前回のスレに収まり切らない気がしたので仕切り直しました
1スレ目
P「ゲームの世界に飛ばされた」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1405694138/
2スレ目
P「ゲームの世界に飛ばされた」2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1410099092/
3スレ目
P「ゲームの世界に飛ばされた」FINAL
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422798096/
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450963080
>>1のリンクからは1スレ目と2スレ目に飛べないようなのでもう一度。
1スレ目
P「ゲームの世界に飛ばされた」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405694138/
2スレ目
P「ゲームの世界に飛ばされた」2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410099092/
3スレ目
P「ゲームの世界に飛ばされた」FINAL
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422798096/
魔物たちに滅ぼされつつあるFF4の世界。
月から地球へ降り立った4体の巨人。
春香たちは、運命に翻弄されながらも懸命に前へと進む。
やがて、バラバラだった仲間たちが集まり、各国の要人たち、果ては四天王の協力をも得て、一行は巨人の破壊を阻止する事に成功する。
地球に平和が訪れ、みんなで過ごす束の間の休息の時。
優しく、ゆっくりと過ぎる時間。
仲間たちや出会った人々への、感謝と親愛の気持ち。
そして、別れ。
いろいろなものを飲み込んで、アイドルたちは、最後のステージとなる月へと旅立ったのだった。
一方、月では、小鳥プロデューサーにより着々とアイドル(魔物)たちの育成が進んでいた。
……遂に、最終決戦の刻が迫る。
・味方キャラ
【春香】
聖騎士。
専用装備『リボン』を装備する事によって、自身の奥底に眠る『闇春香』と融合して『春閣下』になる。融合した時の力は強大。
地球の人々にお礼をしたいと考え、お別れライブを提案した。
【千早】
竜騎士。
専用装備『ホーリーランス』を手に入れ、パワーアップ。物語中何度も小鳥さんに振り回されたが、無事春香たちの元へ戻った。
久々にライブで歌う事ができてご機嫌らしい。
【美希】
白魔道士。
バルバリシア、ものまね士と、この世界でできた2人の姉との別れを経験し、精神的にも成長した。
トロイアでの結婚式では新婦の付き添い役を務めた。
【やよい】
召喚士。
召喚獣シルフの力を得て、これで全ての召喚獣を召喚できるようになった。(※タイタンはこのssには登場しません)
小鳥さんと戦う事については、よく理解していない。
魔翌力と元気が有り余っている様子。
【伊織】
スーパー忍者アイドル。
専用装備『マサムネ』、『ムラサメ』の二刀を携える。宿敵ルビカンテとの戦い、エブラーナ家老やエブラーナの民たちとの別れを経て、ひとまわり成長する。
変態に好かれる体質。
【真】
モンク僧。
強さと可愛さを求めて日々修行中だが、妻ユキコ、シルフなど、真の女性ファンは多い。強者との戦いを求め、純粋に戦いを楽しんでいる。
【雪歩】
吟遊詩人。
最強の鎧『アダマンアーマー』を装備してるせいでみんなの壁役になりがち。トロイアの元祖救世主。
みんなの役に立つために強くなろうと、地道に修行している真面目な子。
【響】
飛空艇技師。
巨人との戦いで戦友を失い、トロイアで娘と別れ、一番涙を流した。
地球ではかなりのアッシーだった事に本人は気がついていない。
【貴音】
月の民。
地球はアウェーだったので控え目だった。バハムートの言葉通り、地球で仲間を集め、ようやく月に望む。小鳥さんに対しては複雑な想いを抱いている。
【亜美】
黒魔道士。
プチメテオくらいならひとりで使えるまで成長した。あと、同時に複数の魔法を出す事ができる。
最近はPを巡って真美に対抗心を燃やしている。
【真美】
白魔道士。
パーティの補助役だが、ホーリーを使えるようになり、ようやく攻撃手段を得た。美希に膝枕をして、姉らしさに目覚めた?
何かと不遇な子。
【あずさ】
ゾンビな賢者。
テレポの魔法が得意?
腕とか再生したりするけど、マイペース。小鳥さんがラスボスだけど、のほほんとしている。
でも、本当は……。
【律子】
暗黒騎士。
なるべく表立った行動はしないように、Pと共に裏方に徹しようと心がけている。実力的にはパーティの1、2を争う強者。
【プロデューサー】
真の意味でただの人。
ゲームの世界では特殊な存在なので活躍の機会はとても少ない(ほとんど無い?)が、アイドルたちの心の支えである。
いろいろあったけど、この世界へ来て良かったのかもしれないと思いはじめている。
【小鳥】
言わずと知れた本作のラスボス。春香たちが月に来るのをずーっとずーっと楽しみに待っている。強さは未知数。月の地下でひとり、さみしい思いをしているかと思いきや、普段の明るい性格も手伝ってなんだかんだ魔物たちと仲良くやっている。
【ダークバハムート】
小鳥さんの手により悪に堕ちた元・幻獣神バハムート。その実力は小鳥さんも一目置いている。特技はメガフレア。相手の心を読む事ができる。アイドルに興味深々。好物はプリンプリンセスの踊り食い。
【クルーヤ】
春香、律子の父に当たる聖騎士。すでに亡くなっていて、この世の存在ではない。何やら思うところがあって小鳥軍に参戦。春香と同じく聖剣技を使う事ができる。基本的に明るい性格で、酒と巨乳が好き。
【月の女神】
片手剣と盾を持って戦う、肉体派の女の子。運動神経抜群。明るく能天気で楽しい事が大好き。いつか自分もアイドルになる事を夢見ている。
【魔人兵】
古の戦に使われた兵器。ビーム砲やレーザー砲など、体にいくつもの武器を備えている。巨体なので動きは鈍い。アラサーで妻子持ち、やっと見つけた仕事に命をかけている。真面目な性格。
【ベヒーモス】
鋭い角と牙、爪を持つ魔獣。レディース上がりで、少々血の気が多いが面倒見はいい。最近はもっと落ち着いた方がいいかなと思いはじめている。あと、体重計に乗るのが怖い。
【レッドドラゴン】
巨大な赤いドラゴン。爪や尻尾の一撃も強力だが、『熱線』というなんでも溶かしてしまう厄介な技を持っている。単純で短気。熱しやすく冷めやすい性格。
【ブルードラゴン】
巨大な青いドラゴン。全属性攻撃を吸収してしまう魔物。非常に冷めた性格で、まるで世捨て人のように悟っている。死に場所を求めて小鳥さんの傘下へ。
【暗黒魔道士】
様々な魔法を使う、魔法のエキスパート。臆病で引っ込み思案、無口。それでも、他の魔物たちとは意思の疎通はできるらしい。
【リルマーダー】
ゴブリン族の王。しかし、見た目が見た目だけにいつも舐められがちで、本人もそれを気にしている。精神的に若輩者だが、魔翌力は全魔物中トップクラス。
【プリンプリンセス】
プリン族の王女。物理的な攻撃はほとんど通らない。『王女の歌』で全員バーサク化。Vo.とDa.はMAX振り切ってるが、Vi.が……。エレガントで礼儀正しいが、ダークバハムートに食われないか内心冷や冷やしている。
【金竜】
金色の竜。銀竜の兄。しなるような身体と火属性攻撃『ブレイズ』が武器。誇り高き天然ボケ。何か発言すると大概弟のツッコミが入る。
【銀竜】
銀色の竜。金竜の弟。しなるような身体と雷属性攻撃『稲妻』が武器。ツッコミ担当。おバカな兄をたしなめる苦労人と思いきや、誰よりも兄を盲信しているおバカ。
気長にいきます
ホントにこれでいいのかと
おもう部分もあるけれど
目指すは完結
できれば簡潔
とりあえず少しずつ頑張ろ
う
今回はここまでです。
近いうちに投下します。
誕生日なら1日前だぞ?
キラキラキラ…
美希「すごーい! 星が、キラキラなのー……!」
響「ホントだ。きれいだなー……」
真美「真美たち、ホントのホントにうちゅーにいるんだねー……」
真「なんか、感動だなぁ!」
春香「これが、宇宙かぁ……」
やよい「うちゅーって、とってもしずかなところなんですね」
やよい「さっきから、わたしたちの声しか聞こえないですー」
伊織「当たり前じゃない。宇宙空間には音を伝える空気がないんだから」
やよい「えええっ!? 空気がないの!?」ガタッ
やよい「た、たいへんです! 空気がないとわたしたち、生きていられないですー!」アタフタ
雪歩「だ、大丈夫だよ、やよいちゃん。この船には空気があるみたいだから」
やよい「そ……そうなんですか? うー、よかったですー」ホッ
やよい「でも、やっぱり音がないと、なんだかさみしいですよねー」
千早「そうね。ここまで無音だと、私でも落ち着かないわ」
貴音「……いえ、宇宙に全く音が無いわけではありません」
やよい「えっ? そーなんですか?」
貴音「宇宙に散りばめられた星々の中には、地球のように大気を持つものもあります」
貴音「ただわたくしたちに聞き取れないだけで、その星には確かに音が存在するのでしょう」
やよい「えっと??」
伊織「つまり、この広い宇宙を探せば、地球みたいな星があるかもしれないって事よ」
やよい「じゃあ、その星にもわたしたちみたいな人間がいるんですねっ!!」
貴音「わたくしたちとまったく同じとは限りませんが、何らかの生物が繁栄している星はあるでしょう」
貴音「そして、音が存在する星ならば、音楽があってもおかしくはありません」
貴音「その星ならではの、音楽が」
やよい「うっうー! ほかの星の歌とかもきいてみたいですー!」
伊織「そうね。もし歌を歌う宇宙人がいるなら、会ってみたい気もするわね」
貴音「見知らぬ星の、言葉の通じない方々とも、音楽という共通言語でわたくしたちは会話をする事ができるでしょう」
貴音「そう考えると、やはり音楽というものの偉大さを改めて感じられますね」
千早「………」フム
やよい「……ちい〜さな〜〜♪ ての〜ひらにこぼ〜れた〜♪ 」
やよい「ま〜んげつのっ♪ かけらに〜もすこしにた〜♪ 」
やよい「みじかいいのちぼくだけの〜たからもの〜っ♪ 」
春香「やよい、なんだかご機嫌だね?」
伊織「さっきの貴音の話を聞いて、遠くの星の人たちに歌を聴いてもらうんですって」
春香「……ふふっ♪ そっかぁ。やよいらしいなぁ」
千早「高槻さんの歌なら、きっと届くと思うわ」ニコニコ
貴音「………」
貴音(わたくしたちは、少しずつ確実に、月へと近づいています)
貴音(もうすぐあの方との約束を果たせるというのに、何故こうも胸がざわつくのでしょうか)
貴音(……やはりわたくしは、後悔しているのですね)
貴音(浅はかだった、自分の行動を……)
「……かね。たーかーねっ!」
貴音「ひぅ!?」ビクッ
響「あ、ご、ごめん。驚かすつもりじゃなかったんだけど」
貴音「……響ですか。心臓が止まるかと思いました」ドキドキ
響「だから悪かったってばー」
響「それよりさ。月に着いたら、みんなが貴音にガイドして欲しいって!」
貴音「……がいど? わたくしが、ですか?」
響「うん! だって、月は貴音の故郷なんでしょ?」
貴音「………」
響「……あれ? もしかして、イヤだった?」
貴音「いえ、そのような事はありません。……そうですね、わたくしで良ければ、案内役を務めさせていただきます」
響「ホントか! ……おーいみんな! 貴音が月を案内してくれるってさー!」
春香「わぁ、やったぁ!」
雪歩「四条さんの案内……うふふふ」
伊織「ま、ガイドがいないと観光も楽しめないわよね」
真「ねえ貴音、月ってどんなところなの?」
美希「おにぎりとかある?」
やよい「あの、もやしはありますか?」
律子「こらこら、そんなにいっぺんに話しかけても貴音だって困るでしょう?」
律子「それに、遊びに行くわけじゃないんだから」
P「いいじゃないか、少しくらい。月に行くなんて、一生にあるかないかなんだからさ」
律子「って言っても、ゲームの世界の月ですけどね」
貴音「………」
響「……貴音?」
貴音「……ええ。月の民自体が少数民族のようなので、知り合いは少ないですが」
あずさ「うふふ♪ 貴音ちゃんのお友達に会うの、楽しみねぇ」
貴音「………」
亜美「ねーねーお姫ちん、ハミングウェイにはもう会ったー?」
貴音「はみんぐうぇい……ええ、会いましたね。皆一様に同じ歌を口ずさんでいて、何やら楽しそうな方たちでした」
千早「…………歌?」ピクッ
真美「お? 千早お姉ちゃんが食いついた」
千早「四条さん。その、ハミングウェイというものについて是非詳しく聞かせて欲しいんですがっ」ズイッ
春香「ああ、千早ちゃんに火が点いちゃったよ」
貴音「ふふ……。そう焦らずとも、じきに会えます」
貴音「それに千早。あなたの歌声に敵う者など、そうはいません。安心してください」
千早「い、いえ、私は別にそういう意味で言ったつもりでは……」
真「歌の事になると、ホント千早は生き生きとするなぁ」
亜美「んじゃ、月に着いたらとりあえずハミーたちのところに行こっか?」
やよい「わあ、すっごく楽しみですー!」
律子「ちょっと、勝手に決めないの!」
P「まあまあ。一通り貴音の知り合いに会って行くのも悪くないさ」
律子「もう、プロデューサーは呑気なんだから……」
伊織「諦めなさい、律子。これは完全に月観光の流れよっ♪ 」
律子「……わかったわよもう」
律子「その代わり、羽目を外し過ぎない。月の民の人たちに迷惑をかけない」
律子「この二つは守る事。いい?」
アイドルたち「はーーい!!!」
貴音「………」
律子「……さて、月に着くまでまだ時間がかかるみたいですけど、この後どうします?」
P「じゃあ、一旦解散にするか。見たところ船室はたくさんあるみたいだから、みんな適当に休むといいよ」
P「月に着いたら、またしばらく休むヒマはないかもしれないからな」
春香「あの、プロデューサーさん」
P「ん? どうした?」
春香「そろそろお腹空きませんか? 地球を出発してから、私たち何も食べてませんよ?」
P「あ、忘れてた。それじゃあ、誰か料理を……」
美希「はいっ! ミキがやるの!」バッ
P「美希……気持ちは嬉しいが、ひとりでやるつもりなのか?」
美希「うん!」
真「美希、いつになくやる気だね?」
美希「もちろんなの! これも、将来のタメに必要な事だもん!」
律子「でも、さすがに美希ひとりに任せるわけには……」
あずさ「あの〜、私も美希ちゃんと一緒にお料理してもいいですか〜?」
やよい「あ、それならわたしもお手伝いしますっ!」
律子「そうね。あずささんとやよいが一緒なら、心配いらないでしょう」
美希「あずさ、やよい、よろしくお願いしますなの」ペコリ
あずさ「頑張りましょう♪ 」
やよい「よろしくお願いしまーす!」ガルーン
P「それじゃ、料理ができるまで一旦解散だ」
貴音「………」スタスタ
響「……貴音、どこ行くんだ?」
貴音「少々散歩をして参ります。探さないでください」ペコリ
響「いや、そんな、家出じゃないんだから」
貴音「………」スタスタ
響「貴音……?」
亜美「ねえねえ真美。ヒマだし、魔導船の中をタンケンしてみない?」
真美「……亜美。真美はね、もうそーゆー子どもっぽい事は卒業したんだよ」
亜美「えっ?」
真美「真美は『お姉ちゃん』だかんね。いつまでも遊んでらんないのさっ!」
亜美「……どしたの? 真美、なんかヘンなもんでも食べた?」
真美「食べてないよ。あと、もうこれからは好き嫌いもなくす!」
真美「イタズラもやめるし、兄ちゃんやりっちゃんを困らせたりもしないんだ!」
亜美「うあうあ〜! 真美がおかしくなっちゃったよ〜!」
真美「んっふっふ〜♪ 亜美、困ってる事はない? お姉ちゃんになんでも言ってごらん?」
亜美「真美がヘンになって困ってる。あと、いっしょにタンケンしてくんない」
真美「ヘンじゃないもん! あと、タンケンなんて子どもっぽいからやんない!」
亜美「ぬぅ……このわからずやめっ! いいもんね! ひびきん誘うから!」
亜美「真美のバカっ!」
タタタ…
真美「亜美っ……」
ガチャ…バタン!
真美「行っちゃった……」
真美(……まあ、亜美はそーカンタンに甘えてくんないってわかってたよ)
真美(真美は『お姉ちゃん』に目覚めてまだまだ日があさいモンね。まずは姉経験値をかせがなくっちゃ!)
真美(そして……)
真美(いつか、亜美にめっちゃヒザまくらしてやるかんね……!)
真美(亜美、首輪を洗って待っているのだ……!)
真美「ふっふっふっふ……」
春香「……きーらいーなものでもーすきーになーりーたーい♪ 」シュッシュッ
春香「ふふんふーん♪ 」ポンポンポン
…コンコン
春香「……はーい、どうぞー」
ガチャ…
律子「春香、ちょっといい?」
春香「あ、律子さん」
律子「……何してたの?」
春香「はい、少し剣の手入れを」チャキッ
律子「はぁ……。見事にこの世界に染まってるわね」
律子「剣を手入れするアイドルなんて、聞いた事ないわよ……」
春香「そ、そうですよねぇ、あはは……」
律子「でも、これからの事を考えれば、それも必要な事なのよね。月は小鳥さんの庭のようなもの。魔物たちの攻撃も激しくなってくるでしょうから」
春香「……そう、ですね」
律子「あのね、春香……」
春香「はい?」
律子「………」
春香「? ……律子さん、どうかしたんですか?」
律子「その……」
律子「春香のお父さんって、どんな人だった?」
春香「お父さん……あ、もしかして、この世界でのお父さんの事ですか?」
律子「ええ」
春香「えーっと、そうですねぇ」
春香「明るくて、優しい人でしたね。ちょっとえっちなところもあるけど……」
律子「ふーん……」
春香「本当のお父さんじゃないのに、なんだか安心するんです。……えへへ♪ 不思議ですよね」
春香「あ、そういえばこの剣、お父さんが使ってたものなんですよっ!」チャキッ
律子「そう、なのね」
春香「……でも、どうして急に私のお父さんの事を聞いたりするんです?」
律子「えっと、まあ……やっぱり気になるもの」
律子「…………春香のお父さんは、私にとっての父でもあるみたいだし」
春香「そうなんですかぁ〜。律子さんにとっても……」
春香「………………え?」
春香「あ、あの、律子さん? それってどういう意味ですか?」
律子「どういうって、そのままの意味よ」
律子「この世界での春香と私の父親は同じなの。つまり……」
律子「私とあなたは、姉妹って事になるわね」
春香「わ、私と律子さんが、姉妹……?」
律子「その様子だと、プロデューサーから何も聞かされてないみたいね。……私も、この事はついこの間知ったばかりなのよ」
春香「は、はぁ」
律子「ま、だからって今さら何が変わるってわけでもないし、これまで通りでよろしくね?」
春香「………」
律子「……春香?」
春香「……あ、あのっ」
春香「お姉ちゃんって呼んでも、いいですか!?」
律子「」
律子「いや……だから、姉妹っていうのはあくまでこの世界の設定の話であって」
春香「いいんです、この世界だけで」
春香「私、一人っ子だから、姉妹とか憧れるんですよね!」
春香「だから、律子さんさえ良かったら……お、お姉ちゃんって呼ばせてもらえないかなって……///」モジモジ
律子「………」
律子「……わ、わかったわよ。これまで姉らしい事なんて何ひとつできなかったし」
春香「わぁ! ありがとうございます、お姉ちゃん!」
律子「……///」
春香「えへへ……///」
律子(う〜……。これ、涼に呼ばれるのとはまた違って、何か新鮮な響きがあるから変な気持ちになるわね……)
律子「……って、これじゃまるで、私が春香にお姉ちゃんって呼ばせに来たみたいじゃない!?」
春香「え? 違うんですか? お姉ちゃん」
律子「違うわよ! 私はその、一応事実だけをあなたに伝えようと思って……」
春香「わざわざありがとうございます、お姉ちゃん!」
律子「ちょっと春香、連続で呼ぶのやめて。すっごい恥ずかしいから」
春香「え〜、いいじゃないですかぁ。せっかくの姉妹なんだから♪ 」
律子「はぁ……やっぱり言わなきゃ良かったわ……」
雪歩「……こう来たら」
雪歩「こう、返す」シュッ
雪歩「こっちから来たら……」
雪歩「こうっ!」シュッ
バキッ!
響「うぎゃっ!?」
雪歩「あっ」
雪歩「あわわわわ!」
響「雪歩……いいパンチだったぞ……」グッタリ
雪歩「ごっ、ごめんね響ちゃん! わ、私、別に当てるつもりじゃなくて……」
響「うん、わかってるさー。あいたたた……」サスサス
雪歩「うぅ、やっぱりこんなところでカウンターの練習なんてするんじゃなかったよぉ」
雪歩「響ちゃんを殴っちゃう私なんて……私なんて……」チャキッ
響「わあああ! 雪歩ダメ! ここ宇宙だから!」ガシッ
雪歩「そ、そうでしたぁ」
響「……雪歩、ひとり?」キョロキョロ
雪歩「うん。みんなはきっとお部屋にいるんじゃないかなぁ」
響「………」
雪歩「響ちゃん、なんだか元気ないね。どうかしたの?」
響「貴音見なかった?」
雪歩「四条さん? ……見てないけど、いないの?」
響「散歩に行くって言ったっきり、どっかに行っちゃったんだ」
雪歩「そうなんだ」
亜美「……あ、ひびきん見っけ!」
響「亜美」
雪歩「亜美ちゃん」
亜美「お、ゆきぴょんもいっしょだったんだね」
響「亜美、貴音見なかった?」
亜美「お姫ちん? 見てないよー?」
響「そっか……」
亜美「なになに? ひびきん、もしかしてお姫ちんとケンカしたの?」
響「いや、そういうのじゃないんだ」
響「ただ、今日の貴音は様子がおかしい気がするんだよなー」
亜美「そーかな?」
響「うん。うまく言えないんだけど、いつもよりテンションが低いような……」
雪歩「そういえば、魔導船に乗り込んでからの四条さん、物思いにふける事が多い気がするよ」
亜美「んー、でもさ、お姫ちんっていっつもそんなカンジじゃない?」
雪歩「そうなんだけど、今日は特に表情が真剣っていうか、色っぽさが増してるっていうか」
雪歩「何か心配事があるのかなぁ……」
響「………」
亜美「………」
亜美「あ、もしかして……」
響「亜美、なんかわかったのか?」
亜美「ほら、この世界ではお姫ちんのふるさとは月って事になってるっしょ?」
雪歩「うん、そうみたいだね」
亜美「だから、ふるさとに帰れるから、ちょっとキンチョーしてるんじゃない?」
雪歩「うーん、それだけなのかなぁ……」
亜美「ヘーキヘーキ、心配ないって!」
雪歩「だといいけど……」
響「………」
響(たまに貴音がホームシックになったりするのは、自分も知ってる)
響(でも、それは現実世界での事だし、今回はそういうのとは違う気がするんだ)
響(何かもっと、深刻な事で悩んでるような……)
響(貴音……自分たちには話せない事なのか……?)
響(…………自分、貴音の力になりたいぞ)
亜美「それより2人とも、いっしょに魔導船の中タンケンしてみない?」
響「探検か。……そうだな。貴音は探さないでって言ってたけど、ちょっと心配だし」
雪歩「私は、遠慮しておこうかな」
亜美「ダメだよ! ゆきぴょんもいっしょに行くの!」ガシッ
雪歩「えっ? で、でも……」
亜美「モンク言うなら真美に言ってよね! 付き合い悪い真美がいけないんだから!」
響「よーし! じゃあ行くか!」
亜美「おー!」
スタスタ…
雪歩「ひぃーん! なんで私までー!」ズルズル
初期バンプ好きな高槻さんかわいい!
真「……9974……っ」グッ
真「……9975……っ」グッ
…ガチャ
真美「まーこちん♪ 」
真「あ、真美」
真「……よっと」スタッ
真「ふぅ。……どうしたの?」
真美「真美のヒザはいらんかえ?」
真「えっ? 意味がわからないんだけど……」
真美「んもう、まこちんはニブいですな〜。ヒザまくらですよ、ヒザまくら!」
真「膝枕? いや、ボク、まだトレーニングの途中だし……」
真美「そんなツレナイ事言わずにためしてみてよ〜。ソンはさせないよ〜?」
真「なんの勧誘だよそれ……」
真美「ほらほら早く〜」グイッ
真「あ、ちょ、ちょっと真美、引っ張らないでよ!」
真美「ねーねーどう? 真美のヒザまくら」ナデナデ
真「……うん、気持ちいいよ」
真美「まこちん、トレーニングで疲れてるんでしょ? 寝ちゃってもいーよ? 真美が起こしてあげるからさ」
真「うん……」
真(真美の太もも、柔らかくて、あったかくて、本当に眠くなっちゃうかも)
真(あー……なんか、落ち着くなぁ……)
真「zzz……」
真美「……まこちん?」
真美「………」
真美「んっふっふ〜♪ むぼーびな寝顔しちゃって……」ナデナデ
真美(……これで、ちょっとはお姉ちゃんに近づいた……かな?)
カン、カン、カン…
P「……ふぅ。このくらいの大きさでいいかな」
P「あとはこれに紐を通せば完成だな」
…コンコン
P「ん? 空いてるぞー」
…ガチャ
伊織「……お疲れ様」
P「お、伊織か。どうした?」
伊織「ちょっと話があるんだけど」
伊織「……って、何やってるのよ?」
P「あ、これか? 手持ち無沙汰だったから、少し工作をな」
伊織「ふーん……。ヒマなのねぇ、アンタも」
P「俺に出来る事なんて限られてるからな。まあ、ヒマ潰しも兼ねてるけど」
P「……で、話ってなんだ?」
伊織「………」
伊織「アンタに、謝ろうと思って」
P「え? 俺、伊織に何かされたっけ?」
伊織「ほら、巨人に潜入した時の事よ」
伊織「あの時、私、ヒドい事言っちゃったじゃない。『アンタはお気楽でいいわね』なんて」
伊織「よく考えてみれば、アンタみたいに過保護なやつが、私たちがこんな事になってお気楽でいられるわけがないのよね」
伊織「あの時の私、ちょっといろいろあって……」
P「知ってるよ」
伊織「えっ……?」
P「俺の方こそ、伊織に謝らなきゃいけない」
P「ルビカンテの事、ひとりで悩んでいたんだよな。気づいてやれなくて、ごめん」ペコリ
伊織「ちょ、ちょっと、頭上げなさいよ。アンタは何も悪くないんだから」
伊織「私が思慮の浅い発言をしちゃったのが悪かったの!」
伊織「……それに」
伊織「赤い悪魔の事は、すでに決着が着いた事よ」
P「……うん。そうだったな」
伊織「私、今では感謝してるの。……赤い悪魔に出会えた事に」
伊織「……ううん。この世界へ来れた事に」
P「伊織……」
伊織「この世界へ来て、いろんな人に会って、いろんな事を教わった」
伊織「それは、普段の生活の中じゃ気づけなかった事かもしれないわ」
伊織「だから、その……」
伊織「…………あ、ありがと。この世界へ連れて来てくれて」モジモジ
P「……うん」
P「伊織、いい顔になったなぁ」
伊織「ふ、ふんっ。私がいい顔なのは元からよ!」
…ポンッ
伊織「あっ……」
P「嬉しいよ。伊織がこんなに頼もしくなってくれて」ナデナデ
伊織「……///」
伊織「ま、まあ、今だけは頭を撫でる事を許してあげるわ……」
P「はいはい」ナデナデ
伊織「〜〜♪ 」
…ガチャ
千早「プロデューサー、頼まれていた物を持ってきまし……」
P「……お、千早、早かったな」ナデナデ
伊織「んなっ!?」ビクッ
千早「……何をしているんですか?」ジト
伊織「ち、千早、違うのよこれは!!」
伊織「ちょっとアンタ、いつまで撫でてるのよっ!!」バッ
P「ええぇ……。嬉しそうにしてたじゃないか伊織……」
伊織「ば、バカっ! あ、アンタが撫でたいって言ったから撫でさせてあげたんじゃない!」
伊織「千早、勘違いしないでよ!?」
千早「え、ええ……」
千早(満更でもない表情だったのに取り繕おうとする水瀬さん、可愛い……)
千早「プロデューサー、どうぞ」スッ
P「お、ありがとな、千早」
伊織「……何よそれ。紐?」
千早「ええ。丈夫で細い紐を探してきてくれって、プロデューサーに頼まれて」
伊織「ふーん……」
P「この細かく砕いたクリスタルの欠片に、紐を通して……」スッ
P「クリスタルの首飾りの完成だ!」
千早「首飾り、ですか」
伊織「アンタはさっきからそれを作っていたわけなのね」
P「ああ。ちなみに、ちゃんと人数分あるぞ」
P「戦いはみんなに任せるしかない。だから、俺はせめてこういう形でみんなの力になれたらと思って」
千早「プロデューサー……」
伊織「それはいいけど、アンタ、モノづくりのセンスないわねぇ」
P「う、うるさいなぁ」
伊織「……ま、完成したら、ありがたく使わせてもらうわ。その首飾り」
伊織「アンタの気持ち、充分わかったから」
P「伊織……ありがとな」ニコッ
伊織「ふ、ふんっ」プイッ
千早「ふふっ」ニコッ
美希「それじゃあ2人とも、ご指導よろしくお願いしますなの☆」ペコリ
やよい「こちらこそよろしくお願いしまーす!」ペコリ
あずさ「うふふ♪ よろしくね〜」
美希「……で、まずはどうするの?」
あずさ「まずはお米を炊きましょうか」
美希「お米! さすがはあずさ、わかってるの!」
美希「……んー、でも、ここにはアレがないみたいだよ?」キョロキョロ
あずさ「あれって……もしかして炊飯器の事かしら?」
美希「そう、それ。ミキ、家で自分でお米炊いたりする時は、いつもそれを使ってるの」
あずさ「炊飯器がなくても、お鍋があれば大丈夫よ〜。洗ったお米とお水を入れて、ぐつぐつ煮ればいいの」
あずさ「ただ、火力が強すぎるとお米が焦げちゃうから、気をつけないといけないけど」
あずさ「炊飯器はボタンひとつで全部やってくれるから、便利よね〜」
美希「ふーん。炊飯器がないと、なんだか難しそうだねー」
あずさ「美希ちゃん、お米を研いでもらえる?」
美希「わかったの」
美希「おいしくなぁれなのー」ジャバジャバ
美希「ねえあずさ、これくらいでいい?」
あずさ「ええ。それじゃ、洗ったお米をこのお鍋に移してね」
美希「はいなの」ザバー
あずさ「それじゃ……」
あずさ「ファイア」ボッ
美希「あ、そっか。コンロがなくても魔法で火を起こせばいいんだね」
あずさ「そうよ〜。あとは私に任せて、美希ちゃんはやよいちゃんを手伝ってあげてね〜」ボォォ
美希「りょーかいなの!」
美希「やよいー」
やよい「あ、美希さん! ちょっと手伝ってもらってもいーですか?」
美希「うん。ミキは何をすればいいの?」
やよい「スープを作ろうと思ってるので、お肉とお野菜を切ってもらえますか?」
やよい「お肉もお野菜もたくさんもらってきたので、どんどん切っちゃってください!」
美希「わかったの!」
美希「………」ザクザク
美希「……んー、なんかちゃんと切れてないカンジなの……」
やよい「美希さん。包丁を使う時は、左手はネコの手ですよ?」
美希「ネコの手?」
やよい「はい! こう、にゃんにゃんって」
やよい「ゆびを切らないようにするためです」
美希「そーなんだね」
やよい「あと、包丁を入れたら少し引いたほうが、ちゃんと食材が切れるかなーって」
美希「ふーん。さすがはやよいなの」
美希「えっと、包丁を入れて」ザク
美希「少し引く」スッ
美希「……あ、ホントだ。ちゃんと切れてるの」
やよい「それじゃあお願いしますね」
やよい「わたしはスープのおダシを取っちゃいます」
やよい「おナベに水とトリガラを入れてー」ジャー
やよい「いふりとさん、お願いします!」
スゥーー…
イフリート「久しぶりだなヤヨイーー!! オレに任せろおお!!」
イフリート「うおおおお!!」ボオオ
やよい「はわわっ! ちょっと火が強いかも」
やよい(もう少し、小さくしないと……!)グッ
ボオオオォ!!
やよい(ど、どうしよう!? 火が小さくならないですー!)
やよい「こ、このままじゃスープが!」
やよい「えっと、えっと……」オロオロ
あずさ「ブリザガ!」
パリパリッ……シャキーン!
ジュゥゥ…
やよい「……あ、あずささん!」
あずさ「危なかったわね〜。やよいちゃん、ケガはない?」
やよい「は、はい。でも、スープが……」チラ
あずさ「……大丈夫、スープはまだ使えると思うわ〜」
やよい「よ、よかったですー」
やよい「あの、すみません、あずささん」ペコリ
やよい「わたし、火を小さくしようとしたんですけど、よわくならなくて……」
やよい「いつもは、こんなことないんですけど……」
あずさ「………」
あずさ「もしかして、やよいちゃん……」
やよい「え?」
あずさ「ごめんなさい、なんでもないわ」
美希「2人とも、へーき? なんかすっごい燃えてたけど」
あずさ「ええ、大丈夫よ美希ちゃん。心配しないで」
やよい「うー……」ショボーン
あずさ「……さ、気を取り直して、続きをやりましょう?」ニコッ
やよい「は、はい……」
あずさ「お米の方は、あとは蒸らすだけだから、スープは私がやるわね」
あずさ「やよいちゃんは美希ちゃんと一緒に下ごしらえをお願いね?」
美希「やよい、失敗なんて気にする事ないの。一緒にガンバろ?」
やよい「あずささん、美希さん……」
やよい「わかりました。わたし、ガンバりますっ!」グッ
グツグツ…
あずさ(う〜ん……やよいちゃんが火加減を間違えるとは思えないわね〜)
あずさ(とすると、やっぱり考えられるのは〜)
あずさ(自分の力を抑えられなくなった……かしら)
あずさ(優しいやよいちゃんに、こんな強力な力が備わっているなんて)
あずさ(……少し、心配ね)
あずさ「……それにしても美希ちゃん」メラメラ
あずさ「どうして急にお料理を覚えようって思ったの?」
美希「うん」ザクザク
美希「ミキね、トロイアでファンの人の結婚式を見てて、思ったの」
美希「ミキも、あんな風に幸せになりたいって」
美希「それで、きっとそのためには花嫁修行が必要かなって」
あずさ「まあ、そうだったのね〜」
やよい「美希さん、すごいです!」
美希「んーん。やよいやあずさの方が全然すごいの」
美希「だって、ミキはまだまだ花嫁としてはミジュクだもん。2人がいないと、お料理なんてまったくできないし……」
美希「でもミキ、ガンバるって決めたの! ミキもいつか、みんなに祝福されて、幸せになりたいから!」
あずさ「うふふ♪ 私で良ければ、美希ちゃんのお手伝いをさせてもらうわ〜」
やよい「わたしも、お役に立てるかわかりませんけど、ガンバりますっ!」グッ
美希「2人とも……ありがとうなの!」
貴音「………」
貴音「月が、あんなに紅く……」
貴音「あのような色になってしまったのも、やはり魔物のせいなのでしょうか?」
貴音「………」
貴音(……ばはむーと殿。わたくしはこれから、仲間たちと共に月へ向かいます)
貴音(貴方との約束通り、皆の力を合わせて小鳥嬢を……)
貴音「………」
貴音(ばはむーと殿。わたくしは、今でもあの時の事を悔やんでおります)
貴音(あの時わたくしが、軽はずみな気持ちで小鳥嬢に会おうなどと考えていなければ……)
貴音(わたくしが、己の力を過信していなければ……)
貴音(恐らくばはむーと殿は、犠牲にならずに済んだのでしょう)
貴音(あんなに良くしてくれた友を、わたくしの所為で……)
貴音(…………無力)
貴音(わたくしはなんと無力なのでしょうか)
貴音(そして、なんと心の弱い人間なのでしょうか)
貴音(長らく共に戦ってきた戦友を失った響は、今や悲しみを乗り越えて大きく成長しています)
貴音(それなのにわたくしは、未だ過去の過ちに囚われたまま)
貴音(今のこの気持ちのまま、小鳥嬢に会ったら……)
貴音(…………わたくしは、自分を抑えられるかどうか分かりません)ゴゴゴ
亜美(お姫ちん、やっと見つけたけど……)
響(あんなおっかない貴音、初めて見たぞ……)
雪歩(四条さん……)
真「ズズッ……」
真「……うん、すごくおいしいよ! このスープ」
美希「ホント!? あは☆ ガンバったかいがあったの!」
雪歩「美希ちゃん、すごいなぁ。あずささんとやよいちゃんに手伝ってもらったとはいえ、初めてでこんなおいしいお料理作っちゃうんだもん……」
美希「ミキ、もっとガンバるよ! もっともっとガンバって、早くハニーのお嫁さんになるの!」
あずさ「うふふ♪ 愛の力ねぇ〜♪ 」
真美「むむむ……」
真美(ここへきてミキミキが花嫁シュギョーとか、真美、出遅れもいいとこっしょ〜)
真美(……でも、ダイジョーブ。まだあせる時間じゃないっぽいよ)
真美(真美が『お姉ちゃん』をキワめれば、きっと妹のミキミキにも、ひとりっ子のはるるんにも負けないもんねっ!)
真美(兄ちゃんのハートをゲットするのは、真美なんだから!)
春香「お姉ちゃん! はい、あーん」スッ
律子「は、春香、やめなさいよ恥ずかしいから……」
春香「えー? いいじゃないですか別に。なんてったって私たち、姉妹なんですから♪ 」
律子「もう……///」
千早「春香……」
響「いつの間に姉妹になったんだ? あの2人……」モグモグ
伊織「所詮ゲームの設定でしょ。まったく、いちゃつくなら他所行きなさいよね……」
やよい「はぁ……」
伊織「……やよい、どうかしたの? あんた、全然食べてないじゃない」
やよい「うー……わたし、お2人とお料理作る時に、失敗しちゃって……」
伊織「珍しいわね。やよいが料理で失敗するなんて」
伊織「でも、あんまり気にしないでいいと思うわよ? やよいは今までずっと私たちのために一生懸命に食事を作ってくれてたんだから」
伊織「ちょっと失敗したからって、誰もあんたを責めないわよ」
やよい「うん。……伊織ちゃん、ありがとう」
やよい「………」
美希「ハニー、ミキの作ったスープ、おいしい?」
P「うん、おいしいよ。ありがとな」
美希「あは☆ おかわりたくさんあるからね?」
P「うん」
P「……それより美希、貴音見なかったか?」
美希「貴音? 見てないけど、そういえばいないの」
亜美「あー、お姫ちんなら……」
亜美「ごはんだよーって呼んだんだけどさ、なんか、いらないって」
P「えっ!? 貴音が? ……う、ウソだろ!?」
雪歩「それが、ホントなんですぅ。四条さん、なんだかずっと上の空で、全然私たちの話も耳に入らないみたいで……」
響「……あんな貴音、初めて見たぞ」
真「あの貴音が食事を摂らないなんて、よっぽどだよね」
真美「うんうん。あんなに燃費悪いお姫ちんがゴハン抜いちゃったら、すぐにガス欠になっちゃうよ?」
伊織「確かにそうね。何かあったのかしら」
千早「四条さん、ひょっとして具合でも悪いのかしら……」
やよい「カゼでも引いちゃったんでしょーか……?」
春香「そういえば、今日の貴音さんはいつもと雰囲気が違ってた気がするなぁ」
あずさ「心配ねぇ……」
響「ねえプロデューサー。自分、貴音の事が心配なんだ。何か悩みがあるんじゃないかな」
P「………」
P「俺、ちょっと貴音のところへ行ってくるよ」ガタッ
響「ホント? じゃあ自分も……」
P「響は飯食っててくれよ。月に着いたら魔物との戦いになるかもしれないんだから、ちゃんと食べないと持たないぞ?」
響「でも……」
P「大丈夫だよ。もしかしたら貴音、ダイエットとかしてるのかもしれないし」
響「そうなのかなぁ……」
P「とりあえず、貴音の事は俺に任せてくれ」
響「うーん……ちょっと頼りないけど、わかった。プロデューサーに任せるさー」
P「ありがとう、響」
貴音「………」
P「……貴音、ここにいたのか」
貴音「あなた様……」
貴音「すみません。食事でしたら、わたくしは遠慮させていただきます」
P「そっか……」
貴音「………」
P「月が、大きいなぁ……」
貴音「……ええ。もう目と鼻の先。決戦の地は、すぐそこですね」
P「貴音。緊張してるか?」
貴音「緊張……いえ、そのような事はありません。寧ろ、月が近づくに連れ、魔力が高まっていくのを感じます」
P「そうか。それは頼もしいな」
貴音「………」
P「………」
貴音「あの、あなた様」
P「なんだ?」
貴音「わたくしは……」
貴音「その……」
貴音「………」
P「貴音の様子が変だって、みんな心配してたぞ? 響なんか特に」
P「何か、心配事があるんじゃないか?」
貴音「………」
P「……まあ、無理に話そうとしなくていい。貴音が話したくなったら話してくれればいいよ」
P「それまで、待ってるから」
貴音「あなた様……申し訳ありません」ペコリ
P「でも、忘れるなよ。貴音には、いつも仲間が側にいるって事を」
P「俺たちには、何者にも負けない強い絆があるんだ」
貴音「………」
P「……って、ホントはちゃんと貴音の話を聞いて、不安を取り除いてやれるのが一番なんだけどな」
貴音「いえ、あなた様や皆の気持ち、とても嬉しゅうございます」
貴音「それで、その……」モジモジ
貴音「少しだけ、あなた様の胸をお借りしても宜しいでしょうか……?」
P「えっ?」
貴音「………」ピトッ
P「貴音……」
貴音「……今だけ、今だけですので……」ギュッ
貴音「……うっ…………く……」
P「………」
P(こんなしおらしい貴音、初めて見たかもしれない)
P(……貴音だって、年頃の女の子だもんな)
P「………」ダキッ
貴音「うぅっ…………ぁ……!」
ーーー
貴音「………」
P「……少しは落ち着いたか?」ナデナデ
貴音「……はい」フキフキ
貴音「見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした……」
P「そんな事ない。誰だって泣きたい時くらいあるさ」
P「辛い時はさ、ちゃんと辛いって言ってほしい。周りをもっと頼ってほしい」
P「貴音は、そういうところをもっと直した方がいいと思うぞ?」
貴音「う……精進致しますが、これはわたくしの元々の性格ゆえ……」
P「……うん。まあ、簡単には直せないか」
貴音「あなた様……」
P「ん?」
貴音「お気遣い、ありがとうございます」
貴音「おかげさまで、気分が晴れました」
P「……そっか。役に立てて良かったよ」
貴音「しかし、落ち着いたら今度はお腹が減ってきました」グゥゥ
P「……はは。やっと普段の貴音に戻ったなぁ」ニコッ
P「じゃあ、みんなのところへ行こうか」スッ
貴音「はい、参りましょう」ニコッ
アイドルたち「ごちそうさまでしたーー!!!」
貴音「なかなかに美味でした。あずさとやよいは言わずもがな、美希にも料理の素質があるのやも知れませんね」ニコッ
美希「ふっふーん! とーぜんなの!」ドヤッ
響「っていうか、結局、途中から来た貴音がほとんどひとりで食べてたぞ……」
真「まあまあ、いいじゃない。貴音も普段の調子に戻ったって事でさ!」
貴音「むっ」
貴音「見くびってもらっては困りますね、真。わたくしはまだまだ本調子ではありません」
貴音「わたくしが本気を出せば、この船の食糧など一瞬にして胃袋に収めてしまうでしょう」ビシッ
真「……あー、なんかボク、心配して損したかも」
美希「自慢する事じゃないって思うな……」
響「うーん……貴音が元に戻って喜ぶべきなのか……」
P「えー、ちょっと聞いてくれ」
P「そろそろ月に到着するわけだけど、到着する前に、みんなに渡したいものがあるんだ」
春香「渡したいもの……なんですか? 一体」
P「ちょっと待ってくれ……」ゴソゴソ
P「……これだ」ジャラッ
雪歩「プロデューサー、それってもしかして、首飾り……ですか?」
P「うん。クリスタルを少し加工して作ったんだ」
亜美「兄ちゃん、そんなコトしてたんだー」
伊織「やっぱりアンタって、センスないわねぇ……」
P「うぐっ……ま、まあ、見た目は気にしないでくれよ。これは、お守りみたいなものなんだから」
真美「お守り? もしかしてヒッショーキガンってやつ?」
P「いや、どっちかっていうと安全第一の意味合いが強いかな。みんなでお揃いのお守りって、なんか心強いだろ?」
雪歩「安全第一……ふふっ♪ いい響きですぅ」
あずさ「みんなでお揃いなんて素敵ですね〜♪ 」
P「それに、みんなはもうわかってると思うけど、クリスタルは不思議な力を持っていて、とても重要なものなんだ」
真「……確かに。魔物たちは、クリスタルを使って巨人を地球に呼び寄せたんでしたよね?」
P「ああ。だから、何かご利益があればいいなぁと思ってな」
P(……それに、クリスタルは最後の戦いでも必要なものだし、な)
美希「ハニーの手づくりのプレゼント……これはもう、婚約指輪代わりって言っても過言ではないって思うな!」
響「美希だけじゃないぞ! 自分だってもらったんだからな!」
春香「でも、なんかいいよね! みんなでお揃いってさ!」
千早「ええ。心なしか、力が湧いてくるような気がするわ」
やよい「キラキラで、とってもキレイですねー!」
伊織「ま、見た目はともかく、あいつにしてはいい仕事したかしらね」
律子「…………あら、いつの間にか地表が迫ってるわね」
律子「みんな、準備して。そろそろ着陸よー」
アイドルたち「はーーい!!!」
響「到着だぞー!」
亜美・真美「月だー!!」
やよい「うっうー! 月ですー!」
ワイワイキャッキャッ
律子「あんまりはしゃがないのよー。月の民の人たちの迷惑になるでしょー」
響・亜美・真美・やよい「はーい!!!」
美希「ふーん……」キョロキョロ
美希「月って、なーんにもないとこなんだね。ハニー?」
P「まあ、住んでる人自体少ないからなぁ」
美希「でもミキ、結構気に入っちゃった☆ ここ、すっごく静かで、快適にお昼寝できそうだし」
P「わかってると思うけど、今寝ちゃダメだぞ?」
美希「はーいなの」
貴音「………」
貴音(懐かしい匂いです。わたくしが居た時と、少しだけ雰囲気が違っているようですが)
貴音(ばはむーと殿。わたくしは再び戻って来ました)
貴音(貴方との約束を果たすためと、もう一つ。小鳥嬢の真意を問いただすために)
貴音(わたくしたちが迷わずに小鳥嬢に逢えるよう、どうかそのお力をお貸しください)
美希「……貴音、どうかしたの?」
貴音「美希……」
貴音「いえ、少々感慨に耽っていただけですよ」
美希「ふーん。里帰りってカンジ?」
貴音「ええ、そうですね」ニコッ
春香「おーい、雪歩ー! 大丈夫だから降りて来なよー!」
雪歩「ほ、ホントに? 身体が破裂しちゃったりしない……?」ビクビク
春香「平気だってばー! ほら、みんなだって平気なんだからさー!」フリフリ
真「……さ、行こう、雪歩」スッ
雪歩「あ、ありがとう、真ちゃん」ギュッ
あずさ「……えーっと、こっちから降りればいいのかしら〜?」スタスタ
伊織「ちょっとあずさ! そっちじゃないわよ!」グイッ
あずさ「あら〜」ズルズル
千早「………」キョロキョロ
春香「……どうしたの? 千早ちゃん」
千早「春香。……さっき亜美が言ってたハミングウェイという人たちが、少し気になって……」
春香「ああ、歌を歌ってる人だったっけ? えへへ、実は私もちょっと気になってるんだー」
春香「ハミングウェイさんのところにも立ち寄るって言ってたから、楽しみだねっ!」ニコッ
千早「ええ」ニコッ
律子「……えー、というわけで」
律子「まずはハミングウェイって人たちのところへ立ち寄って、次に貴音の友達のところに向かうわ」
律子「そして、あの遠くの丘に見える大きな神殿」スッ
律子「あそこが、小鳥さんがいる地下渓谷への入口よ」
律子「最終的にはあの神殿を目指す事になります」
律子「……で、いいんですよね?」
P「ああ」
律子「何か質問ある人ー?」
アイドルたち「ないでーーす!!!」
律子「よし。じゃあ出発よ!」
律子「貴音、道案内よろしくね?」
貴音「承知しました。参りましょう」
スタスタ…
小鳥「ーーーーはっ!?」ピクッ
クルーヤ「……どうしたんですか、コトリさん?」
小鳥「…………来た」
クルーヤ「え?」
小鳥「ついに……みんなが来たわ! この、月にッ!」
クルーヤ「そうですか」ニコッ
ダークバハムート「クク……漸くか」
小鳥「本当に、長かったわ…………ぐすん」
クルーヤ「コトリさん、ずっと楽しみにしてましたもんね」
クルーヤ「我慢して待ってた甲斐がありましたね?」
小鳥「はいっ♪ 」ニコッ
小鳥「うふふっ♪ みんな元気かなー? たくましくなってるのかなー?」ウズウズ
ダークバハムート「まるで久々に我が子に会う親のようだな」
小鳥「し、失礼な! 私、まだそんな歳じゃないですからねっ!」プンスカ
ダークバハムート「そ、そうか。済まぬ」
クルーヤ(言ったじゃないか、バハムート。妙齢の女性の前では年齢の話題は禁句だって……)
ダークバハムート(何故人間の女は若く見られたがるのだ。経験を重ねる事で見える物の方が多いというのに)
クルーヤ(女性はいつでも綺麗に見られたいものなんだよ。特に、近しい人には、ね)
ダークバハムート(我には理解出来ぬ思考だな)
小鳥(はぁーあ……。やっとみんなと会えるっていうのに、もう物語も最終局面なのよねぇ)
小鳥(なんだかさみしいなぁ……)シュン
小鳥(……ううん、ダメよ小鳥。悲しい顔をしてちゃ!)ブンブン
小鳥(せっかくみんなと遊べるんだもの。しっかりとおもてなししなきゃね!)
