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つい先ほどまで事務所のソファに
窓から吹き込む風は事務所に入り、そしてそそくさと立ち去り心地よさを与えてくる
明日はかつて夢見た会場でのライブ
夢は現実になろうとしている
明日の開演は18時
そしていまの時間は10時
手間をかけたくないと言われて俺はお留守番だ
全てのスケジュールを明日のライブを軸に組んできたからお預けを食らった手前いま現在としては何もやることがない
こうだな、明日の準備の確認でもするか
~~
「3番の方、自己アピールをお願いします」
「はーいっ!すきにしていいのっ?そうだ!ねぇねぇ、こんな感じかな?こうするともっといいかもっ?こんなのすっごくよくないかなっ?」
~
「はい。3番の方ありがとうございました。次、4番の方お願いします」
~
「次は8番の方お願いしますね」
「あの、私、アイドルになりたい気持ちだけは、1番のつもりです!お願いします!」
あのオーディションには俺以外に律子と社長がいたんだ
書類選考を突破した10人の中から実質的な社長面接を通過できるのは1人
実を言うと俺は3番の子、翼に票を入れたんだ、彼女には光るものを感じることができなかった
翼はビジュアル、ボーカル、ダンスの全てにおいて抜きん出ていたし、なによりうちの765プロのアイドルはアレくらい破天荒なのがいい、そう思ったからだ
横にいる律子と相談し同意は得られ、最後に社長の了承をとろうとした
翼を採用することに対してはなんの問題もないというが、社長は何か逡巡していた
「ティン!と来たのだよ!」
「8番の子だよ、あの子に光る何かを感じてね、あぁもちろん3番の子にもそれを感じてね」
「けど募集枠は1人ですよ?どうするんですか社長?」
「なら特別枠として採用すればいいじゃないか!そうしようじゃないか!」
「こうなった社長は聞きせんからね…」
律子も社長を宥めることなく苦笑をしていた
そんなこんなで2人の採用があの時のオーディションで決まったんだ
アイドルとしての彼女との初顔合わせは………そう、オーディションのあったその週の土曜日
親御さんを連れての契約に関わる話だった
その時の彼女はひたすらと緊張していた、まぁ無理もなかっただろう
その時は俺と律子、どちらがプロデュースするかすらも決まっていなかったな
「うおっほん!では今日から二人のプロデュースをよろしく頼むよキミィ!」
次週の月曜日、突然社長から通告された
最初の頃はどうだったかなぁ、そうあれは二人を受け持ってから2か月たった時だったな
追加で受け持った二人のプロデュースはもちろん二人で差をつけるつもりはなかったし、実際にプロデュース内容としては差はなかったはずだ
だけど最初の頃で覚えているのはほとんど翼のことだな
そういえばあんなことがあったな
そう、美希と春香宛てにきた仕事を翼がやらせてくれって言ってきたんだよな
仕事の内容的にはあの時の二人でも十分だったんだが、先方さんは美希と春香っていう名前を求めて仕事をこちらにくれたんだ、美希と春香は快諾してくれたあの時の交渉はすごく大変だったんだな
そう、この日を境に何かが変わったんだ
~~
トレーナーさんに二人の仕上がり具合を聞いてみた
「二人ともやっぱり素質はありますよ、けどやっぱり翼ちゃんは今の時点でも光るものがありますね」
「けどすごいんですよ!その日の時点で出来なくても次の日までには絶対にできるようになってくるんです!」
へぇ…翼が、あいつが根は真面目なことは知っていたが、そこまで真面目に打ち込んでいてくれたとは思ってなかったな
へぇ…残って自主練してるのか
「今度見に行ってあげたらどうですか?」
そうしようかな、ふとここで些細な興味がわいたんだ
~~
ダンスレッスンの日、二人の現状を見るためも兼ねてレッスン室に向かった
6時、夕日がレッスン室を差していた
「二人ともあともう一歩でつかめそうって感じですかね、二人ともこれから横の空きスタジオで残りの練習をするらしいので二人のこと見てあげくださいよプロデューサーさん」
もとからそのつもりで来たんだ、トレーナーさんの問いかけに対し頷いた
「よし、二人とも今日はここまで!自主練やるのはいいけどやりすぎなのは体に毒だってことを忘れないこと!プロデューサーさんもやりすぎには見張ってってくださいね!」
「「ありがとうございましたー!」」
そうして二人にペットボトルを渡したんだ
「ありがとっ!プロデューサーさーーんっ!えいっ!」
抱きついてきた翼を引きはがした
「プロデューサーさん、自主練見てくれるんでしょ!えへへ~、なら私もがんばっちゃいますから!」
威勢がいいことはいいことだ
「私もできなかったところをできるようにしないと…、頑張んなきゃ!」
やる気があるのはいいことだな
1時間もしたら2人のダンスは形になってきた
もうそろいい時間じゃないか?トレーナーさんもやりすぎは体に毒だと言ってたしそろそろ切り上げさせたんだ
