原題:【アイドルマスターミリオンライブ!SS】周防桃子「3月の花嫁」
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桃子と俺が17も年が離れている。いくら仕方がないとはいえ、不安は絶えることはない。
当時のにっちもさっちもいかない状況は打開したとはいえ、目の前にはまだまだ乗り越えなければならない山が無数にそびえている。
そんな俺の心配とは裏腹に、俺たちの結婚生活は平穏そのものだった。
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バスを降りるや否や、むくれっ面になる桃子の頭をなでながら俺は家への帰路を歩き出す。運転手に気を遣いバスの中で愚痴を言わないあたりこいつらしいといえばこいつらしい。
「そうだなあ……もう少ししたら銀行の金まとめて下しに行くからそれまで待ってくれ」
もしもの時のために貯めておいたプロデューサー時代の貯金があと500万ばっかり残ってる。ここは、俺の元職業どころか、桃子が元アイドルということすら知る人がいないほどの田舎だ。近所の人に聞いて回ったところ、300万もあれば一軒家が買えるとかなんとか。
「……うん。いいよ。お兄ちゃんがそういうなら」
「営業車が私用に使えたらいいんだけどなあ」
「流石にそれはダメでしょ。というか桃子が止めるよ」
「桃子は厳しいなあ」
「当たり前でしょ。これはこれ。それはそれ、だよ」
いつも通りの他愛もない会話をしながらアパートにつく。6畳半の1DK。東京に比べたら驚くほど狭苦しいが、桃子と二人ならまったく苦に感じなかった。
「……いいよ」
買い物袋の中身を冷蔵庫に入れそのままアパートを出る。
桃子が散歩に行くといった時はなにか大事な報告があるということだ。それは、アイドルだった時も、結婚したあとも変わらない。
考えないようにしていた不安が次から次へと頭によぎり消えていく。
世界から音も色も匂いも失われ、桃子と繋いだ手の感覚……桃子の温もりだけが、俺の意識をかろうじて現実にとどめていた。
桃子の声にふっと我に返る。
そこは、一目でもう使われていないとわかる、朽ち果てた教会だった。
ずいぶん長い間放置されていたのか、キリストの像は錆びて元の姿がわからなくなっている。
床はあたり一面埃まみれで今にもアレルギーか何かを発症してしまいそうに汚い。
しかし、何事も極めればいいとはよく言ったもので。
その退廃した姿は、返ってこの場所を幻想的に見せていた。
割れたステンドグラスから差し込む太陽の光が、舞う砂ほこりに乱反射してキラキラ輝いている。その光を浴びる桃子はさながらステージの上に立った女優のようだ。
「あのね」
桃子が口を開く。ここが舞台なら彼女は主演。いったい、桃子の口からはどんな物語が飛び出すのだろう。
「桃子。妊娠してたの。この前病院に行ってきたんだけどね。今月で3か月目だって」
「……お兄ちゃん? 聞いてる?」
不安げな桃子の声にハッと我に返る。なにか、なにか言葉を返さないと。
「あ、ああ……おめでとう。よくがんばったな。桃子は、俺でよかったのか?」
言って、その事実を実感して思わず抱きしめる。「ひゃつ」と短く声があがり、すぐに桃子の腕が俺の背中に回された。
プロデューサーとアイドル。当時はそれだけでも俺たちには障害になつたが、桃子も俺も芸能界から離れた今では、それ以上に厳しい壁が俺たちの間には存在している。
桃子は今年で23歳。俺は今年で40歳。
17年という年の差は、愛でなんとかなると一言では言えない物理的な距離があった。
「……苦しいよ……あのね。お兄ちゃんだから桃子は結婚したんだよ? ……えへへ、もうお兄ちゃんだなんて呼べなくなるね」
困ったようなうれしいような、その声色を聞いて俺はふと思い至った。
「……本当にやるの? やり方覚えてる?」
「大丈夫だよ。友達の結婚式だって何度も出てるんだから」
俺のジャケットをベール代わりに桃子の頭に被せる。
今から執り行うのは結婚式。司祭も観客もいないが、俺と桃子と子供の3人がいる。俺たちにはそれだけで十分だ。
それに、ここは腐っても教会だ。たとえボロボロとはいえ、神の威光は失われてはいないだろう。
「えっと……周防桃子さん。あなたは健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「よく覚えてるね……はい。誓います。えー……お兄ちゃん。苦しい時もつらい時もうれしい時も楽しい時も。桃子のそばにいてくれて、桃子を守ってくれる……桃子を一生プロデュースするって誓いますか?」
「……ありがとう。大切にするね。じゃあ、ベールを上げて、キスして?」
「……ああ」
何度なく口づけした唇にキスをする。これは今まで違う意味を持つ大事な儀式だ。彼女を幸せにするために、あらためて意識しないといけない。
決意を固めた俺を桃子が、下から俺をのぞき込んでくる。
踏み台が必要だったのはもう昔の話。今では背伸びさえすれば目線が合うようになった……本当に、本当に大きくなった。
「桃子、もう大きくなったから。踏み台がなくても、お兄ちゃんの優しい目、見えるよ」
どこか誇らしげに、桃子が言う。
その声に「期待してなさいっ!」と歌う彼女の姿を思い出した。
Fin.
桃子の新カード見て書きたくなりました
早く桃子と結婚しなきゃ……(使命感)
乙でした
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