小鳥(…………よしっ!)グッ
小鳥「みんな、いる?」
…ゾロゾロ
小鳥「女神ちゃん」
月の女神「はーいっ♪ コトリ様、私、ガンバるね!」
小鳥「レッドドラゴン君」
レッドドラゴン「うっしゃ! 待ってたぜ!」
小鳥「リルマーダーちゃん」
リルマーダー「オイラ、やってやるぞっ!」
小鳥「魔人兵君」
魔人兵「オレに任せてくださいっ!」
小鳥「プリンちゃん」
プリンプリンセス「パーティの時間ですわね!」
小鳥「暗黒魔道士君」
暗黒魔道士「……!」コクリ
小鳥「ブルードラゴンさん」
ブルードラゴン「……さて、老兵の出番か」
小鳥「金竜君」
金竜「力戦奮闘、我の力、振るう時ぞ!」
小鳥「銀竜君」
銀竜「あいどる、木っ端微塵にしてくれよう!」
小鳥「ベヒーモスちゃん、みんなの事をお願いね?」
ベヒーモス「了解だよ、コトリ様!」
小鳥「みんな、ここまでよくレッスンを頑張ってくれました」
小鳥「あなたたちはもう、どこに出しても恥ずかしくない、私の立派なアイドルよ!」
小鳥「さあ……みんなに挨拶していらっしゃい!」
ベヒーモス「気合い入れて行くよ! 野郎共!」
ベヒーモス「出撃ぃ!!」
魔物たち「うおおおおおぉぉおおっ!!!」
ドドドド…
小鳥「………」
小鳥(頑張ってね、みんな)
真「……せいっ!」ビュッ
バキィッ!
魔物1「」
響「ほぁたーっ!」ブンッ
ドガッ!
魔物2「」
真「ふぅ……」
真「ここまで来ると、魔物もそこそこ強いなぁ」
響「でも、その分自分たちも強くなったし、なんくるないさー!」
真「響、油断してるとやられちゃうかもよ?」
響「ふふーん! 自分だって今まで修羅場をくぐり抜けて来たんだ。簡単にやられたりしないぞ!」
響「モタモタしてると、自分が真の活躍も取っちゃうからね?」
真「あ、それはダメだよ! ボクだってこの間の巨人との戦いでは不完全燃焼だったんだから!」
響「じゃ、どっちが多く魔物を倒せるか、勝負する?」
真「お、いいね! 受けて立つよ!」
響「よぉーっし、いっくぞー!」タタタ
真「うおおおおっ!」タタタ
春香「……ねえ。魔物、真と響ちゃんだけに任せてもいいのかなぁ?」
千早「あんなに元気なんですもの、心配いらないと思うわ」
やよい「真さんも響さんも、すっごく強いです!」
伊織「それに、こういう時こそあの体力バカ2人の出番じゃない」
春香「うーん……」
真美「だいじょーぶだよ、はるるん。まこちんとひびきんが疲れたら、真美とミキミキが回復してあげるからさっ」
美希「あふぅ……」
春香「うん、そうだね」
春香(……本当は、強くなった私をプロデューサーさんに見てもらいたいって気持ちもあるんだけどなぁ)
亜美「ねえ兄ちゃーん。亜美たちの出番はないのー?」
P「無いって事はないけど、今はあんな雑魚に無駄な魔力を使う事はないだろ」
P「エーテルの数も限られてるし、魔道士組は今はお休みだ」
亜美「でもさー、ヒマヒマだよー」
P「まあ、この先いやでも戦う事になるさ」
律子「この人数でいっぺんに戦っても仕方ないですからね」
P「ああ。それに、真と響がすごいやる気なんだよなぁ」
あずさ「頼もしいですね〜」
雪歩(私も、真ちゃんと一緒に戦いたかったなぁ……)
貴音「……さあ、参りましょう。はみんぐうぇいの住処はもうすぐです」
スタスタ…
ガチャ…
真「……ごめんくださーい!」
響「はいさーい!」
……シーーン
真「……あれっ?」
響「誰も……いないぞ?」
春香「どうしたの?」
真「いや、いないんだよ。誰一人」
春香「ホントだ……」キョロキョロ
やよい「どーしたんでしょう? お出かけしてるんですかねー?」
あずさ「迷子にでもなっているのかしら〜」
雪歩「も、もしかして、魔物にやられちゃったんじゃ……」
千早「そんな……」ガックリ
千早(楽しみにしてたのに……)
亜美「なぁんだ、ハミーいないのかぁ。つまんないのー」
真美「キタイしてたのになー」
亜美「ねー」
亜美「……あっ」
真美「ん? どしたの亜美」
亜美「真美、気安く話しかけないでよねっ。亜美、まだあの時のこと、怒ってるんだから!」
真美「えっ?」
亜美「ほら、亜美といっしょにタンケンしてくんなかったじゃん!」
真美「だからー、それはあの時言ったっしょ? 真美はお姉ちゃんだから……」
亜美「お姉ちゃんだからなんなのさっ!」
真美「あ、亜美?」
亜美「今までの真美は、いつも亜美と遊んでくれたのに、急にオトナぶっちゃってさ! そんなのゼンゼン似合ってないかんね!」
真美「むっ!」
真美「亜美こそ、いーかげんそーゆー子どもっぽいのやめれば? わがままばっか言ってさ!」
亜美「なんだとー!」
真美「なにおー!」
ギャーギャー…
伊織「……こらこら、アンタたちは何ケンカしてんのよ。今はそんな場合じゃないでしょうが」
亜美「いおりん……。だって、真美が」
真美「亜美だってー」
伊織「いいから、今は少し大人しくしてなさい」
亜美・真美「……ふぇ〜い」
P「貴音、これはどういう事だ?」
貴音「確かに、わたくしが月を発つ前は、はみんぐうぇい殿たちがここにいたはずなのですが……」
律子「………」ジーッ
律子「……ねえ、この洞窟、よく見ると壁がボロボロじゃない? 床も所々穴が開いちゃってるし」
律子「これじゃまるで、ここで戦いがあったみたいな……」
貴音「!」
P「戦いって、まさか……」
「……待ちわびたよ、あいどるとやら」
貴音「っ……何者!?」クルッ
ベヒーモス「ふふ……」ヌッ
雪歩「ひいぃっ!?」ビクッ
春香「ま、魔物っ!?」
あずさ「あらあら……」
やよい「わ……お、大きいですー!」
律子「出たわね……」
美希「……zzz」
ベヒーモス「初めまして、だね。アタイは……」
亜美「そのひん曲がったツノ、シュミの悪い体の色(紫)……もしかして、ベヒーモス?」
ベヒーモス「へぇ、アタイを知っているのかい?」
ベヒーモス(初対面なのにいきなり趣味悪いって言われた……)
亜美「FFっていったら、やっぱベヒーモスっしょ〜」
亜美「いやー、亜美たちもとうとうここまで来たんだねぇ」
春香「亜美、知ってるの?」
亜美「ケッコー有名なモンスターだからね。なめてかかると、イタイ目みるっぽいよ!」
春香「そ、そっか……!」グッ
ベヒーモス「……なるほど、こちらの情報は筒抜け、か。まあいいさ、一応自己紹介しておくよ」
ベヒーモス「アタイはベヒーモス。……コトリ様の親衛隊の頭をやらせてもらってる」
アイドルたち「……っ!!?」
響「ピヨ子の……」
真「親衛隊……?」
律子「意外に早かったですね。小鳥さんの刺客がいつかは来るだろうとは思っていましたけど……」ヒソヒソ
P「ああ……」
P(さて、音無さんはどういう手を打ってきたのか……)
雪歩「あ、あの、その親衛隊さんが、私たちに何のご用なんでしょうかぁ……?」ビクビク
真「雪歩、聞くまでもないよ。きっとこいつは……」
ベヒーモス「あんたたちは、コトリ様を倒しに行くつもりなんだろう? だが、アタイたちはコトリ様を守る親衛隊だ」
ベヒーモス「あんたたちはアタイたちを倒さなけりゃ、コトリ様の元へは辿り着く事はできない」
雪歩「そ、そんなぁ……!」
真「……やっぱりか」
ベヒーモス「もし、あんたたちが勝てば、あんたたちはコトリ様に会えるだろう。でも、もしアタイたちが勝てば……」
雪歩「どっ、どうなるんですかぁ……?」ビクビク
ベヒーモス「アタイたちが、真のあいどるだ!」
真「…………えっ?」
伊織「ちょ、ちょっと! 意味わかんないんだけど!?」
ベヒーモス「……別に難しい事を言ったつもりはないんだけどね」
伊織「いや、だから……言葉の意味は理解できてるわよ! 意味わかんないのは、なんでアンタたち魔物がアイドルになるのかって事!」
ベヒーモス「おかしいかい? コトリ様は本気でアタイたちをあいどるにするつもりみたいだ」
ベヒーモス「アタイたちも、れっすんとやらをやっていくうちに、あいどるに興味が湧いてきてね」
亜美「あー……ピヨちゃん、きっとひとりでさみしかったんだろーね……」
伊織「だからって、ふざけすぎでしょうが」
響「……でも、あんなスタイルじゃアイドルに向いてないと思うけどなー」ボソッ
ベヒーモス「…………なん…だって?」ピクッ
響「あっ……い、いや、なんでもないさー!」
ベヒーモス「さっきから失礼な連中だね」
ベヒーモス「どうやら、死にたいらしい……!」ゴゴゴゴ
貴音「……ひとつ、質問があるのですが」
ベヒーモス「……なんだい?」
貴音「ここに、はみんぐうぇいという方たちがいたと思うのですが、会いませんでしたか?」
ベヒーモス「……ああ、あの貧弱な連中なら、喰ってやったよ」
貴音「なっ……!?」
ベヒーモス「コトリ様の指示なのさ。逆らう者は殺せと」
春香「そ、そんなっ!」
やよい「ひ、ひどいですー!」
千早(音無さん、そこまでするんですか……?)
ベヒーモス「……ああそうだ。そういえばこの近くには、もうひとつ家があったね。確か、ガキが2人ほど住んでいた……」
貴音「っ!?」
ベヒーモス「『別働隊』は、うまくやっているかねぇ……?」ニヤリ
貴音(駄目です……!)
貴音(その幼子らは、ばはむーと殿の忘れ形見……!)
貴音「……っ!」グッ
貴音「ぷろでゅうさぁ、律子嬢! 申し訳ありません、わたくしは行かねばなりませんっ!」ダッ
タタタタ…
律子「えっ!? ちょっと貴音!?」
P「お、おい貴音!」
ベヒーモス「そう簡単に行かせると思うかいっ!?」ダッ
貴音「むっ……!」
ドゴオッ!!
真「……ふんっ!!」ガシッ
貴音「真……!」
ベヒーモス「……ほう、アタイのタックルをまともに受け止めるとはね」ググッ
真「へへっ……! コケにされたままじゃいられないからねっ!」ググッ
真「……行きなよ、貴音。大切な人がいるんでしょ?」
貴音「……恩に着ます、真!」クルッ
タタタタ…
響「た、貴音、待ってよ! 自分も行くぞ!」タタタタ
律子「ちょ、ちょっと響まで!」
真美「ま……真美も行くっ!」
真美(姉として名を上げるチャ〜ンス!)
律子「えっ!?」
真美「だって、今のお姫ちん、なんか危なっかしーし、ひびきんだけじゃ心配だもん!」
やよい「真美、わたしも行くよっ!」グッ
やよい(……わたしも、だれかの役に立ちたいですっ!)
真美「やよいっち! ありがと!」
律子「ま、待ちなさい! 駄目よ! これ以上バラバラに行動したら……」
真美「りっちゃん! 今は言ってるバアイじゃないっしょ!?」
P(もうひとつの家……多分、バハムートの住処の事だな)
P(あそこには、確かに子供が2人いたはずだ)
P(バハムートと親しくしていた貴音には、きっと見過ごせないよな……)
P(それに真美の言う通り、さっきの様子を鑑みるに、貴音は我を忘れてしまっている)
P(……よし)
P「雪歩、『アレ』はまだ持ってるか?」
雪歩「は、はい? アレ……?」
雪歩「あ……もしかして、これの事ですか?」スッ
P「ああ。ちょっと貸してくれ」ガシッ
P「真美っ!」
真美「えっ?」
P「これを持ってけ!」ヒュッ
真美「……おっと」パシッ
真美「これは…………
あ、そっか!」
真美「兄ちゃん、さんきゅ!」
P「真美、やよい……貴音と響を頼んだぞ!」
真美「りょーかいっ! んじゃ、行ってくるよん♪ 」
やよい「行ってきまーすっ!!」
タタタタ…
律子「プロデューサー、真美に何を渡したんです?」
P「連絡手段だ。大丈夫、あの子たちなら」
ベヒーモス(こいつ、人間のクセに……!)
真「別に、犠牲になるつもりはないよ……!」ググッ
真(……すごい力だ)
真「せいっ!!」グイッ
…スタッ
ベヒーモス「………」
ベヒーモス(コトリ様の言う通りにこいつらを煽ってみたけど、単純なんだねぇ、あいどるって)
ベヒーモス(とりあえず、戦力を分散させる作戦は成功だ)
ベヒーモス(それにしてもあいつ、なかなかやるじゃないか)
ベヒーモス(ふふ、これは楽しくなってきたよ……!)
真「……それで、どうするの? まさか君ひとりでボクたちと闘り合うつもりじゃないよね?」
春香「っ……!」チャキッ
千早「………」チャキッ
雪歩「うぅっ……!」チャキッ
亜美「えっと、お姫ちんとひびきん、真美、やよいっちが行っちゃったから、こっちは……ひい、ふう……9人パーティかぁ」
亜美「さすがに負ける気がしないっしょー!」
伊織「さっさと終わらせるわよ!」チャキッ
美希「……zzz」
あずさ「プロデューサーさん、律子さん……」
P「とりあえず、目の前の敵を倒して貴音たちと合流しましょう」
あずさ「ええ、そうですね」
律子「もう、いきなりパーティを分裂させる羽目になるなんて……」
春香「大丈夫、貴音さんたちならきっと心配いりませんよ、お姉ちゃん!」
律子「春香……。そうね、今はあの子たちを信じるしかないわね」
ベヒーモス「さすがにアタイひとりであんたらの相手をするのはキツいかもね」
ベヒーモス「野郎共、出番だよっ!」
ゾロゾロ…
月の女神「……ふぅ、やっと出番だよ〜」
プリンプリンセス「待ちわびましたわっ」
レッドドラゴン「前置きが長げーよ、ったく……」
金竜「とっぷあいどるになるのは、我らである!」
銀竜「今こそ我らの絆を見せる時!」
春香「な、なんかたくさん出て来た!?」
真「……でも、数じゃまだこっちの方が多いのかぁ」
千早「相手が誰であろうと、倒すだけよ」
伊織「ええ、そうね」
雪歩「と、特訓の成果を見せますぅ!」
亜美「真美よりカツヤクしてやるんだもんねっ!」
あずさ「私も、張り切っちゃおうかしら〜」
律子「みんな、頼んだわよ!」
ベヒーモス「行くよ! 野郎共!」
アイドルたち「うあああぁぁあああっ!!!」
魔物たち「おおおぉぉぉおおおっ!!!」
ドドドド…!!
ひさびさに投下しました完成の
目処はまだ立っていませんがラスダンが
ちょっと長くなりそうなよか
ん
ひさびさでも楽しめます
めどこたってないのか…
ちゃんと更新してくれるだけでも嬉しい
んです!
完結まで頑張ってください
男の子「……たあっ!」ビュッ
リルマーダー「へへん! 遅いぜっ!」ヒョイッ
リルマーダー「……そりゃっ!!」
ドゴオォ!!
男の子「ぐあ……!」ガクッ
女の子「っ……ケア」
魔人兵「……ほっ!」バキッ
女の子「あ……ぅ……!」ガクッ
男の子「はぁ、はぁ……くそっ……!」
女の子「うぅ……!」
リルマーダー「どうした? 手も足も出ないか? お前ら弱っちいなぁ!」
暗黒魔道士「………」
ブルードラゴン「……ふむ」
男の子「く、くそ……!」
魔人兵「子どもにしては良くやったよ。だけど、君たちじゃ相手にならないな」
魔人兵「さあ、諦めてオレたちと一緒に行くんだ」
男の子「だ、誰がお前たちの仲間になるかっ!」
女の子「あなたたちと一緒に行くくらいなら、死んだ方がマシだもんっ!」
魔人兵「君たちのご主人様だって待っているんだぞ?」
魔人兵(……なーんて言ってみたりして)
男の子「……!」
女の子「……!」
魔人兵「さっきも言ったけど、君たちのご主人様、バハムートは、既に闇へと堕ちた」
魔人兵「今はオレたちと同じ、コトリ様の配下なんだ」
魔人兵「君たちが来るのを待っていると思うよ。さあ……」スッ
女の子「そ、そんなぁ……」
男の子「……ふ、ふざけるなっ!」
男の子「バハムート様は、気高くて光に満ちあふれたお方だっ!」
男の子「お前たちみたいな魔物と一緒にいるわけなんか、ないんだっ!」グッ
魔人兵(……やれやれ、強情だなぁ)
魔人兵(ま、こうして遊んでれば、そのうちあいどるたちが来るよな)
ブルードラゴン「これ以上苦しめる事もない。楽にしてやるのが良かろう」
魔人兵「えっ?」
暗黒魔道士「っ……!」
リルマーダー「でも、殺しちゃいけないんだろ? コトリ様が言ってたぞ?」
ブルードラゴン「子供が苦しむ様は見るに耐えん。ワシが楽にしてやろう」
スゥゥー
魔人兵「お、おい、じいさん! 殺しちゃダメだって!」
ブルードラゴン「………」
男の子「く……!」チャキッ
女の子「っ……!」ギュッ
ブルードラゴン「……主らに問おう」
ブルードラゴン「真の……とは、何か?」
男の子「……は?」
女の子「な、何言ってるの……?」
ブルードラゴン「………」
ブルードラゴン「こんな幼子に答えを求めるという方が無理な話か」
ブルードラゴン「答えを持たぬのならば、もう用はない」
ブルードラゴン「ワシの吹雪で、永遠の眠りにつくといい」
ブワッ…
ビュオオォォ…!
男の子「うわっ!」バッ
女の子「シェルっ!」
ポワッ
ブルードラゴン「無駄じゃ。魔法などで防げるものではない」
コオオオォォ…!
男の子「く、くそぉ……か、体が……!」ガクガク
女の子「さ、寒いよぉ……!」ブルブル
「…………ふぁいが!!」
ボオオオォォオオ!!
ブルードラゴン「む……?」
「……そこまでです! 物の怪共よ!」
男の子「その声……! まさか……?」ヨロッ
女の子「た……タカネちゃん……?」グッタリ
貴音「響、2人を頼みます!」
響「任せろっ!」ダッ
タタタタ…
響「2人とも、もう大丈夫だぞ!」ダキッ
男の子「お、お前は……?」
響「貴音の友達さー!」
女の子「そ、そうなん…だ……」
ブルードラゴン「………」
リルマーダー「なあ、あれってもしかして……」
魔人兵「ようやく到着か。ベヒーモスがうまくやってくれたみたいだ」
暗黒魔道士「………」
貴音「これ以上わたくしの大切な者たちを傷つける事は、許しませんっ……!」ゴゴゴゴ
響「貴音、自分も戦うぞ!」
貴音「響はその子らを頼みます!」
響「え? でも!」
魔人兵「いやあ、探す手間が省けて良かったよ。オレたちはコトリ様の親衛」
貴音「さんだが!」
ズガガピシャァーン!!
魔人兵「ぐあっ!?」ビリビリ
魔人兵「ちょ、ちょっと待て! 話を聞いてくれって!」
貴音「問答無用! とるねど!」
ブオオォォ…!!
リルマーダー「うわっ……!」ヨロッ
暗黒魔道士「……トルネド」バッ
ブオオォォ…!!
貴音「っ! ……同じ魔法を!」ググッ
暗黒魔道士「……!」ググッ
ブルードラゴン「……後ろがガラ空きじゃのぅ」ブンッ
ドゴオッ!
貴音「ぐっ……ぁ……!」ヨロッ
響「貴音っ!!」
リルマーダー「さっきはよくもやったなー!」チャキッ
リルマーダー「くらえー!」
貴音「……すろう!」
カタカタ…シュルン
リルマーダー「きかねーよ! でえい!」ブンッ
ザシュッ!
貴音「う……っ!」
リルマーダー「……なんだあんまり強くねーな。期待はずれだぜ」
響「貴音、大丈夫か!? やっぱり自分も……」
貴音「……平気です!」グッ
響「でも、いくら貴音でも4対1じゃ分が悪いぞ! やっぱり自分も戦うよ!」
貴音「……いえ。それではわたくしの怒りが収まりません……」
響「た、貴音……」
響(まただ……。また、自分の知らない貴音になっちゃってる……)
響(自分、どうすればいいんだ……?)
貴音「………」ザッ
ブルードラゴン「お主……ひとりでワシらと戦うつもりか」
貴音「……許せないのです」
貴音「地球だけでなく、月の民にまで手をかけるとは……」
ブルードラゴン「ならば、どうする?」
貴音「あなた方を、今ここで、わたくしの手で滅してくれましょう……!」
ブルードラゴン「ふむ……」
魔人兵「なんだか勘違いされてる気もするけど、まあいいか。あいどるのお手並み拝見ってところだな!」ジャキッ
リルマーダー「あんまり期待はしないけどなー」
暗黒魔道士「……っ」
貴音「……滅びゆく肉体に、暗黒神の名を刻め……」ゴゴゴゴ
魔人兵「……お?」
リルマーダー「な、なんだ?」
暗黒魔道士「!」
ブルードラゴン(この魔力……!)
貴音「始原の炎、甦らん! ……ふれあ!」バッ
ブゥゥン…
ババババババッ!!
ドゴオオォォオオン!!
貴音「………」
響「……貴音っ!」
男の子「や、やったのか……?」
貴音「いえ。あの程度で倒せるとは思いません」
貴音「それに、あちらにも魔法の使い手がいるようでした。何か対策を打たれているかもしれません」
女の子「そんな、あんなにすごい魔力だったのに……」
貴音「ともかく、今のうちに二人は安全な場所へ……」
響「!」
リルマーダー「……うりゃあああっ!」ダッ
響「貴音、危ないっ!」バッ
ドガッ!!
響「うあ……!」ヨロッ
貴音「ひ、響っ!」ダキッ
貴音「このっ……!」ブンッ
リルマーダー「……おっと!」ヒョイッ
魔人兵「……火炎放射!」
ゴオオオオオオ!!
貴音「ぐっ……ぅ……!」ヨロッ
男の子「タカネ!」
女の子「タカネちゃんっ!」
貴音「ひ、響……今、回復を……」スッ
暗黒魔道士「……アスピル」
シュイイィィン!
貴音「!? ……こ、これは……魔力が、吸い取られている……!」
貴音「このような魔法があるとは……!」ガクッ
魔人兵「残念だったね。君たちじゃオレたちには敵わないみたいだな」チャキッ
リルマーダー「オイラたちを甘く見すぎだぞ!」チャキッ
ブルードラゴン「さあ、ひと思いに楽にしてやろう」バッ
響「うぅ……」グッタリ
男の子「くそー!」
女の子「いやー!」
貴音「魔法が使えれば……!」
「…………右手にプロテス。左手にシェル」
「合わせて、ウォール!」
…パキーン!!
ガキィン!!
ブルードラゴン「何? 魔法の……壁じゃと!?」
真美「せくしー美少女白魔道士真美、さんじょー!」シュタッ
真美「真美の目が社長くらい黒いウチは、お姫ちんとひびきんに手出しはさせないかんねっ!!」ビシッ
貴音「真美っ……!」
リルマーダー「……お? あいつもあいどるか?」
魔人兵「仲間を助けに来たのか……」
魔人兵(これが、コトリ様の言ってた『キズナ』ってやつかな?)
ブルードラゴン「あの娘……なかなかやりおる」
貴音「真美、危険です! 下がってください!」
真美「いや、どー考えてもキケンなのはお姫ちんたちの方っしょ。待ってて、今助けるからっ!」
魔人兵「って言っても、白魔道士君に何ができるっていうんだ? せいぜい味方のサポートくらいだろう?」
真美「んっふっふ〜♪ 甘い、甘すぎる! はるるんのお菓子より甘いよ!」
真美「……へい! やよいっち、かもーん!」
やよい「うっうーーー!!」ピョコン
やよい「らむさん、しばさん、いふりとさん! 出てきてくださいっ!!」
スゥゥー…
イフリート「うおおおおおっ!!地獄の火炎んんんんぅ!!」
ゴオオオオ!!
シヴァ「……絶対零度!」
コォォ…パキィィィィン!!
ラムウ「裁きの雷!」
ズガガガガッ!!
魔人兵「召喚士! しかも、三体同時召喚だと!?」
リルマーダー「あ、あれはヤバそうだぞ!?」
ブルードラゴン(ほう……)
暗黒魔道士「シェル」スッ
ポワーン
ズドドドドオオオオン!!!
真美「……うひゃ〜! やるねーやよいっち!」
真美「一気に3体もしょーかんするなんてさ! けっこーダメージあたえたっぽいよ?」
やよい「えへへ、なんだかできそうな気がしたんだー」
やよい「……って、そんなこと言ってる場合じゃないよ、真美! 早く貴音さんと響さんを助けなきゃ!」
真美「おっと、そーだった!」
タタタタ…
真美「……ケアルガ!」
シャララーン! キラキラキラ…
貴音「……すみません、やよい、真美」ペコリ
響「うぅ……助かったぞ」ムクッ
やよい「2人とも、ぶじでよかったですー!」
真美「まったく、ムチャしやがって……」
真美「……で、お姫ちんはその子たちを助けに来たって事なの?」
男の子「………」
女の子「………」
やよい「この子たちは、貴音さんのお友だちなんですね?」
貴音「……ええ。わたくしの大切な友人、ばはむーと殿の……家族です」
響(バハムートって確か、こないだ貴音が話してくれた……)
貴音「それよりも、今は話をしている場合ではありません。今のうちに、彼奴らに止めを刺さねば!」スクッ
やよい「えっ?」
真美「お、お姫ちん?」
響「待ってよ貴音! 一人じゃ危険だ!」
貴音「いえ、この戦いは、わたくしがやらねばならないのです」
貴音「月の民は、わたくしの同胞。同胞の借りは、わたくしが返します!」
やよい「た、貴音さん……」
真美「でも、さすがにあの魔物たちは強いよ? ここはみんなで力を合わせて……」
貴音「いえ、申し訳ありませんが」
響「…………貴音っ!!」ガシッ
貴音「っ……響……!」
響「仲間を傷つけられて悔しい貴音の気持ちは、すっごくわかる」
響「でも、なんでも一人でやろうとしないで、自分たちの事ももっと頼って欲しいぞ!」
響「自分たち、仲間じゃないか!」
貴音「………」
やよい「……あの、貴音さん。わたしも、響さんと同じキモチかなーって」
真美「そーだよお姫ちん。お姫ちんがいなくなって、ひびきんは真っ先にあとを追いかけてったんだから」
真美「ひびきんのキモチ、ちゃんとわかったげてよ。あ、モチロン真美とやよいっちのキモチもね?」
貴音「………」
男の子「……あのさ、タカネ。オレたちの事を心配してるなら、平気だぞ?」
男の子「オレたち、ちゃんとタカネたちの邪魔にならないように、安全なところに隠れてるからさ」
女の子「タカネちゃん。バハムート様の手紙を思い出して? バハムート様は、みんなで力を合わせて欲しいって言ってたはずだよ?」
『……そしてもし、この月と、青き星に危機が訪れた時は、皆で力を合わせ立ち向かうのだ』
貴音(ばはむーと殿……)
貴音「…………そう、ですね。どうやらわたくしは、周りが見えていなかったようです」
貴音「申し訳ありません」ペコリ
響「うん、わかってくれたならいいさー!」ニコッ
やよい「みーんなでたたかいましょう!」
真美「そんじゃいっちょ、魔物たちをやっつけますかね!」
貴音「待ってください、真美」
真美「え?」
貴音「先ほどのあの魔道士に気をつけてください。彼奴は、魔力を吸い取る魔法を使うようです」
真美「あー、それってきっと『アスピル』かな。真美たち魔道士にとってはやっかいな魔法だよねー」
やよい「えっと……そのまほう? からにげるには、どーすればいいんでしょう?」
貴音「ええ、問題はそこです。彼奴の魔法を封じる事ができれば良いのですが、恐らく『さいれす』の魔法は通用しないでしょう」
真美「だね。ここまで来たら、敵さんにはそこらへんのセコセコ魔法は効かないって思ったほーがいいっぽいよ」
貴音「あの魔道士をどうにかできれば良いのですが……」
やよい「うー……」
響「………」
響「……あのさ、みんな。ちょっと自分に考えがあるんだけど」
貴音「響……?」
響「みんな、ちょっと耳貸して」
ーーー
真美「……いや、真美は別にいーけど、その作戦だとひびきんが……」
やよい「そ、そーですよ! 響さんがきけんです!」
響「この方法ならあの魔道士の事も気にしなくていいし、貴音も思う存分魔法を使える」
貴音「しかし、それでは響が……」
響「同胞の仇を取るんでしょ? 自分、貴音の力になりたいんだ!」
貴音「響……」
魔人兵「……あー効いた、今のは……」
リルマーダー「お前、なかなかやるじゃんか!」
暗黒魔道士「………」
ブルードラゴン「もっと力を見せてくれ。あいどるたちよ……」
響「……来るぞ! みんな、手はず通りに!」
真美「むー、やるしかないみたいだね」
やよい「響さん、ムチャはしないでくださいね!」
響「うん。もちろんさー!」
貴音「……恩に着ます、響」
タタタタ…
響「はあああぁぁぁぁ!」
真美「おりゃーー!!」
やよい「うっうー!!」
リルマーダー「! ……三人来たぞ!」
魔人兵「あれ? 銀髪の子がいないみたいだ。何か企んでいるのかな」
リルマーダー「へへん! 浅知恵で勝てるほどオイラたちは甘くないぞっ!」
ブルードラゴン「三人のうち2人は魔道士。坊主、頼むぞ」
暗黒魔道士「……!」コクリ
暗黒魔道士「……アスピ」
響「させるかーっ!」ビュンッ
ドゴォッ!!
暗黒魔道士「っ!?」ヨロッ
魔人兵「お、速いな!」
魔人兵「火炎放射!」
ゴオオオォォオ!!
響「うわっ!」
リルマーダー「行っくぞーー!!」ダッ
リルマーダー「うりゃっ!」ブンッ
…ガキィン!
真美「真美もいるんだかんね!」
リルマーダー「白魔道士が肉弾戦? なめんなよ!」ブンッ
真美「おわぁ!?」ヒョイッ
やよい「うっうー! こっちですよー!」フリフリ
ブルードラゴン「ふむ」ブンッ
ドガァ!!
やよい「はわわっ!?」ヒョイ
やよい「あ、あぶなかったですー……」
響「たあああっ!」ビュッ
魔人兵「……おっと!」ガキィ
魔人兵「君の狙いは暗黒魔道士か。そうはさせないぞ!」
響「自分のスピードについて来れるか?」ザッ
響「っさー!」ダッ
ビュンッ…
魔人兵「げ!? 速い!」
響「……はっ!」ブンッ
ドゴォッ!!
暗黒魔道士「っ……!」ヨロッ
響「よし! 魔法さえ使わせなければあいつは恐くないぞ!」
真美「へいへーい! こっちだよー!」フリフリ
やよい「こっちですよー!」フリフリ
リルマーダー「ちょこまか逃げ回りやがってー!」
ブルードラゴン「……おかしい」
リルマーダー「え?」
ブルードラゴン「あの娘らは白魔道士と召喚士じゃ。何故魔法を使わない……?」
リルマーダー「あ、そういえば……」
ブルードラゴン(それに、姿が見えない銀髪娘の動向も気になる)
ブルードラゴン「……まさか」
貴音「………」ゴゴゴゴ
貴音(ありがとうございます、響。貴女のお陰で、わたくしの本気が出せます……!)
ブルードラゴン「皆、この3人は囮じゃ! ワシらの足止めをしているだけじゃ!」
魔人兵「……そうか! あの銀髪の子を止めないと!」
ブルードラゴン「ワシが行く! お主らは此奴らを!」ブワッ
リルマーダー「こっちは任せろ!」
魔人兵「じいさん、頼んだぞ!」
魔人兵「……さあ、そろそろ遊びは終わりにするか」ガコンッ
響「!」
魔人兵「いくら君が速いって言っても、レーザーの速度には追いつけないだろ?」
キュイイイン…!
響「………」ジリッ
魔人兵「発射!」
チュドドドドドドッ!!
響「っ……!」ダッ
貴音「………」ゴゴゴゴ
ブルードラゴン「……なかなかの魔力じゃのぅ」
貴音「!」
ブルードラゴン「どうやらそなたが本丸のようじゃな。遠慮なく潰させてもらうぞ!」ブンッ
…ガキィンッ!!
ブルードラゴン「……な!? また、魔法の壁だと……!?」
真美「んっふっふ〜♪ 真美の防御壁は、何者にもやぶれないのだー!」ドヤッ
ブルードラゴン「お主は……さっきの白魔道士! 何故ここに?」
リルマーダー「……おりゃっ!」ブンッ
真美「あっ……!」
パシュンッ…
リルマーダー「え? 消えた……?」
リルマーダー「もしかして……」チラ
やよい「うぅ……」
リルマーダー「とりゃっ!!」ブンッ
やよい「あぅ……」
パシュンッ
リルマーダー「やっぱりだ。この2人、分身だったんだ!」
魔人兵「なるほど。だから魔法を使わなかったのか」
響「はぁ、はぁ……」
響「さっきのレーザー、危なかったぞ……」
魔人兵「すごい反射神経だな。さすがはあいどるってとこか」
響「それより、今さら分身に気づいても、もう遅いぞ!」
響「あの青いドラゴンは、貴音たちが倒してくれるからな!」
魔人兵「………」
魔人兵「まあ、じいさんなら問題ないよな」
リルマーダー「うん。……それより、お前一人でオイラたちに勝てるのか?」
暗黒魔道士「……!」グッ
響「………」
響(全員倒すのは無理だけど……)
響(なんとか、凌いでみせるさー!)グッ
ブルードラゴン「……ふんぬ!」ブンッ
バキィン!!
真美「げっ、真美のウォールが……」
ブルードラゴン「ワシを見くびるでない。この程度の魔法壁、破るなど容易い」
ブルードラゴン「さあ、今度はこちらの番じゃ!」
やよい「……お母さん、おねがいしますっ!!」バッ
スゥゥー…
ミストドラゴン「……ミストブレス!」
シュオオオォォ…!
ブルードラゴン「! ……霧か!」
ブルードラゴン(聖属性の召喚魔法などワシに通用せぬが、これでは視界が……)
貴音「…………真美、やよい。ありがとうございました」
貴音「準備は、整いました!」
真美「お姫ちん!」
やよい「貴音さん!」
貴音「……時は来た」バッ
貴音「許されざる者達の頭上に、
星砕け降り注げ!」
貴音「……めてお!!」
ブルードラゴン「!」
……ヒュー …ヒュー
…ヒュー …ヒュー …ヒュー
ドゴゴゴゴゴゴゴゴオオン!!
響「……く……はぁ、はぁ……!」ジリッ
魔人兵「……まったく、しぶといな。3人がかりでこれほどまで手を焼くとはね……」
リルマーダー「でもあいつ、逃げてばっかだぞ!」
暗黒魔道士「………」
響「……それでいいんだ」
響「自分が持ちこたえれば、真美と、やよいと……」
響「……貴音が、きっとなんとかしてくれるからな!」
魔人兵「………」
魔人兵(……ずいぶん仲間を信頼しているんだな。やっぱり、これがあいどるの強さの秘訣……なのか)
タタタタ…
貴音「……響っ!」
真美「ひびきん!」
やよい「響さんっ!」
響「みんな……!」
貴音「さあ、皆で戦いましょう!」
やよい「はい! がんばりますっ!」グッ
真美「真美たちは、ピヨちゃんに会いにいかなきゃいけないかんね!」
ブルードラゴン「…………待て」
真美「うわ、しぶとい!」
貴音(最大の魔法、めておでも一発では倒せませんか……)
ブルードラゴン「……さっきのメテオはさすがに効いわ」
魔人兵「………」
魔人兵「そろそろ引き時だな」
リルマーダー「え? もう帰るのか!?」
暗黒魔道士「………」
魔人兵「元からそういう予定だったろ? コトリ様は、あいどるたちに挨拶してこいって言ってただけなんだから」
リルマーダー「まあ、確かにそうだけどよー」
ブルードラゴン「……そうじゃの」
ブルードラゴン(思わぬ収穫があった。あいどるには、ワシに幕を引くほどの力がある)
貴音「……逃げるのですか?」
魔人兵「そういうわけじゃないさ。君たちとは、必ず近いうちにまた戦う事になる」
魔人兵「地下渓谷で待ってる。そこで決着を着けよう」
魔人兵「………」クルッ
スタスタ…
やよい「……行っちゃいましたね」
貴音「できればこの場で決着を付けておきたかったのですが……」
真美「ひびきん、へーき?」
響「うん、なんとか……」
貴音(……小鳥嬢の親衛隊、ですか)
貴音(小鳥嬢の元へ辿り着く為には、避けては通れぬ道のようですね)
貴音(それに……)
貴音(わたくしは、まだまだ弱い……)
真「……うおおおおおっ!!」
ベヒーモス「うらあああああっ!!」
ドガアアァァン!!
ベヒーモス「ぐっ……!」ヨロッ
真「! ……チャンス!」
真「……はああぁぁああ!!」ゴオオ
真「覇王……翔吼拳ッ!!」バッ
ゴオオオオォォオオッ!!
ベヒーモス「なめんじゃ……」
ベヒーモス「ないよっ!!」ダッ
ドドドドッ!!
真「……げ! 真っ向から突っ込んで来た!?」
ベヒーモス「……うらぁ!!」
ドゴォッ!!
真「ぐあっ!!」
ドサッ
真「…………いてて……」スクッ
真「はは……なかなかやるね、君。まさか覇王翔吼拳をものともしないなんて」ニコッ
ベヒーモス「ふっ、あんたこそ、なかなかの技だったよ。アタイと互角に渡り合うなんておよそ人間とは思えないね!」ニヤリ
真「でも……ボク、負けないよ!」
ベヒーモス「ふん! それはアタイのセリフだ!」
月の女神「あ〜、ベヒーモスちゃんいいなぁ〜! 私もそのカッコいい人と戦いた〜い!」
千早「……待ちなさい。あなたの相手は、私よ!」チャキッ
月の女神「んー……。まあ、仕方ないか」
月の女神「それじゃあ、楽しもうね♪ 」チャキッ
月の女神「えいっ!」ブンッ
千早「……ふっ!」ガキィン
月の女神「あいどるの実力、見せてね?」ググッ
千早「くっ……!」ギリッ
千早(この子、見かけによらずすごい力……!)
千早「っ……!」タンッ
…スタッ
月の女神「……えへっ♪ 逃がさないよ?」ダッ
千早(力では敵いそうもない。ならば……)
千早(速さで、かき乱す!)
千早「……水平ジャンプ!」タンッ
ビュンッ…
月の女神「……わっ、速い!?」
月の女神「っとと!」ガキィン
千早「っ……!?」ググッ
千早(受け止められた……? 水平ジャンプの速度に反応するなんて……!)
千早(それなら、槍の間合いを利用するっ!)
…ザッ
月の女神「あっ……」
千早「はっ!」ビュッ
月の女神「ひゃっ!」ヒョイッ
月の女神「む〜、剣対槍じゃ、ちょっとこっちが不利かもね」
月の女神「うんっ♪ あなた、なかなかいいね! もっともっと楽しもう?」チャキッ
千早「……私は別に、楽しむつもりはないわ!」チャキッ
雪歩「えいっ! えいっ!」ザクザクッ
プリンプリンセス「うふふっ♪ 痛くも痒くもありませんわよ?」
雪歩「うぅ……効いてない……」
雪歩「それに、なんだかブヨブヨで気持ち悪いですぅ」
プリンプリンセス「今度はこちらの番ですわ!」
プリンプリンセス「さあ、私と一緒に踊りましょうっ♪ 」
プリンプリンセス「王女の歌!」
ラララ〜♪
雪歩「ひぃっ!?」ビクッ
プリンプリンセス「ラララ〜♪ 」
雪歩「っ……!」
雪歩「………」
雪歩「………………?」
プリンプリンセス「さあ、これでもうあなたは、自分の意思で身体を動かせない」
プリンプリンセス「生ける屍ですわよっ!」
プリンプリンセス「……って、あら?」
雪歩「あ、あの〜……私、なんともありませんけど……」
プリンプリンセス「そ、そんな馬鹿な!?」
プリンプリンセス「はっ!? あなた、その鎧まさか……」
雪歩「えっと……確か、『アダマンアーマー』っていう鎧だって、亜美ちゃんと真美ちゃんに教えてもらいましたぁ」
プリンプリンセス「」
雪歩「あ、あの、私、なんかダメだったんでしょうか……?」
プリンプリンセス「まさか、私の歌に対策をしているなんてっ……!」
プリンプリンセス「こうなったら、破れかぶれですわっ!」ダッ
雪歩「ひっ!?」ビクッ
雪歩「く、来るなら来いですぅ!」チャキッ
レッドドラゴン「うりゃっ!」ブンッ
ドゴオォン!!
あずさ「……うふふ、こっちですよ〜?」ヒョコッ
レッドドラゴン「……ンのやろっ!」ブンッ
ドカァン!!
あずさ「……残念、ハズレでした〜♪ 」ヒョコッ
レッドドラゴン「ちっ……! 逃げ回ってばっかでラチがあかねえ!」
レッドドラゴン「こうなったら……くらえ、熱線っ!!」コォォ
あずさ「あらあら……」
ズドドドドドドッ!!
レッドドラゴン「うっし! 手応えありだぜ!」
レッドドラゴン「加減してやったからまだ息はあるだろーがな」
レッドドラゴン「さあ、出てきやがれ!」
あずさ「……今のは、ちょっとびっくりしちゃったわ〜」ボロッ
レッドドラゴン「どうだ、思い知ったか! 身体半分吹っ飛ばしてやったぜっ!」
あずさ「ええ、すごかったですね〜」
あずさ「でも……」
ニョキニョキッ
あずさ「私、再生できるんみたいなんです〜」ニコニコ
レッドドラゴン「」
レッドドラゴン(あいどるって、人間じゃねぇのかよ……)
金竜「今まで我らは、千の人間を殺してきた……」
銀竜「我ら兄弟の姿を見て無事だった者は、いない!」
金竜「さあ、あいどるたちよ。念仏でも唱えるがいい!」
春香「せ、千人も……!」ゴクリ
亜美「んっふっふ〜♪ 」
亜美「亜美たちなんか、今まで一億万体の魔物を殺してきたんだもんね!」
春香「……えっ? そ、そうだっけ?」
亜美「亜美たちの姿を見て、今までブジだった魔物などいないのだー!」バーン!
金竜「なん…だと……?」
金竜「桁が、違いすぎる……!」ワナワナ
銀竜「……ま、待て兄者。ただのハッタリかもしれぬぞ? さすがに一億は数が多すぎる」
金竜「そ、そうか! 我らと同じく向こうもハッタリで相手の戦意を喪失させる作戦なのだな!」
金竜「ふはははは! 残念だったな! お前たちの策は破れたぞ!」ビシッ
銀竜「あ、兄者! ハッタリとバラしては作戦の意味がないぞ!」
春香「えっ? ハッタリだったの!?」
亜美(…………勝った!)グッ
金竜「……ええい! こうなったら実力で黙らせてくれるっ!」
金竜「行くぞ、銀竜!」
銀竜「おうっ!」
亜美「来るよ、はるるん!」
春香「うんっ! 私に任せて!」チャキッ
春香「たあああああ!」タタタタ
銀竜「一直線に向かってくるとは……愚かなり!」ビュンッ
春香「……わわわっ!」ズルッ
ドンガラガッシャーン!
銀竜「……え?」
ザシュッ!!
銀竜「ぐはぁ!!」
金竜「銀竜!?」
春香「痛たた……」
亜美「よしっ! ナイスドンガラ!」
春香「うぅ……カッコよく行こうと思ったのにぃ……」ムクッ
銀竜「な、なんだ今の太刀は……? 在らぬところから斬られたぞ……?」
金竜「恐ろしや、あいどる!」
春香「き、気を取り直して……」
春香「……天海春香、行きますッ!」チャキッ
亜美「よーし、亜美もやったるぜー!」
ガキィン! キィン!
ドゴオォン! ドカァン!
伊織「………」
伊織「……ちょっとプロデューサー。美希はともかく、なんでこの伊織ちゃんが控えなのよ!?」
美希「……zzz」
P「あ、いや……別に控えってわけじゃないんだけど、こちらの人数の方が多いからな」
P「暇なら、今からでも誰かの助太刀に行くか?」
伊織「イヤよ! 2人がかりなんてダサい真似、できるわけないでしょ!」
P「そ、そうか。まあ、今は力を温存しておいてくれよ。伊織も美希も、ウチの重要な戦力だからさ」
伊織「……ったく、仕方ないわね」
伊織「はぁ……美希の呑気さが羨ましいわよ」チラ
美希「……むにゃ……」
律子「……あの子たち、ちゃんと魔物と戦えているみたいですね」
P「みんなもそれだけ成長したって事だよ。戦いを覚えたアイドルっていうのもどうかと思うけど」
律子「ええ…………でも、腑に落ちないんですよね」
P「? ……どういう事だ?」
律子「あの魔物たち、小鳥さんの親衛隊だって言ってましたよね?」
P「ああ、言ってたけど……」
伊織「……もしかして、小鳥の差し金にしてはうまく行きすぎてるって事?」
律子「ええ。考えすぎなのかもしれないけど、まだ何か裏があるんじゃないかって思うのよ」
伊織「……まあ、貴音がどこかへ行ってしまったのも、あの野獣みたいな魔物が貴音を誘導した、とも取れるわよね」
P「……確かにそうだな」
律子「いずれにしても、これ以上バラバラに行動するのは、できるだけ避けたいわね」
キャラいすぎてよくわからなくなってきた
春香「……うわわわっ!」ダッ
ドゴオオン!!
銀竜「もらった!」
ビシュッ!!
春香「あぅっ!」
春香「……うぅ、痛たた」
金竜「逃げ足は一人前か。しかしそういつまでも逃げられるなどと思わない事だ」
春香「……よし、私、本気だす!」スッ
亜美「あ、はるるん、ひょっとしてそれは……」
春香「うん。ヤミちゃんのリボンだよ」キュッ
亜美「ほぅ、なんか変身っぽくていいねぇ」
春香(ヤミちゃん、力を貸して……!)
…パアアァァァァ!!
金竜「ぬ? なんだこの眩い光は……!」
銀竜「目が……!」
シュゥゥ…
春閣下「…………うふふ♪ 可愛がってあげるよっ♪ 」チャキッ
銀竜「あの娘、様子が変わったような……?」
金竜「よくはわからぬが、その程度で怯む我らではないっ!」
金竜「銀竜、行くぞ!」
銀竜「応っ!」
ビュウゥゥ…
亜美「来たよ! はるるん……じゃなくて、ヤミるんは金色の方をお願い! 亜美は銀色の方をやっつけるから!」
春閣下「……ちょっと、私に指図しないでよ。ガキのクセに」
亜美「えっ?」
春閣下「さて、と。今回はプロデューサーさんが見てる事だし……」チラ
P「春香……?」
春閣下「いいところ、見せなきゃねっ♪ 」チャキッ
春閣下「亜美、邪魔しないでよね!」
亜美「………」
亜美(……カンジ悪っ!)
金竜「ずええぇぇいっ!!」ブンッ
春閣下「ふん……」ヒョイッ
銀竜「馬鹿め! もらった!」ブンッ
バキィィ!!
春閣下「……ま、こんなもんだよね」ガシッ
春閣下「はっ!」ザシュッ
銀竜「ぐあ……!」
金竜「銀竜! ……貴様っ!」ブワッ
春閣下「無駄だよ!」ガキィン
金竜「ぬ……!」
金竜「く、この娘……!」
銀竜「先ほどとはまるで動きが違うぞ!」
亜美「ヤミるんつえ〜。これ、一人で倒しちゃうんじゃ……」
亜美(……あり? まさか亜美っていらない子?)
亜美「うあうあ〜! そんなんヤダよ〜!」
亜美「亜美だって、カツヤクするんだからぁ!」ダッ
タタタタ…
春閣下「……よーし、今度はこっちの番だよ!」チャキッ
春閣下「はあああぁぁああっ!!」
タタタタ…
銀竜「ええい、返り討ちにしてくれるっ!」
春閣下「たああぁぁーー!」
春閣下「……ぅわあああっ!?」ズルッ
ドンガラガッシャーン!!
銀竜「!」
銀竜「…………っ!」
銀竜「…………む? 攻撃が来ない……?」
銀竜「先ほどはあの妙な攻撃にやられたが、今度は不発だったか」
金竜「ぐはぁ!」
銀竜「あ、兄者ああっ!!」
春閣下「うぅ……こけちゃった……」
銀竜「おのれあいどる! 兄者の仇!」
銀竜「我が炎を食らえ……ブレイズ!!」
ゴオオオオォォオオ!!
春閣下「わわっ! ちょ、ちょっと待ってよ……」
亜美「ヤミるん、亜美にまかせて!」
亜美「ファイガ!」バッ
ゴオオオオォォオオ!!
銀竜「そのような魔法で我が炎に刃向かうとは、愚かな!」ググッ
亜美「んっふっふ〜……」ボッ
亜美「も一つオマケに、ファイガ!」ボッ
ゴオオオオォォオオ!!
亜美「アーンドもう一丁!」ボッ
ゴオオオオォォオオ!!
