心配されるぞ?」
伊織「平気よ、ライブの前なんかはもっと遅かったんだから」
P「ははっ、それもそうだな」
伊織「……海」
P「海?」
伊織「ええ」
P「ああ……なるほどな」
伊織「……わかって貰えたみたいね、行きましょう」
ザーザー
伊織「んー、潮風が気持ちいいわ」
P「おい、そんな恰好で寒くないのか?風邪引くぞ」
伊織「あんたが風除けになってるから大丈夫よ」
伊織「それに私が風邪を引いてもあんたが看病してくれるでしょう?」
P「まあそれは……そうだな」
P「時間もだいぶ遅いし足元には気をつけろよ」
伊織「わかってるわよ!」
伊織「……」
伊織「……覚えてる?いつかこうやって、今と同じように並んで歩いたこと」
P「ああ、伊織が夏のライブで失敗したときに来たんだったな」
伊織「ええ。……今思うとあの時からあんたに恋してたのかもね」
伊織「ライブで失敗しちゃったのは私で、それなのにあんたは私よりたくさん怒られて、頭を下げて」
伊織「……あれだけ練習して、あれだけ大切なライブで失敗したことは悔しかったし」
伊織「私の評価が下げられるのは……勿論悲しかった」
伊織「……でも、それは私の実力不足だったから悔しかったけど仕方ないって思えたの」
伊織「私のせいで、あんたの足を引っ張ってるんじゃないかってね」
P「そんなこと気にして……いや、俺も逆の立場ならそう思うだろうな」
伊織「ふふっ、やっぱりお互い似たもの同士なのかもね」
伊織「もしかして、あんたもここに来た時に私に惚れてたんじゃないの?正直に言いなさい♪」
P「……かもな」
P「俺は、人を好きになるのに明確な区切りなんて無いと思う」
伊織「……何か面と向かって言われると恥ずかしいわね」
P「半分告白みたいなこっちの方が恥ずかしいと思うが?」
伊織「にひひっ、それもそうね」
P「……」
伊織「……」
伊織「……ねえ、あんた」
P「なんだ?」
伊織「あの日言えなかった言葉……聞いてもらっても良いかしら?」
P「……ああ」
伊織「……今だから、今となってだから言うわ」
伊織「私は、あんたのことが……んんっ!?」チュッ
伊織「(……あいつの顔が目の前にある)」
伊織「(……言いたいことも、あいつの言いたいことも全部伝わってくる)」
伊織「……ぷはっ」
P「……俺もあの日伝えられない言葉があったからな」
P「今でもまだ言葉は足りないか?」
伊織「……もう結構よ、痛いほど伝わったわ」
伊織「……はあ、折角女の子が勇気を出したって言うのにあんなことされたら何も出来なくなっちゃうじゃない」
P「……好きだ、伊織」
伊織「……遅すぎるわよ、馬鹿」
P「……後悔してないのか?」
伊織「はぁ……だから何回も言ったじゃない」
P「だってなぁ……人気絶頂のトップアイドルの身で引退だぞ?」
伊織「……」
P「これから先どんどん伝説を作って、トップアイドルとして輝き続けられたはずなのに……」
伊織「……まあ、全く後悔してないって言ったら嘘になるわ」
伊織「でも、私はトップアイドルになるという最初の夢を叶えたの」
伊織「だから、ここから先の未来は夢の続き、ただの終わらない夢よ」
伊織「あんたと一緒に生きるって夢を叶えたかったから」
P「……俺のせいで伊織を辞めさせてしまったみたいだな」
伊織「ええ、あんたのせいよ」
伊織「だから……」
伊織「責任取ってよね?」
P「責任ね……一体どうすれば良いんだ?」
伊織「それを私に言わせるの?……本当にヘタレなんだから」
伊織「そうね、例えば……」
伊織「キスのひとつで」
初ssなので独りよがりな部分が多いのも大目に見てやってください
間に合って良かった、いおりん誕生日おめでとう
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