「もうちょっと続けたいな~プロデューサーさん、…ダメ?」
翼のお願いはあのころから高かったな、もちろんやめさせたが
そして二人を帰す前に明日の予定を軽く確認したのち二人を見送ったのち、事務所のオフィスに戻り仕事を済ませ事務所のの戸締りを確認しに行ったんだ
いつものように、というかこれは今でも同じ流れだな
今日のレッスンはあの2人で最後だったし、2人とも返したと思っていたからまさか誰か残ってるとは思いもしてなかったんだ
そりゃ当然かのように誰もいないと思ってた部屋に明かりがついていてそこから“キュッキュッ”っていう音がしたらビビったんだ
それで俺は中に誰かいる分かる術もなかったし、その部屋のドアから部屋を伺うように覗き込んだよ
帰したと思うやつがそこにいたんだあっけにとられてしばし見つめていたんだ
シューズが床を滑るキュッキュッという音のみがしばらく時間を支配していた、ただ天井のライトのみが彼女の足元に影を作っていた
「う~ん、だいたいできるようになったかなぁ…、けど翼はすぐにできるようになっちゃうから私も負けないようにもっと頑張らないと…!」
なるほど、これがティンと来る、ということなんだったな、あの時そう感じたんだ
練習が一息ついたのか彼女が独り言をつぶやき、それに呼応して自分も行動し始めた
レッスン室のドアを開き、また練習を始めようとした彼女が再開する前に彼女に軽くチョップを入れた
「わっ、プロデューサーさんこんな時間なのになんでいるんですかっ?」
それはこちらのセリフだよな、とかそんなことを伝えた気がする
トレーナーさんの言ったようにやりすぎは毒だということを再び釘を刺して、帰る支度をさせ今度は事務所の外まで見送ったんだ
そうするとかなりの頻度で彼女に、レッスン後のレッスン室で出会うようになったんだ
つまり彼女はかなりの頻度で自主練を重ねてたってことだ
~~
日課は当初の目的であった戸締りの確認ではなくて彼女がやりすぎないように注意することになってたな
大分、もうこのころには気にかけているようになってたんだなぁ
言えばなんだが彼女は天才型の翼とは違って才能は確かに少ないだろう、けどその才能差を努力という形で乗り越えていった
そうやって実績を積み重ねてきたおかげでついに明日のライブにまでたどり着いたんだ
自分の引き出しを開き、箱を取り出し手のひらに置き眺める
明日これを……
しばし眺めて再び引き出しに戻す
さて、確認しにでかけるかな
「プロデューサーさん!見ててくださいこの衣装!ものすごーーーい可愛いです!ねーねー、見てくださいよー!」
開演前に彼女が寄ってくる
可愛い、めっちゃ可愛い…じゃない
励まして送り出す、頑張ってこい
そこからの3時間、俺はこれからの緊張を忘れるくらいに彼女のライブに没頭した
最高だった
彼女のライブは無事に盛況のうちに終了した
夢は叶ったんだ、今はそんな彼女を連れて事務所に帰ってる最中だ、そんでその後にご褒美としてディナーに連れて行ってやることになってる
その時に…………
緊張しつつ期待を膨らませつつ車を走らせ事務所に戻る、楽しそうに彼女は外を見ていた
「片づけるものがあれば私も手伝いますよ、プロデューサーさん!」
念のために持ってきておいた救急セットの類の箱をレッスン室に戻しにレッスン室に向かう
「ここでいいですかー?」
机の引き出しを開け、箱を手に取りポケットに入れレッスン室に戻る
彼女は踊っていた、相当疲れているだろうにもかかわらず
本当に楽しそうだ、思わず立ち尽くし見とれていた
彼女がこちらに気づき満面の笑みでこちらに振り向いた
その瞬間彼女をこちらに強く抱きよせる
そして彼女に思いを告げ、手を出すように頼む
机の引き出しを開け、箱を手に取りポケットに入れレッスン室に戻る
彼女は踊っていた、相当疲れているだろうにもかかわらず
本当に楽しそうだ、思わず立ち尽くし見とれていた
彼女がこちらに気づき満面の笑みでこちらに振り向いた
その瞬間彼女をこちらに強く抱きよせる
そして彼女に思いを告げ、手を出すように頼む
ポケットに入れた箱からリングを取りだし、彼女の左薬指にはめる
彼女はしばし放心したかのような仕草で指輪を見つめたのち…
指輪を左小指にし直したのだ
「プロデューサーさん!あの、これ今は受け取れません!けど、その日が来たらまた薬指につけなおしてくれますか?」
──────────────────いつかの未来に。
未来ちゃ可愛い、結婚したい。
3番の子 伊吹翼(14) Vi
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8番の子 春日未来(14) Vo
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未来ちゃ好き
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