亜美「いっけーーーー!!」
銀竜「魔法を同時に三つだと!?」
銀竜「バカなぁっ!!」
ドッカアアアアァァン!!
春閣下(……へぇ、なかなかやるね、亜美)
春閣下(プロデューサーさんも見てる事だし、これは私も負けていられないね!)
春閣下「プロデューサーさん! 私、いいところ見せますからねっ!」チラ
美希「……うーん、ハニー……」ダキッ
P「こ、こら美希、今はみんなが戦ってるだろ。起きろ」ユサユサ
美希「……むにゃむにゃ……えへへ……」スリスリ
律子「まったく……マイペースにも程があるわね」
伊織「まあ、今は美希の出番はなさそうね」
春閣下「ちょっと、なによあれ!」
春閣下「なんでプロデューサーさんとイチャイチャしてんの、美希……!」ゴゴゴゴ
春閣下(……ああ、そっか。そうだったね)
春閣下(すっかり忘れてたよ。私が本当にやるべき事を)
春閣下(思い出させてくれてありがと、美希!)
金竜「ぬぅ……油断したわ」
金竜「あいどる……聞きしに勝る武勇よ!」
銀竜「しかし、我らも負けてはおれんっ!」
亜美「わ、もう復活しちゃったよ!」
亜美「ヤミるん、来るよ!」チラ
春閣下「美希……」
春閣下「プロデューサーさんは渡さないッ!!」ダッ
タタタタ…
亜美「え!? ちょ、ちょっとヤミるん、どこ行くのさーー!?」
金竜「行くぞ、銀竜!」
銀竜「応っ!」
ブワッ…
亜美「あああ、ま、待って! ちょっとタンマー!」
P「こら美希、起きなさい!」ユサユサ
美希「……んん……あと2時間 ……」ムニャムニャ
春閣下「……プロデューサーさん、そんな役立たずは放っておきましょうよ」
P「……えっ、春香?」
伊織「春香、あんた亜美と一緒に戦ってたんじゃないの?」
春閣下「どうでもいいよ、そんなの」
律子「どうでもいいって……ちょっと春香、あなた何言ってるの?」
伊織(! ……この言動……)
春閣下「……プロデューサーさんは、誰にも渡さないッ!」バッ
春閣下「……さあ、プロデューサーさん。行きましょう」
P「お、おい春香、どうしたんだよ? 行くってどこへ?」
春閣下「えへっ♪ 誰にも邪魔されないで二人っきりになれるところ、ですよ?」グイッ
P「ちょ、ちょっと待て、おい!」
タタタタ…
律子「こら、春香! 戻りなさい!」
伊織「あのバカ……!」
律子「ど、どうなってるの? 春香ってあんな事する子じゃなかったわよね……?」
伊織「律子は確か知らなかったわよね。あの春香は……春香であって春香じゃないのよ」
律子「? ……どういう事?」
伊織「話してる時間が惜しいわ。私が連れ戻して来る!」グッ
美希「……待って、でこちゃん」ギュッ
伊織「美希? あんた、いつの間に起きて……?」
美希「ミキが追いかけるの」
美希「ねえ、いいでしょ? 律子…さん」
律子「………」
律子(伊織の言う通り、考えているヒマはないわね)
律子「……わかったわ。プロデューサーと春香の事はあなたに任せる。でも、無茶はしないでね?」
美希「うん。ありがとうなの!」
タタタタ…
ガキィン! キィン!
…スタッ
月の女神「……ふぅ。強いね、あなた。ワクワクしちゃう♪ 」
千早(リーチでは私が有利だけど、あの子、腕力がすごくてこちらが押され気味……)
千早(何か、決め手が欲しいわね)
春閣下「あはははっ♪ 」タタタタ…
P「おい春香、戻れ! 今は戦闘中だぞ!」
春閣下「つれない事言わないでくださいよ、プロデューサーさん♪ 」
千早「え……?」
千早(あれは……春香? なぜプロデューサーを担いで走ってるのかしら)
美希「春香、待つの! ハニーを返して!」タタタタ…
千早「美希……」
千早(返してって……まさか)
千早(……今、春香は黒いリボンを着けていた)
月の女神「戦いの最中によそ見するなんて、ずいぶん余裕なんだね!」ブンッ
ドガァ!!
千早「きゃっ……!」ヨロッ
千早「……そ、そうだわ。今はよそ見をしている場合では……」チャキッ
千早(……黒いリボンを着けているという事は、今の春香はヤミさんが表に出てきている)
千早(ヤミさんは春香よりもずいぶんプロデューサーに固執していたようだった)
千早「……はっ!」ビュンッ
月の女神「……ほいっと!」ガキィン
月の女神「えいっ!」ブンッ
千早「くっ……!」ヒョイッ
…スタッ
千早(それに、こう言ってはなんだけど……)
千早(彼女は、春香と違って仲間意識がまるでないような発言を繰り返していた)
千早(春香とプロデューサーが心配だわ。私も2人を追いかけたい……)
律子「………」
律子(千早の動きが急に鈍くなった……)
律子(春香が心配なのね)
律子(……確かに、美希一人に任せるのは酷かもしれないわ)
律子(かと言って、私が追いかけるワケにはいかない)
律子(またバラバラになってしまうけど……仕方ないか)
月の女神「えいっ!」ブンッ
千早「くっ!」ガキィン
月の女神「……ねえ、あなた、最初よりも動きが鈍くなってない? 気のせいかなぁ」
千早「………」
千早(やはり相手にはわかってしまうものなのね……)
月の女神「もう、ちゃんと本気でやってくれなきゃ殺しちゃうよー?」
律子「……悪いけどあなたには千早は殺せないわ!」
月の女神「……え?」
千早「律子!」
律子「ここは私に任せて行きなさい。春香の事、気になってるんでしょう?」
千早「でも……」チラ
月の女神「ふーん、2対1って事かな? 楽しめれば別になんでもいいよ、私は」
律子「美希が追いかけて行ったけど、あの子一人じゃ不安だわ」
律子「千早。あなたが美希について行ってくれれば安心なんだけど」
千早「………」
千早「律子、ありがとう!」ダッ
タタタタ…
月の女神「あっ! 逃がさないよー!!」ブンッ
ガキィン!!
律子「ごめんなさいね。選手交代よ!」ググッ
月の女神「っ……!」ググッ
月の女神(この人……とっても強い!)
月の女神「いいよ……! たくさん遊ぼう!」ギラッ
タタタタ…
美希「春香……じゃなくて、なんだっけあの子。名前忘れちゃった」
美希「とにかく、ハニーは絶対に返してもらうの!」
美希(それに……)
美希(『あの』春香の分身みたいな子、ミキの勘だときっと……)
美希(でも、もしそうだとしたら、春香はどうなるの……?)
美希(春香の気持ちは……)
美希「……!」グッ
タタタタ…
千早「…………美希!」
美希「……千早さん!? どうして?」
千早「私も一緒に行くわ」
美希「ありがとうなの。千早さんがいればとっても心強いの!」
千早「2人がどっちの方角へ行ったかはわかる?」
美希「うん。ハニーの気を追いかければカンタンなの」
千早「それじゃ、道案内お願いね。……急ぎましょう!」
美希「りょーかいなの!」
タタタタ…
春閣下「ふぅ……。ここまで来ればもう大丈夫かな」
春閣下「プロデューサーさん、すみません。勝手にこんな事しちゃって」
P「……なあ、今の春香はいつもと少し違うんだよな?」
春閣下「あ、もしかしてみんなから聞きました? 私の事」
P「うん。リボンを付ける事で闇と合体するんだよな、確か」
P(本来なら、試練の山で闇とは決別しているはずだが……)
P(優しい春香の事だ。きっと闇を切り捨てる事ができなかったんだろうな)
春閣下「はい、そうです」
春閣下「……でも嬉しいなぁ。こうして『私』としてプロデューサーさんにお会いするのは、これが初めてですから♪ 」ニコッ
P「初めて……そうか。一応そうなるのか」
春閣下「『私』は、今まで長い間ずーっと『わたし』の中にいました」
春閣下「『わたし』の中で、『わたし』がプロデューサーさんと楽しそうにお話しているのを、指を咥えて見ている事しかできませんでした」
春閣下「私は、ずっとあなたとこうしてお話したかった。あなたと触れ合いたかった」
春閣下「……『わたし』じゃなくて、『私』として」
春閣下「プロデューサーさんに、『私』を見てもらいたかった」
春閣下「……でも、やっとチャンスが巡って来たんです!」
P「………」
春閣下「……ねえ、プロデューサーさん。私、あなたが大好きです」
P「は、春香……」
春閣下「プロデューサーさんは、私の事好きですか?」
P「……『君』の事はまだよく知らない。だから、答えられないよ。……ごめん」
春閣下「そんなの、これから知ってもらえばいい事です! 時間はたくさんあるんですから!」
P「いや、そんな時間は……」
美希「そんな時間はないの!」
千早「ヤミさん、やっと追いついたわ!」
P「美希、千早……!」
春閣下「……あーあ。もう邪魔が入っちゃいましたね」
春閣下「完璧に撒いたと思ったんだけどなー。よくここがわかったね?」
美希「そんなの、あなたには関係ないの」
春閣下「あはは、嫌われちゃってるんだね、私って」
春閣下「……それとも、『私』も『わたし』も両方嫌いなのかな? 美希は」
美希「……答える必要なんてないって思うな」
春閣下「ふふっ♪ ……まあ、私はどっちでもいいけどね。でも、『わたし』は、美希に嫌われてるとわかったら傷つくだろうなぁ」
春閣下「『わたし』は、美希の事も大好きだもんねー 」
美希「………」
美希「……そんな事より、早くみんなのところへ帰るの。ハニーも解放してあげて!」
春閣下「……いやだなぁ。はいそうですかって簡単に戻るわけないでしょ?」
春閣下「そんなの愚問ですよ、愚問!」
千早「今は遊んでいる場合ではないの。それはヤミさん、あなたもわかっているでしょう?」
千早「こうしている間もみんなが魔物たちと戦っている。早く私たちも戻らないと」
春閣下「……くどいよ。私は戻らない。ここでプロデューサーさんと2人っきりで過ごすんだもん!」
千早「……ヤミさん、あなたは春香の意思には逆らえないはず。春香がこんな事を許すはずがないわ」
春閣下「うん、そうだね。『私』は『わたし』には逆らえない。『わたし』がその気になれば、私はまた、深い深い意識の底に沈んじゃうだろうね」
春閣下「何もない、闇の底に」
P「………」
春閣下「ねえ、千早ちゃん、美希。なんで私がプロデューサーさんを連れて逃げたか、わかる?」
千早「それは……」
美希「ハニーの事、好きだから……なんでしょ?」
千早「……えっ?」
春閣下「………」
美希「ミキ、気づいてたよ。あなたはミキたちには全然キョーミない」
美希「あなたがキョーミあるのは、ハニーだけだって」
春閣下「……あはははっ♪ さっすが美希。こういう事は目ざといなぁ!」
千早「ヤミさん。あなた、始めからプロデューサーだけを狙っていたの……?」
春閣下「うん、そうだよ。私の目的は最初からたったひとつだけ」
春閣下「プロデューサーさんとずっと二人っきりで過ごす事。……ただそれだけなんだよ」
春閣下「やっと二人きりになれたんだもん……私、この瞬間をずっと待ってたんだもんっ……!」ギュッ
P「は、春香……」
美希「春香もハニーの事が好きだもんね。あなたが春香の分身なら、好きな人が同じでもまったく不思議じゃないの」
美希「でも、さっき千早さんが言った通り、あなたは春香に逆らえないはずでしょ?」
春閣下「……それは、あくまで『私』と『わたし』の意見が食い違った時の話」
春閣下「もし、今の『わたし』が『私』と同じ気持ちだったとしたら……?」
春閣下「プロデューサーさんとずっと一緒にいたい。……みんなを捨ててでも」
春閣下「そう、『わたし』も望んでいるとしたら?」
千早「そんなの、あり得ない!」
千早「確かに、春香がプロデューサーに恋心を抱いているのは知っているわ」
千早「でも、だからと言って春香がみんなを見捨てるなんて事は、絶対にない!」
春閣下「言い切るねー千早ちゃん。さすが親友ってとこかな?」
春閣下「……でもね、考えてみて。『わたし』だってアイドルである前にひとりの女の子なんだよ?」
春閣下「女の子にとって恋する気持ちがどれだけ大切か。……二人ならわかるんじゃないかな?」
春閣下「美希はあえて言うまでもないし、千早ちゃんだって、密かにプロデューサーさんに尊敬以上の想いを抱いてる事、私知ってるんだよ?」
千早「そ、それはっ……///」
春閣下「それでも私『たち』を連れ戻すつもりなら……」
春閣下「私『たち』の大切な想いを無視するっていうなら……ッ!」チャキッ
春閣下「……相手になるよ!」ゴゴゴゴ
千早「! ……すごい、殺気……!」
美希「春香……!」
P「やめろ! 味方同士で争う事ないだろ!?」
春閣下「ごめんなさい、プロデューサーさん。今は大人しくしていてくださいね?」スッ
…チュッ
…ボンッ!
P「!?」
千早「なっ……!?」
美希「ハニーに何をしたの!?」
春閣下「カエル状態を治すアイテムで『乙女のキッス』っていうものがあるんだけど、今のはそれの逆バージョン」
春閣下「あえて言うなら、『魔女のキッス』ってとこかな」
春閣下「まあ、二人に話してもわからないと思うけどね」
P「くそ……」
春閣下「プロデューサーさんにはべろちょろになってもらった。二人とも、これで心おきなく戦えるでしょ?」ニコッ
美希「……!」
千早「春香もプロデューサーも、返してもらうわ!」チャキッ
春閣下「ふふ、いいよ……」
春閣下「格の違いを見せつけてあげる!」
千早「……はっ!」タンッ
ビュンッ…!
春閣下「……おっと!」ガキィン
千早「……ふっ!」クルンッ
千早「……や!」バキッ
春閣下「きゃっ!?」ヨロッ
春閣下「っと……」
春閣下「ふうん、腕を上げたね、千早ちゃん。ファブール城で戦った時とは比べものにならないほどいい動きだよ」
千早「………」
春閣下「でもね、千早ちゃんは絶対に私『たち』には勝てない!」
シュンッ…
千早「!? ……き、消えた!?」
春閣下「……後ろだよっ!」
ドガッ!!
千早「ぐっ……ぅ……!」ヨロッ
美希「……千早さんを傷つけたら許さないの!」ギリッ
…ビュンッ!
春閣下「ふふっ♪ 」ヒョイッ
春閣下「見えてるよ、美希! 後ろからなんて卑怯だね」チラ
美希「………」
美希(予感はしてたけど、ミキの矢、よけられちゃった)
美希(やっぱりあの子、強い……。このままじゃミキ、千早さんの足手まといになっちゃうかも)
美希「………」
美希(……ううん、ハニーを取り戻すためにガンバらなきゃ!)グッ
千早「くっ!」ブンッ
春閣下「遅いよっ♪ 」ヒョイッ
春閣下「えいっ!」ブンッ
ドゴォ!!
千早「っ……!」ヨロッ
春閣下「確かに千早ちゃんは強くなった。でも、それは私『たち』も同じ」
春閣下「私『たち』の方が強い。……ううん、私『たち』の想いの方が強い。ただそれだけの事だよ」
春閣下「だから、悔しがる事なんてないんだよ!」ブンッ
美希「……ヘイスト!」
カタカタ…シャキーン!
千早「はっ!」タンッ
フワッ…
春閣下「くっ……逃げられた……」
美希「ケアルガ!」
シャララーン! キラキラキラ…
千早「……美希、助かったわ」
美希「あの子、強いの。2人で協力してやらなきゃ勝てないの」
千早「ええ。私が前に出るから、美希はサポートをお願い」
千早「必ず、春香とプロデューサーを取り戻しましょう」
美希「……うん、そうだね」
春閣下「そういえば美希は白魔道士だったね。……ちょっと厄介だなー」
P「春香、もうやめてくれ。今は仲間で争っている場合じゃないんだ!」
春閣下「……いいえ、それは無理です」
春閣下「これは、ある意味避けては通れない戦いですから」
P「避けては通れない戦い……? どういう意味だ?」
春閣下「私と美希、千早ちゃん。誰がプロデューサーさんに相応しいか。今、決着をつける時なんですよ」
P「な、何をバカな事を……」
春閣下「……さあ、美希。千早ちゃん。かかって来なよ!」
春香「………」
春香「……やめて」
春香「やめてよ、ヤミちゃん……!」
春香「なんで、こんな事……!」
『なんでって……そんなの決まってるでしょ? 私はプロデューサーさんが大好きだから』
『私とプロデューサーさんの邪魔をする存在は全部敵だもん。敵は排除する。そんなの当たり前の事じゃない』
春香「違う! 千早ちゃんも美希も敵なんかじゃないよ!」
春香「大切な……大切な仲間だよ!」
『……まったく。そんなだから「わたし」はいつまでたってもプロデューサーさんを手に入れられないんだよ?』
春香「え……?」
『「わたし」だって知ってるよね? 美希のプロデューサーさんに対する圧倒的なアピール』
『美希だけじゃない。あずささんや貴音さん、真美もきっとプロデューサーさんの事……』
『……ううん、たぶん765プロの全員がプロデューサーさんに対して少なからずそういう感情を持ってる』
『このままじゃプロデューサーさんを他の誰かに取られちゃうかもしれないんだよ? それでもいいの?』
春香「と、取られるって……私は、ただ……」
『ただ……何? 今のままの中途半端な距離で満足できるの?』
『恋愛と仲間ごっこが両立できるとでも思った?』
春香「な、仲間ごっこだなんて、そんな!」
春香「い、今はこんな事してる場合じゃないから……!」
『いずれ決着を着けなきゃいけないんだったら、いつやろうと変わらないよ』
『私は、自分の手でプロデューサーさんを手に入れる。後悔はしたくないから』
『ずっと、何もない意識の底で、プロデューサーさんに声をかける事すらできなかった「私」が……』
『やっと手にしたチャンスだから!』
『大丈夫。「私」がプロデューサーさんを手に入れるっていう事は、「わたし」もプロデューサーさんを手に入れるのと同じだから』
『私たちの想い、「私」が必ず叶えるから……見てて!』
春香「ま、待ってヤミちゃん! ……ヤミちゃん!」
春香「………」
春香「声が、しなくなっちゃった……」
春香(何もない意識の底……)
春香「『ここ』の事だよね、たぶん……」キョロキョロ
春香「………」
春香(……本当に何もない。何も見えない)
春香(暗いのか明るいのか、寒いのか暑いのかもわからない)
春香(ただ、わかる。見えないけど、ヤミちゃんが千早ちゃんや美希と戦っているのが、感じられる)
春香(前にヤミちゃんとここでお話した事があったよね、確か)
春香(そっか……)
春香(『ここ』は、私の意識の中なんだね……)
春香(この状況、どうにかしなきゃ)
春香(そのためには……考えるまでもない。ヤミちゃんを止めないと)
春香(でも……)
春香(ヤミちゃんは、ずっとこんなさみしいところにいたんだ)
春香(私には、プロデューサーさんやみんながいたけど、ヤミちゃんはずっとひとりぼっちだったんだ……)
春香(私の中の、闇)
春香(あの時私は、試練の山でヤミちゃんを切り捨てるべきだった……?)
春香(そうすれば、こんな事には……)
ーーいずれ決着を着けなきゃいけないんだったら、いつやろうと変わらないよ
ーー恋愛と仲間ごっこが両立できるとでも思った?
春香(……わからない)
春香(私は、どうすれば……)
春香(プロデューサーさん……)
金竜「はっ!」
ビシュッ!!
亜美「うわわっ!?」ヨロッ
銀竜「もらった!」ブワッ
バキィ!!
亜美「あぅっ!」
ドサッ
金竜「お前のパートナーはどこかへ消えてしまったみたいだな」
銀竜「だからといって手加減はせぬぞ」
亜美「うぬぅ……」
亜美(くそー、ヤミるんはどっか行っちゃったし、亜美だけ2対1とかおかしいっしょ……)
亜美(こんな時に真美がいれば、ふたりがけでドッカーンってやっつけられるのになぁ……)
亜美(……ううん、何があったんだか知んないけど、急にお姉ちゃんぶりだした真美なんかカンケーないもんね!)
亜美(こーなったら、亜美が一人で編み出したとっておきの技を使うしか……)
金竜「死ねえっ!」
ビュッ…
亜美「わあん! そんなヒマないっぽいよー!!」
伊織「……ムラサメ、亜美を護りなさい!!」ヒュッ
ガキィン!!
亜美「いおりん!?」
金竜「……新手か!」
銀竜「刀一本で我らの攻撃を防いだだと……?」
亜美(ムラサメって、確か……)
伊織「…………はっ!」
ビュッ…ザシュッ!!
ズドオォ…ン
伊織「……イマイチね。もっと速く刀を振れるようにならないと」
真「……それだけ速ければ十分だと思うけどなぁ」
伊織「真……」
真「こんなところでひとりで修行? 相変わらず伊織はみんなの見えないところで頑張るよね」
伊織「べ、別にそんなんじゃないわよ」
真「今のが、居合……だっけ。ボク、初めて見たよ! すごいな、あんなに大きい樹が真っ二つだ」
伊織「それ、嫌味? あんたはひとりで巨大砲を破壊したくせによく言うわ、まったく」
真「ま、まあ、ボクの力と伊織の力はまた方向性が違うし……」
真「でも、伊織のその居合もずいぶん板についてきた感じじゃない?」
伊織「まだまだよ。こんな程度じゃこの妖刀マサムネの力を完璧に引き出せたとは言えないわ」
真「……そっか」ニコッ
伊織「……で、何か用なの?」
真「ああ、そうそう。すっかり忘れてたんだけど、伊織に渡したいものがあってね」
真「……はい、これ。伊織が使いなよ」チャキッ
伊織「あら、刀じゃない。どうしたのよそれ」
真「巨人を操ってた魔物を倒したら、くれたんだ。きっとお前たちの役に立つだろうって」
真「確か、妖刀ムラサメって言ってたかな? 妖刀っていうぐらいだから、きっとすごい刀なんじゃないかな?」
伊織「ふーん……」チャキッ
伊織「………」スッ
真「おお! カッコいい! すっごく様になってるよ伊織!」
伊織「にひひっ♪ 当たり前でしょ! このスーパー忍者アイドル伊織ちゃんに扱えない刀なんてないわよっ♪ 」
伊織(……にしても、なんだか威圧感のない刀ねぇ。マサムネほどの迫力は感じないわ)
伊織(そんなに強い刀ってわけじゃないのかしら……?)
伊織(……ん?)
伊織「ねえ、真……」
真「どうしたの?」
伊織「この刀……刃が無いんだけど」
真「……え?」
ーーー
伊織(……こういう事だったのね)
伊織(刃を持たない刀。つまり、攻撃には向かない)
伊織(ムラサメは……守りの刀!)
銀竜「だが、我ら兄弟のコンビネーションに敵うかな?」
伊織「……亜美、前衛は私に任せなさい」チャキッ
亜美「………」
伊織「……亜美?」
亜美(どいつもこいつも強くなりやがってよぅ……)
亜美(でも、亜美だってトックンしたんだかんねっ!)
亜美(……コンビーフだかなんだかしんないけど、亜美はそんなもんに負けない!)
亜美(ふたりがけが使えなくても……ううん、真美がいなくてもちゃんと戦えるってこと、ショーメーしたる!)
亜美「いおりん、援護して!」
タタタタ…
伊織「ちょ、ちょっと亜美、待ちなさい!」
タタタタ…
月の女神「……えいっ!」ブンッ
律子「……ふっ!」
ガキィン!
月の女神「っ……!」ググッ
律子「……どうしたの? 千早と戦っていた時の余裕が見られないみたいだけど」ググッ
月の女神「……!」
律子「……はっ!」グイッ
月の女神「きゃあっ!」
ドサッ
律子「私を千早と同じに考えているのだとしたら、改めた方がいいわよ?」
律子「私は、千早のように甘くはないわ!」チャキッ
月の女神「………」
月の女神「…………ふふっ」
律子「?」
月の女神「あはははっ!」
月の女神「ワクワクするよ! 強いんだね、あいどるって!」
月の女神「もっと、もっと私に見せて。あなたの強さ!」チャキッ
律子(まだ力の差を認めてくれないのか……)
律子(プロデューサーや春香の事もあるし、早いところケリをつけないといけないわね)
律子「私たちにはやらなければならない事がある。あなたたちに構っている暇はないの」ゴゴゴ
ズズズ…!
月の女神「っ……!」ゾクッ
月の女神「な、何、これ……!?」
律子「悪いけど、少しだけ本気でいくわ!」チャキッ
律子「……暗黒剣ッ!!」バッ
ズゥゥゥ…ン…
ズババババババババッ!!!
ベヒーモス「この闘気は……!」
真「これは、律子の……」
真(すごい……。ボクと戦った時とは比べものにならないくらいに、強い暗黒剣……!)
真(へへっ……。ボクだって強くなったつもりだったんだけどなぁ)
真(さすがだよ、律子……)
ベヒーモス「……ちっ!」ダッ
ドドドド…
真「えっ? ちょっと、どこに行くんだよっ!?」ダッ
タタタタ…
ベヒーモス(あの暗黒騎士はヤバいね。……そろそろ引いておくか)
月の女神「っ……はぁっ、はぁ……!」ヨロッ
律子「分かってもらえたかしら? あなたは私には敵わない。大人しく引きなさい」
月の女神「そんなの、イヤだよ!」
月の女神「私は、あいどるになるんだもん! あいどるになって、たくさん歌を歌ったりして……」
月の女神「うっ……」ガクン
ベヒーモス「……っと」ダキッ
ベヒーモス「どうやらここまでみたいだね」
律子「……あら、やっと引いてくれるのね?」
ベヒーモス「ああ。あんたらの事は大体分かった。……次は負けないよ」
律子「次は……?」
ベヒーモス「コトリ様は月の地下に広がる渓谷の最下層にいる。……つまり、地下渓谷が決戦の地ってワケだ」
ベヒーモス「本当の決着は、そこで着けようじゃないか」
律子(……なるほどね)
ベヒーモス「野郎共! 一旦引くよ!!」
真「待て! 逃げるのか!!」
律子「いいわ、行かせましょう」
真「律子、でも!」
律子「忘れたの? こっちだって態勢を立て直さなきゃいけないのは同じなのよ」
律子「貴音たちとも合流しなければならないし、プロデューサーや春香たちの事もある」
真「……そうだったね、ごめん」
ーーー
あずさ「……ケアルガ!」
シャララーン! キラキラキラ…
真「ふぅ……あずささん、ありがとうございます」
あずさ「いいえ〜」
雪歩「なんとか、追い払いましたね……」
真「でも、春香とプロデューサーを追いかけて美希と千早が……」
伊織「貴音たちともはぐれたままだしね……」
亜美「………」
真「……亜美、どうかしたの?」
亜美「う、ううん、別に」
真「そう? 何かあったら言いなよ?」
亜美「うん、ありがとね、まこちん」
亜美(あの魔物たち、兄弟っていうだけあって息ぴったしだったなー……)
亜美(兄弟かぁ……)
亜美(……ふん。真美とはケンカ中だもんね。それに、真美がいなくてもいおりんと亜美でどうにかなったし!)
亜美(………)
あずさ「律子さん、これからどうしますか?」
律子「そうですね……」
律子「私たちだけでも、このまま本来の目的地へ向かいましょう」
真「えっ? でも……」
伊織「はぐれた他のみんなはどうする つもりよ?」
律子「大切なのは、体制を立て直す事よ」
律子「他のみんなを探すにしても、月に詳しい貴音がいない状態で下手に動くのは危険だわ」
律子「かと言って魔導船に戻るわけにはいかないし……」
律子「だったら、このまま予定通り進むのがベストだと思ったの」
あずさ「そうですね。迷子になってしまっても大変ですからね〜」
真「……わかった、律子の言う通りにするよ」
律子「ありがとう」
律子「ところで雪歩、確か真美にに連絡手段を渡したって言ってたわよね?」
雪歩「あ、はい。ちょっと待っててくださいね」
雪歩「ええと……みんな、聞こえるかなっ!?」
伊織「ゆ、雪歩?」
真美「ケアルガ!」
シャララーン! キラキラキラ…
真美「……はい、これでよし!」
真美「どんなケガでも真美にお任せだよ!」
女の子「ありがとう、マミちゃん!」
男の子「……あ、ありがとな」
真美「んっふっふ〜♪ このくらいお安いゴヨーだよ〜」
やよい「2人とも、おかゆ作ったから、ちゃんと食べてね?」
女の子「わあ、ご飯まで用意してもらえるなんて!」
男の子「ふーん。お前、気がきくんだな」
やよい「えへへっ♪ つらくても、ごはんをいっぱい食べればきっと元気が出るよ!」ニコッ
男の子「お、おう……///」
貴音「すみません、二人とも。助けに来るのが遅くなってしまって」
女の子「そ、そんな! 私はタカネちゃんにまた会えて嬉しかったよ!」
男の子「そうだよ! タカネ、ちゃんと約束を守ってくれたしな!」
貴音「そう言って頂けるとこちらも嬉しいですね」ニコッ
男の子「へへっ」
女の子「ふふっ♪ 」
貴音「この屋敷……ずっと二人で護っていたのですね……」
男の子「ああ。もうここにはいないけど、ここはバハムート様のお屋敷だからな」
女の子「うん。私たちとバハムート様の思い出がたくさんつまってるお屋敷だから」
貴音「二人とも……」
響「ホントいい子たちだなー……」ジーン
やよい「子どもだけで生活してるなんて、えらいです!」
真美「でも、バハムートがいないのはイタいよねー。せっかくの最強の召喚獣なのに……」
響「最強の召喚獣? もしかして、黒井社長や高木社長よりも強いのか?」
やよい「でも、高木社長も黒井社長も、ばばーん!! ってかんじですっごく強かったよ?」
真美「んー、まぁそりゃ社長も黒ぴょんも強いけど」
真美「バハムートの一番の強みは、『強い上に属性がない』ってとこなんだよ」
やよい「ぞくせいがない?」
真美「そ。魔物の中には、火とか雷とか、属性のある攻撃を吸収しちゃうヤツがいるんだよー」
真美「そーゆー魔物と戦う時は、無属性の攻撃じゃないとダメージを与えらんないから、属性のない召喚獣ってキチョーなんだよね」
やよい「うー……火もかみなりもだめで、ぞくせいがないこうげきが……???」
響「やよい、大丈夫か?」
やよい「す、すみません、わたし、頭がこんがらがっちゃって……」
響(かわいい)
響「でもさ、真美。属性を吸収しちゃう魔物なんてそうそういないんでしょ?」
真美「うん。数えるくらいしかいないよ」
響「だったらなんくるないさー! やよいだってすごく強くなったもんな!」
やよい「はい! がんばります!」
真美(真美のキオクが正しければ、さっき戦った青いドラゴン……)
真美(あいつが確か全属性吸収だった気がするんだよね)
真美(あいつらとはまた戦う事になるって言ってたから、あの青いドラゴンと出会ったら気をつけないとだね)
真美(……あ、そういや無属性の召喚獣っていえば、あまとうたちと社長がいたじゃんね。すっかり忘れてたよ)
真美(あまとうたちにもこの先ガンバってもらわないとだねー)
女の子「………」
貴音「伝えなければいけない事……。はて、何でしょうか」
男の子「さっき襲ってきた魔物が言ってたんだ」
男の子「…………バハムート様が、闇に堕ちたって」
貴音「!!」
貴音(ばはむーと殿が……闇に堕ちた……?)
貴音「つまり、どういう事なのですか!?」
男の子「ど、どういう事も何も、言葉の通りだよ。バハムート様は、コトリの手下になったらしいんだ」
貴音(小鳥嬢の手下に……つまり、わたくしたちの敵となった……?)
女の子「ごめんね、タカネちゃん。こんな事になって、私たちもなんて言えばいいか……」
貴音(……いえ、わたくしの思慮が浅はかだっただけで、今思えばこの可能性もあり得たはずなのですね)
貴音(……最悪の可能性ではありますが)
貴音(ばはむーと殿が生きていらっしゃった事は嬉しいですが……)
貴音(ばはむーと殿がわたくしたちの目の前に立ちはだかった時、わたくしは、ばはむーと殿と戦えるのでしょうか……)
男の子「……タカネ、タカネ!」
貴音「っ……は、はい」
貴音「すみません、少し動揺してしまって……」
女の子「……タカネちゃんは、悪くないよ」
男の子「バハムート様は……強い」
貴音「……そう、でしょうね」
女の子「……でも、バハムート様を越えなければ世界が救われないなら……」
貴音(ばはむーと殿を越えなければ、世界は救われない……)
貴音「ならば……戦いは、避けられない」
男の子「うん、その通りだ。きっとバハムート様も、世界が救われる事を望んでる」
貴音「………」
女の子「……タカネちゃん」
女の子「もし、タカネちゃんがバハムート様と戦う意志があるなら……」
貴音「……あるなら?」
男の子「オレたち、タカネの力になりたいんだ」
貴音「……どういう、事です?」
『……みんな、聞こえるかな!?』
響「あれ、今、声が……」
やよい「今のって、雪歩さんの声ですよね?」
真美「あーゴメン、忘れてた。真美、ひそひ草持ってきたんだったよ」スッ
やよい「ひそひそー?」
響「あー、その草かー! 懐かしいなー」
やよい「マミ、どういうこと?」
真美「えーっと、つまり……」
『私たちはこれから、丘の上にある神殿を目指しますぅ』
『真美ちゃんたちも落ち着いたら来てくださいね。そこで落ち合いましょう』
真美「……ってゆー事なんだよ」
響「この草は不思議な草なんだ。遠く離れた雪歩の声を、この草に届けてくれるんだぞ!」
やよい「わあ、すごいですねー! はなれていてもお話ができるなんて!」
やよい「えーっと、しんでんってあそこに行けばいいんですよねっ!」スッ
真美「そだね! さあ、ついにラスダンだよ。みんな、しまってこー!」
やよい・響「おー!!」
響「じゃ、そろそろ行くか?」
真美「そだね。あんましここに長居しても、りっちゃんたちを待たせちゃうかもしんないし」
やよい「貴音さんにも声をかけましょう!」
響「うん!」
響「おーい、貴音ー! そろそろ出発するぞー!」
貴音「すみません、皆は先に向かってください」
響「え? なんで?」
貴音「少し、用事が出来ました」
やよい「用事ってなんですか?」
貴音「………」
貴音「わがままを言って申し訳ないと思っています。しかし、今やらねばならない事なのです」
真美「お姫ちん……?」
貴音「さあ、響、やよい、真美。行ってください」
響「………」
響「わかった。行こう、みんな」
真美「……なんだかわかんないけど、あんましムチャしたらダメだよ?」
貴音「ええ」ニコッ
やよい「わたしたち、待ってますからね?」
貴音「はい、必ず追いつきます」
男の子「……行ったな」
貴音「……そうですね」
女の子「タカネちゃん、心の準備はいい?」
貴音「はい。……ばはむーと殿を越えねば小鳥嬢と会えないというのなら……」
貴音「わたくしは、必ず越えてみせます……!」
男の子「……よし」
女の子「私たちの想いも、タカネちゃんに託すよ!」
男の子・女の子「はああぁぁぁぁああああ!!」ゴゴゴゴ
貴音「! ……これは……まさか……!」
余談……というか補足ですが、マサムネはアイテムとして使うとヘイスト、ムラサメはプロテスの効果があるそうです
ベヒーモス「……帰ったよ、コトリ様!」
小鳥「お帰りなさーい♪ みんな、お疲れ様ー」
リルマーダー「オイラは疲れてねーけどな!」
小鳥「あら、元気ねぇ」
小鳥「それよりどうだった? あの子たちは」
リルマーダー「うーん、逃げてばっかりでまともに戦えなかったなー」
魔人兵「なんていうか、すごく速かったですね」
暗黒魔道士「………」コクコク
プリンプリンセス「無念にも、わたくしの歌が通用しませんでしたわ……」シュン
金竜「在らぬ所から斬撃が飛んでくるのだ」
銀竜「それに、魔法を同時に複数撃つ者もいたぞ」
レッドドラゴン「オレが闘り合ったヤツなんて、ゾンビだったぜ……」
ブルードラゴン「中には少し骨のある者もおるようじゃったの」
月の女神「……強かった。あんなに強い人、私、今まで見た事なかった」
ベヒーモス「ああ……強かったね」
小鳥「良かったぁ。ファーストコンタクトは上々ってとこかしらねー」
小鳥「それじゃ、みんなは時間まで少し休んでいてね。あの子たちが来るまでにはもう少しかかりそうだし」
魔物たち「はーい!!!」
ゾロゾロ…
小鳥「……さて、私もみんなに挨拶して来ようかな」
ダークバハムート「コトリよ。挨拶と言っても、そなたはこの中心核に封印されている身。一体どのようにしてあいどるたちに会いに行くと言うのだ?」
クルーヤ「……もしかして、精神波ですか?」
小鳥「まあ、その応用ですね。この月の範囲内くらいなら、実体を持った念を飛ばす事もできそうなので」
ダークバハムート「なるほど、この月はそなたの庭も同然という事か」
クルーヤ「ホント便利な身体ですねー」
小鳥「実際に試すのは初めてなんですけどねー」
小鳥「………」ゴゴゴ
小鳥「一本でも人参……二足でもサンダル……」
小鳥「……三艘でも、ピヨット!!」カッ
ジュワッ…
モクモク…
??「……うふ♪ 成功ですね〜」
ダークバハムート「ほう……」
クルーヤ「本当に分身した……。すごいなぁ」
小鳥「まあ、ラスボスですからね」
小鳥「うーん、そうね。あなたの名前は……『コトリマインド』にしましょう♪ 」
コトリマインド「わあ、我ながらセンスある名前ね〜。あ、だったらもう一体分身を作ってコトリブレスとか……」
小鳥「そうしたいのはやまやまなんだけど、尺の問題もあるのよね〜」
コトリマインド「それじゃ仕方ないわねぇ。ちょっと残念だけど」
ダークバハムート「姿形だけでなく、中身もコトリそのままのようだな」
クルーヤ「うーん、そうみたいだね」
クルーヤ「……ところでコトリさん、これって詠唱の必要ありました?」
小鳥「あ、えーと……少しでも雰囲気を出そうかなーって……」
クルーヤ「やっぱり適当だったんですね……」
スタスタ…
真美「……けっきょく、バハムートの家からここまでの道すがら、魔物と戦いまくりんぐなんですケド……」
真美「うえー、早くどっかで休みたいよー」
やよい「真美、あと少しだからがんばろ?」
真美「やよいっち……」
やよい「はい、わたしのぽーしょん分けてあげるよ」スッ
真美「かたじけない……」ゴクゴク
真美「……ふー」
真美「……ねえやよいっち。前から聞きたかった事があるんだけどさ」
やよい「どうしたの? あらたまって」
真美「んーとね……ズバリ、究極の姉とは何?」
やよい「きゅうきょくの姉……?」
真美「うん。真美は究極でスーパーなお姉ちゃんを目指しているのだよ」エッヘン
真美「そんで、ウチで一番のお姉ちゃんといえばやよいっちでしょ? だから、真美もやよいっちにあやかりたいなーと」
やよい「そんな、わたしなんて全然だよー」
やよい「それに、お姉ちゃんって言ったら千早さんとかあずささんとか……あと、貴音さんにも妹さんがいるらしいし」
真美「いやー、千早お姉ちゃんはなんかスパルタっぽいし、あずさお姉ちゃんは天然さんだし……」
真美「お姫ちんにいたっては、学んでも実践できなそうだし……」
真美「やよいっちはさ、兄弟をまとめる上で気をつけてる事とかある?」
やよい「気をつけてること……うーん……」
やよい「……うーんと、えーっと……」
やよい「……うー……」
真美「ご、ゴメンね? そんなシンケンに悩まないでよー。コーガクのタメにって程度だから」
真美「例えばさ、妹たちが悪いコトしたらちゃんとしかるとかさ?」
やよい「んー、悪いことはしかるのは大切だけど、あんまりやりすぎるのもよくないかなーって」
やよい「それよりも大切なのは、みんなで仲良くハッピーな気持ちでいれるってことだとわたしは思う」
真美「なるほど、みんなでハッピーかぁ。やよいっちらしいねー」
やよい「ちゃーんと愛を持って向き合えば、亜美も分かってくれるよ、きっと」
真美「へ?」
やよい「ケンカ、してるんでしょ? 亜美と。あんまり長引かせないで、すぐに仲直りしないとね」
真美「むー、ケンカっていうか……まあ、ケンカなのかな。やよいっちにはバレバレだったのね」
真美「……うん、ありがとね、やよいっち。真美、ちゃんと愛を持って亜美と向き合うよ」
やよい「うん!」ニコッ
真美「ところで……」チラ
響「………」
真美「なーに一人でしんみりしてんの!」ダキッ
響「うひゃあっ!?」ビクッ
真美「いつまでお姫ちんのこと考えてんのさ、ひびきん」
真美「お姫ちんラヴなのは分かるけど、あんましお姫ちんのことばっか考えてるとそのうちお姫ちんになっちゃうよ?」
響「えっ……? そ、そんなワケないでしょ!」
響「……まあ、貴音の事を考えてたのは確かなんだけどなー」
真美「あ、やっぱり」
響「貴音は今、どんな気持ちなのかなって」
真美「お姫ちんの気持ち?」
やよい「ばはむーとさん……でしたよね。貴音さんのおともだちで、敵さんになっちゃったって……」
響「うん……」
響「ここのところ貴音の様子がおかしかったのは、もしかしたらそのバハムートってヤツが関係してるのかもって思ってさ」
真美「おやおやぁ? ひびきんひょっとしてヤキモチですかな?」
響「ち、違うぞ! 自分はただ、貴音がそこまで気にかけるってどんなヤツなのか気になって!」
やよい「もう、真美! からかっちゃダメだよ?」
真美「あはは、ごめんね」
真美「んでも、友達と戦うかぁ……。お姫ちんもつらいよね……」
響「大丈夫、貴音ならきっと何だって乗り越えられるさー。だって、貴音はすっごく強いもん」
やよい「そうです! 貴音さんはとってもたよりになります!」
真美「うん。お姫ちんに関しては心配いらないっしょ」
真美(っていうか、今ですら素でメテオとか使われてて真美たちの立場がないのに、これ以上強くなられたら真美たちの出番が……うーん)
響「……でもさ、よく考えたら自分たちも友達と戦う事になるんだよね」
やよい「……えっ?」
響「ほら、プロデューサーが言ってたでしょ? ピヨ子を倒さないと元の世界に帰れないって」
やよい「そ、そうなんですか!?」ガーン
やよい「わたし、小鳥さんに会ったらこのゲームは終わりなんだとばっかり思ってましたー」
真美「やよいっち、やっぱりちゃんと分かってなかったんだね」
やよい「……あの、わたしたち、小鳥さんとたたかわないとダメなんですか……?」
響「……分からない」
やよい「……う?」
響「自分も正直まだよく分からないんだ。ピヨ子の考えも、どんな顔でピヨ子に会えばいいのかも」
響「ピヨ子の事だから、いつもの悪ふざけみたいなノリなのかもしれないし、でも、もしかしたら……」
真美「………」
やよい「………」
響「……って、なんだか暗くなっちゃったな。こんな顔してたら、律子たちが心配しちゃうかも」
やよい「うー、わたし、みなさんに心配かけちゃうのはいやです」
真美「だいじょーぶ、きっとなんとかなるよ!」
真美「ほら、よく言うっしょ? 信じる者は足元すくわれるって!」
響「いや、それ、信じる意味がないんじゃ……」
真美「とにかく、元気出して行こうよって事!」
響「うん……そうだな。ここで悩んでても答えは出そうにないし……」
響「よーし、じゃあ景気付けに、誰が一番にあの館までたどり着けるか競争だ!」ビシッ
やよい「うっうー! 負けませんよっ!」ピョン
真美「ちょ、ちょっと待った! ひびきんとやよいっちに勝てるわけないじゃんかー!」
響「行っくぞー!」ダッ
タタタタ…
やよい「真美、おいて行っちゃうよ!」ダッ
タタタタ…
真美「うわーん! 待ってよー!」
タタタタ…
真美(……ホントのホントにもうすぐピヨちゃんと戦うんだよね、真美たち)
真美(どんな顔で会えばいいのか、かぁ……)
真美(いつも通り楽しくってカンジにはいかないのかな)
真美(真美、暗いのはやだなー)
律子「……着いたわね。ここでいいのよね、亜美?」
亜美「うん。確かこの建物の奥にクリスタルルームがあって、そこから月の地下にワープするんだよー」
雪歩(月の地下、かぁ……)
真「へえ、月にもクリスタルがあるんだね」
律子「……ちょっと待って。まさかここへ来てまたクリスタルを集めなきゃいけないなんて事はないわよね?」
亜美「へーきだよ。ゲームでは月のクリスタルは最初からそろってたから集める必要なんてなかったよ?」
律子「そう……ならいいんだけど」
あずさ「ようやく小鳥さんに会えるのね〜」
伊織「そう簡単にはいかないわよ。その前に親衛隊とかいうヤツらが待ち伏せしてるって言ってたじゃない」
真「ボクらの邪魔をするっていうなら、倒して進むだけさ!」
雪歩「……あの、律子さん。とりあえず中へ入りませんか?」
律子「そうね。こうして入口でたむろしているわけにもいかないし」
律子「それじゃ、ちょっと声をかけてみましょうか」
律子「こんにちはーー! 誰かいますかーー!!」
シーーン…
真「……返事がないね。留守なのかな?」
伊織「魔物たちにやられちゃったのかもしれないわね」
亜美「ハミングウェイの洞窟にも誰もいなかったし、もう月には人はいないのかなぁ……」
伊織「わからないけど、その可能性もあり得るわ」
あずさ「ん〜……」
あずさ「月の魔物さんたちには、小鳥さんが指示を出しているのよね?」
伊織「おそらくそうだろうけど、それがどうかしたの?」
あずさ「私、小鳥さんがそんなひどい事するとは思えないのよねぇ」
伊織「あずさ……」
あずさ「小鳥さんは誰かを殺したりするような人じゃない。それは伊織ちゃんも分かっているでしょう?」
伊織「……アンタ、自分が一回死んだ事忘れたの? あれはあのアホ事務員が律子を操ってやった事なのよ!?」ガシッ
真「ちょっと伊織……!」
律子「伊織……」
あずさ「……いいえ、伊織ちゃん」スッ
あずさ「あの時はね、律子さんを止めるために私がプロデューサーさんの忠告を無視してメテオを使ってしまったから……」
あずさ「正確には小鳥さんのせいじゃないのよ」
伊織「でも、その遠因を作ったのは小鳥でしょ!? 私、許せないわ!」
亜美「いおりん……」
真「まあまあ、少し落ち着こうよ」
雪歩「そ、そうだよ。とりあえず一息ついた方がいいと思いますぅ」
伊織「………」
律子「……止むを得ないわね。勝手に入らせてもらいましょう」
…ギィ
律子「………」キョロキョロ
律子「……静かね。やっぱり誰もいないのかしら」
亜美「んじゃ、みんなが来るまで休ませてもらおーよ」
真「!」
真「……待って。多分、誰かがいる」
律子「えっ?」
亜美「マジで?」
真「正確にはわからないけど、なんとなく気配がするんだ」
あずさ「やっぱり、月の民さんは生きているのよ〜」
伊織「分からないわよ。魔物かもしれないじゃない」
律子「どちらにしても、油断しない方がいいわね」
スタスタ…
ガチャ…
律子「ここは……」キョロキョロ
律子「図書室かしら。本棚がたくさんあるわ」
あずさ「本当ですねぇ」
あずさ「あら……?」スッ
あずさ「これは……魔法の本ね」ペラペラ
あずさ「ファイアやブリザドにサンダー……あっちには白魔法の本もありますねぇ」
雪歩「………」ペラッ
雪歩「……こっちには、月の事、地球の事について書いてある本がたくさんありますぅ」
律子「……ふむ。何か情報を得るにはここは使えるかもね」
真「マンガとかは……あるわけないか」
伊織「アンタね……そんなの当たり前じゃない」
亜美「本とかはいいから、亜美は休みたいよー」
律子「……よし、それじゃここでみんなを待たせてもらいましょう」
ガタッ!
月の民「……魔物め! 成敗してくれるッス!」ブンッ
雪歩「ひっ!?」ビクッ
真「……はっ!」ガシッ
月の民「は……速い……!?」
真「……あれ、人間……?」
月の民「え……魔物じゃない……?」
律子「……すみません、勝手にお邪魔してしまって」
月の民「いやぁ、こっちこそいきなり襲いかかってごめんなさいッス。自分、てっきりまた魔物かと……」
月の民「それで、あんたたちはいったい……?」
真「ボクたち、地球からやって来たんです」
月の民「ちきゅう? ……あ、もしかして青き星の事ッスか?」
月の民「あれ……? って事はもしかしてあんたたち、タカネ様の……」
亜美「亜美たちはお姫ちんの友達だよん」
月の民「おひめちん?」
律子「話がややこしくなるから亜美は少し黙ってて」
亜美「ぶー」
律子「私たちは貴音の友人で、魔導船で地球……じゃなかった、青き星から貴音と共に来たんです」
月の民「おお、そうだったんスね! ついにタカネ様が戻って来た! これで勝てるッス!」
月の民「それで、タカネ様はどこに?」
律子「それが、魔物と戦っている時にはぐれてしまって……」
律子「でも、ここを待ち合わせ場所にしているので、貴音もそのうちここへやって来ると思います」
月の民「そうッスか……」
月の民「っと、そうだ、申し遅れたッス。自分は月の民。この館でタカネ様に仕えている者ッス。よろしくッス!」ペコリ
律子「秋月律子です。よろしく」
月の民「ここは元々タカネ様の館なので、あんたたちの好きに使ってもらって構わないッス。光の戦士たちに協力するのは我々月の民の使命でもあるッスから」
律子「光の戦士……?」
月の民「世界が闇に侵された時、清らかな心を持つ、光に導かれた戦士たちが闇を晴らすだろう……」
月の民「この月に伝わる伝承ッス」
月の民「あんたたちは、光に選ばれし戦士たちなんス。タカネ様の友達なら間違いないッス!」
真「光の戦士かぁ……それっぽくなってきたなぁ」
月の民「あんたたちは、コトリを倒しに地下渓谷へ行くんスよね?」
律子「えっ? いや、まあ……」
伊織「……そうよ。私たちは、小鳥を倒しに行くつもり」
律子「伊織……」
月の民「この世界の事、どうかよろしくお願いするッス!」ペコリ
亜美「うー、ミキミキじゃないけど、ちょっとつかれたかも〜」グデー
雪歩「律子さん、みんなが集まるまでは休んでいてもいいですよね?」
律子「そうね。何か行動を起こすにしても、みんな揃ってからの方がいいわね」
雪歩「亜美ちゃん、少し寝てなよ。私、後で起こしてあげるから」
亜美「ホント? 助かるよ〜……」ムニャムニャ
律子「みんな、少し休みましょ。幸いここにはベッドもあるみたいだし、自由に使っていいって言われてるしね」
真「ボクはいいよ。そんなに疲れてるってわけじゃないし」
律子「ダメよ。ちゃんと休みなさい。これから最後の戦いが控えているんだから。真、あなたはウチのエースなのよ?」
真「……ちぇ、ボクに勝ったクセに、エースだなんて言ってくれるなぁ」
律子「まったく……まだファブール城での事を根に持ってたのね。あの時は結局うやむやになったでしょう? だからノーカンよ」
真「ボクとしては納得いかないんだけど……分かったよ、律子の言う通り、ちゃんと休むよ」
律子「分かればよろしい」
律子「……さてと」スクッ
伊織「律子。アンタは休まないの?」
律子「ええ、ちょっとね」
雪歩「………」ペラッ
雪歩「………」ペラッ
雪歩「……ふぅ」パタン
真「雪歩、何か面白い事でも書いてあった?」
雪歩「真ちゃん……」
雪歩「うん。小鳥さんについて少しだけ分かったかも」
雪歩「小鳥さんは月の民の一人で、大昔にすっごい悪い事をしちゃったっていう設定みたい」
雪歩「それで、今は他の月の民さんたちの力で月の地下深いところに封印されてるんだって」
真「そっか……だからボクたちに会いに来れないのかな」
雪歩「うん。小鳥さんはきっと、地下から動けないんじゃないかな」
真「……ま、どのみちボクたちから会いに行くから、問題はないけどね」
雪歩「……ねえ、真ちゃん?」
真「ん? なに?」
雪歩「私たち、あと少しで元の世界に帰れるんだよね?」
真「雪歩……」
真「もちろんだよ。みんな揃って小鳥さんに会いに行って、ゲームをクリアして終わりだ」
真「少しさみしい気もするけど、早く帰ってアイドル活動再開しないとね」
雪歩「そう……だよね。何も心配する事はないんだよね」
真「……さ、雪歩も少し休みなよ」
雪歩「うん……」
雪歩(……さっきの伊織ちゃんの言葉)
雪歩(方便かもしれないけど、伊織ちゃんは『小鳥さんを倒す』ってはっきりと言った)
雪歩(私たちは、どうすれば元の世界へ帰れるのかをプロデューサーから聞いてるけど……)
雪歩(やっぱり元の世界へ帰るためには、小鳥さんと戦わなくちゃならないのかな……)
あずさ「………」ペラッ
あずさ「………」ペラッ
あずさ(……う〜ん、メテオって思ったよりもすごい魔法だったのね〜)
あずさ(やっぱり、あの時の私に使いこなすのは早かったのかしら〜)
あずさ(……でも、きっと小鳥さんは……)
伊織「……あずさ」
あずさ「伊織ちゃん? どうしたの? 律子さんの言う通り休める時に休んだ方が……」
伊織「私、やっぱり納得いかないわ」
あずさ「納得いかないって……もしかして、さっきの話かしら?」
伊織「ええ。……小鳥が直接手を下していないにしろ、あずさ、アンタが命を落とした事に小鳥が関係しているのは確かよ」
伊織「それについて、アンタはいったいどう考えているの?」
あずさ「……そうね……」パタン
あずさ「私も、少しは物語に貢献できたかなって」
伊織「……どういう事?」
あずさ「ほら、私ってかなり鈍臭いでしょう? でも、あの時は私なりに真剣にやったつもりなのよ」
あずさ「だから、私でもちゃんと役を演じられたかなって」
あずさ「うふふ、まさか死んでしまうとは思わなかったんだけど……」
伊織「役ってアンタ……」
あずさ「小鳥さんも、ちゃんと自分に与えられた役を演じているわ」
あずさ「だから、小鳥さんの為に、私もできる事は頑張るつもりよ?」
伊織「………」
伊織「アンタは……それでいいの?」
あずさ「……ええ。私は、こうしてみんなでいられれば幸せだから」
あずさ「伊織ちゃん、私の事を考えてくれてありがとう」ニコッ
伊織「……アンタの為じゃないわ。私自身が納得いかないってだけよ」
あずさ「それでも、嬉しかったわ♪ 」ダキッ
伊織「ちょ、あずさ、離しなさいよ!」
あずさ「伊織ちゃんはいつもみんなの事を考えてくれてるから、私、すごく感謝してるの」
伊織「そんなの……」
伊織(……あずさ、アンタの方が何倍もみんなの事を考えてるわよ)
伊織(損な役回りになってまで、小鳥の事を気遣えるなんて……)
伊織(……敵わないわね、やっぱり)
律子「………」ペラッ
律子「………」ペラッ
律子「………」ペラッ
律子「………」パタン
律子「……ふぅ」
律子(光の戦士……)
律子(暗黒騎士である私が、この世界の闇を振り払う存在になれるのかしら……)
律子(そういうのは、あの子たちに任せておいた方がいいのかも)
律子(それよりも……)
律子(失われた魔法、メテオ……か)
律子(小鳥さんに言われて、あずささんに覚えてもらったけど……)
律子(あの魔法が無ければ、あずささんがあんな目に逢う事は無かったのかもしれない)
律子(私があずささんを行かせなければ……)
律子(………)
律子(小鳥さんと戦う事を、あの子たちはどう捉えているのかしら)
律子(最後の戦いは、みんなにとってきっと辛い戦いになるのは間違いないわ)
律子(何にせよ、私も今のままじゃいられない。あずささんだけに辛い思いをさせる訳にはいかない)
律子(私も覚えよう。……メテオを)
亜美「……zzz」
ーー♪ …
ーー♪ …
亜美「……んん……」
ーー♪ …
ーー♪ …
亜美「……だれー……? うるさくて寝れないよー……」ムニャムニャ
ーー♪ …
亜美「………」ムクッ
亜美「もー……目が覚めちった」
亜美「みんなは……」キョロキョロ
真「……zzz」
雪歩「……zzz」
あずさ「……zzz」
伊織「……zzz」
亜美「……みんな寝ちゃってるね。起こさないでおこっと」
亜美「あれ、りっちゃんがいない? トイレかなぁ」
亜美「ま、いいや。亜美はさっき聴こえたメンヨーな歌声の主を探さないとね」
亜美「確か、2階の方から聴こえてきたよね」
スタスタ…
千早「はあああっ!」ブンッ
キィンッ!
春閣下「ふっ!」ガキィン
美希「えいっ!」ギリッ
ビュッ…
春閣下「ふふっ」ヒョイッ
春閣下「はっ!」ドゴッ
千早「っ……く!」ヨロッ
美希「千早さん!」ダッ
春閣下「回復はさせないよ!」チャキッ
美希「わっ!」
美希(……速いの!)
春閣下「ふっ!」ドゴッ
美希「う……」ヨロッ
ドサッ
春閣下「はぁーあ……ダメだよ二人とも。全然ダメ。私の動きに全然ついて来れてないじゃない」
春閣下「そんなんじゃプロデューサーさんは手に入れられないよー?」
千早「くっ……」ヨロッ
美希「ケアルラ!」
シャララーン! キラキラキラ…
美希「千早さん、へーき?」
美希「……ゴメンね。ケアルガが使えればいいんだけど……あの子の動きが速くて、詠唱してるスキを与えてくれないの」
千早「私なら大丈夫。美希こそ、あまり無理はしないで」
美希「二人がかりでもあの子を止められないなんて……とんだ誤算だったの」
千早「……大丈夫、心配はいらないわ。勝機は必ずあるから」
美希「本当?」
千早「ここまで戦っていて分かったけれど、あの子はやっぱり春香だった」
美希「……どういう事なの?」
千早「ヤミさん自体は春香の別人格かもしれないけど、根本は春香と同じという事よ」
千早「そこを攻めれば、おそらく……」
千早「ここは窪みが多くて足場が悪いわ。ヤミさんを平地へおびき出しましょう」
美希「……何か作戦があるんだね? 分かったの。千早さんに任せるね!」
春閣下「相談は終わったかなー? もう攻撃しちゃっていーい?」
千早「行くわよ、美希」
美希「うん!」
タタタタ…
春閣下「……ってこらー! なんで逃げるのよー!? それじゃ勝負にならないでしょうがー!」プンスカ
春閣下「もー!」
タタタタ…
P(千早と美希、全然歯が立たないみたいだけど、どうするつもりだ?)
P(千早に何か策があるみたいだったが……)
P(二人とも……なんとか春香を頼むぞ……)
美希「……ねえ千早さん、とりあえず平らな場所に来たけど、これからどうすればいいの?」
千早「ここでヤミさんを迎え撃つわ」ザッ
美希「ここで? ……確かにさっきの穴ぼこだらけのところよりは動きやすいって思うけど、それはあの子にとっても同じ事じゃないの?」
千早「さっきも言った通り、ヤミさんは人格以外は春香本人と何も変わらないのよ」
千早「……おそらく、癖も」
美希「クセ? …………あ!」
千早「チャンスは必ず訪れる。この平地なら」
美希「さすが千早さんなの! 大好きな春香の事なら何でも分かっちゃうんだね?」
千早「そ、そういう訳じゃ……///」
美希「あは☆ 照れる千早さんもかわいいの♪ 」
千早「も、もう……こんな時にからかわないで」
千早「! ……来たわ!」
タタタタ…
春閣下「……待ちなさーーい!!」
春閣下「美希と千早ちゃんを倒して、私がプロデューサーさんに一番相応しいって事、証明するんだからー!」
千早「私が引きつける。美希は隙を突いてちょうだい」
美希「分かったの!」コクリ
千早「ヤミさん、望み通り相手になるわ!」
タタタタ…
春閣下「ふふっ、そう来なくっちゃ!」チャキッ
春閣下「……はっ!」ブンッ
千早「くっ……!」ダッ
ブワッ…
春閣下「えいっ!」ブンッ
千早「……ふっ!」ゴロン
…スタ
春閣下「また千早ちゃんが私を引きつけて、美希に隙を突かせる作戦?」
春閣下「それはさっき無駄だって教えてあげたはずなんだけどなー」
千早「……本当にそうかしら?」
春閣下「えっ……?」
千早「……こっちよ!」ダッ
タタタタ…
春閣下「また逃げるつもり!? ズルいよ千早ちゃん!」
春閣下「逃がさないんだから!」
春閣下「……あっ」ズルッ
春閣下「うわわっ……!」
どんがらがっしゃーん!
千早「! ……美希、今よ!」
美希「了解なの!」ギリッ
美希「……えいっ!」
ビュッ…!
ドスッ!
春閣下「っ……ぐ……!」
千早「はっ!」タンッ
フワッ…
ヒュー…ドガッ!!
春閣下「あ……ぅ……」ヨロッ
…スタッ
千早「………」
美希「千早さん、やったの!」
千早「あなたが春香の分身である以上、何もないところで転ぶその癖はついて回るのよ」
千早「その隙を逃す私たちではないわ」
P(千早たち、うまく一矢を報いたみたいだが……多分それだけじゃ勝てないぞ)
P(闇春香は……強い)
春閣下「……そっか、なるほどね。そう来たかぁ……」スクッ
春閣下「でも、まさかこれで勝ったつもりになってないよね?」
千早(……分かってる。ヤミさんには最大の技がまだ残っているもの)
千早(それをどうにかしないと、私たちに勝ち目はない……)
春閣下「なんだかんだ言って千早ちゃんも、ちゃーんと白黒付けるのがお望みみたいだし……」
春閣下「そんなに見たいなら見せてあげるよ、私のとっておきの技……!」チャキッ
春閣下「……!」ゴゴゴ
千早(……来る!)
千早(月の魔物ですら一撃で倒した暗黒剣。どうやって凌ぐか……)
美希「………」
美希「……千早さん、力を貸して」
千早「美希……?」
美希「あの子の技、なんていうか、すっごく禍々しいの」
千早「そうね。暗黒剣っていうぐらいだから……」
美希「ミキね、その暗黒に勝てるのは、きっとキラキラの光だって思うな」
千早「光……」
美希「ミキの全力のキラキラ魔法であの暗黒に対抗してみるの」
美希「だから千早さん、千早さんのキラキラも、ミキに貸して?」
千早「キラキラ……そうか、ホーリーね。分かったわ」
美希「……!」ゴゴゴ
千早(ホーリーランス……お願い、力を貸して……!)ゴゴゴ
春閣下「ホーリーか……」
春閣下「ふふ……二人のその光すら、私の闇に取り込んであげるよ!」
春閣下「そして、最後にプロデューサーさんの隣にいるのは……」
春閣下「絶対に、私なんだから!」
春閣下「……暗黒剣ッッ!!」
ズオオオォォオオ…!
美希「ハニーが誰を選ぶかなんてミキには分からない。でも、春香だけは……」
千早「……絶対に、返してもらうらわ!」
美希・千早「……ダブルホーリー!!!」
キラキラキラ…
…ゴゴゴゴゴゴ
ドゴオオォォオオオオン…!!
律子「ーー!」ピクッ
律子「今何か、ものすごい力が……」
律子「美希と千早、大丈夫かしら……。みんなが集まったら何人かで捜索に出ないといけないわね」
律子「ひい、ふう、みい……」
律子「……全部で13個もあるのね、月のクリスタルは。台座が全て埋まっているって事は、数が揃ってるって事でいいのよね?」
律子「このクリスタルが月の地下へ連れて行ってくれるのかな」
律子「………」
律子(ついにここまで来た。色々あったけど、あとは最後の戦いを残すのみ)
律子(長かったような、短かったような……いや、長かったわね)
律子(……でも、最後の戦いの前に、一つだけやる事がある)
律子(それは、絶対に避けては通れない事)
律子(それを避けて最後の戦いに臨んだら、私たちはきっと……)
律子(……崩壊してしまうから)
「……たのもー!!」
「たのもーだぞ!!」
「たのもーですー!!」
律子「あら……ふふ、ようやく到着したみたいね」
月の民「……えーと、あんたたちもタカネ様の仲間ッスか?」
やよい「はい!」
響「もちろんだぞ!」
真美「ふっ……ヤツとは兄弟の盃を交わした仲なんだぜ……」
響「君は貴音の友達なの?」
月の民「はいッス。自分、タカネ様に仕えてる月の民ッス!」
響「そっか。よろしくなー!」
やよい「よろしくおねがいしまーす!」ガルーン
月の民「それにしても、肝心のタカネ様はまだ来ないんスかねー」
真美「あ、お姫ちんならたぶん後で来るよ。今はバハムートちんのとこでお話ししてるYo」
月の民「ああ……バハムート様のところッスか……」
律子「待ってたわよ、三人とも」
響「律子!」
やよい「律子さん!」
真美「りっちゃん、あのね、お姫ちんは……」
律子「ええ、聞いてたわ。ここは貴音のホームグラウンドなんだし、色々あるのね、きっと」
律子「それより、あなたたちも少し休みなさい。疲れたでしょう?」
真美「ふー、よーやく休めるよ〜」
やよい「律子さん、勝手に使ってだいじょーぶなんですか?」
律子「ええ。ここは貴音の家だそうだし」
響「そっか。じゃあ問題ないな!」
律子「……あの、月の民さん?」
月の民「はい、何ッスか?」
律子「月のクリスタルについて、少し訊きたい事があるんですけど」
雪歩「……ん……」
雪歩「……あれ……」ムクッ
雪歩「……そっか、私……」
雪歩(いつの間にか寝ちゃってたんだ。みんなも……)
響「……zzz」
やよい「……zzz」
真美「……zzz」
雪歩(あ……響ちゃんにやよいちゃん、真美ちゃんもいるみたい)
雪歩(良かったぁ、無事で)
雪歩(……あれ? でも、四条さんがいない……?)
雪歩(何かあったのかな。三人が起きたら訊いてみないと)
雪歩「あ、そうだ私……亜美ちゃんに起こしてあげるからって言って……」キョロキョロ
雪歩「ど、どうしよう、亜美ちゃんがいないよぅ!」
伊織「……もう、何かあったの……?」ムクッ
雪歩「あ、伊織ちゃん、ゴメンね、起こしちゃって」
伊織「それはいいけど、雪歩、今何か喚いてなかった?」
雪歩「それが、さっき起きたら亜美ちゃんがいなくて……」
伊織「どうせトイレとかじゃないの? 慌てる事じゃないわよ」
雪歩「……私、亜美ちゃんを探しに行かなきゃ!」グッ
伊織「そう。じゃ、私はもう少し寝させてもらうわ」ゴロン
雪歩「ま、待って伊織ちゃんっ!」ギュッ
伊織「な、何よ?」
雪歩「ひとりじゃ怖いからついて来てくれないかな……?」ウルウル
伊織「………………はぁ」
スタスタ…
伊織「ったく、なんで私が……」
雪歩「ご、ゴメンね。でも、ひとりじゃどうしても怖くて……」ブルブル
伊織「仕方ないわねぇ……」
ーー♪ …
伊織「……ん? 今何か聞こえなかった?」
雪歩「ふぇっ!?」ビクッ
ーー♪ …
伊織「……ほら、また」
雪歩「た、確かに……」ビクビク
ーー♪ …
伊織「これは……歌?」
雪歩「ま、まさか……」
雪歩「志し半ばでこの世を去った吟遊詩人の幽霊とかなんじゃ……!」
伊織「ば、バカね、考えすぎよ。幽霊なんているはず……」
伊織「……あるわね。よく考えたらそういう世界だったわ、ここって」
雪歩「どうしよう伊織ちゃん! 亜美ちゃんが! 亜美ちゃんがっ!」ユサユサ
伊織「だ、大丈夫よ! あの亜美が幽霊なんかに遅れを取るわけがないわ」クラクラ
雪歩「で、でも!」
伊織「もう、いいから落ち着きなさい!」ギュッ
雪歩「ひぅっ!」ビクッ
伊織「雪歩。アンタは心配性すぎるのよ。ここまで戦い抜いてきた亜美が簡単にやられる訳ないでしょ?」
雪歩「うぅ……そ、そうだよね。亜美ちゃん、すごく強くなったもんね」
伊織「とにかく、歌はあの部屋から聴こえてくるみたいね」スッ
伊織「……いい、開けるわよ?」
雪歩「う……うんっ!」ゴクリ
…ガチャ
ハミングウェイ1「フンフフーン♪ 」
ハミングウェイ2「フンフフーン♪ 」
ハミングウェイ3「フンフフーン♪ 」
ハミングウェイ4「フンフフーン♪ 」
ハミングウェイ5「フンフフーン♪ 」
亜美「んっふっふ〜♪ 」
ハミングウェイ6「ンッフッフー♪ 」
ハミングウェイ7「ンッフッフー♪ 」
ハミングウェイ8「ンッフッフー♪ 」
ハミングウェイ9「ンッフッフー♪ 」
ハミングウェイ10「ンッフッフー♪ 」
伊織「」
雪歩「」
亜美「……あ、いおりんにゆきぴょん! おはー」
伊織「……とりあえず、突っ込みたいところはたくさんあるけど……」
伊織「アンタは馴染みすぎよ! 一瞬このヘンテコなヤツらの一員かと思ったわよ!」ビシッ
亜美「おおう、さすがいおりん、ナイスツッコミ……」
伊織「いったい何やってたのよアンタは」
亜美「何って……ボーカルレッスン……かな?」
雪歩「うぅ、良かったぁ、亜美ちゃんが無事で……」
伊織「……まったく、幽霊の正体がこんなアホらしい集団だったなんて、ビクビクしてた自分がバカみたいよ」プンスカ
雪歩「あれ、でも……。この人たちって確か、親衛隊の魔物さんたちにやられちゃったはずじゃ……?」
伊織「あ……そういえばそう言ってたわね。まさか、本当に幽霊?」
ネミングウェイ「幽霊じゃないぞ。オレたちはちゃんと生きてる」
伊織「あら? ちゃんと話せるヤツもいたのね」
亜美「このおっちゃんはネミングウェイって言って、人の名前を勝手に変えるのがお仕事なんだよー」
ネミングウェイ「おい、勝手には変えねーよ!」
伊織「どうでもいいわよ、そんな情報」
ネミングウェイ「お前冷たいな!?」
雪歩「ゴメンね亜美ちゃん、私、亜美ちゃんの事起こしてあげるって言ったのに……」
亜美「そんなのゼンゼン気にしないでよー。ゆきぴょんも疲れてたんだしさ!」
雪歩「亜美ちゃん……」
伊織「……さて、さっさと戻るわよ。あんまりバラバラになると律子が苦労するし」
亜美「そだねー」
ネミングウェイ「ちょ、ちょっと待てよ。あんたたち、もっと他に用事はないのか? 例えば、名前を変更するとか」
伊織「しないわよ」
雪歩「しないですぅ」
亜美「しないっぽいね」
ネミングウェイ「あ、ちょっと待」
バタン
春閣下「……はぁ、はぁっ……!」ヨロッ
春閣下「私に全力を出させるなんて、さすが美希と千早ちゃんだね……」
P「千早! 美希!」
春閣下「無駄ですよ、プロデューサーさん。私の全力の暗黒剣を受けて立ち上がる事なんて……」
美希「……はぁ、はぁ……」ヨロッ
春閣下「…………美希!」
P「美希! 良かった!」
春閣下「……しぶといね。白魔道士のクセにそんな体力があったなんて……」
美希「……千早さんのおかげなの。千早さんが、ミキをかばってくれたから……」
千早「………」グッタリ
春閣下「……そっか、千早ちゃんが……」
P「千早! ……美希、回復魔法でなんとかならないのか!?」
美希「ゴメンね、ハニー。さっきのホーリーで魔力を使い果たしちゃったの……」
P「そんな……。じゃあ、俺の身体の中に、べろちょろに回復アイテムが入ってるから、それで……!」
春閣下「ダメですよ。そんな事はさせられません」ギュッ
P「闇春香、もうやめてくれ! こんな事をしても、俺はお前に気持ちが動く事はない!」
春閣下「……さすがに今の言葉はグサリときましたね」
春閣下「でも、言ったじゃないですか。私になびかないなら、なびかせるまで」
春閣下「……どんなに時間をかけても」
P「……!」
美希「無駄だよ、ハニー。その子はね、きっと恐れてるの」
美希「ミキたちがゲームをクリアして、元の世界へ帰っちゃうのを」
P「……それはどういう事だ?」
美希「ミキね、こんな春香、このゲームの世界へ来て初めて見たの。それって、『この春香はゲームの世界限定の存在』って事だよね?」
美希「だから、ミキたちが……春香が元の世界へ戻ったら、その子はきっと存在自体が消えちゃうと思うの」
春閣下「……そうだよ。だから、私は邪魔をする。『わたし』を元の世界へなんて帰らせないし、プロデューサーさんもずっと一緒!」
P「……そう、だったのか……」
春閣下「私の知らないところで勝手に生まれさせられて、勝手に誰かの影の存在にさせられて……」
春閣下「……勝手に、好きな人も決められて」
春閣下「私には、何一つ自由はなかった。自分で選んで手にしたものなんて、何一つなかったんだよ!」
美希「………」
春閣下「……だからね、恨む事にしたの。美希も、千早ちゃんも、みんなも……全てを」
春閣下「知ってる? 暗黒剣ってね、負の力で威力が増幅するんだよ?」
美希「!」
春閣下「全てを恨む私の感情は……暗黒剣を、さらに暗黒剣足らしめるッ!!」グッ
ズズズ…
P「そんな……さらに威力が……!?」
春閣下「……これが、暗黒剣の最終形です。恨み、悲しみ、絶望……あらゆる負の感情が、私から溢れ出しているんです」ゴゴゴ
P「……!」
春閣下「さあ、どうする、美希? 今逃げ出せば、命だけは助かるかもよ?」ゴゴゴ
美希「……逃げるなんて選択肢は、今のミキにはないの」
春閣下「そっか。……じゃあ、死ぬといいよ!」チャキッ
P「美希っ!」
美希「死ぬ……?」
美希「そんな選択肢も、最初から持ち合わせてないのッ!」
美希「……!」グッ
春閣下「ただの非力な白魔道士のあなたが、空っぽの魔力で何をするつもり?」
春閣下「大人しく負けを認めなさい!」
P「やめろ!」
春閣下「……暗黒剣ッ!!」
ズオオオォォオオ…!!
美希(あの子の言う通り、ミキの魔力はもう空っぽだし、弓矢で暗黒剣を防げるわけがないの)
美希(……このままじゃ、ハニーも千早さんも……)
美希(……春香も救えない)
美希(あの時の力。あれさえあれば……)
美希(あの時、貴音ややよいを助けたっていう、あの力さえあれば……!)
美希(お願い、ミキに力を貸して欲しいのーー!)
パアアァーー!!
春閣下「……なに!? 光が……!」
P「美希!」
シュウゥゥ…
覚醒美希「……虚栄の闇を払い……」スッ
覚醒美希「真実なる姿現せ……」ゴゴゴ
春閣下「……何、この魔力……!? 美希、もう魔力はゼロだったはずなのに……!?」
P「あれは、美希……なのか……?」
覚醒美希「……あるがままにッ!」カッ
覚醒美希「…………アルテマッ!!」
ゴオオオォォオ!!
キラキラキラ…!
春閣下「なんで!? なんで魔法が使えるのッ!?」
春閣下「……でも、私の暗黒剣が負ける訳がないッ!!」グッ
ズオオオォォオオ!!
覚醒美希「……ううん、あなたは負けるよ。だって、光は……」グッ
覚醒美希「……必ず、闇を照らし出すから!」
キラキラキラ…!!
春閣下「そんな……そんな光は、絶対に認めないッ!! 私の闇は……誰にも……!!」
ズオオオォォオオ!!
ズガアアアァァアアン…!!
覚醒美希「……く……」ヨロッ
覚醒美希「……まさか、アルテマで相殺するのがやっとだなんて……」チラ
春閣下「………」
覚醒美希「それだけ根が深い闇……って事なんだね」
覚醒美希「……そうだ、ハニーは!」
タタタタ…
覚醒美希「ハニー、しっかりして!」
P「美希…か? 大丈夫、俺はダメージなんてないよ」
覚醒美希「あ……そっか。ハニーだけはこの世界に干渉されないんだっけ」
P「ああ。……それより千早は?」
覚醒美希「さっきケアルガをかけておいたからへーきだよ」
P「そうか……。あとは、春香か……」チラ
春閣下「………」
P「春香も変身したりしたからもう驚かないけど、お前、美希……なんだよな?」
覚醒美希「うん、そうだよ」
P「なんか髪が短くなってるし、雰囲気が大人っぽくなったな」
覚醒美希「えへへ、短い髪も似合うでしょ?」
P「……ああ、すごく似合ってる」
覚醒美希「『あの』春香は春香の別人格らしいけど、『この』ミキはミキと同一人格。言ってみれば夢を見てる状態ってカンジなの」
P「夢を?」
覚醒美希「うん。だから、元のミキに戻ったら、『この』ミキでの出来事はぜーんぶ覚えてないんだ」
P「そうなのか……」
覚醒美希「ねえ、ハニー。どうせ覚えてないから、今言うね?」
P「ん?」
覚醒美希「あの子が言ってた事……春香や千早さん、美希にとって……ううん、765プロのみんなにとってハニーがとても大切な人って話だけど、あれはホントだよ」
P「………」
覚醒美希「それで、誰がハニーと結ばれるかでミキたちがケンカになっちゃうってあの子は言ってたけど……ミキは、そんな事ないって思うな」
P「え……?」
覚醒美希「765プロには仲間の幸せを祝福できない子なんていないし、みんながみんなの幸せを望む子ばかりなの」
P「……うん、美希の言う通りだ」
覚醒美希「だからね? ハニーは自分の気持ちに正直になって欲しいの。誰か一人しか選ばれなくても、そんな事でミキたちの絆は壊れたりしないし、ハニーが正直になってくれない方がミキたちにとっては悲しい事だから」
P「美希……」
覚醒美希「……本音は、ミキを選んで欲しいなって思ってるんだけどね」
P「………」
覚醒美希「忘れないで。ミキたちはずっとずっと、おばあちゃんになっても仲間だから。その絆は、何者にも壊せない……壊させない」
P「……ありがとう、美希」
覚醒美希「んーん。これでハニーの中のミキのシンショーもアップかな? あは☆」
P「ふふ、まったく……」
覚醒美希「!」
覚醒美希「……まだだったの!」キッ
P「え?」
春閣下「……こんなの……認めない……!」ヨロッ
春閣下「私が……負けるなんて、あり得ない……ッ!」
P「闇春香……」
覚醒美希「さすがは春香なの。しぶとさは誰にも負けてないってカンジ」
春閣下「もう一度……今度こそ、美希、あなたを倒す! 完璧な暗黒剣で!」チャキッ
P「もうやめろ、闇春香!」
春閣下「やめません……! 私には、これしか道はないから……!」
春閣下「……暗黒剣ッ!!」
ズオオオオオ!!
覚醒美希「………」
覚醒美希「……ホーリー!」
キラキラキラ…
ドドドドドドドッ!!
春閣下「そ、そんな……! 私の暗黒剣がホーリーなんかに相殺されるなんて……!」
覚醒美希「気づいてないの? あなたの暗黒剣、さっきよりだいぶ威力が落ちてたの」
春閣下「くっ……!」
春閣下「それなら、勝つまで何度でもやってやる……!」
千早「……待って! ヤミさん、もうやめましょう!」
覚醒美希「千早さん!?」
P「千早……もう平気なのか!?」
千早「はい。美希のおかげです」
覚醒美希「無理しちゃダメだよ、千早さん!」
千早「いいえ、私だけ寝ている訳にはいかないわ」
千早「……ヤミさん、あなたは春香がこの世界へ来てから、ずっと春香と一緒にいたのよね?」
春閣下「……急に何? 時間を稼いだって状況は何も変わらないよ」
千早「時間稼ぎではないわ。これは忠告よ」
千早「最初からずっと春香と一緒にいたあなたが、覚えていないはずがない。この世界へ来て一番最初に魔物と戦った時の、プロデューサーの言葉」
春閣下「……!」
覚醒美希「……何の事?」
P「……もしかして……」
千早「『春香の能力は、体力をだいぶ消費するから』という助言」
千早「あれだけ暗黒剣を何度も使ったんだもの。あなたはもう、立っているだけでやっとなはずよ」
春閣下「………」
千早「これ以上暗黒剣を使ったら、春香の身体そのものが危ないわ」
覚醒美希「そうなの?」
P「……多分、千早の言う通りだ」
春閣下「…………ふふっ。千早ちゃんは物覚えがいいね」
春閣下「でも、千早ちゃんのおかげで分かったよ。……あなたたち二人に勝てる方法が」
春閣下「プロデューサーさんをこっちに渡して。そうしないと、私は暗黒剣を使う」チャキッ
春閣下「美希も千早ちゃんも、『わたし』の身体は大事でしょ?」
覚醒美希「そんな、ズルいの!」
P「闇春香が春香と一心同体である限り、こちらに勝ち目は無いのか……!」
千早「………」
千早「二人とも、諦めるのはまだ早いわ。今のこの状況をなんとかできる人物が、一人だけいる」
春閣下「何を言ってるの!? 今さら援軍でも呼ぶつもり? そんな時間はないし、『わたし』を人質に取っている以上、『私』の勝ちはもう揺るがないッ!」
覚醒美希「! ……そうだったね。千早さんの言う通り。今の今まですっかり忘れてたの」
P「そうだな。……ここは、彼女に頑張ってもらうしかない」
千早「はい。精一杯呼びかければ、必ず声は届くはずです」
春閣下「な、何をするつもりなの……!?」
春香「………」
春香「………」
春香「…………何を考えてるんだろ、私。みんなと争うなんてあり得ないよ」
春香「そりゃ、プロデューサーさんの事を諦めるのは辛いけど……」
春香「うー、でもなー。ここまではっきりと好きになった人は初めてだし……」
春香「それに、き、キスもしちゃったし……あまつさえ、裸も見られちゃってるし……」
春香「……///」ボンッ
春香「……ああもう! 邪な想像が頭から離れなくなっちゃったよぅ!」ブンブン
春香「はぁ……」
春香「私がこうしている間にも、千早ちゃんと美希が戦ってくれてるっていうのに……」
春香「……ううん、二人だけじゃないよね。雪歩に真、真美、亜美……」
春香「あずささん、伊織、やよい、響ちゃん、貴音さん……」
春香「律子……お姉ちゃん」
春香「プロデューサーさんや高木社長、黒井社長、ジュピターさんたち」
春香「それから…………小鳥さん」
春香「みんなと、絶対に元の世界へ帰らなきゃ」
春香「私ひとりがこんなところでもたついているわけにはいかないよね!」グッ
春香「よーし、帰るぞー!」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「………」
春香「…………どうやってここから出ればいいんだろ?」
春香「そもそも、出口ってあるのかなぁ」
春香「周りには何も見えないし……」
春香「ここでは私自身に実体がないみたいだしなぁ……」
春香「む〜……」
『………………か』
春香「……ん?」
『…………はる……』
春香「声が……!」
『…………はるか……!』
春香「私を……呼んでる……!」
『……春香、戻って来て!』
春香「この声は、千早ちゃん!」
『……春香、早く帰って来ないとハニーはもらっちゃうの!』
春香「美希……!」
『春香! 聞こえるか! 俺たちはお前を待ってる! お前のいるべき場所で、ずっと待っているぞ!』
春香「プロデューサーさんっ……!」
春香「戻らなきゃ! ……私の場所へ」
春香「私の、帰る場所へ!」
春香(何をどうすればいいのか分からないけど……)
春香(とにかく、声のする方へ)
春香(みんなの声のする方へ……!)
春閣下「……いやだ……やだ……!」ガシッ
P「どうしたんだ? 闇春香の様子が……」
覚醒美希「戻って来るよ、春香が」
千早「………」グッ
覚醒美希「……春香なら、絶対に戻って来る!」
春閣下「あ…ああ……!」フラッ
…パアアァァーー!!
P「光が……!」
闇春香「……はぁ、はぁ……!」ガクッ
P「……見たところ、何も変化はないみたいだけど……」
覚醒美希「ううん。よく見るとあの子、存在が薄くなってるカンジがするの」
千早「そう言われてみれば、確かに……」
「……千早ちゃん、美希。……プロデューサーさん」
三人「!!」
春香「天海春香、ただいま戻りましたっ!」
千早「春香!」
覚醒美希「……もう、遅いの!」
P「待ってたぞ、春香!」
春香「えへへ……すみません、ご迷惑をおかけしちゃって」
千早「良かった……! 本当に、良かった……!」ダキッ
春香「千早ちゃん……」
覚醒美希「春香は千早さんにたくさん感謝しないとね。千早さんがいなかったら、春香はここへ帰って来れなかったかもしれないんだから」
春香「うん……そうだね」
春香「……って、あれ? 美希、髪が……!」
覚醒美希「もう、今はそんな事はどうでもいいの! まだだよ、春香。まだ全部終わったわけじゃないんだから」
春香「……分かってる」
千早「春香……」ギュッ
春香「大丈夫。ここは私に任せて」ニコッ
闇春香「……あと少しだったのに……。もう少しで、プロデューサーさんが私『たち』のものになるはずだったのに……」
闇春香「なんで……? なんで邪魔するの……?」
春香「……こんな方法で誰かを自分のものにしても、その人の心は手に入れられないよ」
闇春香「それでもっ! ……『私』には、こうするしか方法はなかった……!」
闇春香「いずれ消えゆく存在である私には、手段なんて選んでる時間はなかった!」
春香「ヤミちゃん……」
闇春香「……そうだ。全ては『わたし』から始まったんだよね」
春香「……!」
闇春香「私がこんなに苦しいのは……私が生まれたのは……」
闇春香「『わたし』が、この世界へ来たから」
春香「………」
闇春香「私だって、何も恨みたくはなかった! 『わたし』みたいにみんなに囲まれて幸せでいたかった!」
闇春香「……でも、ダメだった。だって私は、闇だから」
闇春香「だったら、もう終わりにしよう」チャキッ
春香「!」
闇春香「闇は闇らしく、全てを憎んで恨んで、妬んで……!」
闇春香「『わたし』を殺して、『私』も死ぬ……!」ゴゴゴ
覚醒美希「あの子、また暗黒剣を使うつもりなの! あんな状態で使ったら……」
千早「……無事では済まないわね」
P「………」
春香「………」
春香「……受け止めるよ。それが、私がヤミちゃんを苦しめた咎だって言うなら」
…カランッ
覚醒美希「春香、剣を捨てたの……!」
P「徒手空拳で暗黒剣を受け切るつもりか……!?」
千早「春香……!」ギュッ
春香「ヤミちゃん、私が暗黒剣を完全に受け切ったら、一つだけ約束してほしいんだ」
闇春香「そんな事は万に一つも無いと思うけど……いいよ。言ってみなよ」
春香「私があなたの暗黒剣を完全に受け切ったら、ヤミちゃんは……」
春香「……ちゃんと心からの笑顔を私たちに見せる事!」ビシッ
闇春香「…………は?」
春香「だって、暗黒剣は負の感情なんだよね? それを全部吐き出したら、ヤミちゃんはきっと楽になれるんじゃないかな?」
春香「楽になって心から笑うヤミちゃんを、私、見たいんだ!」ニコッ
闇春香「!」
春香「それに……」
春香「ヤミちゃんは私と同じ顔なんだから、きっと可愛いと思うよ? ……なーんて」
闇春香「ば……バカじゃないの!?」カァァ
春香「あ、今の表情、ちょっと可愛かった」
闇春香「っ……本気で殺すからね!」
闇春香「はあああああっ……!」
闇春香「……暗黒剣ッ!!」
ズオオオオオ……!
春香「! ……すごい……禍々しい闘気……! これが……ヤミちゃんの……!」
春香(私のせいで、こんな……ごめんね。辛い思いをたくさんさせて、ごめんね)
春香(……ちゃんと全て受け止めるよ、ヤミちゃん。だから……)
春香(……約束、絶対に忘れないでね……!)
ドゴオオオオオォォオオン…!!
闇春香「っ……はぁ、はぁっ……!」ガクッ
千早「ヤミさん……もうほとんど力は残っていないはずなのに、すごい技だったわ……」
覚醒美希「それより、春香は?」
P「……あそこだ」
春香「………」
覚醒美希「春香! ……まさか……」
千早「……いいえ、春香は立つわ」
P「春香……!」
春香「っ……!」ピクッ
闇春香「まだ、息があるの……? 私の、全身全霊を込めたのに……」
春香「……約束…したからね……」ググッ
春香「みんなで……帰るって……!」ヨロッ
闇春香「く……!」
春香「それに……」
春香「見せてくれるって……言ったでしょ……?」
春香「ヤミちゃんの、笑顔を……!」ザッ
闇春香「……完敗、だね」
春香「……って言っても、私も立ってるのがやっとだけど……」フラフラ
闇春香「それは、想いの力だよ」
闇春香「『わたし』の想いの方が『私』よりも強かった。……ただ、それだけなんだよ」
闇春香「あはは……笑うしかないね、もう」
春香「ふふ……やっと笑ってくれたね?」
春香「でも、もっといい笑顔ができるはずだよ」
春香「だって、私は知ってるもん。プロデューサーさんと二人っきりの時の、とっても幸せそうなヤミちゃんの表情を」
闇春香「………」
千早「春香っ!」
タタタタ…
千早「平気? 私に捕まって」ガシッ
覚醒美希「ケアルガ!」
シャララーン! キラキラキラ…
春香「ありがとう、千早ちゃん、美希」
P「まったく、無茶しやがって……」
春香「えへへ、すみません……」
闇春香「……羨ましかった」
春香「え……?」
闇春香「みんながいて、プロデューサーさんがいて……」
闇春香「全てを持っている『わたし』が、『私』は羨ましかった」
闇春香「でも、私は闇だから。『わたし』の影の存在だから」
闇春香「こんな私なんて、誰もいらないだろうから」
春香「そんな事……!」
千早「そんな事ないわ!」
闇春香「……千早…ちゃん……」
千早「あなたのその力に、私たちはこれまでたくさん助けられてきた」
千早「私たちがここまで来れたのは、あなたの存在に依るところが大きいと私は思ってる」
覚醒美希「うーん、そだね。確かにバブイルの塔とかでもお世話になったらしいし」
千早「改めてお礼を言わせてもらうわ。……ありがとう、ヤミさん」
覚醒美希「ミキも一応言っておくね。ありがとうなの」
春香「私も、双子の姉妹ができたみたいで嬉しかったよ! だから、ありがとう!」
闇春香「みんな……」
P「闇春香。俺も君にはとても感謝してる。ここまで来れたのももちろんそうだけど、春香がここまで強くなれたのは、きっと君のおかげだから」
P「どういう想いで君がここまで戦ってきたにしろ、君はもう、立派な俺たちの仲間だ!」
闇春香「プロデューサー…さんっ……!」
闇春香「じゃあ、私とずっと一緒にいてくれますか!」
春香「や、ヤミちゃん!?」
覚醒美希「それはダメなの!」
P「……ごめん。それだけはできないんだ」
闇春香「……分かってますよ」
闇春香「でも、それでも……」ポロ
闇春香「みんなの言葉、すごく嬉しいっ……!」ポロポロ
覚醒美希「………」
千早「ヤミさん……」
闇春香「うぅ……っ!」ウルッ
春香「ほらほら、ダメだよ泣いちゃ。可愛い顔が台無しだよ?」
覚醒美希「自分と同じ顔を可愛いって言う春香は、ちょっとあざといって思うな」
春香「い、今のはそんなつもりじゃないよぅ!」
千早「いえ、美希の言う通りかもしれないわね」
P「ああ、否定はできないな」
春香「もうっ! 千早ちゃんとプロデューサーさんまで!」プンスカ
闇春香「……ふふっ、あはははっ!」
闇春香「まったく、これが私の分身だなんてね?」ニコッ
春香「あ……ヤミちゃん可愛い! ね、みんなも見たよね? ヤミちゃんの笑顔!」
P「だから……」
覚醒美希「気持ちは分かるけど、言えば言うほどドツボにはまってる気がするの」
春香「う〜、そういうつもりじゃないのにぃ〜!」
千早「……よしよし」ナデナデ
闇春香「私からも……ありがとう」
春香「ヤミちゃん……」
闇春香「『わたし』の言った通りかもしれないね」
闇春香「さっきの暗黒剣で嫌な気持ちが全部出て行っちゃった感じがして、今はすごく気分がいいんだ」
春香「……そっか」ニコッ
闇春香「だから、ここでお別れだね」
春香「えっ……?」
闇春香「私は、闇だから。嫌な気持ち、暗い気持ちが存在しないって事は、すでに私が存在する意味はないから」
春香「そんな……せっかく仲良くなれたのに……!」
闇春香「分かっててやってたんだと思ったけど……そうじゃなかったんだね」
闇春香「……とにかく」
闇春香「頑張ってね、春香。最後の戦いは、きっとあなたが思ってるよりも苦しい戦いになると思う」
春香「……えへへ、やっと名前で呼んでくれたね?」
闇春香「……もう、そんな事はいいでしょ? 今は最後の戦いに備えて……」
春香「うん、分かってるよ。どんなに辛くても、苦しくても、必ずみんなで乗り越えてみせる」
春香「だって私たち、アイドルだもん!」
闇春香「……良かった。それを聞いて安心したよ」ニコッ
春香「あっ、また笑顔になった! ねえみんな、見たよね?」
千早「……春香」
覚醒美希「……もう、行っちゃったみたいなの」
春香「えっ?」クルッ
春香「ヤミ…ちゃん……?」キョロキョロ
P「……きっと、笑顔で別れたかったのかもな」
P「暗黒騎士は今、ようやくその役目を全うしたんだよ」
春香「………」
春香「…………グスッ」
ーー頑張ってね。春香たちなら、きっと……
春香「……!」
春香(……さよなら、ヤミちゃん)
春香(もうひとりの、私)
千早「……はっ!」
ヒュー…ドスッ!
魔物「」
千早「……ふぅ」
春香「千早ちゃんお疲れ様。回復してあげるね」
春香「……ケアルラ!」
シャララーン! キラキラキラ…
千早「……ありがとう、春香」
春香「ううん、私の方こそ千早ちゃんだけに戦わせてゴメンね?」
千早「何言ってるのよ。春香には美希を背負ってもらっているんだから、私が道を切り開くのは当然でしょう?」
春香「えへへ、そっか」
美希「……zzz」
千早「……美希、あの後ちゃんと元に戻ったわね」
春香「そうだねー。こっちに帰って来たら美希の髪が短くなっててびっくりしちゃったけど、何だったんだろう?」
美希「……zzz」
P「……よく分からないけど、夢を見ているのと同じ状態だったらしいぞ」
千早「夢……ですか?」
P「ああ。本人が言ってたから間違いないんじゃないかな」
P「春香の多重人格とは違う、とも言ってたな」
春香「じゃあ、あの時の美希も今のこの美希も、同一人物って事ですか?」
P「そういう事らしい」
P「でも美希、すごかったんだぞ? 闇春香の全力の暗黒剣と互角以上だったんだから」
春香「そうそう! なんかすごい魔法を使ってたし」
千早「……私は、結局あまり役に立てませんでしたね」
P「そんな事はない。あの時千早が身を呈して美希を庇ったから、活路が開けたんだよ」
春香「そうだよ! 千早ちゃん、カッコ良かったよ?」
千早「そう言ってもらえるとありがたいけど……」
春香「…………あれ? そういえば、私たちってヤミちゃんにプロデューサーさんを好きな事、バラされちゃったよね……?」
千早「は、春香!」
春香「あっ……」
P「その話を今ぶり返すのか……」
春香「す、すみません……///」
P「いや、いいけどさ」
千早「……あの、プロデューサー!」
P「な、なんだ?」
千早「私は、プロデューサーの事を尊敬していますが、そ、その、他にやましい感情は抱いてないというか、特に男性として意識しているつもりはないというか!」
P「分かった、分かったから落ち着こうな」
春香「千早ちゃん……嘘がヘタだねぇ」
千早「というか、春香はなんでそんなに余裕があるの? 自分の気持ちをバラされたというのに」
春香「うーん……私も恥ずかしいけど、少しだけ肩の荷が降りた気もするかなぁ」
千早「なんて言うか、春香らしい、呑気な考え方ね」
春香「それにね? 正直、今はまだよく分からないなって思うんだ」
春香「どれだけ私たちがプロデューサーさんのことを好きでも、プロデューサーさんが誰を選ぶのかなんて分からない。もしかしたら私たちの中の誰も選ばれない可能性だってあるし」
千早「……確かに、それはそうね」
春香「もちろん、選ばれなかった時の事を考えると、私だって胸がキュッて締め付けられる思いになるよ?」
春香「でも、多分それはまだまだ先の事。今は、こうしてみんなでいられる時間を楽しみたいなって」
千早「……そうね。私も、今すぐにどうなりたいって思っているわけでもないし」
千早「きっと、765プロのみんなも同じ想いよね」
春香「うん、きっとそうだよ!」
P「……君たち、本人を目の前にしてよくそういう話ができるね」
春香「もう、プロデューサーさん、盗み聞きですかー?」
P「いや、さっきまで普通に会話してただろ……」
千早「ふふ、べろちょろだとどうも存在感が薄くなってしまいますね」
P「不本意だけどな」
P「あ、そういえば……さっきの春香のセリフと少しだけ関連するんだけどさ」
P「765プロで絆を一番大切に思っているのは、もしかしたら美希かもしれないな」
春香「美希が……ですか?」
P「『ミキたちはずっとずっと、おばあちゃんになっても仲間だよ。その絆は、何者にも壊せない……壊させない』ってさ」
千早「美希が、そんな事を……」
春香「美希……」
美希「……おにぎり……」ムニャムニャ
P「普段は飄々としてるところがあるけど、美希も胸の内に熱いものを持っているんだなって思ったよ」
春香「……美希が起きたら、助けに来てくれてありがとうって伝えなきゃ」
千早「それと、お疲れ様ともね」
美希「……zzz」
P「……さ、急ごう。きっとみんな待ってる」
春香・千早「はい!」
スタスタ…
着々と終わりへ近づいているような、そうでもないような…
ですねわかります。
真「え? まだ到着していないメンバーの捜索に?」
律子「ええ。さすがにそろそろ合流しておかないと」
律子「現時点でこの館にいないのは、貴音、千早、美希、春香、そしてプロデューサーの五人。貴音はまあ、場所は分かっているだろうからいいとして」
伊織「問題は、春香とプロデューサーに、それを追いかけていった美希と千早ね」
伊織「あの時の春香はちょっと面倒な状態だったし、早めに回収しておくに越した事はないわね」
律子「そういう訳で、二、三人でひとっ走り迎えに行って来てもらいたいの」
真「それはいいけど、誰が行くの?」
あずさ「あら、それなら私が行きましょうか〜?」
律子「あ……えーと……」
真「いや……」
あずさ「……そうですよね、私じゃミイラ取りがミイラになるのが目に見えてますよね……」シュン
律子「そ、そういう意味じゃないんですけど……」
真「そ、そうですよあずささん! あずささんはホラ、みんなの面倒をみててもらいたいなって!」
伊織「……別にあずさでもいいんじゃないの? 一人で行くわけじゃないんでしょ?」
律子「それはまあ、そうだけど……」
伊織「だったら決まりね。捜索は私とあずさで行くわ」
真「伊織……?」
あずさ「あの、伊織ちゃん……自分で言うのもなんだけど、私と一緒でいいの?」
伊織「……あのね。仲間が心配だから探しに行く事の何が悪いっていうのよ」
伊織「そういう事でいいわよね、律子?」
律子「……ええ、いいわ」
伊織「さ、そうと決まったら出発しましょ」スクッ
あずさ「は〜い」
真「……待って。ボクも行くよ」
真「ちょうど今日の分のトレーニングも兼ねてさ」
あずさ「あらあら、真ちゃんがいれば頼りになるわね〜」
伊織「……ま、いいけど」
律子「頼んだわよ、あなたたち」
真「確か、千早たちはあっちの方へ向かったんだよね?」スッ
伊織「ええ。館とは逆の方向だから、合流するのに少し時間がかかるかもしれないわ」
真「大丈夫かな」
伊織「……何がよ?」
真「ほら、あの春香の分身みたいな子がプロデューサーをさらっていったじゃないか」
真「あの子、なんだかボクたちにあまり好意的じゃなかったみたいだからさ」
あずさ「……きっとなんとかしてくれるわ、千早ちゃんと美希ちゃんなら」
真「そう……ですよね」
魔物1「ガルル…!」
魔物2「ウガー!」
魔物3「グルギャァ!」
伊織「……っと、お客さんみたいね」
真「よし、ボクに任せて!」
真「……よっ!」ドゴッ
魔物1「」ドサッ
あずさ「あらまあ……一撃ねぇ」
真「まだ来ます!」
魔物2「ウガー!!」ブンッ
伊織「………」
真「伊織!」
あずさ「伊織ちゃんっ」
伊織「……心配いらないわ。もう行ったから」スチャ
魔物2「?! ……アェ……?」
スパ…ドサッ
魔物2「」
真「うわ……魔物が真っ二つだ……」
あずさ「伊織ちゃん、いつの間に? 全然分からなかったわ〜」
伊織「にひひっ♪ この伊織ちゃんの疾さには、誰もついて来る事なんでできないわよっ」
伊織「それはともかく、あと一体はあずさ、アンタの獲物よ」
あずさ「うふふ♪ 私も少しはいいところを見せないとね」
魔物3「グルギャァ!」ガバッ
あずさ「あらあら……」
あずさ「テレポ!」
…シュンッ
魔物3「グギャ?」キョロキョロ
伊織「あずさが、消えた……?」
真「確かあれは瞬間移動の魔法だったはず……」
あずさ「時を知る精霊よ……」スッ
あずさ「因果司る神の手から我を隠したまえ……」
あずさ「……ストップ!」バッ
ピキーン!
魔物3「」ピタッ
伊織「へぇ……」
真(あれって確か……アガルトのお婆さんが使ってた魔法だっけ)
真(すごいなぁ。今さらだけど魔道士の戦いってまるで手品みたいだ)
あずさ「うふふ、成功して良かったわ〜」
伊織「どうでもいいけど、とどめは刺さないの?」
あずさ「動けないなら何もできないでしょう? 追い打ちをかけるような事はあんまりしたくないのよ」
真「ははっ、あずささんらしいや」
伊織「今回は雑魚だったからいいものの、あの親衛隊とかいうヤツらにはそんな甘い考えは通用しないわよ? きっと」
あずさ「……その時は、私もしっかりやらないとね」
真「さ、進みましょう!」
スタスタ…
スタスタ…
伊織「………」
真「………」
あずさ「………」
伊織「……そうだわ」ピタ
真「……どうしたんだよ、急に立ち止まって」
伊織「いい機会だから、アンタの考えも一応聞いておこうと思って」
真「何のこと?」
伊織「真。アンタは……小鳥と戦う事についてどう考えてる?」
あずさ「伊織ちゃん……」
真「………」
伊織「今までずっと有耶無耶だったけど、私たち、もうごまかしの効かないところまで来ているわ」
伊織「普通のゲームみたいにただ戦って倒してはい終わり。それじゃ済まない事なのよ」
真「……うん、そうだね」
伊織「その様子だと、何も考えていない訳じゃないみたいね」
真「まあ、ね」
伊織「……ま、アンタにはアンタの考えがあるのならそれでいいわ」
伊織「でも、肝心な時にウチのエースが日和って最悪の事態になるのは勘弁してよね?」
真「もう、伊織までエースだなんて……」
あずさ「真ちゃん。真ちゃんは誰が何と言おうと私たちのエースよ? だから、自信を持って?」
真「あずささん……ありがとうございます」
あずさ「もちろん、真ちゃんだけじゃなくて伊織ちゃんも、律子さんや春香ちゃんたちも……」
あずさ「み〜んなウチのエースだから、きっと心配はいらないわね〜」ニコニコ
伊織「エースの意味が無いじゃないのよ、それ……」
真「………」
真(もうごまかしの効かないところまで来てる、か。確かに伊織の言う通りだ)
真(もう少し……あと少しだけ時間がほしい。そうすれば、きっとボクも覚悟ができるから……)
真「………」グッ
スタスタ…
伊織「……それにしても遠いわね。私たちってもう月一周分くらいは歩いているんじゃないかしら」
伊織「ゴツゴツしててやたら足元は悪いし……」
真「自分から申し出た割にはやけに弱気だなぁ。らしくないじゃないか」
伊織「別にいいでしょ。仲間に弱い部分を見せる事を、私は悪い事だとは思わないわ」
真「……ふーん。変わったね、伊織」
伊織「成長したって言いなさいよね!」
真「はいはい」
あずさ「うふふ♪ 」
あずさ「……そうだわ。今は少しでも距離を稼いだ方がいいわよね?」
真「それはそうですね。春香たちを早く見つけるに越した事はないと思います」
あずさ「それじゃ、ここは私に任せてもらえないかしら?」
伊織「何か策があるっていうの?」
真「もしかして、さっきのテレポって魔法ですか?」
あずさ「ええ♪ 」ニコッ
伊織「確かに、瞬間移動なら大分時間を短縮できるでしょうけど……アンタ、大丈夫なの?」
あずさ「千早ちゃんたちが向かったあっちの方へ行けばいいのよね?」スッ
真「……あずささん、そっちは逆の方向です」
あずさ「あ、あら、私ったら……///」
伊織「……本当に大丈夫なの?」
あずさ「何となく大丈夫な気がするわ〜」
あずさ「さ、二人とも私に掴まって?」スッ
伊織・真(……うーん、不安……)
月の民「……それで、クリスタルについて何を知りたいんスか?」
律子「まずは、クリスタルとは何なのか。何か不思議な力を秘めているっていうのは私も分かっているけど、詳しい事は何も知らないの」
律子「だから、あなたが知っている事を教えてもらえたらと思って」
月の民「分かったッス。他ならぬタカネ様のお友達の頼みならば断る道理は無いッスから」
律子「ありがとう。助かるわ」
月の民「じゃあ、まずは……」
月の民「前提として、クリスタルはこの世界に無くてはならないもの、という事を理解してくださいッス」
月の民「古い書物によれば、クリスタルが無いと世界は崩壊してしまうらしいッスから」
律子「重要なものだとは感じていたけど、そこまでなのね」
月の民「ええ。世界にとってクリスタルは、人間の身体でいえば心臓に当たる部分らしいッス」
月の民「で、クリスタルとは何かっていうと……」
律子「何かっていうと……?」
月の民「……実は、自分もよく分かってないッス……」
律子「……あ、そうですか……」
月の民「し、仕方ないんスよ!? 人間が生まれるずっと前から存在してるらしいし、文献にも詳しい事は何も書いて無いんスから!」
律子「はいはい、分かりましたから」
月の民「その代わり、クリスタルにまつわる不思議な力が我々月の民の研究によって解明されつつあるんス」
律子「ふむ……詳しく」
月の民「リツコさんは、『精神波』ってご存知ッスか?」
律子「ええ、まあ。確か、強い思念をエネルギーに換えて離れた場所へ物理的に飛ばす技……だったわよね?」
月の民「概ね正解ッス。まあ、月の民なら知ってて当然ッスね」
律子「え? どういう事?」
月の民「リツコさんからは我々と同じ匂いがするッス。あなたはきっと青き星に移り住んだ月の民の子孫なんスね」
律子「ふーん……」
律子「……あ、もしかしてその、『青き星へ移り住んだ月の民』って、クルーヤっていう人じゃないかしら?」
月の民「よくその名前を知ってるッスね。確かにクルーヤさんは昔、魔導船で青き星へ渡ったッスけど」
律子「私、どうやら娘らしいんです。そのクルーヤっていう人の」
月の民「おお、そうだったんスか! 言われてみれば、確かに面影があるッスねー」
月の民「……っと、話が逸れたので戻すッス」
月の民「ここまでの研究で、クリスタルに『あるもの』を注入する事で莫大なエネルギーが生まれる事が分かっているッス」
律子「莫大なエネルギー……」
月の民「エネルギーは様々な事に使えるッス。物理的に機械や物を動かす事も出来るし、魔道士の魔法力の様な目に見えない力を高めたりもできるッスよ」
律子(月の魔物たちが次元エレベータを動かしたのも、きっとそのエネルギーのおかげなのね)
律子「……それで、そのエネルギーを生み出すために必要な『あるもの』っていうのは?」
月の民「それが精神波ッス。『想いの力』と言い換えてもいいッスね」
月の民「クリスタルは、人の想いに応えてエネルギーを生み出す不思議な石。今のところ分かっているのはそこまでッス」
律子(……そういえば、魔導船の動力も想いの力だった。クリスタル……人の想い……か)
律子「じゃあ、例えばだけど、クリスタルの力で地下渓谷へ行く事は出来る?」
月の民「もちろん! クリスタルは万能選手ッスから、そんな事は簡単ッス」
月の民「強く願えば、必ず想いは届くはずッス!」
律子「強く願えば……ね。ありがとう、勉強になったわ」
月の民「……あの、リツコさん?」
律子「何かしら?」
月の民「あなたも、光の戦士なんスよね?」
律子「……どういう意味ですか?」
月の民「気を悪くしないで欲しいんスけど、リツコさんからは負の力を感じるッス」
月の民「それは多分、リツコさんが暗黒騎士だからだと思うんスけど……」
律子「……安心して。私はもう、悪役は降りたから」
月の民「いえ、そうじゃなくて……」
律子「?」
月の民「コトリほどの邪悪に、闇の力は……」
月の民「……なんでもないッス。忘れてください」
律子「え、ええ……」
月の民「ガンバってくださいね! 自分、何も役に立てないッスけど、せめて皆さんのご無事を祈ってるッス!」
律子「いえ、私たちはもう充分あなたに助けられてますから」ニコッ
律子(……精神波……想いの力……)
律子(とりあえず、クリスタルの仕組みはだいたい理解した。これで後は……)
キラーン!
律子(……後は、それぞれの覚悟を決めるだけ)
律子(小鳥さんと会ったら、おそらく戦う事になる)
律子(その戦いに中途半端な気持ちで臨んだら、きっと私たちは元の世界へは帰れない)
律子(あの子たちの背中を押してあげるのは、私の役目ね)
律子(でも、本当は戦う以外の方法があればそれが一番なのよね)
律子(それが見つかれば苦労はしないんだけど……)
律子「……さてと、そろそろ私もみんなのところへ戻らないと」
「……あら、それはちょっと待って貰えませんか? ……律子さん?」
律子「えっ……!?」クルッ
コトリマインド「きゃー! 本当に律子さんだー! うわぁ、律子さんってスーツだけじゃなくて鎧も似合いますねぇ! うふふ、この分だと他のみんなに会うのも楽しみだわぁ♪ 」
律子「こ……小鳥さん!?」
律子「なんで? 地下渓谷からは出られないはずじゃ……?」
コトリマインド「もちろんそうですよ? ただし、本体は……ですけどね」ニコッ
律子「本体……? じゃあ、あなたは小鳥さんの分身か何かだとでも言うの?」
コトリマインド「ズバリ、その通りです! 私の事は、コトリマインドと呼んでくださいね?」
律子(これからみんなで乗り込もうって時に、なんてタイミング……)
律子(っていうか、あまりに普通過ぎてどう対応していいか分からない)
律子(……ひとまず、様子を見るしかないわね)
コトリマインド「そんなに恐い顔しないでくださいよぅ。せっかくこうして久々に対面できたっていうのに」
律子「あ……ごめんなさい。そうですね」
コトリマインド「でもまあ、それも仕方ないのかな。手紙でコンタクトを取ってはいましたけど、こうして会うのは、この世界では初めてですもんね?」
律子(……そうだわ。私は小鳥さんの手足となり悪を演じていた)
律子(でも、今は違う。貴音によって自分を取り戻す事ができたから)
律子(言ってみれば、小鳥さんを裏切った形になる)
律子(その事を、小鳥さんはどう考えているの……?)
コトリマインド「……もう、いつまで黙っているんですか? なんか私が一方的に喋っててさみしいですよぉ〜」
律子(いつもの小鳥さん……のように見える。小鳥さんも悪を演じているだけなのかしら……)
律子(……とにかく、これは小鳥さんの真意を確かめるチャンスかもしれないわね)
律子(よし……)
律子「……あの、小鳥さん?」
コトリマインド「はい、なんです? 私の得意技ですか? 私の得意技はですねぇ……」
律子「そんな事は聞いてません。小鳥さん、あなたは何が目的なんですか?」
コトリマインド「………」
律子「……話してくれませんか?」
コトリマインド「……話すも何も、前に律子さんに言ったはずですよ? 『みんなを楽しませる』のが私の目的だって」
律子「ごまかすのはやめてください! 小鳥さんだって知ってるんでしょう? 『私たちが元の世界へ帰る方法』を!」
律子「どうすればいいか、みんなで考えないと!」
律子「あの子たちは、苦労してここまで来ました。……あなたに会うために」
律子「みんな、小鳥さんの事が心配なんですよ!」
コトリマインド「……あーあ、律子さんには足りないみたいですね」
律子「……え?」
コトリマインド「私と本気で戦う『覚悟』が」
律子「っ……!」
コトリマインド「もういいです。私、みんなと遊んできますから。いるんですよね? ここにみんなが」
律子「!」
律子(……ダメ、今小鳥さんをみんなのところへ行かせるわけにはいかない。だって、あの子たちもまだ覚悟ができてないもの……!)
律子(今の状態で小鳥さんをあの子たちに会わせるなんてできない)
律子(仕方ない、ここは私が食い止めるしか……!)
律子「……!」チャキッ
コトリマインド「……うふふ、やっとその気になってくれましたね? さあ、遊びましょう?」ゴゴゴ
律子「……言っておきますけど、私だって簡単にやられたりしませんからね」
律子「……はあああっ!」ダッ
コトリマインド「ああ……やっとここまで来たわ……! 長かった……本当に、長かった……!」
コトリマインド「楽しませてあげますよ、律子さんっ!」
…ガキィン!!
律子「はあっ!」ブンッ
ザシュッ!!
コトリマインド「くぅ……!」
律子「……ファイガ!!」
ボオオォォオオオ!!
コトリマインド「熱っつ! 熱っつぅい!」ジタバタ
…スタッ
律子「………」
コトリマインド「ふーっ、ふーっ……あー熱かったぁ」
コトリマインド「ふふっ……なかなかやりますねぇ、律子さん。さすがゴルベーザ役ってところですかねー」
律子「まったく……よく言うわ」
律子「今の、全然効いてないんでしょう?」
コトリマインド「まったく効いてないって事はないですよ? ……ただ、私のHPは40000くらいありますからねぇ」
コトリマインド「今の律子さんの魔法と剣での攻撃、二つ合わせてもせいぜいダメージは1000程度ってところです。これがどういう事か分かります?」
律子「……つまり、今の攻撃を40回繰り返してやっと小鳥さんが倒れるかどうか、ってとこですか」
コトリマインド「正確にはちょっと違います。律子さんは私の反撃を考慮していないみたいですから」ニコッ
律子「!」
コトリマインド「今度は、こちらから行かせてもらいますね?」
律子「く……!」チャキッ
コトリマインド「うふふっ」ダッ
真美「ふわぁ〜……」ノビッ
真美「ん〜……よく寝たな〜……」ゴシゴシ
やよい「真美おはよう。顔洗ってきたら? 寝ぐせもすごいよ?」
真美「あ、やよいっちセンパイおはー。うん、あとで行ってくるよー」
響「あれ……?」キョロキョロ
響「ねえ雪歩。ずいぶん人数が少ないみたいだけど、みんなどこに行ったんだ?」
雪歩「おはよう響ちゃん。えっとね、真ちゃんと伊織ちゃんとあずささんで春香ちゃんたちを迎えに行ったみたいだよ?」
亜美「亜美とゆきぴょんでお留守番だってさ。つまんないのー」
響「春香たちを迎えに行ったって……え? どういう事? 別々に行動してるのか?」
雪歩「……そっか、響ちゃんたちは知らないんだったね」
雪歩「こっちで何があったかを話すよ。だから、響ちゃんも教えてほしいな。四条さんがいない理由を」
響「……そーだったな。うん、わかったぞ」
ーーー
雪歩「……そんな事があったんだね、四条さん……」
響「そっちもいろいろ大変だったみたいだな」
雪歩「春香ちゃんが、ちょっとね」
真美「はるるん、ついに殺意の波動に目覚めちゃったかぁ……」
亜美「ホントたいへんだったんだよ? ヤミるんは戦ってる亜美をひとり置いてどっか行っちゃうしさー」
真美「……亜美、ガンバったんだね」
亜美「……ふ、ふんっ! 亜美たちはケンカ中なんだかんね! 気安く話しかけないでよねっ!」
やよい「亜美? 仲良くしないと、めっ! だよ?」
真美「まあまあやよいっちセンパイ、ここは真美に任せて」
真美「……亜美。真美ね、ちょっとの間だけど亜美がいなくてチョーさみしかったよ。だから、こーしてまたブジで会えて真美、うれしい!」ニコッ
亜美「!」
亜美「……っ」
真美「あの時はごめんね、亜美。真美、もー少し亜美のキモチ考えればよかったかも」
亜美「………」
亜美「…………も」
真美「うん?」
亜美「あ、亜美もまあ、ほんのちょびっとだけど、チョーさみしかった……かもね……///」
響「ほんのちょびっとだけ超さみしかったって、どういう意味なんだ……」
真美「えへへっ♪ 」ダキッ
亜美「わっ」
真美「んじゃ、仲直りねっ?」
亜美「むぅ……」
亜美「……ちかたないな。我々の任務にはどうやら君の力が必要なようだ。また、力を貸してくれるかね?」ニコッ
真美「オーケー、ボス!」ニコッ
雪歩「良かったぁ、これで一件落着だね」ニコニコ
やよい「兄弟は仲良しが一番です!」ニコッ
響「うんうん、真美もなかなかお姉ちゃんらしくなってきたかもなー」
真美「んっふっふ〜、真美にはたよりになるセンパイがついてるかんねー」
亜美「センパイって?」
真美「モチロン、やよいっちセンパイに決まってるっしょ!」
やよい「えっ!? わ、わたし?」
響「なるほど、やよいなら納得だ」
やよい「あの、それよりも」
雪歩「どうかしたの? やよいちゃん」
やよい「さっきから律子さんがいないなーって」
雪歩「あ、そういえば……」
コトリマインド「どっせーい!」
ドガッ!!
律子「……っく……ぅ……!」ヨロッ
律子(一撃一撃が重い……! 今まで戦ってきた魔物の比じゃないわ)
コトリマインド「ほらほら、のんびりしている暇はありませんよ? 律子さん」
ヒュッ…
ガキィン!!
律子「……っと!」ググッ
コトリマインド「わあ、いい反応♪ 」
コトリマインド「じゃあ、これはどうです?」ブゥン…
律子「……!」
律子(なんか……ヤバそう!)
コトリマインド「……フレア!」
ブゥン…
バババババババッ!!
律子「うあ……!」
…ドサッ!
コトリマインド「うーん、一方的過ぎるのも考えものよねぇ。やっぱりいくら律子さんが強くても、一人じゃ私には太刀打ちできないかぁ」
律子「……まったく……」ヨロッ
コトリマインド「あら……」
律子「本っ当に……こういう時は生き生きとしますね、あなたは……」ザッ
コトリマインド「生き生きするなって言う方が無理な話ですよぅ♪ だって私たち、ゲームの世界に来てるんですよ? こんな事、普通あり得ないです」
コトリマインド「せっかく不思議な体験をしてるんだから、楽しまないと♪ 」
律子「……行かせませんよ、みんなのところへは」キッ
律子「あなたは、私がここで食い止めるっ!」チャキッ
コトリマインド「……いい表情です、律子さん」
コトリマインド「さあ、もっと楽しみましょう!」
亜美「……おーい、りっちゃーーん!」
響「律子ぉーー! どこだーー!?」
やよい「律子さーーん!!」
真美「……りっちゃん、いないね」
響「どこ行ったんだ、律子……」
亜美「さっきまではいたんだけどね」
やよい「うー……ここってけっこう広いですし、もしかして迷子になっちゃったんでしょーか?」
雪歩「………」
雪歩「もっと奥に探しに行ってみよう。ひょっとしたら律子さん、私たちのために何かしてくれてるのかも」
響「……それ、律子ならあり得るかもね。今までも律子はいつも自分たちの影で頑張ってくれてたから」
真美「でも、ゆきぴょん。みんなを待ってなくていいの? 真美たちがいなかったら、あとから来たみんなが困っちゃうんじゃない?」
雪歩「あ、そっかぁ。うぅ、でも……」
やよい「あの、雪歩さん。二手にわかれたらどーですか? ここでみんなを待ってるチームと、律子さんをさがしに行くチームと」
雪歩「! ……そうだね、そうしよう」
雪歩「じゃあ、私とやよいちゃんで律子さんを探しに行くから、響ちゃんは真美ちゃん、亜美ちゃんと一緒にここで待っててもらえるかな?」
響(ふーん……)
亜美「ええー? また亜美はお留守番なのー!?」
真美「亜美、しょーがないっしょ。今はゆきぴょんがイチバンお姉ちゃんなんだもん」
亜美「むぅ……」
響「亜美、雪歩の言うとおりにしよう。ここで揉めても話が進まないぞ」
亜美「……わかったよー」
雪歩「ごめんね、亜美ちゃん」
響「じゃあ、気をつけてな」
雪歩「うん。響ちゃんも、そっちはよろしくね?」
響「……へへ、今の雪歩、なんだか一味違うな!」ニコッ
雪歩「そ、そんなことないよぅ! 私なんか全然……///」
響「あ、そういうところはなかなか直らないんだな」
響「とにかく、律子のこと、よろしくな!」
雪歩「……うんっ」グッ
スタスタ…
雪歩「……やよいちゃん、ごめんね? 私なんかが勝手に決めちゃって……」
やよい「そんな、気にしないでください! わたし、雪歩さんといっしょに行動できてうれしいですから!」
雪歩「えへへ、そう言ってもらえると助かるよ」
やよい「それに、なんだか今日の雪歩さんは、とってもたのもしいです!」
雪歩「そ、そう、かな?」
やよい「はい!」ニコッ
雪歩「さっきはありがとう。やよいちゃんの助言がなかったら私、どうしていいか分からなかったかも」
やよい「えへへ、おやくに立ててよかったです!」
雪歩「……早く律子さんを見つけなきゃだね」
やよい「はい、ガンバりましょー!」
スタスタ…
亜美「ぬぅ……」
亜美「ヒマヒマっしょ……」
響「まあまあ、こうやってみんなを待つのだって立派な仕事だぞ?」
亜美「そーかもしんないケドさー」
真美「……ねえひびきん。なんかさっきのゆきぴょんってオラオラってカンジだったよね?」
響「いや、オラオラって程じゃなかったと思うけど……」
響「……うん。でも、きっとさっき真美が言った通りだと思うぞ」
亜美「真美が言ったとおりって?」
響「今いるメンバーの中では雪歩が一番お姉さんでしょ? 雪歩なりに自分がしっかりしなきゃって思ったんじゃないか?」
亜美「ほーう」
真美「なるほど、ゆきぴょんもお姉ちゃんに目覚めた、と」
響「んー、真美のそれとは少し違うんじゃないか?」
響「でも、ああいう風にここ一番って時に自分を奮い立たせるのが雪歩なんだって自分は思う」
響「普段は大人しいから、そういうのが目立ち安いよね、雪歩って」
亜美「ひびきんって、何気にお姫ちんいがいの人のこともちゃんと見てるんだねー」
響「そんなの当たり前だぞ。みんな大切な仲間なんだから」
響(……雪歩が本当は強い子だっていうのは、あのダークエルフとかいう怪物と戦った時にもう分かってたからな)
響(成長したなぁ……雪歩。自分も負けていられないぞ!)
春香「……ふぅ、ようやく到着だね」
千早「結構な距離を移動してきたのね、私たち」
美希「……zzz」
P「二人ともお疲れ。すまないな、二人だけに苦労させて」
春香「いえ、気にしないでください」
千早「そうですよ。プロデューサーは私の胸でじっとしててくれればいいんです」ニコッ
P「もはやべろちょろでいる事に違和感を感じなくなってきたよ、俺自身」
千早「それにしても、なんだかとても静かね」
春香「そうだよねぇ。あれだけ大勢で激しい戦いをしてたっていうのに、変だよね……?」
P「もしかしてもう戦いは終わったのか?」
千早「その可能性もありますね」
春香「とにかく、中に入ってみようよ」
千早「そうね」
美希「……zzz」
…ガチャ
春香「ごめんくださーーい!!」
…シーーン
春香「……やっぱり誰もいないみたい」キョロキョロ
春香(洞窟の中は……)
春香(生々しい戦いの傷跡がそこかしこに……)
春香(……ん? あれは……)
スタスタ…
千早「……プロデューサー、これからどうしますか?」
P「すでに戦いが終わってここから移動したとなると……みんなは貴音たちが向かったバハムートの家へ行ったか……」
P「それとも、俺たちを探してくれているのかもしれない」
P「……いやでも、律子がついてたからな。律子なら『自分たちだけでも一旦目的地へ向かった方が合理的だ』とか考えそうでもある」
千早「いずれにせよ、私たちもすぐに移動すべきですね」
P「ああ、そうだな」
春香(この壁の裂け目……これはたぶん、暗黒剣でできた亀裂だね。まだほんの微かに暗黒闘気が漂ってる)
春香(暗黒剣ってことは、これは律子さん……お姉ちゃんがやったんだ)
春香(すごい……私が暗黒騎士だった頃とは比べものにならない威力だよ、これ)
春香(ヤミちゃんの暗黒剣といい勝負……ううん、それ以上かも)
春香(でも、暗黒剣は自分の生命力を犠牲にして力に換える剣。その威力に比例して、刃が自分に返ってくる)
春香(無理してないかな、お姉ちゃん。……心配だな)
千早「……春香? どうかしたの?」
春香「……あ、ううん、ごめんね」
タタタタ
P「春香、疲れてるところ悪いが早速移動だ」
春香「はい、分かりました」
千早「では、どこへ向かいますか?」
P「そうだな、まずは……」
「……ったく、あずさに任せた私がバカだったわ。ここ、最初に魔物と戦った場所じゃないの」
「ご、ごめんなさい伊織ちゃん。私も何か役に立ちたくて……」
「まあまあ、終わった事はしょうがないだろ、伊織」
春香「……あれっ?」
千早「あそこにいるのは……」
P「みんな……!」
春香「おーーい!!」フリフリ
真「えっ……?」
伊織「ちょっと……春香に千早、美希までいるじゃない!」
あずさ「まあ、良かったわ〜♪ 」
真「どうしたのさ? なんで春香たちがここにいるの?」
春香「なんでって……ヤミちゃんの事が解決したからみんなのところに戻って来たんだよ?」
伊織「…………あ」
千早「真たちこそ、どうしてここに?」
真「ボクたちは君たちを探しに来たんだけど、ちょっとトラブルがあって、でも結果オーライっていうか……」
千早「?」
伊織「よく考えてみれば当たり前の事よね」
伊織「私たちは春香たちとこの場所で別れた。でも春香たちとは合流地点を決めていなかったから、春香たちがここへ戻って来るのは当然よ」
真「あ、そうか! じゃあ、もしかしてボクたち、見当違いの場所を探そうとしてたって事?」
伊織「そうなるわね。あずさのファインプレーがなければ」
あずさ(……本当は、思ったところと別の場所に瞬間移動しちゃったのは黙っておいた方がいいかしら〜)
春香「ねえ、ところで他のみんなはどこにいるのかな?」
伊織「アンタたちと貴音以外はすでに目的地……月の民の館へ到着してるわ」
千早「……なるほど、プロデューサーの考えは当たっていましたね」
P「……みたいだな」
P「わざわざ迎えに来てもらってありがとうな、三人とも」
伊織「……あら、アンタいたの?」
P「あ、えーと、一応……」
春香「みんな、ごめんね。私のせいで迷惑かけちゃって」
真「全然気にする事じゃないさ。春香にだって事情があったんだろ?」
春香「……うん」
あずさ「みんな、疲れてない? 回復しましょうか?」
千早「ありがとうございます、あずささん。でも、大丈夫です」
伊織「千早、ご苦労様。アンタに任せて正解だったみたいね」
千早「いえ……」チラ
美希「……zzz」
千早「今回の事は、美希の功績が大きいわ」
伊織「……そう」
伊織「とにかく、とっとと帰りましょ。みんなが待ってるわ」
春香「うんっ」
真「そうだね!」
あずさ「うふふ、みんなが揃ったらお祝いでもしたいわね〜」
千早「あずささん、それはさすがに呑気すぎるんじゃないでしょうか……」
美希「……いちごババロア……」ムニャムニャ
展開が本家とかけ離れているのは仕様です
続きが楽しみで仕方ない
…ドガッ!!
律子「っ……ぐぅ……!」ヨロッ
コトリマインド「はいっ!」ヒュッ
バキッ!!
律子「が……はっ……!」ガクッ
コトリマインド「どうしました? 律子さん。なんだか動きが鈍くなってきてません?」
律子「はぁ、はぁ……っ」
律子(……まずい。ここへきて暗黒剣を使った代償が響いてきてるわ)
律子(身体が思うように動かなくなってきた)
律子(こんなことなら、私も少し休んでおけばよかったかも……)
コトリマインド「みんなを呼んで来たらどうです? 私、ここで待ってますから」
コトリマインド「言いにくいんですけど……律子さん一人じゃ、ちょっと役不足みたいです」
律子「!」
コトリマインド「いいですか? 私はあくまで分身ですから、本体程の性能はありません」
コトリマインド「その私にここまで手こずっているようじゃ……ね?」
律子「………」
これから投下します。
コトリマインド(……ここまで言われたら律子さんのプライド、ズタボロだろうなぁ)
コトリマインド(……でも)
律子「……分身だか本体だかなんて知ったことじゃないわ」
律子「ああもう、あったまきた! ちょっと本気で行かせてもらいますからね!」
コトリマインド(それでも、向かって来る。勝てないと分かってても)
コトリマインド(みんなのために体を張る律子さん……)
コトリマインド(濡れ……いえ、惚れちゃいますっ!)キュンキュン
律子「………」スチャ
コトリマインド「……ん? 剣を収めた……?」
律子「……時は、来た」バッ
コトリマインド「詠唱……?」
律子「赦されざる者の頭上に、星砕け振り注げ!」
コトリマインド「えっ……これってまさか……!」
律子「……メテオッ!!」
…ヒュー …ヒュー
ヒュー… ヒュー……ヒュー…
ドドドドドドドドドッ!!
コトリマインド「いだだだだだだっ!!」
律子「はぁっ、はぁっ……」
律子「……どうです? 少しは効きました?」
コトリマインド「ううぅ……たんこぶがたくさんできちゃったよぅ……」ヒリヒリ
律子「はぁ!? たんこぶ!? う、ウソでしょ……?」
律子「メテオってもっとすごい魔法じゃなかったの……?」
コトリマインド「いえいえ、ちゃんと効いてますよ?今ので4000くらい持って行かれたかしら」
律子「はぁ、4000でたんこぶですか……」
コトリマインド「正直、驚きましたよ。本編でゴルベーザがメテオを使うのは最後の最後だったはず」
コトリマインド「律子さんは今、ゴルベーザを越えたかもしれません!」
律子「……あの、さっきから誰なんです? そのゴルベーザって」
コトリマインド「暗黒騎士ゴルベーザ。本編で主人公たちを苦しめる悪の親玉。だがその正体は……」
コトリマインド「主人公セシルの、実の兄」
律子「……!」
コトリマインド「彼は、真の黒幕ゼムスに操られていただけに過ぎなかった」
コトリマインド「最終決戦間際でようやくゼムスの呪縛から解かれたゴルベーザは、セシルたちに加勢するも、それまで闇に手を染めていた彼にクリスタルが輝くはずもなく……」
コトリマインド「彼は、諸悪の根元ゼムスの真の姿を前に、呆気なく敗れてしまう……」
コトリマインド「律子さん、あなたがそのゴルベーザ役なんです」
律子「………」
律子「……つまり、私じゃ小鳥さんに勝てないと?」
コトリマインド「………」
コトリマインド「……私はともかく、本体には厳しいでしょうね」
律子(確かに、大体ここまで小鳥さんの言ったような展開だったわね)
律子(なるほど、私は主人公春香の影で報われない運命を辿るってわけなのね)
律子(損な役を引いてしまった自分のクジ運を呪うべきか……)
律子(……いえ)
律子「……忠告ありがとうございます、小鳥さん」
律子「でも、それならなおさら私は引けない。あの子たちはまだまだ私がついてないと」
コトリマインド「律子さん……」
律子「それに、ゴルベーザだかサルベージだか知りませんけど、同じ道を辿ってたまるもんですか!」
律子「ゲームの筋書きなんかに、私は負けません!」
コトリマインド「ああ……」ゾクゾク
コトリマインド「美しい……美しいです、律子さん……!」
ーー散り際の命って、なぜこうも美しいんでしょう?
律子「……え?」
コトリマインド「右手にフレア……」ブゥン
コトリマインド「左手にフレア……」ブゥン
律子「魔法を同時に二つ……!?」
律子(だったらこっちも、今までで一番ダメージの通った攻撃で応戦するしかない!)
律子(覚えたての魔法を二度も使うのは不安だけど、私の魔力、どうか持って……!)
律子「……時は来た!」
律子「赦されざる者の頭上に、星砕け振り注げ!」
コトリマインド「うふふふふふふふふ!」
律子「メテオッ!!」
コトリマインド「メガフレア」
ゴゴゴゴゴゴ…
ーーカッーー!!
ーードゴォ…ン
やよい「はわっ! い、今、ばくはつみたいな音が……」
雪歩「う、うん、確かに聞こえたね」
雪歩(律子さん、もしかして何かトラブルに巻き込まれた……?)
やよい「雪歩さん、今の音、下の方から聞こえました!」
雪歩「そうだね、地下で何かあったのかも!」
雪歩「……行こう、やよいちゃん!」スッ
やよい「はいっ!!」ギュッ
タタタタ…
亜美「ねえ真美、今……」
真美「うん、真美にも聞こえたよ」
亜美「まさか、『何か』が攻めてきた……?」
真美「でも、それはおかしーよ。ピヨちゃんの手下は帰ったはずだし、ピヨちゃん自身も地下から動けないはずだし……」
亜美「………」
亜美「もし真美がピヨちゃんだったら、どーする? 亜美たちがすぐ近くにいるって分かったら」
真美「それは、んー……ガマンできなくてみんなに会いに行っちゃうかもね」
真美「…………あ」
亜美「………」
真美「………」
亜美「……確かラスボスの手前くらいにさ、敵として出てきたよね。ゼムスブレスとかゼムスマインドとか」
亜美「あれって確か、ゼムスの分身って設定じゃん?」
真美「亜美が言いたいコトはわかるけど、でも……」
響「……考え過ぎじゃないか? 亜美」
亜美「でも、相手はあのピヨちゃんだよ? ゼッタイなんかトリッキーなことしてくると思うよ」
真美「じゃあ、もし亜美の言うとおりだどしたら、今りっちゃんはピヨちゃんとタイマン中ってこと?」
真美「それってけっこーヤバくない?」
響「律子の捜索は雪歩とやよいが向かってる。律子の事は二人に任せるしかないさー」
真美「ひびきん、ちょっとそれムセキニンっしょ。仲間だったらもうちょっと……」
響「仲間だから、だぞ」
真美「えっ?」
響「自分たちはここから動けない。雪歩に任されたからな。みんなが来るまで待っててって」
響「自分たちにできる事は、二人を信じて待つ事。二人なら、きっと大丈夫さー!」
真美「そっか……。うん、ひびきんの言う通りかもしんない。仲間だったらちゃんと信じないとダメだよね」
亜美「いやー、なかなかひびきんも成長しましたなー」
響「なんでそんな上から目線なんだ……」
響「ねえ二人とも、自分、ちょっとだけ用事があるから出てくる。ここを二人に任せてもいいか?」
亜美「え? なんで?」
真美「ここから動いちゃダメって言ったのはひびきんだよ?」
響「ごめん。でもすっごく大切な事なんだ」
響「貴音が戻って来た時に、絶対に必要になる事だから」
亜美「えっ……?」
響「頼むよ、二人とも」
亜美「まあ、ひびきんがそこまで言うなら……」
真美「真美たちは別にいーけど」
亜美「でも、あんましムチャなことはしちゃダメだよ?」
響「うん、分かってるぞ」
タタタタ…
雪歩「はぁっ、はぁっ……!」
雪歩(さっきの音……なんだったんだろう)
雪歩(月の民さんがお料理失敗しちゃったとか?)
雪歩(……ううん、そんなのじゃない、もっととても大きくて激しい音だった)
雪歩(まるで、ものすごい魔法同士がぶつかり合ったような……)
雪歩(でも、今は魔物さんたちもいないし、律子さんが危ない目に遭う事なんてないはずだよ……!)
雪歩(ないはず、なのに……)
雪歩(……なんでだろう。すごく嫌な予感がする)
雪歩(ダメだよね、私がそんな弱気じゃ。律子さんは無事。きっと無事でいてくれてる)
雪歩(だって、『そんな事』あり得ないもん)
雪歩(『あの人』は今、動けないはずだから……)
やよい「……あっ、雪歩さん見てください! ドアがあります!」スッ
雪歩「………」
雪歩「開けて……みようか」
やよい「はいっ! 律子さん、見つかるといいですね!」
雪歩「うん、そうだね」ニコッ
雪歩(大丈夫……大丈夫……)
雪歩(さっきの音は、律子さんが魔法の練習でもしてたんだよ)
雪歩(だから、きっと大丈夫……)
…ガチャ ギィ…
コトリマインド「うふふ……」
コトリマインド「いらっしゃい。お久しぶりね、雪歩ちゃん、やよいちゃん」ニコッ
雪歩・やよい「!!」
雪歩「こ……小鳥さん、なんですか……?」
雪歩(どうして小鳥さんがここに……!?)
雪歩(地下で封印されてるはずじゃなかったの……?)
コトリマインド「ええ、そうよ」
コトリマインド「しばらく見ないうちに逞しくなったわねぇ、二人とも♪ 」
雪歩「は、はぁ……」
雪歩(ウソ……当たっちゃった……嫌な予感が……)
やよい「小鳥さんお久しぶりです! あの、お話してたいんですけど、わたしたち、律子さんをさがしてるんです!」
やよい「律子さんを見ませんでしたか?」
コトリマインド「ああ、律子さんなら……」
コトリマインド「ほら、あそこでお昼寝してるみたいね」スッ
律子「………」グッタリ
雪歩・やよい「律子さん!!」
タタタタ…
やよい「律子さん、律子さん、しっかりしてください!」
律子「………」グッタリ
雪歩(ひどい怪我……)
雪歩(こんな怪我、ちょっと転んだとかそんなのじゃ絶対にできない。……まるで、誰かに痛めつけられたような……)
やよい「雪歩さん! ぽーしょん持ってますか!?」
雪歩(じゃあ、いったい誰がこんな事……?)
雪歩「………」
やよい「雪歩さんっ!!」
雪歩「ひゃうぅっ!?」ビクッ
やよい「お薬、持ってますか? 律子さんに飲ませてあげないと!」
雪歩「そ、そうだよね、うん! ちょっと待ってて」ゴソゴソ
コトリマインド(……二人だけかぁ。まあいいわ。雪歩ちゃんとやよいちゃんがどれだけ成長したのかも見てみたいし)ニコッ
コトリマインド(っていうか雪歩ちゃん、なんだかすごい重装備ねぇ。全身ガッチガチじゃない)
律子「ゲホッ、ゴホッ……!」
やよい「り、律子さん、だいじょーぶですかっ!?」ギュッ
雪歩「律子さん!」
律子「や……やよいと……雪歩……? あんたたち、なんでここに……」
やよい「すぐにみんなのところに連れて行きます! 真美にかいふくしてもらいましょう!」
コトリマインド「……残念だけど、それは許可できないわねぇ」
雪歩「!」
やよい「? ……あの、律子さんのけががひどいんです。早く手当しないと……」
コトリマインド「ダメよ」
やよい「ど、どーしてですか?」
コトリマインド「どうしてって、そんなの決まっているでしょう?」
コトリマインド「律子さんに酷い事したの、私なんだから」ニヤリ
雪歩(や、やっぱり、小鳥さん……! どっ、どうしよう……)
やよい「な……なんでですか!? なんで、小鳥さんがこんなひどいこと……!」
コトリマインド「それは仕方ないわ。私たちは敵同士だもの。特に律子さんは私を裏切った罪も」
やよい「おかしいですっ!!」
コトリマインド「」ビクッ
やよい「そんなの、ぜったいにおかしいです!」
やよい「だって、小鳥さんは……ぐすっ……いづも、やざじくでっ……!」ポロポロ
やよい「ごんなの、わだじ……しんじられないですっ……うぅっ!」グスッ
雪歩(やよいちゃん……)
コトリマインド(う……ちょっとコレ、罪悪感が振り切っちゃったわね……)
コトリマインド(でも今さらよ、小鳥。あなたは決めたはず。ラスボスはラスボスらしく……)
コトリマインド(諸悪の根元として、華麗にこの役を演じきってみせるって!)
コトリマインド「泣いたってダメよ、やよいちゃん。自分の身は自分で守らないとね?」
コトリマインド「そうしないと……」ブゥン
やよい「……こ、小鳥さん、何を……?」グスッ
コトリマインド「……フレア!」
ブゥゥゥン…
ババババババババッ!!
やよい「っ……!」
コトリマインド(……もう、後には引けないわね)
コトリマインド(やよいちゃん、耐えてくれたかし……)
雪歩「……!」ジッ
コトリマインド(……ら?)
やよい「ゆ、雪歩さん……!」
コトリマインド「雪歩ちゃん……!」
コトリマインド(雪歩ちゃんがやよいちゃんの盾になった……?)
コトリマインド(でも雪歩ちゃんって確かギルバート役……吟遊詩人よね? 全キャラの中でもかなり弱い方だったはずだけど)
コトリマインド(……いえ、違う。あの鎧に何か秘密があるのね)
コトリマインド(きっと相当良い装備なんだわ)
雪歩「……正直、どうしていいか分からないです」
雪歩「小鳥さんの事は大好きですし、こんな風に戦わなきゃいけないなんて、私、耐えられませんっ……!」
コトリマインド「雪歩ちゃん……」
雪歩「……でも、一番イヤなのは」
雪歩「ウジウジ悩んでいるだけで何もできないで、結局大切な人を守れない事ですぅっ!!」ガシャン
コトリマインド「!」ズキューン
やよい「……!」
コトリマインド(か……かっこ可愛い! これが雪歩ちゃん……?)
コトリマインド(すごい……すごいわ……!)ゾクゾク
雪歩「フレア……でしたっけ? さっきの魔法」
雪歩「ちょっと熱かったですけど、効きません。今の私には」ガシャ
雪歩「この『アダマンアーマー』がある限り、私にはどんな攻撃も通用しないんですぅ!」ガシャン
コトリマインド「そっかー、アダマンアーマーじゃしょうがないわねー」
コトリマインド「……って、ええええっ!!?」ガタッ
コトリマインド「あ、アダマンアーマー!? ほ、本当に!? 都市伝説じゃなかったのアレって!?」
雪歩「は、はい、よく分かりませんけど、プロデューサーや真美ちゃん、亜美ちゃんに教えてもらったんです……」
雪歩「そういえば、すごいレアアイテムだって言ってましたね」
コトリマインド「レアアイテムもレアアイテム、超絶激レアアイテムよぅ!!」
コトリマインド「私なんてもう、プリンを何億匹屠ったか分からないわ」
コトリマインド「それでも、巡り会えなかった……。それだけ貴重なのよ、その鎧は」
雪歩「そ、そうなんですかぁ……」
コトリマインド「……でも、丁度いいハンデかもしれないわね」
雪歩「えっ?」
コトリマインド「律子さんですら私の相手にならなかった。あなたが全てを弾き返す最強の鎧を纏って、ようやく私と同じ土俵に立てるって言ってるのよ」
雪歩「っ……!」
コトリマインド「かかって来なさい。死にたくなければ、ね」
やよい「ゆ、雪歩さん!」
律子「ゆき…ほ……」
雪歩「………」
雪歩「わ、私が……みんなを守りますぅ!」
コトリマインド「いいわ……! 返り討ちにしてあげます!」
コトリマインド(……あれ、でももし本当に雪歩ちゃんにどんな攻撃も通じないなら、私詰んでるわよね……?)
コトリマインド(ま、ラスボスだしなんとかなるかしら)
スタスタ…
春香「ごめんね、真。美希を背負ってもらっちゃって」
真「気にしないでよ。ボクもいいトレーニングになってるし」
美希「……zzz」
春香「そっか」
春香「うふふ、えへへ……」ニコニコ
伊織「何ヘラヘラ笑ってんのよ、気持ち悪いわねぇ」
春香「うぐっ……相変わらずだなぁ、伊織は」
伊織「なによ、悪い?」
春香「ううん、全然悪くないよ。……ただ、嬉しくって」
伊織「……は?」
春香「こうしてみんなでいつも通り変わらずにいられるってさ、当たり前なのかもしれないけど、すごく大事な事なんだなって」
春香「私、今回の事で学んだよ」
真「………」
千早「春香……」
あずさ「うふふ♪ 」
美希「……zzz」
伊織「いつも通り変わらずに、ねぇ。……もしかしたら、変わっちゃってる子もいるかもしれないわよ?」
伊織「いろいろあったもの、この世界へ来て」
春香「……そうだね。うん、そうかもしれない」
春香「でも、きっと肝心なところは何も変わらない。心の奥でみんな同じ想いを抱いてる」
春香「今はね、根拠もないけどそう信じられるんだ!」ニコッ
伊織「……!」ドキッ
伊織「……まったく、相変わらず能天気なんだから」
P「ところで、他のみんなは元気なのか?」
真「はい、今のところ特にこれと言って大きな問題もないですし」
あずさ「そろそろ響ちゃんたちも起きた頃かしらねぇ。帰ったら賑やかになってそうね〜」
伊織「ホント、律子の苦労が目に浮かぶわ」
千早「ふふっ」
伊織「……ああそうそう、律子と言えば」
伊織「あいつ、いくら言っても休もうとしないのよ。アンタからも少し言ってやってちょうだい」
P「そうなのか。うん、分かったよ」
春香「………」
真「……ん、館が見えてきたね」
あずさ「ようやく到着ね〜」
伊織「アンタたち、館に着いたら少し休みなさいよ。疲れてるんでしょ?」
千早「ありがとう、水瀬さん」
春香「えへへ、やっぱり伊織は優しいな♪ 」
美希「……でこちゃん……」ムニャムニャ
伊織「……みんな、帰ったわよ!」
亜美「あー! いおりんたちやっと帰ってきたー!」
真美「もー、こっちはタイヘンなんだよー!」
伊織「何かあったっていうの?」
P「っていうか、亜美と真美だけか? 他のみんなは?」
真美「それが、かくかくしかじかでーー」
真「ーー雪歩とやよいがいなくなった律子を探しに?」
真美「うん……」
千早「四条さんは?」
亜美「まだなんだよー」
伊織「……どうするのよ?」
P「そうだな……」
春香「………」
春香「……私、お姉ちゃんを探してくる!」スクッ
伊織「ちょっと待ちなさいよ! アンタ、律子がどこに行ったか分かってるわけ?」
春香「それは、分からないけど……」
春香「でも、お姉ちゃんに危険が迫っているかもしれないのに、私、見過ごせないよ!」
千早「春香、気持ちは分かるけど……」
P「………」
P「亜美、俺を元に戻してくれないか?」
亜美「えっ? いいけど……」
亜美「……トード!」
…ボンッ!
P「もし本当に音無さんが相手だとしたら、律子だけでなくやよいと雪歩も心配だ」
P「音無さんの強さは未知数だからな」
P「でも、こっちにはジュピターの三人にもらった回復アイテムがまだ残ってる。律子を探しに行こう」
春香「プロデューサーさんっ……!」
P「大丈夫、俺が援護するよ」ニコッ
春香「あ、それは嬉しいんですけど……///」モジモジ
春香「…………その、服、着てくれませんか?」
P「…………あ、素っ裸だった」
伊織「……まったく、何もかも台無しよ」
真「はは、まあ、そういうところがプロデューサーって感じもするけどね」
P「す、すまん」ゴソゴソ
P「……それで、誰が律子を探しに行くかなんだが……」
あずさ「あの、私も行ってもいいですか?」
千早「春香が行くなら私も行きます」
P(オールマイティのあずささんに前衛の千早か。結構バランスが取れているかもしれない)
P「うん、分かった」
P「あとは……」
伊織「……どうせ貴音を待ってる人間が必要なんでしょ? 船を山に登らせるわけにもいかないし、私が残ってあげるわよ」
真「ボクも残ります。小鳥さんに会ったらよろしくって伝えてください」
亜美「……ま、亜美たちもひびきんを待ってなきゃならないし」
真美「真美たちみんなでフルボッコじゃ、ピヨちゃんもカワイソーだしね!」
P(亜美と真美が残ってくれるなら、うまい具合に魔道士が別れるな)
P「すまないな、みんな。美希の事をよろしく頼む」
伊織「了解。文句のひとつでも言ってやりなさいよね。あのバカ事務員に」
P「ああ、わかった。……それじゃ、行こうか」
春香・あずさ・千早「はい!!」
ヒュッ…!
ガキィン!!
やよい「雪歩さんっ!」
雪歩「……だ、大丈夫、ちょっとびっくりしちゃったけど、なんともないよ」
雪歩「やよいちゃんは律子さんをお願いね?」
やよい「うぅ、でも……!」
律子(すごいわね。小鳥さんのあの恐ろしく重い一撃をまったく通さないなんて)
雪歩(……うん、平気。怖いけど、この鎧が私を、みんなを守ってくれる……!)
コトリマインド(なんともない……かぁ。流石はアダマンアーマーね)
コトリマインド(でも、それじゃ面白くないわねー)
コトリマインド「……雪歩ちゃんが鉄壁なのは分かったわ。でも、守りに徹しているだけじゃ私は倒せないわよ?」
雪歩「わ、私は別に、小鳥さんを倒したいわけじゃないですから……」
やよい「雪歩さん……」
律子「雪歩……」
コトリマインド「優しいのね、雪歩ちゃん。でも、その甘さは致命傷になりかねないわよ?」
コトリマインド「………」ブゥン
雪歩「えっ……?」
律子(あれは……!)
律子「逃げなさい雪歩! あれは危険だわ!」
雪歩「……いいえ、逃げませんっ!」グッ
雪歩(私が逃げたら、やよいちゃんと律子さんを守る人がいなくなっちゃいますから!)
やよい「………」
やよい「……!」グッ
コトリマインド「いくらアダマンアーマーといえど、無属性の、しかも召喚魔法最強の攻撃を完全に防ぐのは不可能、と私は見てるわ」
コトリマインド「……覚悟はいい?」
雪歩「うぅっ……!」ガシャン
コトリマインド「……メガフレア!!」
ブゥゥゥン…
ーーカッーー!
ドドドドドドドドドッ!!
雪歩「うぅああああっ!?」
律子「ゆ、雪歩!?」
雪歩(身体が、熱い……! 溶けちゃいそうなぐらい熱いよ……!)
雪歩(……でも、ここで私が逃げたら……!)
雪歩「うぅっ……!!」グッ
コトリマインド「頑張るわね、雪歩ちゃん。でも、いつまで耐えられるかしら……?」ググッ
ゴオオオォォオオ!!
雪歩「ああああっ!」フラッ
やよい(ど、どうしよう!? このままじゃ雪歩さんが……!)
やよい(でも、小鳥さんをきずつけるなんてわたしには……!)
律子「……やよい」ギュッ
やよい「! ……律子さん」
律子「あの小鳥さんは、小鳥さんであって小鳥さんではない、偽物よ……」
律子「だから……雪歩に、力を貸してあげてちょうだい」
やよい「で、でも……」
律子「あの人を倒さなければ、本物の小鳥さんに会いに行くのは不可能なの。お願い……!」
やよい「うぅ……」
やよい「……わ、わかりましたっ!」
やよい「いふりとさん、出てきてくださいっ!」バッ
イフリート「……っしゃあああっ!! 地獄の火炎っっ!!」
ボオオォォオオ!!
コトリマインド「……む、火の召喚獣『イフリート』ね。でも、それで私のメガフレアに対抗しようなんて……」
やよい「……しるふちゃん! 出てきてくださいっ!」バッ
コトリマインド「…………え?」
スゥゥーー…
シルフ「……はぁ、やっとこさ私の出番ですか。待ちくたびれたんですよ〜?」
シルフ「……風の囁きっ!」
ブワッ…!
コトリマインド「召喚獣を……」
律子「同時に二体……!」
雪歩「や、やよい……ちゃん……」ヨロッ
やよい「火は、風を受けるとごぉーっ!! ってもっとはげしくもえるんです!」
ボオオオオォォオオ!!
コトリマインド「なるほど、考えたわね……!」
コトリマインド「でも、それくらいじゃあ私のメガフレアは押し返せないわよ?」
やよい「だったら……」
やよい「お母さん、しばさん、出てきてくださいっ!!」バッ
スゥゥーー…
ミストドラゴン「……ミストブレス!」
シュゥゥ…! キラキラキラ…!
シヴァ「……絶対零度」
コォォォ… パキィン!!
コトリマインド「っ!? 霧と氷で、身動きが取れない……!」
雪歩「……ぅあ……」ドサッ
律子「ゆ、雪歩!」ダキッ
律子「体温が上がり過ぎてる……! 早く回復しないと……!」
律子(……でも、今のやよいの攻撃で小鳥さんのメガフレアを止める事ができたみたい)
律子(やよい……強くなったわね)
コトリマインド「……驚いたわね、立て続けに4体も召喚するなんて」
コトリマインド「やよいちゃん、いつからそんな事できるようになったの?」
やよい「えっと、わかりませんけど、なんとなくできそうな気がしたんです」
コトリマインド(複数同時召喚か。ちょっと厄介だなー。召喚魔法は一番攻撃力が高いのよねー)
コトリマインド(まあでも、どうせ私は分身だし、やよいちゃんの本当の強さをここで見極めるのもいいかもしれない)
やよい「小鳥さんのにせものさん、わたしが相手になりますっ!」ビシッ
コトリマインド「ふふふ、やよいちゃんひとりで大丈夫かしら……?」
ズズズ…
律子「! 小鳥さんの身体が消える……! やよい、気をつけて!」
やよい「は、はいっ!」
やよい「えっと、えっと……」キョロキョロ
コトリマインド「……後ろよ、やよいちゃん」
ヒュッ…
やよい「はわっ!」ダッ
コトリマインド「あら、うまく避けたわね。でも……」
ドゴォ!
やよい「あぅっ……!」ヨロッ
律子「や、やよい!」
やよい「うぅ……いたいです……」
コトリマインド「ふむ……」
コトリマインド「4体召喚なんてやってみせた後にそれだけ動けるのはすごいと思うけど……」
コトリマインド「もともと召喚士は前衛で戦うタイプじゃないものね。近接戦闘に関しては話にならないわ。律子さんの足元にも及ばないわねぇ」
コトリマインド「召喚魔法さえ使われなければ、やよいちゃんは私の敵じゃない」
コトリマインド「あなたは、他の誰かに守られていないと自分の力が発揮できないのよ」
やよい「!」
コトリマインド「どうする? まだ戦う意思はある?」
コトリマインド「律子さんは怪我で動けないし、雪歩ちゃんも戦線離脱。やよいちゃんひとりで私に勝てるのかしら?」ニヤリ
律子(私の時もそうだったけど、小鳥さん、かなりこちらを煽ってくるわね。精神攻撃のつもりなのかしら……)
律子(……ん? 精神…攻撃……?)
やよい「こうさんなんてしません!」
やよい「だって、わたしがこうさんしちゃったら、小鳥さんの遊ぶ相手がいなくなっちゃいますから」
コトリマインド「へぇ……」
やよい「なんだか、今の小鳥さんは浩司みたいです」
コトリマインド「……えっ?」
やよい「うちの浩司も、さみしくなるとよくダダをこねるんです」
やよい「小鳥さん、この世界でずっとひとりぼっちでさみしかったんですねよね? だから、誰かにかまってもらいたかったんですねっ」
やよい「わたし、やっと分かりました!」
コトリマインド「あ、あの、やよいちゃん?」
やよい「だから……わたしでよかったら、相手になります!」
コトリマインド「え、えーっと……なんか誤解してないかしら?」
やよい「いえ、だいじょーぶです! わたし、よく弟の相手をしてますから、こうゆーのなれてるんです!」キリッ
コトリマインド「いや、確実に誤解してるみたいなんだけど……」
コトリマインド「……まあいいわ。とりあえず逃げないで戦ってくれるみたいだし」
コトリマインド「それじゃあ、遊びましょう!」
やよい「はいっ!」
やよい「……!」ゴゴゴ
コトリマインド「うふっ、召喚する隙なんてあげないわよ?」ダッ
ガラッ…
コトリマインド「きゃあっ!?」
ドサッ!
コトリマインド「いたた……。もう、なんでこんなところに落とし穴が空いてるのよぅ!」
コトリマインド「…………はっ!?」
雪歩「はぁ、はぁ……!」チャキッ
雪歩「やよいちゃん、あとはお願いっ……!」
ドサッ
コトリマインド「ゆ、雪歩ちゃんいつの間に!?」
やよい「雪歩さん、ありがとうございますっ!」
やよい「うっうーーーーーーー!!」パァァ
コトリマインド(さっきやよいちゃんと話しているわずかな隙に落とし穴を掘ったっていうの?)
コトリマインド(やられたわ……!)
スゥゥーー…
コトリマインド(次は何が来るの……? ラムウ? それともまたイフリート?)
「……クク、ようやく私の出番か! 待ちわびたぞ、高槻やよい!」
「……数少ない出番だ、私も微力を尽くそう」
コトリマインド「!!」
「……エンジェルちゃんたち、回復してあげるよ☆」
「……ケアルダ!」
シャララーン! キラキラキラ…
雪歩「あ……ありがとうございますぅ」
コトリマインド「ど……」
コトリマインド「どういう事ですか!? 私、こんなの聞いてないですよぅ!」
コトリマインド「高木社長に黒井社長、ジュピターのみんなまで!!」
高木「どうもこうもない。今起きている事が現実だよ、音無君」
黒井「フン、妙な事に巻き込まれたが、それももう終わりだな」
冬馬「あいつが765プロの事務員か?」
翔太「つまり、ラスボスってわけだね」
北斗「………」
コトリマインド「そ、そんな……社長たちまで私の敵だなんて……」ガクッ
律子「小鳥さん……」
冬馬「なんつーか、女をよってたかってってのは性に合わねーな……」
北斗「ああ、さすがにこの状況はな」
翔太「でも、あの人を倒さなきゃ元の世界に帰れないんだよね?」
高木「音無君、こんな事になって私もなんと言っていいかわからない。しかし、何か方法はきっとあるはずだ」
コトリマインド「……ステキですっ!!」
高木「……は?」
コトリマインド「ステキ過ぎますよぅ、こんなの!」
コトリマインド「そりゃそうよね。私がこっちへ来ているんだもの、社長たちも呼ばれる可能性だって充分にあったのよね!」
コトリマインド「うふふ、まさか社長たちとも戦えるなんて! ああもう、私、嬉しくて嬉しくて……」
冬馬「な、なんだよあいつ、やる気満々かよ!」
北斗「思ったより逞しい人なんだなぁ」
律子「ったく、あの人はもう!」
高木「………」
黒井「御託はいい。さっさと始めるぞ」ゴゴゴ
コトリマインド「そうですねっ」
コトリマインド(……さっき伊集院君が回復魔法を使ってた。つまり、ジュピターは三人揃ってアスラ。そして高木社長は大っきな剣を腰に差してるから、多分オーディンね)
コトリマインド(って事は黒井社長は……)
高木「……黒井」
黒井「なんだ? まさか私の邪魔をするつもりか?」
高木「いや、そうではないんだが……」
黒井「元の世界へ戻るためにヤツを倒さねばならんのだろう? いい加減にお前も腹を括るんだな!」
高木「……そう、だな」
黒井「クク……!」
ザァァ…
雪歩「水が、黒井社長の周りに集まって……!」
律子「もしかして、津波……?」
やよい「あの、黒井社長、あんまりいたくしないであげてください!」
黒井「バカも休み休み言え! そんな器用な真似ができるか!」
黒井「覚悟はいいか、音無小鳥……! 私の津波の藻屑にしてやろう!」
コトリマインド(幻獣王、リヴァイアサン……! 相手にとって不足なし!)
黒井「……大海衝!!」
ザァァァァ…!!
コトリマインド「うふふふ……メガフレア!」
コォォ…
…ドッゴオオオオォォオオン!!!
コトリマインド「………」
黒井「………」
黒井「……ち、相殺したか」
コトリマインド「さすがリヴァイアサン……いえ、黒井社長ですね! まだ本気を出してないとはいえ、私のメガフレアと相討ちなんて」
黒井「……フン」
高木「黒井、今のはわざとか?」
黒井「妙な勘ぐりをするんじゃない。私の大海衝とヤツの魔法が同程度の威力だったというだけだ。高槻やよいに言われたからといって私が手加減などするわけがなかろう!」
高木「ふふ、そうか」
高木「……さて、それでは次は私の番だな」スッ
コトリマインド「高木社長……」
高木「心中を察するよ、音無君。本当ならば私が君と代わってあげられれば良いのだが……」
コトリマインド「あら? もう勝ったおつもりなんですか? 勝負はまだ始まってもいませんよ?」
高木「………」
コトリマインド「それに、社長の剣は私には通用しません。残念ですけど、それがこのゲームのルールですから」
高木「……そうなのかね?」
コトリマインド「ええ。ボスキャラにはボス耐性っていうのが設定されていて、中ボスの私にはあなたの斬鉄剣……即死攻撃は効かないんです」
高木「そうか……それは困ったねぇ」
雪歩「ほ、本当に効かないんでしょうか? 社長、すっごく強そうなのに……」
律子「このゲーム関しては、今この場で小鳥さんが一番詳しいでしょうから、きっと小鳥さんの言う通りなんでしょうね」
やよい「社長……」ギュッ
高木「………」チャキッ
コトリマインド「無駄だと分かっていてもやるんですね? 社長、あなたはもう少し賢い方だと思っていました」
高木「……彼の話だと、このゲームのストーリーは展開が大きく変わってきているらしい」
コトリマインド「……えっ?」
高木「だったら変わるんじゃないかな? ……そのルールとやらも」
高木「悪く思わないでくれたまえ」スッ
高木「……斬鉄剣!」ビュンッ
…ズバァン!!
コトリマインド「……っ!」
コトリマインド「………」
コトリマインド「………」
コトリマインド「…………ほっ」
コトリマインド(社長が変な事言い出すから少しドキドキしちゃったわ)
コトリマインド(でも、なんともない。斬鉄剣はやっぱり不発だったわね)
冬馬「……おい、あの事務員、無傷だぜ」
翔太「そう……みたいだね」
北斗「高木社長も手加減したのか……?」
コトリマインド「ふふっ、だから言ったでしょう? 社長の剣は私には効きませんって」
コトリマインド「今度はこちらの番ですね。覚悟してください!」
コトリマインド「……メガフレア!」
ーシーーン…ー
コトリマインド「……あれ? 」
雪歩「小鳥さんの魔法が発動しない……?」
やよい「どうしちゃったんでしょーか……?」
律子(まさか……そんな事があり得るの……?)
律子(でも、このタイミング、『そう』としか考えられない)
律子(もし本当にそうだとしたら……まるで手品ですね、社長)
コトリマインド「……メガフレア!」
コトリマインド「………」
コトリマインド「な……なんで!? なんで出ないのよぅ!」
高木「それはそうだろうね。私が斬ったのは……」
高木「…………君の、魔力だから」
コトリマインド「…………はい?」
コトリマインド(魔力を、斬る? そんな技聞いた事ないわよ!)
コトリマインド(でも、現にメガフレアが発動出来なくなってる)
コトリマインド(全てのMPを奪われたわけではなさそうだけど……)
コトリマインド(やられた。まさか社長にそんな事が出来るなんて……)
黒井「フン、やはり自分の部下に傷は付けられないか。甘いな、高木よ」
高木「ああ。……そうかもしれないな」
高木「律子君、萩原君、高槻君。彼女を、よろしく頼んだよ」
黒井「音無小鳥、貴様の本体に伝えておけ。次は地獄を見せてやる、とな」
冬馬「高槻、負けんなよな!」
翔太「じゃあね〜」
北斗「チャオ☆」
やよい「みなさん、ありがとうございました!」
スゥゥーー…
雪歩「消えちゃいました……」
律子「とにかく、これで形成逆転ね。やよい、雪歩、行くわよ!」
雪歩「はいっ!」
やよい「は、はい……」ヨロッ
ドサッ
雪歩「や、やよいちゃん?」ダキッ
やよい「す、すみません……だいじょーぶです……」
律子「無理もないか。あれだけ立て続けに召喚魔法を使ったんだもの。やよいは休ませておくしかないわね」
律子「雪歩、やよいのことお願い」
雪歩「はい、わかりました!」
律子「……さて」チラ
コトリマインド「ふりだしに戻る、って感じですかね?」
律子「そんな事はないです」
律子「最初よりもあなたの体力は削れた上に、メガフレアを撃てる魔力はもう残っていない」
律子「対してこちらは私と雪歩の体力は回復した。やよいのおかげで私たちがかなり有利に立てましたよ」
律子(私ももうメテオを撃てる魔力は残ってないけど、充分だわ)
コトリマインド「それじゃ第二ラウンド、行きますか?」
律子「……望むところですっ!」グッ
オーディンは一番報われない召喚魔法だと思います
律子「……と思ったけど、小鳥さん。第二ラウンドを始める前にもう一度聞かせてください」
律子「どうしても私たちは戦わなくてはならないんですか?」
やよい「!」
雪歩「………」
コトリマインド「………」
律子「雪歩も言ってましたけど、たとえゲームの世界とはいえ、自分の手で仲間を傷つけるのは正直心が痛みます」
律子「もしも戦う以外に元の世界へ帰れる方法があるなら、私はそれを試したい」
律子「これは私だけじゃなくて、多分みんなが考えている事なんです」
コトリマインド「………」
コトリマインド「そうですね。まあ、普通ならそういう考えになりますよね」
コトリマインド「でも、きっと無理です。私たちが元の世界へ帰る方法は、『このゲームをクリアすること』。つまり、ラスボスである私を倒すしか道はないんです」
律子「確かに、プロデューサーによればそういう話でしたけど、でも」
コトリマインド「律子さんちょっと待ってください」
コトリマインド「今気になったんですけど、プロデューサーさんって何の役なんですか? 味方キャラはアイドルの子たちで埋まってるし、他に重要なキャラはいなかったと思うんですけど」
コトリマインド「社長たちみたいに召喚獣だとしても、あと私が見ていない召喚獣はラムウだけ。……まさかラムウの役って事はないですよね?」
律子「あー……」
やよい「あの、小鳥さん。プロデューサーはらむさんじゃないですよ?」
コトリマインド「じゃあ、いったい何の役なの? 彼もこの世界へは来ているのよね?」
律子「そういえば、小鳥さんには結局隠したままでしたね。実はプロデューサーは、べろちょろなんです」
コトリマインド「? ……べろ…なんです?」
律子「だからべろちょろですよ。ほら、やよいのポシェットの」
コトリマインド「あー、あのかえるの……」
コトリマインド「って待ってください。FF4にべろちょろなんて出てこないんですけど?」
律子「彼曰く、『自分は演じる役の無かったイレギュラー』らしいです」
律子「なんだか複雑な事情があったみたいですけど、私も詳しい話は知らなくて」
律子「とにかくプロデューサーはべろちょろで、普段は誰かの首にぶら下がってます」
コトリマインド「ええぇ……でもべろちょろって。ポシェットって。それじゃあ何にもできないじゃないですか?」
雪歩「あ、あの、一応亜美ちゃんの魔法で時々人間になったりはしてるんですけど……」
コトリマインド「魔法? いったい何の魔法で?」
律子「トード、でしたっけ。人間をカエルにしたり、カエルから人間に戻したりするアレです。亜美しか使えない魔法なんですけどね」
コトリマインド「………」
コトリマインド(なんで私は今の今まで忘れていたんだろう、プロデューサーさんの事)
コトリマインド(そっか。プロデューサーさんはずっとみんなと行動していたのね)
コトリマインド(私がゼムス役だって事も、もう知っているわよね)
コトリマインド(どう思ったかな、私の事)
コトリマインド(調子に乗りすぎだろあの事務員、とか思われるてるのかなぁ……)
コトリマインド(はぁ~あ……少しはっちゃけ過ぎちゃったかしら)
コトリマインド(……でも、これを利用しない手はないわ)
コトリマインド(私と刃を交えたとはいえ、今ひとつ煮え切らない律子さんたちの態度。それはおそらく、まだ私を倒す覚悟がちゃんとできてないから)
コトリマインド(それなら、みんなを焚きつけてあげなきゃね)
コトリマインド(イヤでも私と戦いたくなるように)
律子「あの、小鳥さん?」
コトリマインド「……ああ、ごめんなさい。少し考え事をしてました」
コトリマインド「さ、始めましょう、律子さん」スッ
律子「……どうしてもやらなければならないんですか?」
コトリマインド「道は、一つしかありませんよっ!」ダッ
律子「!」
コトリマインド「えいっ!」ブンッ
律子「きゃっ!」ズサッ
律子「く……聞き入れてもらえませんか」
コトリマインド「私たちが戦う以外に道なんてありません。ですから律子さんも早く覚悟を決めてください!」
律子「………」
やよい「こ、小鳥さん……」
雪歩(覚悟……)
律子「……わかりました。私も本気を出す事にします」チャキッ
コトリマインド「あら、やっとその気になってくれましたか?」
律子「仲間にこんな事はしたくなかったけど……」ゴゴゴ
やよい「はわっ、律子さんのまわりになんだか黒いもやもやが出てきました!」
雪歩「あれって、春香ちゃんが暗黒騎士だった時と同じやつだ……!」
コトリマインド(……ようやく使う気になりましたか、暗黒剣)
コトリマインド(前にゾットの塔で私が律子さんを操って使った時はことごとく春香ちゃんに防がれちゃったけど、果たしてどの程度の威力なのかしら)
律子「……行きます! ……暗黒剣ッ!!」ブンッ
ズオオォォ…
コトリマインド(! ……これは……!)
ズドドドドドドーーン!!!
律子「………」
やよい「り、律子さん、すごいです……!」
雪歩(こんなだったっけ……。春香ちゃんの使っていた暗黒剣はもっと普通の感じだったような……)
雪歩(律子さんの暗黒剣……なんだか、怖い)
律子(つい力が入っちゃったわ。本当はこんな事したくないのに)
律子(まあでも、今の小鳥さんならこのくらい耐えるんでしょうね)
コトリマインド「……いたたた……」ヨロッ
コトリマインド「さすがにききましたよ、今のは……」
律子「効いてくれないと困ります。私だってここまで魔物と戦って来たんですから」
コトリマインド「ふ、ふふふ……」
コトリマインド「やっぱり私に傷を付ける可能性があるのは、律子さんですね」
コトリマインド「さあ、次はこちらの番です」スッ
律子「………」チャキッ
律子(さて、次は何をしかけて来る?)
律子(社長が小鳥さんの魔力を奪ってくれたおかげでメガフレアはない。フレアなら耐える自信はある。近接戦闘も、伊集院北斗に体力を回復してもらったし、まあついていけない事はないと思う)
律子(大丈夫、私一人でもなんとかなりそうね)
コトリマインド「……はっ!」ダッ
律子(まっすぐ来た!)
コトリマインド「ちぇすとぉ!」ブンッ
律子「ふっ!」ヒョイッ
律子(右ストレートはきっとフェイントで……)
コトリマインド「……はいっ!」クルンッ
律子(左上段後ろ回し蹴り! これを防いで反撃する!)
コトリマインド「……って考えているんでしょう?」ピタッ
律子「えっ?」
コトリマインド「……コンフュ」バッ
律子「あ……」ガクッ
やよい・雪歩「律子さんっ!!」
コトリマインド「うふっ♪ 接近戦は全部囮でしたー♪ 」
コトリマインド「いつまでも煮え切らない律子さん、ずるいですよ」
コトリマインド(私は、とっくに覚悟を決めたっていうのに……)
やよい「律子さん、だいじょーぶですかっ!?」ガシッ
律子「ぅ…ぁ……!」
雪歩「何か様子が変だよ。さっきの小鳥さんの魔法のせいかも!」
律子「ぅう……!」
やよい「えっとえっと、それじゃなにかおくすりを……」ゴソゴソ
律子「……ぅあああぁぁっ!」ブンッ
ザシュッ!!
やよい「あうっ!?」ヨロッ
ドサッ!
雪歩「や、やよいちゃんっ!?」
コトリマインド「あら、一気に形成逆転ねぇ」
律子「ぅううう……!」チャキッ
雪歩(律子さん、正気を失っちゃったんだ……!)
雪歩「………」チラ
やよい「うぅ……」グッタリ
雪歩(やよいちゃんは負傷しちゃってる……)
雪歩(やよいちゃんを守りつつ、律子さんを元に戻さないと)
雪歩(私が、なんとかしなきゃ!)グッ
律子「がああぁぁあっ!」ブンッ
ガキィン!
雪歩「うぅっ……!」ググッ
雪歩(すごい力……!)
律子「うあぁぁうっ!」ブンッ
バキッ!
雪歩「っ!?」
雪歩(……大丈夫、アダマンアーマーのおかげであんまり痛くない)
コトリマインド「……私がいるのを忘れちゃダメよー」ブンッ
ドゴォ!!
雪歩「うっ……!」ヨロッ
雪歩(……そ、そうだ、小鳥さんにも注意しなきゃいけないんだったよ……!)
雪歩(とにかく、小鳥さんの攻撃に耐えながら律子さんを……)チラ
律子「うぅ……!」クルッ
タタタタ…
雪歩「……あっ、律子さんがやよいちゃんの方に!」
雪歩「り、律子さん待ってくださいぃ!」タタタ
律子「がああぁぁっ!」ブンッ
やよい「り、律子さん……!」
雪歩「やよいちゃんっ!」
雪歩(ま、間に合わないっ……!)
…ガキィン!!
やよい「…………えっ?」
春香「っ……!」ギリッ
律子「ううぅぅ……!」ググッ
雪歩「……は、春香ちゃんっ!?」
やよい「春香さんっ!」
春香「やよい、雪歩、ごめんね、待たせちゃって! お姉ちゃんの事は私に任せて!」
雪歩「う、うん、ありがとう!」
コトリマインド「来たわね、春香ちゃんっ……!」
コトリマインド(……おいしいところを持ってくなー)
コトリマインド「雪歩ちゃん、これで私との戦いに集中できるわね?」
コトリマインド「こっちも楽しみましょう?」ダッ
雪歩「ううっ……!」チャキッ
コトリマインド「きえーーーっ!!」ブンッ
「ーーはっ!」
ガキィン!!
雪歩「!」
千早「萩原さん、私も手伝うわ!」ググッ
雪歩「千早ちゃん!」
コトリマインド「……いらっしゃい千早ちゃん。お久しぶりね……!」ググッ
千早「……そうですね、音無さん。お変わり無いようで安心しました」ググッ
コトリマインド「なんだかずいぶん余裕なのね……?」
千早「別にそういうわけではありませんが……私は萩原さんのようにあなたと戦う事を躊躇したりはしません……!」
コトリマインド「!」
千早「…………はっ!」タンッ
…フワッ
コトリマインド「『ジャンプ』! 竜騎士の固有アビリティキターーーー!!」
千早「…………ふっ!」
ザシュッ!!
コトリマインド「ごはぁ!!」
…スタッ
千早「………」
千早「あの、音無さん。真面目にやってもらえませんか? 今の攻撃、避ける事くらいできましたよね?」ジト
コトリマインド「ぐふ……うふふふ……」
コトリマインド「ハンデよハンデ。千早ちゃんがいくら強くっても、一人じゃ私には敵わないでしょうし」
千早「そうですね。私一人なら敵わないと思います。でも、もともと音無さんは萩原さんと戦っていたのでは?」
コトリマインド「それはそうだけど……」
コトリマインド「……あら? そういえば雪歩ちゃんは……?」キョロキョロ
ズズズ…
コトリマインド「……ん?」
ザバァッ!!
雪歩「小鳥さん、ごめんなさいっ!」ブンッ
バキィ!!
コトリマインド「うわらばっ!?」ヨロッ
雪歩「て、撤退ですぅ!」タタタタ
千早「萩原さん、大丈夫?」
雪歩「うん、アダマンアーマーのおかげでなんとか……」
雪歩「それよりありがとう千早ちゃん。律子さんが変な魔法にかかっちゃってどうしようって思ってたところだったんだぁ」
雪歩「あっ、そういえばやよいちゃんが律子さんに斬られて怪我しちゃって!」
千早「高槻さんなら心配いらないわ」チラ
あずさ「ケアルガ~」
シャララーン! キラキラキラ…
やよい「う……!」
P「やよい、大丈夫か!?」ゴソゴソ
P(最近全然使ってなかったけど、一応『いやしの杖』を持ってて良かったな)
P(ケアルガの回復量に比べたら微々たるものだけど)
P「それっ!」シャン
シャララーン! キラキラキラ…
やよい「……うぅ、あずささん、プロデューサー、ありがとうございます……」
雪歩「あずささん、プロデューサー!」
千早「さあ、私たちは小鳥さんを迎え撃ちましょう」
雪歩「う、うんっ!」チャキッ
コトリマインド(新たに合流したのは春香ちゃんに千早ちゃん、あずささんか……)
コトリマインド(ゲームには無いパーティ編成だけど、プロデューサーさんの考えかしら……)
コトリマインド(ともかく、今の私はプロデューサーさんを手に入れる事を考えないといけないわね)
コトリマインド(人数が増えてちょっと大変だけど、やるしかない)
コトリマインド「……さあ、行くわよ!」
千早「望むところです!」チャキッ
雪歩「っ……!」ギュッ
律子「ぐぅっ!」ブンッ
春香「えいっ!」ガキィン
春香「やあっ!」グイッ
律子「う……!」ヨロッ
春香「お姉ちゃん……」
春香(意識がないみたい。まるでゾットの塔で戦った時みたいな……)
春香(……もう、あんな思いはしたくない!)グッ
P(律子はまた音無さんに操られてしまったのか? まるでさっきまでとは別人みたいだ……)
P「あずささん、律子にエスナをお願いできますか?」
あずさ「は~い」
タタタタ…
あずさ「エスナ~」
シャララーン!
律子「………」
律子「あああぁぁあっ!」ブンッ
春香「わあっ!」ガキィン
あずさ「ごめんなさい、ダメだったみたいです……」
P「エスナが効かない? そんな無茶苦茶な!」
春香「プロデューサーさん、私に任せてくれませんか?」
P「春香? ……どうするつもりなんだ?」
春香「私ならきっとお姉ちゃんを元に戻せると思うんです」
P「え……?」
春香「大丈夫です。『ヤミちゃんが千早ちゃんを元に戻した』のを、私は見てましたから!」
P「……分かった。律子の事は任せる。ただし無茶はするなよ!」
春香「はい!」
コトリマインド(プロデューサーさん……)
コトリマインド(ついにお会いできましたね。こんな形ですけれど)
コトリマインド(私の計画にはあなたが必要です。一緒に来てもらいますよ!)
千早「はっ!」ビュンッ
コトリマインド「おっと!」ヒョイ
コトリマインド「えいっ!」ブンッ
千早「……ふっ!」ガキィン
コトリマインド「……強くなったわねぇ、千早ちゃん……!」グッ
千早「いえ、私なんてまだまだです。これまでいろんな人たちと戦ってきて、それを思い知らされました」ググッ
コトリマインド「真面目ねぇ……!」クルンッ
ドガッ!!
千早「くっ……!」ヨロッ
雪歩「千早ちゃん!」
雪歩「えいっ!」ブンッ
コトリマインド「ふふっ♪ 」ガキィン
雪歩「うぅ……!」ググッ
コトリマインド「まさかスコップで戦う吟遊詩人がいるなんて。雪歩ちゃんらしいわねー」
雪歩「………」
千早「萩原さん、避けてっ!」
千早「……ホーリーランス!」バッ
キラキラキラ…!
雪歩「!」
コトリマインド「千早ちゃん! 上手く自分の武器を使っているわね……!」
…ドゴゴゴゴオオォォオオンッ!!
真「……ふっ、……ふっ」ググッ
亜美「………」
真美「………」
伊織「………」
美希「……zzz」
真「……ふっ、……ふっ」ググッ
伊織「……うるさいわね」
真「……ただ待ってるだけじゃヒマだし、筋トレぐらいしたって別にいいだろ?」グッ
真「それに余計な事を考えずにすむし、身体動かすと気持ちいいよ?」グッ
伊織「考える事が脳筋のそれなのよねぇ」ヤレヤレ
真「うるさいなあ、ボクの事をバカにするのはいいけど、脳筋をバカにするのは伊織でも許さないぞ!」
伊織「意味わかんないわよ」
亜美「のーきんって言われた事には怒らないんだね」
真美「まこちんはかわいいなぁ」
真「なんでもいいよ、もう」
真「……ふっ、……ふっ」ググッ
真美「……ねえ、もしも今りっちゃんとピヨちゃんが戦ってるとしたらさ」
亜美「うん」
真美「どっちが勝つのかな」
亜美「えっと、それは……」
真美「どっちかが勝ったら、どっちかは負けるんだよね?」
伊織「そんなの当たり前でしょ。勝者が二人なんてあり得ないわよ」
真美「じゃあその、負けた方って……どうなるのかな?」
亜美「………」
伊織「………」
美希「……zzz」
真「…………よっと」スタッ
真「真美、心配かもしれないけど、今は黙って待つしかないよ」
真美「でも……」
真「大丈夫、きっとなんくるないさっ!」キリッ
真美「……ふふっ」
亜美「まこちんぜんぜん似てなーい」
真「い、いいだろ別に!」カァァ
伊織「………」
伊織「……はぁ、しょうがないわね。真、私も付き合うわ、筋トレに」
真「えっ?」
伊織「アンタの言う通り、じっとしてたら余計な事ばかり頭に浮かんでくるもの」
伊織「ほら亜美、真美。アンタたちもやるのよ!」
亜美「うぇぇえ~!?」
真美「真美たちも~!?」
真「へへ、わかったよ」ニコッ
真「じゃあまずは軽めに腕立て500回、いっとこうか!」
伊織・亜美・真美「」
美希「……zzz」
伊織「ぐぐ、このっ……!」ググッ
亜美「ひぃ~、キツイよ~!」ググッ
真美「真美たちこんなことしてたら、プロレスラーみたいになっちゃうよ~!」ググッ
真「だらしないなぁみんな。まだ200回もいってないじゃないか」
真「本当はこれを全部で20セット続けるんだけど、今日は5セットくらいにしておこうか?」ググッ
亜美「うあうあ~、5セットでも2500回じゃん! そんなのゼッタイムリだよ~!」ググッ
真「えっ、そう?」ググッ
真美「まこちんの鬼! 悪魔! モンク僧!」ググッ
伊織「……脳筋の、考えに、合わせた、私が、バカだったわ……!」ググッ
美希「……zzz」
ガタッ
真「……ん?」チラ
「…………ようやく、ここまで辿り着きまし…た……」
ドサッ
伊織「あ、アンタ……!」
貴音「………」グッタリ
真・伊織「貴音っ!」タタタタ
亜美・真美「お姫ちんっ!!」タタタタ
真「どうしたんだよ? すごいボロボロじゃないか!」ダキッ
貴音「少々、修行を……」
亜美「しゅぎょー?」
貴音「はい。最後の決戦に向けてわたくし自身のぱわぁあっぷを図るため……」
貴音「それと、小さき者たちの尊い意思を継ぐために」
貴音「ぅ……」
真「た、貴音!?」
伊織「真美、頼むわよ」
真美「オッケー! ……ケアルガ!」
シャララーン! キラキラキラ…
貴音「……ふぅ、ありがとうございます、真美」
伊織「修行って、そんなに激しい修行だったわけ?」
貴音「そうですね。……ですが、これでわたくしも少しは皆の役に立てる様になったかと」
真「そんな事気にしなくても、今までだって貴音はすごい活躍だったじゃないか」
貴音「……いえ、小鳥嬢を侮ってはなりません」
貴音「恐らく小鳥嬢の力は、わたくしたちの総力を集結してやっと五分の戦いができるかどうか。各々の持てる力を今よりさらに高めるのは無駄ではないとわたくしは考えます」
伊織「……そういえば、私たちの中で小鳥と直接会った事があるのは貴音だけだったわね」
真「その貴音が言うんじゃ、きっとズレてない見立てなのかな」
亜美「ねね、それよりやっとお姫ちんもとーちゃくしたんだし、亜美たちもみんなのトコに行かない?」
真美「だよね。もしかしたらホントにピヨちゃん来てるかもしんないし」
貴音「……ええ、どうやらその様ですね」ジッ
伊織「貴音、アンタ分かるの?」
貴音「すぐ近くに、小鳥嬢のものに限りなく近い邪悪な気配が一つ感じられます」
亜美「やっぱり!」
貴音「しかし、似てはいますが、恐らく小鳥嬢本人ではないでしょう。以前わたくしが対峙したものほど威圧感を感じません」
真「じゃあ、さっき亜美と真美が言ってたみたいに本当に小鳥さんの分身だったりするのかな」
貴音「分身ですか。……なるほど、そう例えるのが近いかもしれませんね」
真「……どうする?」チラ
伊織「そんなの決まってるじゃない。私たちも行って、小鳥に文句言ってやりましょ!」
亜美「よし、決まりだね!」
真美「そんじゃ行きますか!」
貴音「……待ってください」
亜美・真美「えっ?」
貴音「わたくし、実は大変お腹が空いております」キリッ
伊織・真・亜美・真美「ですよねー……」
美希「……zzz」
響「ふっふーん! そんな事だろうと思ってちゃんと用意しておいたぞ!」
真「響! 今までどこにいたのさ?」
響「完璧な自分は、今まで貴音のために食事を作ってたんだ!」ドヤッ
亜美「おお、そーだったんだね!」
真美「ひびきんかしこい!」
伊織「こんな状況で単独で動いてたのは問題だと思うけど、まあ結果オーライね」
響「さ、貴音。自分と月の民で作った特製料理だぞ!」スッ
貴音「響……恩に着ます……!」
ガツガツモグモグ…
真美「あ、そーいえばそろそろミキミキ起こしたほーがいいかな?」
亜美「そだね。もうけっこー長いこと寝てるし」
伊織「寝かせときなさいよ。美希は春香を救出するために大活躍だったみたいだし」
真美「んー、でも……」
伊織「多分必要な場面になったら自分で起きるんじゃないかしら。それに、運搬にはうってつけの脳筋がいるから心配はいらないわよ」チラ
真美「それもそっか」
真「なんか、かなりヒドイこと言われてる気がするなぁ。別にいいけどさ」
貴音「お待たせしました。それでは参りましょうか」フキフキ
伊織「食べ終わるの早すぎでしょうが!」ビシッ
貴音「伊織、今は一刻を争います。つっこみを入れている暇など無いかと」
伊織「なんで私が咎められなきゃいけないのよっ!」
響「よし、みんながいつもの調子に戻ったところで、行くか!」
亜美・真美・真「おー!!」
伊織「はぁ……」
思うように話が進まないのでこのスレで終わるかまた心配になってきました…
へーきへーきいざとなれば続・finalとでもすれば
高木「……『彼女』と戦った感想はどうだい?」
黒井「……お前はどうなんだ、高木よ」
高木「そうだな……」
高木「正直なところ、私はあれが彼女の全力だったとは思えない。まだ実力を隠している気がするよ」
黒井「同感だ。『あれ』はただの前座に過ぎんのだろうな。まるで手応えが感じられかった」
高木「その割には、お前も音無君の力に合わせて技を使っていたようだが?」
黒井「フン……」グビッ
高木「やはり手加減したのか」
黒井「お前に言われたくはないな。……何が『魔力を斬った』だ」
黒井「お前も彼女を傷付ける勇気が無かった。そうだろう?」
高木「………」グビッ
高木「私は不安でならないんだ。彼女たちが争う事が」
高木「なぜ、あんなに仲の良い彼女たちが争わなければならないのか」
黒井「今さらそんな事を考えているのか? 方法は一つしか無いのだろう? だったら進まねばなるまい」
黒井「後ろ向きな考えなど、お前には似合わんぞ」
高木「はっはっは! まさかお前に慰められるとは思わなかったよ」
黒井「っ……ば、バカも休み休み言え! なぜこの私がお前を慰めなければならない!?」
高木「いや、気持ちはありがたく受け取っておくよ、黒井」
黒井「取り消せ! 今すぐその言葉を取り消せ!」
ギャーギャー…
翔太「あの二人、なんだかんだ言って仲良しだよねぇ」
北斗「そうだな。見てて微笑ましいよ」
冬馬「あれが男の友情ってヤツなのか?」
翔太「あれ? 冬馬君ひょっとして『そっち』方面も興味あるの?」
冬馬「んなワケねーだろ!」ガタッ
翔太「わ、ちょっと! ゴメンって! 急に立ち上がらないでよー!」ヨロッ
北斗「二人とも、オレたち一心同体だって事忘れてないか?」フラッ
ギャーギャー…
マスター(うーん、どう見ても人間じゃないよなー、あのお客さんたち……)
長老「……というわけで、火と水は相反し、風と土もまた然りじゃ」
長老「この属性の関係性は黒魔法の基礎となる。しっかりと頭に叩き込むようにな」
「はーい!!!」
生徒1「うあうあー、むずかしくてゼンゼン覚えらんないよー」
長老「!?」
生徒1「ねえねえおじいちゃん、こんなお勉強なんかよりさ、ジッセンで教えてくれたほーが早いって思うよ?」
長老「………」
生徒2「お、おい、あんまり先生を怒らせんなよ?」
生徒1「なんでー? 別に怒らせるつもりはないんだよー」
生徒2「あのな、先生はすごく偉い人なんだ。あの『あいどる大戦』で人類のピンチを退けた英雄の一人なんだぞ?」
生徒1「えっ? マジ!? うひゃー、おじいちゃんってすんごい人だったんだねー。私、見直しちゃったよ!」
長老「お主……」
生徒1「ん? なーに?」
長老「………」
長老「……いや、なんでもない。今日の講義はここまでじゃ」
長老「…………ふぅ」
長老(ワシは何を期待したのじゃ)
長老(アミとマミはすでに月へと旅立ってしもうた。もう、会う事など叶わないというのに……)
長老(ワシに出来る事は、あの娘たちが残してくれたこの平和を守る事)
長老「ゴホッ、ゴホッ!」
長老(……残された時間は、あまり長くはないようじゃな)
「…………あら?」
ものまね士「おじいさんじゃないですか!?」
長老「そなたは……」
長老「久しいのう。元気でやっとるか?」
ものまね士「ええ、おかげさまで!」
ものまね士「あの人もようやく仕事に慣れてきたみたいで、家に帰ってくると私たちに色んな話を聞かせてくれるんですよ?」
長老「ふふ……幸せそうで何よりじゃ」ニコッ
長老「…………ん? 私『たち』?」
ものまね士「えへへ、実は……」ナデナデ
長老「……まさか、やや子が出来たのか!?」
ものまね士「はい……///」
長老「なんとまあ……めでたいのう!」
ものまね士「えへへ、ありがとうございます!」
長老「……うん? でも、計算すると……」
ものまね士「や、ヤボな事は考えちゃダメですよっ!?」ガシッ
長老「ひゅ、ひゅまんはった……」
タタタ…
トロア「……はぁ、はぁ……やっぱりここにいた!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
、_,,,, _,, -.'" ` 、
ミ三ミ三ミ三ミミ ヽ_,
-==三ミ彡三ミミ ,,=-== ==、 iミ=-、_
_,,ンミミ三ミ三ミミ] -彡-一 ー-、 r一 ーミ、|ミミ三ミ=-'
_, -==彡ミ彡ミミミ| ン| ,=て)> (|ー| ,て)>、 ||三ミ彡==-'
_,彡彡三ミ三ミミレ'~ .|. ' | ヽ ` |ミ三彡三=-、
(_彡三ミ彡ミミミ' ヽ、 ノ \__ノiミ彡ミ三=ー
ー-=二三ンーミミミ `ー /(_r-、r-_) .|彡ミ三=-、 ←カスジャップ
)(_ミ彡ミ| i' ヽヽミ | : : : __ : :__: :i .|彡ミ三=-、_
と彡ミ彡ミヽヽ<ヽミミ |: ン=-ニ-ヽ、 .|彡ミ三==-
彡ミ彡ミミヽ ) ` 、 .' <=ェェェェェン | |彡ン=-=
-==彡三ミ `ーヽ : : : : : :i: : `ー--一'' : : ノミ三==''
日本が嫌われてるソースもID加速中が用意してくれてたぞwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
Top 10 List Of Most Hated Countries In The World 2015 (ガチで嫌われてる国 2015年版)
http://www.abcnewspoint.com/top-10-list-of-most-hated-countries-in-the-world-2015/
*1位 アメリカ
*2位 イスラエル
*3位 北朝鮮
*4位 ロシア
*5位 ドイツ
*6位 日本
*7位 メキシコ
*8位 イギリス
*9位 インド
10位 中国
その他省略
糞ジャップ共哀れwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
あれほど馬鹿にしていた韓国以下だと判明するとはなwwwwwwwwwwwwwwww
ものまね士「あっ……」
長老「おお、トロア殿。お勤めご苦労じゃな」
トロア「これは長老殿、ご無沙汰しております」ペコリ
トロア「……と、今はそれどころでは無いのです」
トロア「ものまね士殿! そのような身重の体でこんなところまで来て! 子供に何かあったらどうするおつもりですかっ!?」
ものまね士「すっ、すみません、トロアさん。でも私、最近じゃ薪割りもさせてもらえないし、このままじゃ身体が鈍って仕方ないんですよぅ……」
トロア「出産とは、そういう心の緩みで失敗してしまうのですよ!?」
長老「トロア殿の言い分が正しいのう。さ、ものまね士殿、自宅に戻られた方が良いぞ」
トロア「最近魔物も大人しくなりつつあるとはいえ、まだまだ一人歩きは物騒です」
トロア「私が肩をお貸ししますから」スッ
ものまね士「うぅ、すみませんでした……」
…キラーン!
長老「…………む?」
ものまね士「何でしょう、あれ? 何かがこっちに向かって……」
トロア「ものまね士殿、私の後ろへ!」サッ
ヒュー…
ズドオオオォォン…!!
長老「……どうやら町の方へ落ちたようじゃな」
トロア「はい。何か胸騒ぎがします。姉上たちに知らせなければ!」
長老「その役目はワシが引き受けよう。トロア殿はものまね士殿を安全なところへ」
トロア「長老殿、どうかお気をつけて!」
長老「うむ」
「なんだ? すごい音がしたぞ?」
「見ろよ、でっかい穴が空いちまってる!」
「いったい何が空から落ちてきたんだ……?」
ザワザワ…
「……ぐ……痛たたた……」
カイナッツォ「……まったく、お前は着陸の仕方も知らんのか! 私をこんな目にあわせおって!」
スカルミリョーネ「……う、運動神経悪いのがいけな…い……」
カイナッツォ「なんだとっ!? ゾンビの分際で生意気な口を~!」
バルバリシア「スカルの言う通りよ。あなた、最近太ったんじゃない?」
カイナッツォ「バルバリシア、お前まで!」
「まっ……魔物だぁ~!」
「魔物が攻めて来たぞぉ~!」
「なんで魔物が!? 英雄たちによって平和がもたらされたんじゃないのかっ!?」
ルビカンテ「……注目されているな」
バルバリシア「それはそうでしょう。こんな派手な登場をしたんだもの」
カイナッツォ「ルビカンテ、ちゃんと上手くいくのだろうな? お前が言い出した事なんだぞ!」
ルビカンテ「ああ、問題ない……はずだ」
カイナッツォ「なんだその煮え切らない言葉は!」
スカルミリョーネ「……向かって来る…ぞっ……!」
「魔物め、成敗してくれるっ!」
「オレたちだって戦えるんだ!」
「この国は守るぞっ!」
「うおおおおぉぉお!!」
ドドドド…
バルバリシア「まったく、品の無い連中ねぇ……」
バルバリシア「ふーっ……」
ビュオオッ…!
「うわあああっ!!」
ドサドサッ!
「お、おい、自警団がやられちまったぞ……!」
「と、吐息が、突風になった……!?」
「クソ、魔物め……!」
「待ってくださいっ……!」
「あれは……」
「ユキコ様だ……!」
「うおおおおお! ユキコ様、どうか我々をお守りください!」
ユキコ「………」
バルバリシア「あら? あなた、私とやるつもり?」
バルバリシア(フライパン……? 妙なものを武器にするのね、人間って)
ユキコ「あの、私はあなたたちと戦うつもりはありません。でも、これ以上人々を傷付けるっていうなら……」
ユキコ「わ、私が相手になりますぅっ!」チャキッ
バルバリシア「相手になるって……あなた、震えてるじゃない」
ルビカンテ「おい、バルバリシア」
バルバリシア「わかっているわよ」
バルバリシア「ただ、人間と接するのは久しぶりだから、楽しくってつい、ね」
ユキコ「ううっ……!」
長老「ユキコ殿っ!」
ユキコ「長老さん!」
長老「魔物か……」チラ
長老(嫌な予感は的中するものじゃの)
バルバリシア「……あの老人は少し厄介そうね」
カイナッツォ「あの程度の死に損ないに臆したのか? ならば私が……」
スカルミリョーネ「……そ、そういう予定じゃな…い……」ガシッ
カイナッツォ「ふんっ……」
長老「この様な人里に、お主ら魔物が何用じゃ?」
ルビカンテ「………」
長老「返答次第では……」ポワ…
長老(四人ともかなりの手練れのようじゃ。ワシ一人ではちとキツいが……)
ルビカンテ「待て、お前たちと闘り合うつもりはない」
長老「……ならば、何をしに来た?」
ルビカンテ「……話がしたい」
アン「……どうぞ、お掛けください」
ルビカンテ「ああ」
バルバリシア「なんだかセンスの無い部屋ねぇ」キョロキョロ
アン「我が国は宗教国家ですので、あまり俗的なものは」
バルバリシア「……ふーん、ま、いいけれどね」
カイナッツォ「クソ、私だけ椅子に座れん!」ジタバタ
スカルミリョーネ「……す、少し大人しくしてなさ…い……」
トロア「魔物め……!」チャキッ
ドゥ「待て、トロア。姉上に任せるんだ」
トロア「し、しかし……!」
ドゥ「先の戦いで姉上も成長なされた。それはお前も分かっているだろう?」
ドゥ「それに、ヤツらが望んでいるのは『話し合い』だ。ここで手を出してしまっては、こちらから喧嘩を吹っかけるようなものだぞ」
トロア「く……」スチャ
長老「………」
アン「自己紹介が遅れました。私はこのトロイアの国の第一の神官、アンと申します」ペコリ
ルビカンテ「……火のルビカンテ。訳あって今は魔物たちを纏める立場にいる」
アン「そうですか、あなたが……」
アン「それで、話というのは?」
ルビカンテ「……停戦協定を結びたい」
アン「まあ……!」
ドゥ「……ほう」
長老「ふむ……」
トロア「騙されてはなりません、姉上! きっとヤツらは油断した隙に我々人間を滅ぼすつもりなのです!」
ドゥ「トロア!」
バルバリシア「……だ、そうよ?」
ルビカンテ「信じるも信じないもそちらの自由。我ら魔物は、これまでにお前たち人間を数えきれないほど殺してきたのだからな」
アン「………」
ルビカンテ「だが、こちらにはもうお前たちと殺し合うつもりは無い。お前たちが望むなら、この星の全ての魔物たちに伝令しよう」
ルビカンテ「『今後一切人間を襲うな』と」
トロア「そのような言葉が信じられると思うのかっ!?」
カイナッツォ「あの人間め、こちらが下手に出てるというのに……!」
スカルミリョーネ「……お、落ち着…け……」
バルバリシア「単細胞ってやぁねぇ」
ルビカンテ「さっきも言ったはずだ。信じるも信じないもお前たちの勝手だ。だが……」
ルビカンテ「この話を断ると言うのならば……その先は分かっているな?」ギロッ
アン「っ……!」ゾクッ
トロア「おのれ、魔物! 本性を現したな!」チャキッ
バルバリシア「……どうやら交渉決裂になりそうね」
カイナッツォ「ふん、最初からこうなる事など分かっていたはずだぞ!」
スカルミリョーネ「……や、やはり、無理があっ…た……?」
ルビカンテ「………」
アン「………」
『……私、本当は、あんたと戦いたくなんてなかったのよ!』
ルビカンテ「………」
ルビカンテ(憎しみの無い世界。イオリの望んだ世界をつくってやりたかったのだが……)
ルビカンテ「……止むを得ん、か」スクッ
「……待ちたまえ!」
ルビカンテ「…………ん?」
ミニ助「魔物の中にもなかなか話の分かる者がいるんだな!」バーン
ルビカンテ「小人……?」
アン「あ、あなたは……!」
「おいミニ助、勝手に出て行くなって!」
「ちょ、ちょっと押さないでくださいよぅ!」
ドサドサッ!
店主「痛ててて……」
ものまね士「うぅ……」
アン「店主さんにものまね士さんまで!」
店主「す、すまん、盗み聞きするつもりはなかったんだが……」
ものまね士「どうしても、気になっちゃって……」テヘヘ
トロア「まったく、あなたはまたこんな無茶な真似を!」
ミニ助「……とにかく、その話、喜んで受け入れよう!」
アン「ちょ、ちょっと!?」
ドゥ「相変わらず自由だな、あの小人は……」
長老「………」
ものまね士「これで本当に平和になるならいいじゃないですか。私もミニ助さんの意見に賛成です」
店主「オレとしては複雑な気持ちもあるけど……」
店主「こんな世の中だ。人間も魔物も手を取り合って生きていくべきなんじゃないか?」
アン「し、しかし……」
ルビカンテ「………」
店主「それにさ、もしここにあいつらが……」
店主「ハルカたちがいたら、きっとミニ助と同じ事を言っていたと思うんだよな」
ものまね士「私も、そう思います!」
ルビカンテ「……お前、ハルカを知っているのか?」
店主「ああ。ハルカはオレたちの恩人で……」
店主「……大切な、仲間だ」
ルビカンテ(仲間……)
バルバリシア「へぇ、妙な繋がりがあるものねぇ」
カイナッツォ「またヤツか……」
スカルミリョーネ「……か、かなり有名…人……?」
店主「……なあ、神官さん。オレは受けてもいい話だと思うぜ? そりゃ、すぐに仲直りってわけにはいかないかもしれないけどさ」
ものまね士「きっとハルカ様たちは、この星全ての生物が仲良くする事を望んでいたんじゃないでしょうか?」
アン「………」
ドゥ「姉上……」
トロア「姉上……!」
アン「………」
アン「……分かりました。お受けいたしましょう」
ルビカンテ「……そうか」
バルバリシア(ハルカ……ドジっ娘のクセに、なかなかやるじゃない)
トロア「姉上っ!」
アン「憎しみに囚われるのはもうやめましょう。これからは新しい世界が始まるのです」
アン「人間も魔物も、全てが平和に暮らす事のできる、新しい世界が」
トロア「………」
アン「先ほど店主さんも仰られていましたが、簡単にはいかないと思います」
アン「私たちは、血を流し過ぎました」
ルビカンテ「……こちらも、できる事はするつもりだ」
アン「ありがとうございます。それでは、友情の印に」スッ
ルビカンテ「?」
バルバリシア「シェイクハンドよ。知らないの?」
ルビカンテ「なんだそれは?」
カイナッツォ「まったく、これだから戦闘馬鹿は……」ヤレヤレ
スカルミリョーネ「……て、手と手を、握り合…う……」
ルビカンテ「妙な習慣があるのだな、人間とは」スッ
…ギュッ
店主「へへ、まさか魔物と人間の握手が見られる日が来るとはな。さすがはハルカたちってとこだな!」
ものまね士「ホント、ハルカ様やミキさんにも見せたかったですね……」
バルバリシア「……ちょっとあなた、ミキとどういう関係なのかしら?」
ものまね士「あ、はい。ミキさんにはたくさんお世話しましたけど、同じくらいたくさんお世話になったんです」
ものまね士「うーん、言ってみれば私の妹のような存在ですかね?」
バルバリシア「聞き捨てならないわね。ミキは私の妹よ!」
ものまね士「はぁ!? なんであなたみたいなオバサンの妹なんですか!?」
ものまね士「ミキさんは私のかわいい妹なんですっ!」
バルバリシア「きぃーっ! 誰がオバサンですってぇ!?」
バルバリシア「あんたみたいな小娘には勿体無いわよ!」
ものまね士「そんな事ありませんから!」
ギャーギャー…!
店主「お、おいものまね士、少し落ち着けって!」オロオロ
ルビカンテ「……すまないな、見苦しいところを見せてしまって」
アン「いえ。……あれも一つの平和の形なのかもしれませんね」
ルビカンテ「平和の形、か……」
長老(……これで、この青き星の全ての命がここに団結した事になる)
長老(もちろん、すぐに平和が訪れるというわけでもないが)
長老(しかし、恐るべきはハルカの……)
長老(いや、あいどるたちのカリスマじゃの。まさか魔物まで味方につけてしまうとは)
長老(ハルカよ。この平和は紛れもなくお主らあいどるたちが勝ち取ってくれたものじゃ)
長老(お主らにはこの平和な世界を見届ける義務がある)
長老(絶対に、無事で帰って来るのじゃぞ……)
律子「うあああっ!」ダッ
律子「があっ!」ブンッ
あずさ「テレポ」ヒュンッ
律子「……ぐ?」キョロキョロ
あずさ「うふふ、こっちですよ~」フリフリ
律子「ぐうっ……!」チャキッ
律子「あああっ!」ダッ
春香「………」ジッ
春香(……すみません、あずささん。あと少しだけお姉ちゃんを引きつけておいてください)
春香(もう少しで、完成しますから)パリッ…
ーーーーーー
ーーー
あずさ「……じゃあ、私が律子さんを引きつければいいのね?」
春香「はい。お願いできますか?」
あずさ「ええ、もちろんよ。少しでも春香ちゃんの役に立てるなら、私も嬉しいわ」ニコッ
あずさ「それに、律子さんを元に戻せるのは春香ちゃんしかいないんでしょう?」
春香「正確には私だけってわけじゃなくて、月の民だけが使える技で元に戻すんです」
あずさ「その、精神波……という技を使うのね?」
春香「はい。ただ『私』が使うのは初めてだから、上手くできるかどうか……」
あずさ「信じてるわ、春香ちゃんの事」
春香「あずささん……」
あずさ「それじゃ、行って来るわね」フリフリ
タタタタ…
春香「………」
ーーー
春香「………」
春香(あずささんのためにも、失敗はできないよね!)
春香(精神を集中させて……)
春香(確か、ヤミちゃんが千早ちゃんに向かって使ってた時は……)
春香「……!」パリッ
春香「あ、出た……!」
春香「よし! ……あずささん、お姉ちゃんをこっちへ誘導してもらえますか!?」
あずさ「は~い」
あずさ「さあ律子さん、春香ちゃんのところへ行きましょう?」
律子「うあああっ!」ブンッ
あずさ「きゃっ!」ヨロッ
あずさ「危なかったわ~……」
あずさ「律子さん、言うことを聞いてもらえませんか~?」
律子「………」チャキッ
あずさ「あら……?」
律子「ぅ……!」ゴゴゴゴ
あずさ「あらあら……」
あずさ(暗黒剣……だったかしら。律子さんはそれをやろうとしているのね)
あずさ(春香ちゃんややよいちゃんを守らないと)
律子「ああああっ!」ブンッ
あずさ「えいっ!」ダッ
春香「あずささんっ!」
ズオオォォ…
ドゴゴゴゴオオォォオンッ…!!
あずさ「………」
あずさ「う……ん……」
あずさ「…………あら、私……」キョロキョロ
あずさ「! ……は、春香ちゃんっ!?」
春香「……はぁ、はぁっ……!」ダキッ
律子「………」グッタリ
あずさ「春香ちゃん、もしかして私を庇って……?」
春香「……えへへ、気にしないでください。私、暗黒剣には慣れてますから」ニコッ
あずさ「春香ちゃん……ごめんなさいね」
あずさ「そういえば、律子さんは?」
春香「大丈夫です。無事に精神波が成功しました!」ブイッ
あずさ「まあ、さすがは春香ちゃんね~♪ 」
やよい「春香さん、あずささんっ!」タタタ
春香「やよい!」
あずさ「やよいちゃん」
やよい「すみませんでした! わたしもたたかいますっ!」グッ
春香「……うん、わかった!」
P「俺たちも小鳥さんのところへ行こう!」
春香「はいっ!」
あずさ「は~い」
雪歩「はぁっ、はぁっ……!」
千早「くっ……!」
コトリマインド「ふふ……。二人ともどうしたの? もう終わりかしら?」
千早(強い……。やはり、私と萩原さんだけでは音無さんには勝てないの……?)
雪歩(本当に私たちがやってることは正しいことなのかな……)
雪歩(みんなが傷付くのは嫌だけど、小鳥さんが傷付くのも嫌だよ……)
コトリマインド(……なーんて、ホントは私、結構追い詰められてたりして)
コトリマインド(雪歩ちゃんには攻撃はほとんど通らないみたいだし、千早ちゃんのジャンプもかなり厄介だし……)
コトリマインド(私のHPも残り12000ってところかしら)
コトリマインド(社長にMPを削られたのが痛かったわね。メガフレアさえ使えれば敵はいないんだけどなぁ)
コトリマインド(なんとか、プロデューサーさんを連れて帰りたいけど……)
…ザッ
春香「小鳥さん」
あずさ「お久しぶりです、小鳥さん」ニコッ
やよい「小鳥さん、悪いことはめっ! ですよ!」
コトリマインド「春香ちゃん、あずささん、やよいちゃん……」
コトリマインド(春香ちゃんたちがここにいるってことは、律子さんの洗脳はもう解けちゃったのね)
コトリマインド(メガフレア無しでこの人数を一度に相手するのは私でも辛い)
コトリマインド(一応手段が無いわけじゃないけど、『アレ』は最後の最後まで取っておきたいし)
コトリマインド(……どうしようかな)
P「……音無さん」
コトリマインド「!」
コトリマインド「……プロデューサーさん」
コトリマインド「ご無沙汰してます、プロデューサーさん」ペコリ
千早「プロデューサー、危険です、下がっていてください!」
P「ありがとう、千早。でも大丈夫だ」スッ
P「ようやく、ここまで来れました。みんなで帰りましょう、元の世界へ」
コトリマインド「………」
P「みんな音無さんを心配していたんです。……さあ」
コトリマインド「プロデューサーさん、私はラスボスです」
P「………」
コトリマインド「私たちが元の世界へ帰るための条件、忘れたわけじゃありませんよね?」
P「それは……」
コトリマインド「みんなとっても逞しくなりましたね。これもプロデューサーさんのおかげかもしれません」
P「音無さん……?」
コトリマインド「そんなみんななら、きっと私を倒す事ができるはずです」
P「……!」
コトリマインド「プロデューサーさんには敢えて言うまでもないと思いますけど、『本体』は地下渓谷の最深部にいます」
コトリマインド「待ってます。みんなが私に会いに来るのを」クルッ
スタスタ…
P「お、音無さん、待ってください!」
コトリマインド(プロデューサーさんを連れて帰るのは無理そうね。ここは引きましょう)
…バタンッ!
「……待ちなさいよ、小鳥!」
コトリマインド「…………あら」クルッ
伊織「逃がさないわよ!」
春香「伊織! みんな!」
真「ふぅ、ギリギリ間に合ったかな?」
美希「……zzz」
亜美「うわー、ホントにピヨちゃんだー!」
真美「ホントのホントに、ピヨちゃんがラスボスなんだね……」
響「ピヨ子……」
貴音「………」
コトリマインド「うふふ、これで全員集合ね」
コトリマインド(……うん、本格的に万事休すかな)
伊織「聞かせてもらうわ。なんでアンタがこんな事をしたのかを」
コトリマインド「………」
コトリマインド「それ、律子さんにも訊かれたわ」
コトリマインド「もう一度言うわね。『みんなを楽しませたい』からよ?」
一同「!?」
伊織「意味わかんないわよ! なんで私たちを楽しませるのが、このゲームの世界をめちゃくちゃにする事と繋がるのよ!?」
コトリマインド「伊織ちゃんはゲームとかやらないから、ピンと来ないかもしれないわね」
コトリマインド「そうねぇ、亜美ちゃんや真美ちゃんなら分かってくれるかしら?」
亜美「……うん、まあ……」
真美「ピヨちゃんの言うこと、わからなくもないよ」
伊織「亜美、真美、アンタたち……!」
亜美「ちょ、ちょっと待ってよいおりん! さすがに亜美でもピヨちゃんのはやりすぎだって思うよ?」
真美「……でもね、真美たちは、ホントにゲームの世界で冒険したり、色んなことができて楽しかったって思うところもあるんだ」
真美「だから、ピヨちゃんのキモチがゼンゼンわかんないってわけじゃないんだよ」
P「真美……」
伊織「だからって、ゲームの世界の人たちの命を奪ったのは、許される事じゃないわ」
響「それに関しては、自分も同感だぞ」
真「………」
コトリマインド「……そう、ね」
コトリマインド(全員を相手にしたら、今の私には正真正銘確実に勝ち目は無い)
コトリマインド(引き時ね。プロデューサーさんが手に入らなかったのは痛かったけど)
コトリマインド「残念だけどここまでね」スゥ…
千早「! ……音無さんの身体が、消えていく……!?」
伊織「待ちなさい! 逃げる気なの!?」
コトリマインド「みんなの力を確認するっていう目的は果たせたわ」
コトリマインド「さよなら、みんな。地下中心核で会いましょう」
スゥゥ…
「……待ってください」
コトリマインド「……ん?」ピタ
貴音「勝てないから逃げるのですか?」
響「た、貴音!?」
コトリマインド「………」
貴音「律子嬢ひとりならどうにかなった。しかし、わたくしたち全員が揃っては勝ちは望めない」
貴音「だから、尻尾を巻いて逃げるのですね?」
コトリマインド「………」ピクッ
春香「貴音さん? ちょっと言い過ぎなんじゃないですか?」
貴音「そうでしょうか?」
貴音「春香。あなたは姉と慕う律子嬢を傷付けられて、黙っていられるのですか?」
春香「そ、それは……」
P(貴音……?)
貴音「小鳥嬢。わたくしと手合わせを願います」
コトリマインド「……貴音ちゃん一人で? ずいぶん余裕ね?」
貴音「ええ」
千早「四条さん、さすがに一人では危険なのでは?」
貴音「いえ」
貴音「今の小鳥嬢には、恐らくわたくしが負ける事はないでしょう」
一同「!?」
コトリマインド「……分かったわ」
コトリマインド「貴音ちゃんにとっては『あの時』の雪辱戦ってところなのかな?」
コトリマインド「そこまで言うなら、その提案に乗ってあげる」
貴音「……やよい」
やよい「は、はいっ!」
貴音「えぇてるたぁぼはありますか?」
やよい「あ、はい。ちょっと待ってくださいね!」
やよい「えっと……」ゴソゴソ
やよい「はい、どうぞ!」スッ
貴音「ありがとうございます」
貴音「……小鳥嬢」
コトリマインド「えっ?」
…ヒュッ!
コトリマインド「……おっと」パシッ
貴音「飲んでください。どうやら今のあなたは魔力を消耗しているようですから」
コトリマインド「………」
コトリマインド「……舐められたものね、私も」ゴクゴク
コトリマインド(これでまたメガフレアを使えるようになる。もう私に隙は無いわ)
コトリマインド(残念だったわね、貴音ちゃん……!)
真「貴音、本当に一人でやるつもりなの?」
貴音「心配はいりません。わたくしは必ず勝ちます」
雪歩「四条さん……」
コトリマインド「さあ、行くわよ、貴音ちゃん……!」ゴゴゴ
貴音「………」
雪歩「小鳥さん、メガフレアを使う気だ……!」
真「メガフレア?」
雪歩「私がさっき小鳥さんと戦ってた時に受けた魔法なんだけど、このアダマンアーマーでも防げなかったすごい魔法なんだよ……!」
真(貴音、本当に勝算はあるのかい……?)
コトリマインド「右手にフレア……」ブゥン
コトリマインド「左手にフレア……」ブゥン
コトリマインド「併せて、メガフレアーー!!」バッ
貴音「………」
響「貴音っ……!」
美希「大丈夫だよ、響。この勝負、きっと貴音の勝ちなの」
響「美希、いつの間に起きたんだ!?」
貴音「………」バッ
貴音「小鳥嬢、あなたに教えて差し上げます。本物と付け焼き刃の違いを」ゴゴゴ
貴音(……あの子たちの想いは、今、この胸に!)
貴音「……メガフレア」バッ
コトリマインド「!!」
ゴゥゥ…ン…
ババババババババッ!!
ドゴオオォォオオ…ン!!
貴音「………」
貴音「…………く」ガクッ
響「貴音っ!」タタタ
やよい「貴音さんっ!」タタタ
響「大丈夫か!?」ガシッ
貴音「……すみません、大丈夫です。慣れない魔法を使ったので、その反動が少々大きかっただけです」
やよい「ぽーしょん、のんでください!」スッ
貴音「ありがとうございます、やよい」
あずさ「貴音ちゃん、すごかったわ……」
真「まさか同じ技であの小鳥さんに勝っちゃうなんてね」
貴音「いえ、決して同じではありません。小鳥嬢のそれは、ただの模倣ですから」
伊織「……それより、小鳥は?」
亜美「ピヨちゃんなら……」
真美「あそこだよ」スッ
コトリマインド「………」グッタリ
雪歩「こ、小鳥さん」
千早「……勝負はあったみたいね」
亜美「でも、ピヨちゃんへーきかな……」
真美「………」
真美「……真美、ピヨちゃん回復してくるっ!」ダッ
春香「待って、真美!」ガシッ
真美「はるるん! なんで止めるのさ!?」
春香「あれを見て」スッ
シャララーン! キラキラキラ…
コトリマインド「……う」ピクッ
P「………」
真美「兄ちゃん!?」
真美(いやしの杖、持ってきたんだ……)
P「音無さん、立てますか?」スッ
コトリマインド「ぷ、プロデューサー…さん……」
コトリマインド「なぜ……?」
P「仲間が傷付いていたら助ける。当たり前の事じゃないですか」ニコッ
コトリマインド「わ、私は、みんなにヒドい事をしたんですよ? みんなだけじゃない、この世界の人たちにも……」
P「何があろうと、あなたが俺たちの仲間だって事は変わりませんよ」
コトリマインド「プロデューサーさんっ!」ブワッ
コトリマインド(私……もう死んでもいいかも……)
P「……貴音、すごかったぞ。まさかお前がメガフレアを使うとは思わなかったな」ニコッ
貴音「あなた様……?」
P「みんな、すまん」ペコリ
春香「プロデューサーさん、どうして謝ったりするんですか……?」
P「……俺、音無さんと一緒に行く事にした」
亜美「えっ!?」
真美「に、兄ちゃん……?」
伊織「……な、何考えてんのよアンタ!? 正気なの!?」
P「ああ、俺は正常だよ」
コトリマインド「プロデューサーさん……?」
響「プロデューサー、なんで……?」
P「音無さんを真の意味で救えるのは、俺しかいないと思ったんだ」
真「……それ、どういう意味なんですか?」
雪歩「真の意味って……」
P「今はまだ言えない。でも、必ず音無さんは俺が救ってみせる。だから安心してくれ」
千早「……本気なんですね?」
P「……ああ」コクリ
P「みんな。……地下中心核で待ってる。また会おう」
P「……さ、音無さん、行きましょう」ダキッ
小鳥「すみません、プロデューサーさん」
スタスタ…
春香「プロデューサーさん……」
千早「………」
美希(ハニー……)
ようやく終わりが見えてきたかも
次回はだいぶ先になると思います
7月中には、としか言えません
小鳥「……お待ちしてました、プロデューサーさん!」
P「えっと……本物の音無さん、ですよね?」
小鳥「はいっ!」ニコッ
P(俺は月の民の館のクリスタルルームでみんなと別れ、音無さんの分身に導かれて月の地下中心核へとやってきた)
P(そこでようやく本物の音無さんと会うことができたわけだけど……)
小鳥「プロデューサーさん、どうかしましたか?」
P「ああ……いえ、なんでもないんです」
P(本物の音無さんは、クリスタルルームでのみんなとの戦いをここで『視て』いたらしい)
P(つまり、クリスタルルームに現れた音無さんの分身の行動も全て音無さん自身の意思だったわけだ)
P(やはり彼女は、最後までラスボスを演じきるつもりなんだ……)
小鳥「あのー、プロデューサーさん。本当にこちら側へ来ちゃって良かったんですか?」
P「今さら何を言ってるんですか。俺がそうしたいと思ったから来たんです」
P「それとも、もしかしてお邪魔でしたか?」
小鳥「お、お邪魔だなんてとんでもないっ! むしろ嬉しすぎて、私としてはひゃっほう! って感じなんですよぅ!」
P「………」
小鳥「あ……」
小鳥「う、嬉しいって言ってもあれですよ? 私の事を心配してくれてプロデューサーさんは優しいなーと」
P「良かった」ニコッ
小鳥「!」ドキッ
P「あなたの事が心配だったのは本当です。でも今はそれだけじゃなくて……」
P「……音無さん」ズイッ
小鳥「え? はっ、はいっ!」ドキドキ
小鳥(ぷ、プロデューサーさん、どうしちゃったの!? ち、近いんですけど!?)
小鳥(……はっ! もしや、ここに来てまさかの音無小鳥メインヒロインフラグが!?)
P「………」スッ
小鳥(プロデューサーさんの手が私の頭を、だ、抱いて……!)
小鳥(…………南無三っ!)ギュッ
P「……っと、取れました」
小鳥「…………えっ?」
P「ほら、髪に糸くずが付いていたみたいですね」
小鳥「………」
小鳥「はぁぁぁぁぁぁ……」ガクッ
P「ど、どうしました!?」
小鳥「い、いえ、なんでもないんですっ」
小鳥(何の罰ゲームかしら、今のは)
小鳥「はい。今や私の家みたいなものなんですよ?」
P(月の中心核。ゲーム通りなら、確かここは地下12階に当たるはず)
P(床や柱、壁などは全部クリスタルのようにキラキラ輝く素材で出来ていて、とても神秘的な風景だ)
P(音無さんはここで生活してきたのか)
P(……ずっとひとりぼっちで、さみしくはなかったんだろうか)
クルーヤ「……コトリさん、お客さんですか?」
小鳥「あ、クルーヤさん!」
P「えっ……? く、クルーヤ……!?」
クルーヤ「おや、あなたは……。お久しぶりです。またお会いしましたね」ニコッ
P「な、なんであんたがここにいるんだ?」
クルーヤ「えーっと……まあ、いろいろありまして」
小鳥「あれ? プロデューサーさん、クルーヤさんとお知り合いなんですか?」
P「ええ、彼とは試練の山で一度」
小鳥「へぇ……」
小鳥(P×クルーヤか……アリかもしれないわね)
クルーヤ「それにしても、まさかハルカの婚約者がコトリさんの知り合いだったとは、世の中って狭いものですねー」
小鳥「……うん? 今なんて?」
P「な、なんでもないですよ!」
クルーヤ「ああ、コトリさんには言ってませんでしたね。彼はハルカと未来を誓い合った仲なんです」
小鳥「ええぇぇええええっ!!?」ガタッ
小鳥「どういう事なんですかプロデューサーさん!! ついにハーレムから脱却しちゃうんですか!?」ユサユサ
P「だ、だから誤解ですって! クルーヤもある事ない事言うのはやめてくれ!」
クルーヤ「うーん、僕としては二人の仲は大賛成なんだけどなー」
クルーヤ「……と、ジョークはここまでにして」
クルーヤ「なぜあなたがここに? あなたはハルカたちと行動を共にしていたはずではなかったんですか?」
P「………」
P「こっちにもいろいろ事情があってな。ま、お互い様ってところだ」
クルーヤ「……なるほど、分かりました。これ以上は追求しません」
P「そうしてくれると助かる」
ダークバハムート「……ほう、このような僻地に来客とは、珍しい事もあるものだ」
小鳥「バハムートさん、ちょうど良いところに! 紹介しますね、こちら私の同僚のプロデューサーさんです!」
ダークバハムート「………」
ダークバハムート(なんだ、この人間は……? 否、人間ではないのか……?)
ダークバハムート(コトリをも凌ぐでたらめな生命力。奇妙ないでたち。そしてこの我が思考すらも読めぬとは)
ダークバハムート(クク……コトリの知り合いか。ぷろでゅうさぁ……只者ではなさそうだ)
P(これがバハムート……。貴音の友達……)
P(ここにいるって事は、敵……なんだろうな、きっと)
P(クルーヤの立ち位置もイマイチ分かりかねるが、きっとみんなの敵として立ちはだかるつもりだろう)
P(なぜ、あの子たちにはこうも試練が降りかかるのか)
P(だけど、俺はもう無力な自分を嘆くだけじゃない)
P(俺は見届けなければならない。この戦いの行く末を)
クルーヤ「さ、新しい仲間が増えたところで!」ドン
小鳥「親睦を深めましょうか!」ドン
P「もしかしてそれ、酒ですか?」
小鳥「はいっ」ニコッ
P「音無さん、みんなが頑張ってた時にまさかずっと酒飲んでいたんじゃないでしょうね?」
小鳥「そ、そんなわけないじゃないですかぁ! 今日はたまたまですよ、たまたま!」
P「本当かなぁ……」ジト
クルーヤ「ま、まあまあ、楽しく行きましょう、楽しくね?」
ダークバハムート「クク……ぷろでゅうさぁよ。そなたも用心しておいた方が良いぞ。この二人、酒を呑み出したら止まらぬからな」
P「はぁ……」
P(まあでも、どうやら音無さんは一人さみしくラスボスやってたってわけでもなさそうだ)
P(それが分かって良かったかもな)
…ガチャ
千早「………」
真「千早」
千早「真……」
真「律子の具合は?」
千早「ぐっすり眠っているわ。春香と真美がついていてくれているし、今は二人に任せましょう」
真「うん……そうだね」
貴音「離してください、響!」
響「ちょっと貴音、落ち着いてよ!」
千早「……何かあったの?」
真「うん、なんていうか……」
真「プロデューサーが小鳥さんと一緒にいなくなった事で、みんな少し混乱しちゃってるみたいでさ」
千早「そう……」
貴音「ぷろでゅうさぁはわたくしが助けねば! ばはむーと殿の二の舞にさせてなるものですか!」
響「だから、それには律子が起きるのを待ってからじゃないとダメだって!」
貴音「律子嬢の事は皆に任せます。わたくしは一人でも行かねばなりません!」
やよい「た、貴音さん……」オロオロ
伊織「……あーもう、うるさいわね! 静かにしなさいよ!」
貴音「………」
伊織「不安なのはみんな同じなのよ! それに、アンタ一人が行ってもどうにもならないでしょうが!」
貴音「……それでも」
貴音「それでもわたくしは、もうこれ以上犠牲者を増やしたくはないのですっ……!」ウルッ
貴音「ぷろでゅうさぁまで失ってしまったら、わたくしは……!」ガクッ
亜美「うぅ、お姫ちん……」グスッ
伊織「私だって……今すぐにでもあいつを助けに行きたいわよ……!」ウルッ
あずさ「伊織ちゃん……」
雪歩「みんな……!」グスッ
美希「………」
美希「………」スクッ
真「……美希、どうしたの?」
美希「ミキ、ちょっと律子の様子見てくるね?」
真「え? でも、律子には春香と真美がついてるって千早が……」
美希「真クン、ミキだって白魔法使えるんだよ? 二人の足手まといにはならないって思うな」
真「そうだったね、ゴメン」
美希「真クンと千早さんは、みんなの事をお願い」
千早「美希……?」
美希「みーんな、ハニーがいなくなって心が弱くなっちゃってるカンジなの。だから、比較的冷静な真クンと千早さんがみんなをなだめてあげて?」
真「……別にボクも冷静ってわけじゃないんだけど、分かったよ」
千早「私にできるかどうか分からないけれど、やってみるわ」
美希「お願いね?」
スタスタ…
真「………」
真「ねえ、千早。美希はなんであんなに落ち着いているのかな」
真「失礼かもしれないけど、ボク、プロデューサーがいなくなって一番騒ぐのは美希だろうなって思ってた」
千早「………」
千早「私、この世界へ来てから比較的美希の近くにいる事が多かったのだけど」
千早「美希はこの世界へ来て、私たちの中で一番大きな成長をしたのかもしれない」
千早「あの子を見ていると、そう思えるのよ」
真「…………そっか」
真「じゃあ、ボクたちも負けていられないね」
千早「……そうね」
律子「……zzz」
春香(お姉ちゃん……)
真美「………」
春香(一人で小鳥さんを迎え撃って、勇敢に戦って……)
春香(でも、結局小鳥さんの魔法で操られてしまって、みんなに刃を向ける事になってしまった)
春香(辛いだろうな……)
真美「……りっちゃん、真美たちのために休まずにずっとガンバってくれてたんだよね、きっと」
春香「うん……」
真美「ピヨちゃんとの戦いだって、真美たちがあぶない目に合わないようにって……」
春香「……今は、ゆっくり休ませてあげよう」
真美「そーだよね……」
…ガチャ
真美「……あれ、ミキミキ?」
美希「律子の具合はどう?」
真美「ケガとかは真美たちの魔法で治したし、今はぐっすり眠ってるよ。つかれがたまってたのかもしんないね」
美希「……そっか」
美希「………」
真美「………」
春香「………」
真美「……兄ちゃん、なんでピヨちゃんの方に行っちゃったのかな……?」
春香「………」
真美「まさか、兄ちゃんまで真美たちの敵になっちゃうってことじゃないよね?」
美希「ハニーはきっとそんなつもりじゃないと思うな」
真美「……じゃあ、どんなつもりだったの?」
美希「んー、そこまではミキも分からないの」
美希「でもね、ハニーが『任せろ』って言ったんだから、きっと正しいことだと思うの」
美希「ミキたちは、それを信じるべきじゃないかな?」
春香「………」
真美「でもさ、なんてゆーか……ここまで一緒だった兄ちゃんがいないのが、ちょびっとだけツラいってゆーか……」
美希「きっとみんなも真美とおんなじような気持ちだと思うの」
美希「不安で、さびしくって……それで、ちょっとだけイライラしてるカンジ?」
真美「………」
美希「だから、そんなみんなを元気付けるのは……」
美希「春香の役目だって、ミキ、思うな」
春香「えっ……?」
春香(たまに……)
美希「今までだって春香は、ずっとずっとみんなを元気にしてきたでしょ?」
春香(分からなくなってしまう)
美希「辛くって、苦しくって、どうしようもなくて。今までそんな場面になるたびに、春香は誰よりも自分を奮い立たせて」
春香(目の前にいるこの子は、本当に私より年下なんだろうかって)
美希「そんな春香なら、きっと今のみんなを導くことができる」
美希「……でしょ?」ニコッ
春香(普段の態度は素っ気ないけど、ふとした時に思いがけない言葉をくれる)
春香(……不思議だよね、美希って)
春香「……うん、わかった。私、やってみるよ!」
美希「あは☆ さすがは春香なの」ニコッ
真美「ガンバって、はるるん! 真美たちのリーダーだってとこ、バシーっと見せちゃってよ!」
春香「う、うん、あんまりプレッシャーかけないでね?」
美希「……そーいえば春香」
春香「なに?」
美希「ミキ、この前春香のこと助けてあげたから、これで貸しひとつだよね?」
春香「……あ、うん。助けてくれてありがとね、美希。私、すごく嬉しかったよ」
美希「どーしよっかなー。何おごってもらおっかなー?」
春香「あ、あんまり高いものじゃなければ……」
美希「あっ、いいこと思いついたの! これを機に、春香がハニーから手を引くっていうのはどうかな?」
春香「……ええぇええっ!? だ、ダメだよそれは!」アセアセ
真美「いやー、ナイスアイディアだと思うよ、真美は」ウンウン
春香「ちょっと、真美までー!」
美希「真美もハニーのこと狙ってるみたいだけど、ミキ、ハニーだけはゼッタイに譲れないからね!」ビシッ
真美「ぬう……さすがは強敵(とも)よな……」
貴音「……そこをどいてください、伊織」
伊織「イヤよ。今のアンタを行かせられるわけないじゃない」
伊織「どうしても行くっていうなら……」
伊織「……私を倒してからにしなさい!」スッ
貴音「……!」
響「い、伊織……」
あずさ「……ちょっと落ち着きましょう、伊織ちゃんも貴音ちゃんも。焦って行動してもいいことなんてないと思うわ」
貴音「あずさ……」
貴音「なぜそのように落ち着いていられるのです? ぷろでゅうさぁが魔の手に落ちてしまったというのに」
亜美「ま、魔の手って……お姫ちん……」
貴音「彼女は律子嬢や雪歩、やよいを傷付けた。小鳥嬢を敵と見なすにはそれで充分では?」
貴音「それに、わたくしはこのげぇむを『そういった類のげぇむ』と認識しておりましたが」
あずさ「貴音ちゃん……」
貴音「……いいでしょう」
貴音「水瀬伊織……。あなたを倒して、わたくしはぷろでゅうさぁを助けに参ります!」ザッ
伊織「! ……小鳥の分身に勝ったからって調子に乗るんじゃないわよ……!」
伊織「アンタなんかに遅れは取らないわ!」
やよい「い、伊織ちゃんダメだよっ!」
伊織「いいえ、やよい。アンタは黙ってて」
伊織「頭に血が昇って周りが見えていないバカに、少しお灸を据えてあげなきゃ……!」スッ…
貴音「……覚悟」バッ
伊織「……来なさい!」バッ
亜美「ちょ、ちょっと二人とも……!」
雪歩「こ、こんなのおかしいよぅ……!」
貴音「……!」ボゥッ…
伊織「……!」ゴゥッ…
真「ーー待ったっ!!」ザッ
貴音「!?」
千早「水瀬さんも、そこまでよ」スッ
伊織「…………ふん」
響「千早……真……」
伊織「いきなり飛び出して来るなんて、どういうつもりよ」
貴音「あなた方まで邪魔をするつもりですか。真、千早……」
真「こんなところで暴れちゃダメだよ、貴音も伊織も」
伊織「………」
貴音「………」
真「らしくないじゃないか、二人とも。こんな思慮の浅い行動をするなんて」
伊織「……うるさいわね。私は間違ってないわよ! そこのバカが勝手な行動をしようとしたから……!」
千早「今は、仲間うちで争っている場合ではないわ」
伊織「………」
真「貴音。プロデューサーが心配なのは分かるけど、一人で小鳥さんのところへ行くなんて無茶だ」
真「それは君自身だって分かってるはずだよ?」
貴音「しかし……!」
真「ボクだって、本当は今すぐにでもプロデューサーのところへ駆けつけたいって思ってる」
真「でも、プロデューサーは何か考えがあるような事を言ってたから……」
真「だから今は、それを信じるしかないと思うんだ」
貴音「………」
貴音「くっ……」ガクッ
貴音「…………申し訳ありません。わたくしは過去の過ちに囚われ、ぷろでゅうさぁの意に背くような真似を……」
貴音「そればかりか、道を誤ったわたくしに手を差し伸べる友に、刃を向けてしまうとは……!」
伊織「………」
伊織「……私も悪かったわ」
伊織「ああでもしなきゃアンタは止まらないと思ったから」
貴音「申し訳ありません、伊織。全てはわたくしが……」
伊織「ううん、私も悪かったわ。……ごめんなさい」
真「どっちが悪いとかじゃないよ」
千早「ええ。二人のどちらの気持ちも分かるから……」
千早「……とにかく今は、みんなで律子が目を覚ますのを待ちましょう」
伊織「……そうね」
貴音「はい……」
やよい「えっと、えっと……これで伊織ちゃんも貴音さんも仲直り……ですよね?」
貴音「ええ」
やよい「うー、よかったですー」
響「はぁぁぁ……。何事もなくて良かったぞ……」
あずさ「真ちゃんと千早ちゃんのおかげね」
雪歩「でも、小鳥さんと戦わなきゃいけないっていう事実は変わらないんですよね……?」
亜美「だよね……」
一同「………」
春香「……大丈夫だよ、みんな」
真美「………」
美希「………」
響「春香たち、いつの間に……」
真美「りっちゃんはぐっすり眠っちゃったから」
美希「ミキたちも、春香のありがたいお話を聞こうってことになったの」
春香「ちょ、ちょっとミキ、変な言い方しないでよぅ……」
響「ありがたいお話って、どういうことだ?」
春香「えっと……」チラ
春香「貴音さん」
貴音「……はい」
春香「なぜ、小鳥さんは私たちに対してヒドいことをするんでしょうか?」
貴音「何故……? それは、小鳥嬢がこのげぇむの真の黒幕だからではないのですか?」
春香「はい、私もそう思います。小鳥さんはこのゲームのラスボスです。だから、ラスボスになりきってくれているんだと思います」
貴音「……? そのような分かり切った事を訊いて何の意味が?」
春香「私、思うんです。私たちがここまで来れたのは、小鳥さんのおかげもあるんじゃないかな……って」
一同「……?」
春香「今まで、本当に本当にいろんな事があったよね。嬉しい事も、悲しい事も」
春香「嬉しい事があるたびにみんなで笑って、悲しい事があるたびにみんなで泣いて……」
春香「そうして私たちは、ここまで来た」
春香「最近みんなの目を見てるとね、思うんだ。『ああ、すごく頼もしいな』って」
春香「それはたぶん、この世界でいろんな事を経験して一人ひとりが成長していってるからなんだよね」
春香「その成長は、もちろん本人の頑張りによるところが大きいって思うけど……」
春香「小鳥さんがラスボスの役をしっかり演じてくれているから……だから、私たちは強くなれたんじゃないかな?」
一同「………」
貴音「……しかし、それとこれとは話が別。小鳥嬢のした事は許される事ではありません」
伊織「私も同感よ。魔物との戦いで結果的に私たちは強くなったけど、あいつは仲間を平気で傷つけた。それは忘れてはならない事よ」
春香「………」
春香「……小鳥さんはさ、私たちに向かって何度か『みんなを楽しませるために』って言ってたよね?」
春香「それはきっと小鳥さんもプロデューサーさんと同じ気持ちって事なんじゃないかな?」
響「ピヨ子が、プロデューサーと同じ気持ち……?」
春香「みんな、思い出して。もともとこのゲームは、プロデューサーさんが『みんなで楽しめるように』って持ってきてくれたゲームだよ」
亜美「……そーいえばもうすっかり忘れてたけど、兄ちゃんが事務所にスーファミ持ってきたのが始まりだったんだよね」
春香「うん」
春香「いきなりゲームの中に入っちゃって、最初は右も左も分からなくて」
春香「でも、みんなで頑張って進んで、いろんなお友達もできて」
やよい「わたし、しばさんやらむさんたちとおともだちになれて、とってもうれしかったです!」
春香「そう。苦労もたくさんしたけど、嬉しい事もたくさんあった。この世界で、ここにいるみんなと、そしてこの世界の人たちと一緒に笑い合えて、私もすっごく嬉しかった」
春香「……でも、もし配役が違ったら、どうなってたかな?」
真「配役が違うって……今の自分の役と最初から違ったらって事?」
春香「うん。もっと言うと、『小鳥さん以外の誰かがラスボス役になってたら』どうなってただろう?」
春香「みんなは、考えた事あるかな?」
一同「………」
春香「私は、もし自分がみんなと敵同士の役だったら悲しいし、きっとどうしていいか分からなくなっちゃうと思う」
春香「もしかしたら、自暴自棄になって大変な事をしちゃうかも」
伊織「………」
春香「でも、小鳥さんはそれを完璧に演じてくれてる」
春香「もちろん、あの人の事だから自分自身が楽しんでるっていう部分もあるかもしれないけど」
貴音「………」
春香「小鳥さんの『みんなを楽しませる』っていう言葉、私は信じてるよ」
春香「だって、小鳥さんはいつも私たちの事を心配してくれていて、いつも私たちの知らないところで頑張ってくれている人だから」
春香「そんな小鳥さんと、そしてここにいるみんなと、私はこのゲームを最後まで楽しみたい」
春香「最後まで笑って、笑顔でこの世界とお別れしたいんだ」
春香「……みんなはどう?」
一同「………」
雪歩「…………あ、あのっ」
雪歩「私も、楽しみたい。魔物さんと戦ったりするのは恐いけど、私も、みんなともっと一緒にいたいって……そう、思う」
春香「雪歩……」
真「……そうだね」
真「元の世界に戻ったら、もうこんな不思議な体験は二度とできないんだよね」
真「それに、みんなには引かれちゃうかもしれないけど、ボク、小鳥さんと戦うのはちょっとだけ楽しみなんだ」
春香「真……」
亜美「……まこちんは相変わらずバトルマニアだねぇ」
亜美「でも、せっかくのゲームだし、ピヨちゃんもガンバってくれてることだし、亜美もまだまだカツヤクしたいし……」
亜美「モチロン亜美もみんなと一緒に行くよ!」
真美「だね。せっかく兄ちゃんが持ってきてくれたゲームなんだから、楽しんでやんないとだよねっ」
真美「あ、成長うんぬんに関しては真美も同感ってカンジだよ。みんなが強くなってるのを、真美もジッカンしてるよ!」
春香「亜美も真美も、たくましくなったよね」ニコッ
響「…………自分は」
春香「響ちゃん……」
響「自分、エン太郎とお別れする時、めちゃくちゃ悲しかった。ピヨ子はなんでこんなイジワルするんだろうって思った」
響「でも、春香の言う通りだ。もし自分がラスボス役だったとしたら、どうしていいか分かんなくてずっと泣いてたと思うぞ」
響「みんなと一緒だったから。自分にはみんながいるから。だから自分はあの時悲しみを乗り越えられたって思う」
響「……うん。今なら、ピヨ子は自分たちのためにラスボスを頑張ってくれてるんだって……」グスッ
響「だ、だから、自分もっ……!」ウルッ
春香「……うん、響ちゃんも一緒に行こう?」
千早「私も……」
千早「私も、みんなと一緒にいたい。たとえ残された時間はもう僅かだとしても、最後の瞬間まで、みんなと笑っていたい」
千早「……今なら、そう思える」
春香「千早ちゃん……!」
やよい「わたしたちだけじゃなくて、高木社長や黒井社長、じゅぴたーさんたちもいっしょですっ!」
春香「やよい……うん、そうだね!」
あずさ「……みんなが一緒なら、きっと何も恐いものはないわね」ニコッ
春香「はい、あずささん、もちろんです!」
伊織「…………はぁ。アンタの話はきれいごとなのよねぇ」
春香「えっ……」
伊織「アンタみたいに能天気な考え方ができる人間ばかりじゃないってことよ」
春香「うん…………そう、だよね」
伊織「……ま、でも、嫌いじゃないわ、そういうの。私も、小鳥に負けないくらいこの役を演じ切ってみせる!」
春香「伊織!」
伊織「春香。私たちはどこまでもアンタについて行くわ。だから、アンタは光になって私たちの道を照らしなさい!」
伊織「アンタが走り続ける限り、私たちもアンタの横を走るから」
春香「うん、任せてっ!」ガッ
春香「……っとっとと……うわあ!?」ヨロッ
ドンガラガッシャーン!!
伊織「ったく、なんでこのタイミングで転ぶのよ……」
真「でも、春香らしいじゃないか」ニコッ
亜美「ですな。これがないとはるるんってカンジがしないよねー」
春香「うぅ……せっかくかっこ良く決めようと思ったのに……」
貴音「……春香」スッ
春香「あ、貴音さん。ありがとうございます!」ギュッ
貴音「過去の自分に囚われるのは、もうやめる事にしました。わたくしも、残りの時間を皆と笑って過ごしたい」
春香「貴音さん……」
貴音「……共に連れて行って頂けますか?」
春香「もちろんですっ!」ニコッ
貴音「ありがとうございます、春香」ニコッ
美希「うんうん、やっぱり春香に任せたミキの目に狂いはなかったの!」
春香「美希……」
春香「ありがとう、美希」
美希「ミキ、お礼を言われるようなこと、してないよ?」
春香「ううん、美希のおかげだよ。美希が私を頼ってくれたから……だから」
美希「春香。そーゆーのは、全部うまくいってからにするの」
春香「うん……そうだね」
美希(……でも、さっきの春香、ちょっとカッコよかったな)
美希(やっぱり春香がリーダーなんだなって思ったの)
美希(ミキのライバルで、親友で……大切な、仲間)
美希(負けないよ、春香。ミキ、春香よりもっともっとキラキラしてみせるからね!)
律子「……良かったわよ、春香。今の演説」
春香「お姉ちゃん!」
亜美・真美「りっちゃん!!」
あずさ「律子さん、もういいんですか?」
律子「はい、ご迷惑をおかけしました」ペコリ
あずさ「いえ、そんな」
律子「………」
律子「みんな、もう覚悟は出来ているのね?」
伊織「何を今さら。覚悟なんてとうの昔にできてるわよっ」
貴音「ええ。もう、迷う事など何もありません」
あずさ「春香ちゃんに勇気を貰いましたからね~」ニコッ
亜美「亜美のホンキ、ピヨちゃんに見せてあげるんだから!」
真美「そうそう、ピヨちゃんには真美たちを敵に回したことをコウカイしてもらわないとねー!」
真「どこまでやれるか分からないけど、ボクもやれるだけやってみるよ」
雪歩「わ、私も、足手まといにならないように頑張りますぅ!」
響「自分も、みんなと一緒に戦うぞ!」
やよい「最後まで、はりきって行きましょうっ!」
千早「私たちはもう大丈夫。……だって、最初から不安に思う必要などなかったのだから」
美希「律子…さんも、ミキたちと一緒だよ?」
律子「……ありがとう、美希」ニコッ
真「で、律子。どうする? さっそく小鳥さんのところへ乗り込むかい?」
律子「いいえ。あなたたちは戦いを終えたばかり。だから、今夜はしっかり休んで出発は明日にしましょう」
真「うん、分かった」
ーーー
律子「……『音無さんを真の意味で救えるのは俺しかいない』? 本当にプロデューサーはそんな事を言ったの?」
春香「はい。きっとプロデューサーさんには何か考えがあるんだと思います」
律子「どういう意味なのかしら」
真美「んー、たとえば、兄ちゃんの持ってるいやしの杖でピヨちゃんがケガしたら治す、とか?」
律子「それはどうかしらね……。あの杖ってそこまでの回復力はないんでしょ?」
春香「そうですね。確か回復量はケアルより少し多いくらいだったかな?」
律子「いくらプロデューサーが無敵だからって、ケアルラにも満たない回復量じゃ追いつかないでしょう」
伊織「ま、こっちは13人もいるんだし、立て続けに攻撃したら確実に向こうの回復は間に合わないでしょうね」
真美「それもそっか」
千早「だったら、物理的にではなく精神的に音無さんを助けるという事かしら」
真「つまり……プロデューサーが小鳥さんの心の支えになるって事?」
千早「ええ」
千早「いくら音無さんがこの世界を楽しんでいるとはいえ、最終的には一対十三の戦いになる」
千早「その状況を見兼ねてプロデューサーは音無さんの心の支えになろうと決意した」
律子「……なるほど、あり得るわね」
律子「とにかく、プロデューサーや小鳥さんの真意が分かった以上、私たちも二人の期待に応えた戦いを見せないといけないわね」
春香「そうですねっ!」
伊織「でも、小鳥の前に親衛隊とかいうヤツらが待ち構えてるわよ? その辺りはどうするのよ」
響「……強かったよね、あいつら」
雪歩「うぅ……怖いけど、やるしかないんだよね……」
律子「ああ、そこらへんはあまり心配していないわ」
伊織「えっ?」
律子「厄介ではある。けれど、あなたたちだって決して負けてない」
律子「この中の誰ひとり欠ける事なく小鳥さんのところへたどり着ける。私はそう確信しているの」
春香「お姉ちゃん……!」
真「へへっ、そう言われたらやるしかないよね!」
伊織「律子にしては珍しいわね。精神論に流されるなんて」
律子「あら、ちゃんとした論理的根拠が必要かしら? あなたたちは強い。それだけで証明にならない?」
伊織「……ぜんっぜん論理的じゃないわよ、それ」
あずさ「うふふっ♪ 」
亜美「まーまー、むずかしいコトはいいじゃん。ほら、よく『どんより正午』ってゆーっしょ?」
律子「論より証拠ね」
伊織「……そうね。やらなきゃ結果が出ないのは確かよね」
貴音「律子嬢。一つだけお願いがあるのですが」
律子「どうしたの? 改まって」
貴音「親衛隊と共に、恐ろしく強い竜の神がわたくしたちの前に立ちはだかるでしょう」
貴音「その方の事は、わたくしに任せて頂きたいのです」
律子「竜の神……」
やよい「貴音さん、それって……」
響「もしかして、バハムートってヤツの事か?」
貴音「……はい」コクリ
律子「貴音の知り合いなの?」
貴音「……わたくしの越えねばならない、壁です」
律子「………」
律子「あなたにもいろいろ事情があるみたいね」
律子「本当は全員で当たった方が安全なんでしょうけど……」
律子「……わかったわ。そのバハムートっていう竜のことは貴音、あなたに任せるわ」
貴音「ありがとうございます」
千早「律子、そろそろ休んだ方がいいんじゃないかしら。明日ここを発つんでしょう?」
律子「そうね。じゃあ、とりあえずご飯にしましょうか」
やよい「はい! じゃあわたしが……」
真美「ーー待ったッ!!」
真美「ここは真美にまかせてもらおうか……!」ゴゴゴ
一同「…………えっ!?」
伊織「…………で、なんで私まで巻き込まれなきゃいけないのよ」
真美「しょーがないじゃん。やよいっちやあずさお姉ちゃんはしょっちゅうゴハン作ってくれてるから頼みづらいし、お姫ちんは料理させたらキケンぽいし、亜美はしっちゃかめっちゃかにしそうだし……」
真美「火の魔法使える手頃な人がいおりんしかいなかったんだもん」
真美「あと、イガイに料理できそうなまこちん」
伊織「消去法で選ばれたのがイラッと来るわね……」
真「ねえ、早く作っちゃおうよ。きっとみんな待ってるよ?」
伊織「わかってるわよそんなこと。ていうかアンタ、料理なんかできるの?」
真「うーん、出来なくはないと思うけど……。ここには魚とかないんだよね」
真美「なんで魚?」
伊織「仕方ないわね、やっぱりここはこの伊織ちゃんが先導していくしかないみたいね」
真美「いよっ、さすがいおりん! 料理作らせたら『見た目はアレだけどすごくおいしい』って言われるだけあるねぇ!」
伊織「それ、褒めてないでしょ!?」
真「ねぇ、早くやろうよー。ボク、お腹ペコペコだよー」
伊織「うっさい! わかってるわよバカ!」
真「なんですぐにバカとか言うんだよ! 先にバカって言った方がバカなんだからね!」
伊織「じゃあ何度でも言ってあげるわよ! バカバカバカバカバカバカバカ……」
真「言い過ぎだよ!」
真美(人選ミスったね、こりゃ)
亜美「……で、真美さんや」
亜美「このぐちゃぐちゃの茶色いカタマリは何かね?」
真美「今は昔、まだこの世界に文明も発達していなかった頃……。人はそれをたまごやきと呼んでいたという……」
律子「つまり、卵焼きを作ろうとして失敗したわけね」
響「じゃあ、この……ええと、なんかいろいろ入ったちゃんこみたいなのはなんだ?」
真「おじや!」
響「ふ、ふーん……ずいぶん具沢山なんだな。具が大きすぎて煮物みたくなってるぞ……」
春香「で、でも、なんか個性的でおいしそうだよね! ほら、この肉野菜炒めとか」
伊織「それはカルパッチョよ」
春香「えっ?」
伊織「カルパッチョ」
春香「あ、うん……」
千早(大丈夫かしら)
律子「……まあ、とりあえず冷めないうちにいただきましょうか」
一同「いただきまーーす!!!」
それにしても、いくら小鳥さんが強いとはいえ数の暴力だよな…
春香「………」
雪歩「食べないの? 春香ちゃん」
春香「ゆ、雪歩こそ」
雪歩「えっと……うん、食べるよ。せっかく真ちゃんたちが作ってくれたんだもん」
雪歩「……あむっ」パクッ
雪歩「もぐもぐ……」
雪歩「あ……これ、結構おいしいかも」
春香「ホント? じゃあ私も……」パクッ
春香「…………ん、ホントだ。おいしい、このおじや!」
真「そ、そう? へへ、苦労して作った甲斐があったよ」
美希「もぐもぐ……」
美希「……あれ、このたまごやき、中に何か入ってる?」
真美「さすがはミキミキ、よくぞ気づいてくれたね!」
真美「このたまごやきの中には、さまざまなアイテムを入れてあるのだよ!」
響「アイテムって……ねえ、入れたのは食べられるモノなんだよね?」
真美「もちろんだよー。どくけしにー、乙女のキッスにー、うちでのこづちにー……」
響「……ちょっと待て。うちでのこづちって?」
真美「ああそうそう、そーいや月の民ぴょんに金のりんごとかソーマのしずくとかもらったから、それも入れてみたんだよー」
亜美「さすがは我が姉。空腹を満たすだけじゃなくて、ステータス異常に耐性をつけてさらにステータスアップも図ろうって作戦だね!」
真美「もっちろん! これぞ一石三鳥さくせんなのだ!」
美希「ふーん……なんか、新食感ってカンジなの」
響「大丈夫なのかなぁ……」
千早「モグモグ……」
伊織「どう? おいしい?」
千早「……ええ、とてもおいしいわ。ちょっと見た目からは想像できない味だけど」
伊織「ぐっ……」
あずさ「うふふ、見た目なんて気にしなくても大丈夫よ~? この冷しゃぶ、本当においしいから」
伊織「カルパッチョね」
あずさ「そ、そうだったわね~」
やよい「えへへっ、見た目はかわってるけど、伊織ちゃんたちのお料理とってもおいしいよ!」
伊織「そ、そう?ありがと、やよい」
真美「うーん、みんなおいしいって言ってくれるんだけど、なんだかなー」
伊織「私たちじゃ力不足だったって事を認めるしかないみたいね……」
真「そうかな? おいしいって言ってくれてるんだから別にいいんじゃない?」
伊織「私が納得できないのよ。このスーパー忍者アイドル伊織ちゃんの作る料理は、見た目も、味も、全てがパーフェクトでなければならないの!」
真「こだわるなぁ」
真美「んでも、マズイものができなくてよかったよね」
真「うん。やよいや響、あずささんの凄さが身に染みて分かったよ」
貴音「ふふ、真に重要なのはそこに込められた想い」モグモグ
貴音「相手を想って作ったものならば、どのような料理であろうとご馳走になり得ますよ」モグモグ
伊織「アンタ、ものを食べながらよくそんなセリフが言えるわね……」
ーーー
律子「…………さて」
律子「食事もお風呂も終わってあとはもう寝るだけだけど、その前にもう一度みんなに確認しておきたいの」
春香「確認……ですか?」
律子「ええ」
律子「私たちは明日、地下渓谷に潜る。小鳥さんに会うために」
律子「夕食前のみんなの話を聞いてみんなの覚悟は分かったわ」
律子「でも、もう一度各々よく考えて欲しいの。小鳥さんと戦うっていう事の意味を」
一同「………」
律子「私からの話は以上よ。さ、ゆっくり休みましょう」
一同「はーーーい」
P「ところで音無さん。最後の戦いについて何か考えているんですか?」
小鳥「え?」
P「ほら、音無さんには親衛隊がいるじゃないですか? その魔物たちをどう使うのかなーと」
小鳥「うふふ、気になります?」
P「もちろんですよ。まあ、直接戦うのは俺じゃなくてあの子たちなわけですけど」
小鳥「そうですねぇ……。ついに私のアイドルたちとプロデューサーさんのアイドルたちが戦う時が来たんですね……」
P「えっ? 音無さんのアイドル?」
小鳥「あっ……ええと、気にしないでください。深い意味はありませんので」
小鳥「私が考えたのは、よくあるパターンです。あの子たちそれぞれに持ち場を決めて、春香ちゃんたちを迎え撃ってもらうんですよ」
P「なるほど。確かにラスダンとかでよくあるパターンですね」
P「で、配置はもう決まっているんですか?」
小鳥「いえ、それはあの子たち自身に任せているので。今頃はみんなで話し合ってるんじゃないかなぁ」
P「ふーん……」
クルーヤ「……というわけで、クジを用意しました。覚悟が決まった子から引いてね」
リルマーダー「よーしっ! んじゃまずはオイラが……」
レッドドラゴン「待て待て。ここは特攻隊長であるオレ様がだな」
リルマーダー「特攻隊長はオイラだかんな!」
レッドドラゴン「なんだとこのクソチビ!」
ベヒーモス「こらこらこら、ケンカするんじゃないよ」
プリンプリンセス「そうですわ。たかがクジ引きではありませんか」
月の女神「でも、これで誰がどの階を守るか決まるんだよね?」
レッドドラゴン「そうだぜ。だから重要なんだ。こーいうのは一番最初に引いた方がいい階をゲットできるに決まってんだよ」
プリンプリンセス「理解に苦しみますわねぇ……。所詮は運ではありませんか」
リルマーダー「運なんかじゃねーよ! 選ばれし者は、選ばれし運命を背負ってるんだ。このオレ様みたいにな!」
リルマーダー「だから一番にクジを引くのはこのオレ様だっ!」
ブルードラゴン「……いや、その理屈だとそなたはどの順番で引いても結果は変わらないはずなのではないか?」
リルマーダー「あっ……そっか」
金竜「しかし、地下1階を引き当てることが出来れば確実にあいどる共と戦えるのも事実。彼女たちは上から降りてくるのだからな」
銀竜「うむ。下の階へ行くほどあいどる共との遭遇率は下がるわけだな!」
レッドドラゴン「地下1階はオレ様が引き当ててやんぜ!」
リルマーダー「いいや、オイラだっ!」
金竜「否、我である!」
月の女神「うーん……だったら私も上の方の階がいいなぁ」
ワイワイガヤガヤ…
ベヒーモス「………」
クルーヤ「クジを引く順番で揉めるとか、これじゃいつまで経ってもそれぞれの持ち場が決まらないなぁ……」
ベヒーモス「すまないね、クルーヤ。これでも親衛隊結成当初よりはケンカも減ったんだが……」
クルーヤ「うん。それは見ていてなんとなく分かるよ」ニコッ
ベヒーモス「……とはいえ、これじゃ話が進まないのも事実」チラ
レッドドラゴン「一番はオレ様だ!」
リルマーダー「いいやオイラだっ!」
金竜「いや我が!」
ギャーギャー…
ベヒーモス「……仕方ないね」
ベヒーモス「野郎共、静かにしないか!!」
ベヒーモス「ここはリーダー権限でアタイがクジを引く順番を決めさせてもらうよっ!」
リルマーダー「ちぇっ」
レッドドラゴン「マジかよ……」
月の女神「でもベヒーモスちゃん、どーやって順番を決めるの?」
ベヒーモス「五十音順だ」
レッドドラゴン「あ? なんだそれ?」
プリンプリンセス「読んで字の如く、ですわ。名前の頭文字が五十音順で早い方からクジを引いていくんですのよ?」
リルマーダー「じゃあ、一番は……」
魔人兵「あ行で始まる名前の人だから……」
ベヒーモス「一番手はお前だ、暗黒魔道士」
暗黒魔道士「……っ!」ビクッ
クルーヤ「…………で、みんなにクジを引いてもらったわけだけど」
レッドドラゴン「っしゃああああ!! 見たかこのヤロー! オレ様が地下1階だせっ!!」
リルマーダー「くそぅ……なんでオイラがこんなに深い階なんだよぅ……」
プリンプリンセス「わたくしの持ち場は地下5階ですわね。ちょうど良かったですわ!」
月の女神(私は地下7階かぁ……。誰か私のところまでたどり着いてくれるといいなぁ)
ブルードラゴン(これで後は時を待つのみ、か)
金竜「我が弟よ、地下4階とはなかなかではないか?」
銀竜「うむ。流石は兄者!」
魔人兵「とにかく、コトリ様のためにも頑張らないとな!」
暗黒魔道士「………」
ベヒーモス「これでそれぞれの守護階は決まった。あとはそれぞれがめいっぱい暴れるだけだ」
ベヒーモス「気合い入れな! 野郎共!!」
魔物たち「おおおーー!!!」
クルーヤ「ふふ、なんだかんだ言ってまとまってるよね、この子たち」
クルーヤ「さてと、僕もそろそろ自分の持ち場へ行かないと」
クルーヤ「ーーっ!」ピクッ
ダークバハムート「………」ゴゴゴ
クルーヤ(……おお恐)
クルーヤ(こっちも気合い入ってるなぁ。よっぽど嬉しいんだね、タカネちゃんと戦えることが)
クルーヤ(これは僕も負けていられないな)
次回はやっとラスダン突入…のはずです
黒井「…………なに? 月へ向かう手段がないだと?」
北斗「予想のつかない展開になっているのではっきりとは言えませんが、すでにやよいちゃんたちが魔導船で月へと渡ってしまっているので、それ以外に方法はないかと……」
高木「つまり、我々は置いてきぼりを食ってしまったのか」
黒井「……ちっ、765プロめ。この私をのけ者にしおって!」
翔太「まあまあ黒ちゃん、今さら言っても仕方ないでしょ。やよいちゃんが僕らを召喚してくれれば、やよいちゃんのために戦えるんだからさー」
黒井「そもそも、なぜ私が高槻やよいにいちいち呼び出されなければならないのだ! 私は召使いなどではないのだぞ!」
翔太「いや、もともとそーいう契約だったし、黒ちゃんも結構ノリノリで戦ってたじゃん……」
黒井「まったく、この世界は間違っている! 何もかも!」
高木「はは……まあ、ここは実際には存在するはずのない世界だからねぇ……」
冬馬「……見苦しいぜ、黒井のおっさん」
黒井「なに……!?」
冬馬「翔太の言う通り、俺たちは高槻と契約を交わしたんだ。ルールは守るのが大人だろ?」
冬馬「あんたは俺たちの王だ」
冬馬「王だったら王らしく、いつもみたいに余裕ぶって構えてればいいじゃねえか」
黒井「む……」
冬馬「それに、黒井のおっさんは高槻の最終兵器でもあるんだ。……切り札ってヤツだな」
冬馬「だからきっと高槻も出し惜しみなんてしないと思うぜ?」
黒井「………」
黒井「…………フン、分かったような口を聞きおって」
黒井「だがお前の言う事も一理ある。私に頼らなければ事務員一人も倒せない765プロめ、せいぜいこの王に泣きつくがいい!」
黒井「クックック……!」
北斗(……冬馬。お前、なかなか黒井社長のコントロールが上手くなってきたな)
冬馬(まあな。伊達に長い時間を一緒にやって来てねーよ)
翔太(ま、御し易いのは冬馬君も同じだけどね~)
冬馬(お前は一言余計だこのやろ)
「…………それは、本当ですか!?」
冬馬「…………あん?」チラッ
トロア「このような時勢にミシディアへ戻られるなど……。しかもお一人でなんて危険です!」
長老「世界を背負って戦うあの子らのために、この老いぼれのできることなど一つしかないからのぅ」
長老「……もう、決めたことじゃ。ワシは祈りの館へ入る」
トロア「し、しかし……!」
冬馬「……なんだあの爺さんは」
翔太「うーん……セリフから察するに、重要なキャラっぽい気もするよねー」
冬馬「まあ、俺たちにゃカンケーねぇか」
北斗「………」
冬馬「……おい北斗。どうかしたのか?」
北斗「……冬馬。俺たちのやるべきことが見つかったかもしれない」
冬馬「…………え?」
長老「……すまんの、二人とも。ジジイのわがままに付き合わせてしまって」
技師1「いえ、とんでもないです!」
技師2「飛空艇の操縦は我々の仕事ですから」
技師1「それに……」
技師1「オレたちも親方たちのことはずっと心配してました。気持ち的には長老さんと一緒です」
技師1「ですから、その……オレたちも共に祈ります!」
長老「気持ちは嬉しいが、そなたらにはそなたらの務めがある。そなたらはトロイアへ戻るんじゃ」
技師2「長老さん、しかし……!」
長老「祈りの館へ篭るとなれば、長い時間自由がきかないことになる」
長老「ファルコン号を動かすことの出来るそなたらがいなくなってしまっては、アン殿をはじめとするトロイアの人々に迷惑がかかってしまうじゃろう」
技師1「………」
長老「なに、ワシのことは心配するでない。それよりも、アン殿を手伝ってやってほしいんじゃ」
技師2「……分かりました。でも、定期的に様子は見に来ます」
技師1「あと、何か必要な物資があったら、なんなりと言ってください!」
長老「……ありがとう」ニコッ
ババババババ…
技師1「それでは長老殿、お体に気をつけて!」
技師2「また……来ます!」
長老「うむ」
長老「……さて」クルッ
長老(村は相変わらずひどい光景じゃ。バロンの者が攻めて来た時とは比べものにならんほどの……)
長老(皆……すまんの。しばらく待たせてしまって)
長老(祈りの館へ入る前に、まずは形だけでも弔いを済まさねば)
スタスタ…
ザッ… ザッ…
長老「………」ザクッ
翔太「……ねえ、こっそりついて来たはいいけど、あのおじいさん、何かはじめちゃったみたいだよ?」
冬馬「穴掘ってるみたいだけど……いったいなんのために掘ってんだ?」
北斗「……きっと、死者の為の墓なんだろう」
冬馬「死者……?」
翔太「それってもしかして、魔物にやられちゃった人たちの?」
北斗「おそらくな」
高木「酷いものだ。村ひとつ丸ごと滅んでしまうとは」
黒井(……これが力無き者の末路、か。惨めだな)
黒井「………」
黒井「……北斗、どうするつもりだ。あの老人を追うと言ったのはお前なのだぞ」
北斗「まずはあの人と接触しようと思ったのですが……。すみません、機会を逸したみたいです」
翔太「……確かに、今はちょっと声かけづらいよね」
黒井「……仕方がない、ほんの少しだけ時間をやろう」
翔太「えっ? 黒ちゃん本気?」
黒井「私とて鬼ではない。無様なあの老人に後悔する時間くらいはくれてやる」
北斗「社長……」
翔太「へぇ~、黒ちゃんいいとこあるじゃん! 僕、見直しちゃったよ!」
黒井「……フン」プイッ
高木「ふふ……」ニコッ
高木「…………ん?」チラッ
冬馬「………」
高木「鬼ヶ島君、どうかしたのかい?」
冬馬「いや……」
冬馬「この村ってさ、こないだ会った月から来たっていう魔物に滅ぼされたんだよな?」
高木「……!」
冬馬「俺、あの時はとっさに魔物を助けちまったけどさ。……もしかしてこの世界の人間のためにならねー事をしたんじゃないかって……」
翔太「冬馬君……」
北斗「冬馬……」
黒井「………」
黒井「だからなんだというのだ?」
冬馬「……黒井のおっさん……?」
黒井「いっとき魔物の味方をしてしまった。だから敵対関係にある人間とは接触できない」
黒井「……そう言いたいのか?」
冬馬「いや、そうは言わねえけど……。俺たちがした事は正しい事だったのか、って分からなくなっちまってよ」
黒井「くだらん。この世界にいちいち感情移入してどうする」
黒井「そんな事を考える暇があるなら、次に高槻やよいに召喚された時のために作戦でも考えておくのだな!」
冬馬「………」
高木「鬼ヶ島君。『正しい事』の定義なんて人の価値観次第だ。それこそ人の数だけ正義がある」
高木「誰かの正義と自分の正義が矛盾することは度々あるだろう」
高木「だが、我々はお互いに歩み寄ることができる。歩み寄り、価値観を近づけることができる」
高木「君の尊い価値観を理解してくれる者は、きっと現れるだろう」
冬馬「………」
黒井「……それはただの妥協だがな」
高木「む……」
翔太「もうっ! 黒ちゃんは一言余計だよー」
黒井「冬馬。私はお前のように後悔などしたりしない。後悔とは、弱者のすることだからな」
冬馬「………」
高木「鬼ヶ島君、君はまだ若い。悩む事もあるだろうが、悩んだ事は必ず君の力になる」
高木「だから、たくさん悩むといい」
黒井「高木、お前は何も分かっていない」ゴゴゴ
高木「分かっていないのはお前だ、黒井」ゴゴゴ
翔太「ちょ、ちょっと二人とも、こんなところでケンカはダメだってば!」
長老「……ワシの村で暴れんでくれんかのぅ。召喚獣たちよ」
黒井「!」
高木「!」
翔太「……ほ~ら怒られた」
長老「……幻獣が揃ってこんな廃村に何用じゃ?」
翔太「おじいさん、僕たちの事知ってるの?」
長老「もちろんじゃよ。アスラにオーディン、そして幻獣王リヴァイアサン」
長老「まさかこの様な豪華な面子に会う事になるとはな」
長老「お主ら、トロイアからずっとワシを追って来たのじゃろう?」
高木「おや、気づいておられたのか。なかなか鋭い勘をお持ちのようだ」
長老「ワシとて月の民の端くれ。気配を読む事ぐらいは出来る」
長老「じゃが、この村は見ての通りすでに滅んでおる。幻獣であるお前さんたちの求めるものなど何も無いと思うのじゃがのぅ」
冬馬「………」
黒井「……おい、北斗」
高木「ここは伊集院君の判断に任せるよ」
北斗「はい、分かりました」
北斗「……長老さん。俺たちも祈りの館へ入れてもらえませんか?」
長老「………」
長老「なぜ、お主らのような幻獣が? 詳しい話を聞かせてもらえるかの」
北斗「はい」
ーーー
長老「……そうか。お主らもまた、ハルカたちの仲間じゃったのか」
北斗「はい。もう月へ行く手段はありませんが、あなたの力をお借りすれば俺たちの『想い』を彼女たちへ届ける事ができると思ったんです」
長老「ふむ……」
長老「お主らの気持ちは分かった。本当ならワシひとりで祈るつもりじゃったが……」
長老「こうしてここにお主らが訪れたのも、何かの縁じゃろう。共に来るがよい」
北斗「はい、ありがとうございます」
長老「少し待っていてくれ。すぐにやることを終わらせてくる」
スタスタ…
冬馬「……なあ、じいさん、待ってくれ」
長老「……ん?」クルッ
冬馬「何人分の墓を作るつもりか知らねえけど、あんたひとりじゃ大変だろ? 俺にも手伝わせてもらえないか?」
長老「………」
長老「不思議じゃな、お主は。幻獣が召喚士でもないワシの為に力を貸すなど」
長老「ありがとう。ならば、頼んでも良いかの?」
冬馬「おうっ!」
カイナッツォ「……と、いうわけなのだ」
オクトマンモス「ふーん、人間と魔物が和解かぁ。オレの知らない間にいろいろあったんだなー」
カイナッツォ「今後人間を見かけても襲わぬようにな」
オクトマンモス「カイナッツォの旦那が言うんじゃ従わないわけにはいかねーな」
オクトマンモス「よし、ここいらの魔物にはオレから伝えておくぜ!」
カイナッツォ「うむ、さすがは私の部下。もの分かりが早くて助かる」
オクトマンモス「じゃあ、オレはまたダラダラと寝て過ごすからよ。じゃあな、旦那!」
ズズ…
カイナッツォ「……まったく、ぐうたらな奴だ」
ー アントリオンの巣 ー
アントリオン「……えっ、マジかよ! じゃあ、バトルとかもダメなのか?」
スカルミリョーネ「……だ、ダメ。人間を傷付けることにな…る……」
アントリオン「ちぇー。オレ様の唯一の楽しみだったのによー」
スカルミリョーネ「……ひ、ヒマな時にオレが相手になってやるか…ら……」
アントリオン「ホントだぞ! 絶対だかんな!?」
スカルミリョーネ「……ぞ、ゾンビ、嘘つかな…い……」
スカルミリョーネ「……ちゃ、ちゃんとみんなに知らせておくんだ…ぞ……?」
アントリオン「……了解」
アントリオン「ところでスカルミリョーネ様、砂漠の光、持ってくか?」
スカルミリョーネ「……い、いらな…い……」
マグ「バルバリシア様……!」
ドグ「お会いしとうございました……!」
ラグ「こうして再びその美しいお姿を拝見する事ができて、我らは感激にございますっ!」
バルバリシア「良かった、無事だったのね、三人とも」
バルバリシア「ところで、こんな場所でいったい何をしていたの?」
マグ「それが……。ゾットの塔の爆発から命からがら逃げ出したのは良かったのですが……」
ドグ「目が覚めると、見知らぬ土地に横たわっておりまして……」
ラグ「歩けど歩けど仲間の魔物や人間すらも見つからず、途方に暮れていたのです……」
バルバリシア「大変だったのねぇ、あなたたちも」
バルバリシア「ま、この町にもう人間はいないみたいだし、ここを根城にするのもいいんじゃないかしら?」
マグ「いえ、せっかくこうして再び出会えたのです。我らもバルバリシア様と共に行きます!」
バルバリシア「その前に、他の魔物たちに伝えてもらいたいのよ」
バルバリシア「もう人間と争う事はない、って」
ドグ「……それは、本当なのですか? ルビカンテ様ともあろうお方が人間と手を結ぶなど、にわかには信じられませぬ……」
バルバリシア「ひと昔前のあいつならそうだったかもね。でも、あいつは変わったわ」
ラグ「そうなのですか?」
バルバリシア「ええ。これからは魔物も人間も争いの無い、新しい時代が来るわよ」
バルバリシア「全てが終わったら、どこかいいところを見つけてみんなで暮らしましょう」
マグ「……分かりました。それを楽しみに、私たちは言いつけを果たして来るとします」
マグ「行くぞ、ドグ、ラグ!」
ドグ・ラグ「はっ!!」
タタタタ…
バルバリシア「……新しい時代、か」
バルバリシア「その前に、ミキたちに頑張ってもらわないとね」
バルバリシア「……さて、あいつはしっかりやっているかしら」
…ザッ
ルビカンテ「……酷い有様だな。崩れていないのが不思議なくらいだ」
ルビカンテ「ここももうアジトとしては使えまいな」
ルビカンテ(あれだけ激しい戦いがあった後だ。それも仕方ない、か)
「…………ルビカンテ様」
ルビカンテ「……生きていたか、ルゲイエよ」
ルゲイエボーグ「はっ。このルゲイエ、こうしてルビカンテ様に再びお会いできるのを待ちわびておりましたぞ!」
ルビカンテ「…………そうか」
ルビカンテ「このバブイルの魔物はどれだけ残っている?」
ルゲイエボーグ「数は半分程に減ってしまいましたが、戦力として使えそうな者もまだおりますじゃ」
ルゲイエボーグ「人間を攻めるのですかな?」
ルビカンテ「いや、人間とは和平を結んだ。もう憎しみ合う事もないだろう」
ルゲイエボーグ「なんと……」
ルビカンテ「残っている者たちに伝えてくれ。これからは平和に生きるのだと」
ルゲイエボーグ「それが、ルビカンテ様のお望みとあらば」
ルビカンテ「頼んだぞ」クルッ
スタスタ…
ルゲイエボーグ(……なーんて素直に従うと思うなよ? この木偶がぁ!)
ルゲイエボーグ「……死ねぇ、ルビカンテっ!」ブンッ
…ザシュッ!!
ルビカンテ「! ……ルゲイエ、貴様……」
ルゲイエボーグ「お前さえいなければ、ワシは四天王になっていたんじゃあ!」
ドゴォ!! ズバァ!!
ルゲイエボーグ「お前のせいで、お前のせいでっ!!」
バキッ!! グシャァ!!
ルゲイエボーグ「っ……はぁ、はぁっ……」
ルゲイエボーグ「ど、どうじゃ、思い知ったか!」
ルビカンテ「………」
ルビカンテ「……やはり、お前だけは生かしておけんようだな」
ルゲイエボーグ「なっ……!? ワシの攻撃が効いてないだと……!?」
ルビカンテ「私利私欲の為にしか動かないお前は、弱い」
ルビカンテ「オレは本当の強さというものをあいどるたちから学んだ」
スタスタ…
ルゲイエボーグ「ひっ、く、来るなっ!」ズサッ
ルビカンテ「お前がイオリにした事を、今度はオレがお前にしてやろう」ポキポキッ
ルゲイエボーグ「お、お助けぇ~~!!」
ドカバキベキグシャ!!
ルゲイエボーグ「」
ルビカンテ「……地獄で反省するんだな、ルゲイエよ」
亜美「……ちぇすとぉ!!」
ゴオオオオォォ!!
ドサッ
魔物1「」
亜美「もいっちょ!!」
ゴオオオオオ!!
ドサッ
魔物2「」
亜美「ラストっ!!」
ゴオオオオォオオ!!
ドサッ
魔物3「」
亜美「…………ふぃ~」
真美「おつかれ亜美ー。ほい、エーテル」スッ
亜美「さんきゅ、真美」
亜美「んく、んく……」
真美「なかなか板に付いてきたカンジじゃない? 亜美の『れんぞくま』も」
亜美「……いや、まだまだっしょ。亜美ひとりじゃ使える魔法は限られてるし、お姫ちんやミキミキの火力には届いてないよ、きっと」
亜美「それに連続じゃなくていちおー同時に出してるんだよ? 真美だって同じっしょ?」
真美「おっと、こりゃしっけい」
真美「でも、火力が足りないからなん個も同時に魔法出して撃ってるんだよね?」
真美「それでもまだあの二人にかなわないって、ツラいねー」
亜美「だって……ミキミキは最初っからホーリー使えたみたいだし、はるるん助けに行った時なんかはアルテマ使ったっぽいし……」
真美「ねー。それを聞いた時は真美もチョーびっくりしたよー」
亜美「お姫ちんはお姫ちんでいつの間にかメガフレアとか覚えてるし……」
亜美「もうね、くやしいを通り越して笑いが出てくるよね……」ズーン
真美「ま、まあホラ、あの二人はいろいろとキカクガイだからさ」
亜美「でもさー、ウチらの中でキッスイの黒魔道士は亜美だけなんだよ? やよいっちの火力にはかなわなくても、せめてミキミキやお姫ちんの火力には追いつきたいよー……」
亜美「……あーあ、亜美も二人みたいにすんごい魔法が使えるよーにならないかなぁ」
真美「たいへんだねぇ、黒魔道士も」
貴音「…………精が出ますね、亜美、真美。このような夜更けに」
亜美・真美「……お姫ちん?」
亜美「どったの? こんな時間に」
真美「お姫ちんもしゅぎょー?」
貴音「いえ、そうではありません」
貴音「明日、わたくしたちは中心核を目指してここを発ちますが、その前にこの光景をしっかりと目に焼き付けておこうと思いまして」
亜美「この光景って、月の?」
貴音「ええ」
真美「そーいえばお姫ちんって、いっつも月を見てたよね」
貴音「わたくしにとって月とは、無くてはならないものですから」
真美「ふーん……」
貴音「……時に亜美」
亜美「……ほぇ?」
貴音「何やら自分の魔法の威力に自信が持てないようですね?」
亜美「…………まあ、ね」
亜美「てか、お姫ちんのせいでもあるんだよ?」
貴音「……なんと、そうでしたか。それは申し訳ない事をしてしまいました」
亜美「いや、マジにあやまらないでよ……。なんか自分がミジメに思えてきたよー……」
真美「亜美……」ナデナデ
貴音「………」
貴音「亜美。もう少し自分に自信をお持ちなさい」
亜美「えっ……」
貴音「わたくしが保証します。あなたのその力は決して誰にも引けを取ってはいません」
亜美「………」
亜美「うーん……お姫ちんが言うと、なーんかホントっぽく聞こえるんだよねぇ」
貴音「……はて? わたくしは真実を申し上げているつもりですが?」
亜美「……ホント、その自信はどこからくるんだろ」
貴音「ふふ……」ニコッ
貴音「では、僭越ながら、わたくしから一つ助言を差し上げます」
貴音「亜美。あなたはわたくしや美希に魔力が劣っていると思い込んで焦っている……」
亜美「………」
貴音「ですが、それは大きな間違いです」
亜美「……え、なんで? だってお姫ちんもミキミキも、亜美が使えない魔法とか使えるじゃん」
貴音「……例え話をしましょう」
貴音「白魔道士である美希は『けあるが』や『へいすと』、『ほーりー』などが得意ですね」
亜美「あと、アルテマもね」ムスー
貴音「片や、同じ白魔道士の真美は『れびてと』や『ぷろてす』、『しぇる』、『ぶりんく』などを好んで使用します」
真美「……ん、そーいやミキミキってあんましサポート魔法使わないんだね」
貴音「ええ。全く使用しない、という訳でもないと思いますが、美希は回復や攻撃、真美は自身の強化や仲間のさぽーとが得意なのだと感じました」
真美「へー……真美、そんなのゼンゼン気にしてなかったよー」
亜美「……んじゃあ、他のみんなは?」
貴音「そうですね。あずさは特に『てれぽ』の魔法が得意なようです」
真美「あれは、得意ってゆーのかなぁ……」
貴音「わたくし自身は白黒併せて大体の魔法を使う事ができますが、それでもその中で得手不得手というものがあります」
貴音「『ぶりざど』系の魔法は得意ですが、『さんだぁ』系の魔法はあずさに、『ふぁいあ』系の魔法は亜美に威力で劣るでしょう」
亜美「えっ、そーなの?」
真美「知らなかった……。しょーげきのジジツってカンジ」
貴音「それに、『とーど』や『ぶれいく』の魔法を使えるのも亜美、あなただけです」
貴音「それ以外にも、あなたには魔法を同時に複数発動するという特技も持っています」
真美「……あれ? なんか、お姫ちんの話を聞いてたら亜美がそこまでダメダメってカンジはしなくなってきたよ?」
貴音「魔法というものも一つの個性。使用者によってその力は様々な形に変化します」
貴音「つまり、わたくしにはわたくしの、美希には美希の……」
貴音「そして、亜美には亜美だけの戦い方というものが必ずあるはずなのです」
貴音「それはもちろん真美、あなたにも同じ事が言えるでしょう」
真美「………」
貴音「他人を真似するのではなく、あなた方にしか出来ない自分だけの戦い方を見出してください。二人の柔軟な発想力ならば、きっとそれを見つけることが出来ると信じていますよ」
亜美「………」
真美「お姫ちん……」
亜美(亜美だけの戦い方、かぁ……)
亜美(……そーだね。誰かのマネして強くなっても、きっとイミないよね)
亜美「……ありがとね、お姫ちん」
亜美「亜美、自分がどーすればいいかがなんとなくわかった気がするよ!」ニコッ
貴音「……共に精進致しましょう、亜美、真美」ニコッ
真美「うーむ……。さすがお姫ちんってカンジだね。カユいところに手が届くっていうか」
亜美「あ、そんじゃあお姫ちんはマゴの手ってコトだね!」
真美「おお、そーだね! マゴの手ちんだね!」
貴音「あ、あの……それは果たして褒め言葉なのでしょうか?」
真美「……っと、そうだ」
真美「そーいえば真美、ピヨちゃんと戦うに当たってお姫ちんに言っておかなきゃいけないことがあるんだった」
貴音「わたくしに……ですか?」
真美「うん。すっごく大切な話なんだよ」
貴音「……分かりました。拝聴致しましょう」
真「…………せいっ!」バッ
…ドガアアァァアアン!!
雪歩「わぁ……山が一つなくなっちゃった……!」
雪歩「やっぱりすごいね、真ちゃん」
…スタッ
真「そんなことないさ。気の流れを上手く操ることができれば、こんなの誰にだってできるんだ」
真「特に、今までずっとボクの修行に付き合ってくれていた雪歩なら、もう気の流れっていうものを理解しているはずだよ?」
雪歩「で、でも私、まだよく分からなくて……」
真「……うーん」
真「……いいかい雪歩。気っていうのは誰だって自分の体の中に持っているものなんだ」
真「大切なのは、どうやってそれを外へ出してやるか」
雪歩「体の外へ……?」
真「うん。頭で考えるんじゃなくて、感じるんだ。自分の中に揺らいでいるエネルギーを解放するイメージを思い描くんだよ」
雪歩「自分の中の、エネルギー……」
真「そのエネルギーを……」ユラ…
真「…………拳に込めて、撃つッ!!」ブンッ
ドゴオオオオォォオン!!!
真「……まあ、雪歩にはアダマンアーマーと伝説のスコップがあるし、あんまり必要ないのかもしれないけどね」
雪歩「……ううん、そんなことないよ。真ちゃん、私に教えて!」
真「……へへ、分かったよ」ニコッ
真「ただ、明日にはもう出発だ。時間的に教えてあげられるのは簡単な事だけになっちゃうけど、それでもいいかな?」
雪歩「よ、よろしくお願いします、師匠!」
真「し、師匠?」
真「……ま、まぁいいや。それじゃ、もう一度ボクの動作をよーく見ててね?」スッ
雪歩「お、押忍っ!」
やよい「………」
やよい「………」
やよい「………」
やよい「………」
やよい「………」
やよい「……………うー」
伊織「…………やよい、眠れないの?」
やよい「あ、伊織ちゃん……。ごめんね、起こしちゃった?」
伊織「ううん。ちょうど私も眠れなかったところよ」
やよい「そっかぁ……」
伊織「………」
やよい「………」
伊織「……考え事でもしてたの?」
やよい「……うん」
伊織「………」
やよい「………」
やよい「えっとね……」
やよい「ちょっと、小鳥さんのことを考えてたんだ」
伊織「…………そう」
やよい「わたし、あんまりよくわからないままここまできて、今までずーっとおかしいなー、なんでだろーって思ってたことがあって……」
やよい「でも、春香さんが『小鳥さんのおかげでわたしたちが成長できた』って言ったときに、思ったの」
やよい「小鳥さんは、やっぱり小鳥さんでいてくれたんだなーって」
伊織「………」
やよい「だから、わたしもちゃーんと小鳥さんにお礼をしなきゃって思って」
やよい「わたしも最後までしっかりわたしの役をえんじて、小鳥さんを……」
伊織「……やよい」
伊織「アンタの決意は分かったわ。だから、無理しなくてもいいの」
やよい「えっ? わたし、ムリなんかしてないよ?」
伊織「嘘よ。……だったらなんでアンタは泣いているの?」
やよい「わ、わたしっ……こ、これは泣いてるんじゃなくて……!」ゴシゴシ
伊織「………」
伊織「……お願いよ、やよい」ダキッ
やよい「い、伊織ちゃん……?」
伊織「私の前では無理しないで。本当のあなたを見せて」
やよい「っ……ううっ……!」ポロポロ
やよい「伊織ちゃん……わたしっ……!」
やよい「ほんとうは、小鳥さんと戦いたくないよっ……!」ポロポロ
伊織「やよいっ……!」ギュッ
やよい「ほんとうは、ごわぐでっ……かなしくてっ……えぅ……!」ポロポロ
伊織「ええ……そうね……」ナデナデ
伊織(『自分の役を最後まで演じきる』。春香の言葉は確かに聞こえはいいけれど、小鳥との戦いをそういう風には考えられない子だってもちろんいる)
伊織(やよい……。アンタはどこまでも優しいから、割り切ることができないのね……)
伊織(でも、だからこそアンタは今より強くなれる。やよいなら、その優しさを強さに変えることだってできるわ)
伊織(乗り越えるのよ。……それはアンタが自分の力で越えなければならない、壁なんだから)
やよい「……ぅうううぅぅうううぁああん……!!」
律子「………」
律子(春香のおかげで、あの子たちも小鳥さんと戦う覚悟を持つ事ができた)
律子(でも、それはきっとみんながいるから。自分は一人じゃないって思う気持ちから来るもの)
律子(地下渓谷ではどんな戦いになるか分からない)
律子(もし、一人になってしまった時。誰からも助けてもらえなくなった時)
律子(その時にこそ、あの子たちの真価が試される事になる)
律子(それにしても、プロデューサー殿の言葉が気になるわね)
律子(小鳥さんを真の意味で助ける……。心の支えになるっていうのは確かにそれっぽく聞こえるけど、イマイチしっくりこない)
律子(プロデューサー殿には何か別の思惑がある。……そう思えて仕方がないのよね)
美希「……あれ、律子…さん?」
律子「美希……」
律子「……眠れないの? 早く寝ないと明日に響くわよ?」
美希「えーっとね、寝すぎて寝れなくなっちゃったの」
律子「あのねぇ……。明日起きなかったら置いて行っちゃうわよ?」
美希「それはへーきなの。ミキ、こー見えて自分の睡眠時間はちゃーんと調整できるんだよ?」
律子「……本当に大丈夫なんでしょうねぇ?」
美希「あ、ヒドいの! 律子…さん、ミキのこと信じてないんだ」
律子「そういうわけじゃないけど……」
美希「………」
律子「………」
…キラーン!
美希「……キレイだね、クリスタルって。見てるとなんだか不思議な気持ちになってくるの」
律子「そうね……」
律子「……美希、あなたに訊きたいことがあるんだけど」
美希「なーに?」
律子「その……プロデューサーがいなくなってさみしくないの?」
律子「あなたっていつもプロデューサーにベッタリだったし、どうしてそんなに落ち着いているのかなって気になってね」
美希「んー…………」
美希「じゃあ、律子…さんは?」
律子「えっ?」
美希「ハニーがいなくて、さみしい?」
律子「えっ…と……」
律子「……そりゃあ、誰にも相談せずにいきなりいなくなったのはどうかと思うけど……」
律子「まあ、どこにいるのかは分かっている訳だし、小鳥さんのお守をしてもらってると思えばいいし」
律子「……それに、彼には彼なりの考えがあるみたいだし」
美希「そう!」
美希「ハニーにはハニーの考えがあるんだよ」
美希「ミキも、ハニーがどうするつもりなのかまでは分からないけど」
美希「……でもね、『信じて』ってハニーが言った以上、ミキはそれを信じて、自分にできることをガンバるだけなの」
美希「だから、ミキもさみしがってるだけじゃダメって思ったんだよ?」
律子「………」
律子「強いわね、美希は」
美希「? ……別に特別なことじゃないと思うな」
律子「いいえ、特別よ」
律子「仲間の言葉を信じるのはとても大切な事だけど、簡単じゃないわ」
律子「心のどこかで不安を抱いてしまう。疑心暗鬼に陥ってしまう」
律子「ただ真っ直ぐにそれができるのは、美希、あなたが本当に純粋に強い人間だからよ」
美希「……ミキはよく分からないけど、律子…さんが言うなら、そうなのかな」
…キラーン!
律子「……ねえ、美希。あなたは不安に感じない? 小鳥さんと戦うことを」
律子「春香はああ言ったけど、仲間と戦うというのはやっぱりそう簡単に割り切れる事じゃないわ」
律子「それに、小鳥さんはどうやら本当に本気みたいだし……」
美希「……あは☆ なんだかおかしいの」
律子「えっ……」
美希「これじゃ、いつもと逆だね」
律子「逆? ……どういう意味?」
美希「だっていつもは、分からない事をミキたちから質問することが多いのに、今日の律子…さん、ミキに質問してばっかりだよ?」
律子「あ…………」
律子(そうか…………そうだったのね)
美希「みんな、難しく考えすぎなの」
美希「小鳥と戦うことになったからって、別にミキたちのカンケイが変わっちゃうってわけじゃないでしょ?」
律子(質問ばかりするのは、不安の裏返し)
律子(みんなの事を心配しつつも、その実は……)
美希「戦って、小鳥を倒して、それで元の世界に帰って。でも、元の世界に帰っても小鳥は小鳥だし、ミキはミキだよ?」
美希「それはこの世界にいても同じだって思うな」
律子(私自身が一番、小鳥さんと戦う事に不安を……いえ、恐怖を抱いている)
美希「戦う過程で痛い思いや苦しい思いもするかもしれないけど、それはみんな同じなの」
美希「ミキ的には、全部終わって元の世界に戻ればまたみんなで楽しく過ごせるって思うなっ」ニコッ
律子「美希……」
律子(……ここがクリスタルルームだからそう思うのかしら)
律子(今は、目の前のこの子が眩しくて仕方ない)
美希「えっと、こーいうのなんて言うんだっけ? 喉元過ぎれば……」
律子「……熱さ忘れる、ね」
美希「あは☆ さすが律子!」
律子「さん、でしょ?」
美希「むー……ごめんなさいなの」
律子(喉元過ぎれば……か)
律子(私は美希みたいには考えられない。でも、この子たちの強さには、本当に勇気をもらえるわ)
律子(私も、もっとしっかりしないとね)
美希「ミキね、地球の……ばろん、っていう国でみんなで集まった時に、誓ったの」
美希「ハニーと離ればなれになっても、もうゼッタイに弱音は吐かないって」
美希「だから、もう何があっても恐くないよ。どんな壁だってきっと乗り越えてみせる!」
律子「………」
律子「……はぁ……」
律子「やっぱり大物だわ、あんたは」
美希「そう?」
律子「さ、そろそろ戻りましょう。眠れないって言っても、横になって目を閉じてるだけでも体は休まるから」
美希「あ、じゃあじゃあ、今夜はミキと一緒に寝る?」
律子「そうね、たまにはそれもいいかもしれないわね」ニコッ
美希「えへへ、やったぁ!」
響「……はっ!」ブンッ
ドゴッ!
ドサッ
魔物1「」
響「…………ふぅ」
響「……えーと、これで何体目だっけ。50体までは数えてたんだけどなー」
響「なんか、魔物を倒しすぎて気持ち悪くなってきたかも……」
響「でも、まだまだだぞ。こんなのじゃ全然足りない」
響(みんな、最初の頃に比べてすっごく強くなってる)
響(それぞれに得意な分野があって、それをちゃんと自分で理解してて)
響(今のみんななら、きっと魔物なんかに負けたりしないって確信できるぞ)
魔物2「グギャァー!」
響「………」
響「……たぁーーっ!」ブンッ
ドゴォ!
ドサッ
魔物2「」
響(……でも、じゃあ、自分は?)
響(体術では真に敵わないし、伊織や千早みたく得意な武器があるわけでもない)
響(それに、自分は魔法も使えない)
響(エン太郎もファル子もいない今の自分に、何がある? 何ができる?)
響(……みんなの足手まといにだけは、絶対になりたくないぞ)グッ
「……ーー♪ 」
響「……あれ、この声……」
…ザッ
響「……千早?」
千早「……我那覇さん? どうしたの? こんな夜遅くに」
響「それはこっちのセリフだぞ。……こんなところで歌の練習?」
千早「なんだか落ち着かなくて。眠れないから、歌えば少しは気が楽になるかも、って思って」
響「そっか。やっぱり千早も落ち着かないのかー……」
千早「我那覇さんも眠れないの?」
響「自分は……」
響「自信が持てないんだ」
響「自分、真みたいに強くないし、魔法が使えるってわけでもないし……」
響「この先ちゃんとみんなについて行けるのかな……って」
千早「……珍しいわね。そんなに弱気な我那覇さんは初めて見たわ」
響「そりゃ、自分だって自信をなくすことくらいあるよ」
響「こないだ戦った親衛隊の魔物たちはすっごく強くて、自分は攻撃をよけることで精一杯でさ」
千早「………」
響「よく考えたら自分、今までみんなほど魔物と戦って来なかったんだ」
響「エン太郎やファル子、それにまど香。飛空艇のことだったら、誰にも負けない自信はあるつもりだけど……」
千早「……ええと、ごめんなさい。まど香って誰の事だったかしら?」
響「も~、まど香は魔導船の名前だぞ。千早、忘れちゃったのか?」
千早(いつの間に決まったのかしら)
千早「……まあ、それはともかく」
千早「我那覇さんは、魔物との戦いにおいて自分に秀でているものがないから悩んでいるのね?」
響「うん……」
千早「そうね……。だったら、発想を変えてみてはどうかしら」
響「発想を変えるって?」
千早「あなたの得意分野ーーつまり、飛空艇で戦うの」
響「えっ、でも、ファル子は地球に置いてきたし、まど香も今は近くにいないし……」
響「……エン太郎は、ずっとずっと遠くに行っちゃったし……」
千早「遠くにいるのなら、地球にいた頃みたいに呼びかけるのよ」
響「いや、宇宙を越えられるのはまど香だけだぞ?」
響「それに、エン太郎はもう……」
千早「………」
千早「……私ね、今だから言うけれど、最初はあなたとエン太郎の仲を疑っていたのよ」
千早「飛空艇なんてどれも同じじゃないか、たかが乗り物と人間が心を交わす事なんて本当に出来るのか、って」
響「ちょ、ちょっと千早、いきなり何を言い出すんだ?」
千早「……でも、あなたたちの絆は決して偽物なんかではなかった」
千早「エン太郎を操縦している時の我那覇さんは本当に楽しそうだったし、一度カイポではぐれてしまった時だって、エン太郎はちゃんとあなたの元へ戻って来た」
千早「それに……私はその場にいたわけじゃないけれど、最後の最後までエン太郎は命がけであなたを守り抜いた」
千早「その話を聞いた時、私、心の奥底が震えるような気持ちになったの」
響「………」
千早「だから、エン太郎がもうこの世にはいないとしても、遠く離ればなれになってしまったとしても……」
千早「きっと、心の深いところで我那覇さんと繋がっているんじゃないかしら」
千早「姿は見えなくても、遠い空で見守っていてくれている……」
千早「そう思う……いえ、そう信じたいの」
響「千早……」
千早(……なんて、まるで私自身に言い聞かせているみたい)
千早(なんだか自分が滑稽ね)
響「!」
千早「……我那覇さん、どうしたの?」
響「……魔物だ!」
魔物3「グルル……!」
千早「……!」チャキッ
響「千早、ここは自分に任せて」
千早「でも……」
響「自分、試してみようと思うんだ。千早が言ったみたいに」
千早「えっ?」
響「行くぞっ!」ダッ
タタタタ…
魔物3「ガアア!」ブンッ
響「……っと」ヒョイッ
響「そんな攻撃、食らわないぞ!」
魔物3「グアアア!」ダッ
響「………」
響(千早の言う通りだ。自分には自分の得意分野がある)
響(……エン太郎)
響(お願い、力を貸してっ……!)
魔物3「グアアアッ!」ブンッ
千早「我那覇さんっ!」
ゴオオ…
響「……これが、自分の戦い方だぁっ!!」
響「ナンクル砲っ!!」バッ
ズドオオオオンッ!!
千早「!」
…ドサッ
魔物3「」
響「…………よしっ!」
千早「我那覇さん、今のは?」
響「ナンクル砲は、飛空艇の砲撃。エン太郎の武器だったんだ」
響「きっと、天国からエン太郎が自分に力を貸してくれたんだ」
千早「そう……」
響「ありがとね、千早。千早のおかげで自分なりの戦い方を確立できたぞ!」
千早「いえ、お礼を言われることではないわ」
千早「その力は、きっと我那覇さんとエン太郎の絆の証だと思うから」
響「うん……そうだな!」
響(……ありがとう、エン太郎)
響(自分、頑張るからな。天国でちゃーんと見ててよねっ!)
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