お仕事終わりの、いつものハニーへのダイブ。
P「うわっ! だきつくなって!」
美希「んー、無理な相談なの!」
P「さらにスリスリするなー! 何かがあたってるんだよ!」
だけど、どんなにどんなに頑張っても、このキモチ、ハニーに伝わらないの。
美希「どうしていやがるの?」
P「そりゃあ異性に、不必要にひっついちゃダメだからな」
美希「ハニー以外には抱きつかないよ?」
P「だからといって、おれだけでも駄目だ。こういうのは好きな者同士でするものだろ?」
美希「むー! ハニーはミキのこと好きじゃないってことなの?」
P「そ、そうはいってないだろう」
P「美希はアイドルだ。だれかに見つかったら、スキャンダルになる
しかも困るのは、美希だけじゃない。事務所のメンバーにだって迷惑をかける」
美希「じゃあ、人前じゃなければいいんだよね」
P「まあ……って違う違う。だから、こういうのは好きな者同士で――――」
話がドウドウメグリなの。
こんなにこんなにハニーを愛しているっていうのに。
P・美希「ただいま(戻りました)ー」
小鳥「おかえりなさい」
P「さて、今日の分はこれでおしまいだ。後は帰るだけだな」
美希「お疲れ様でした、なの」
P「おう、気をつけて帰れよ。明日は久々の休日だから、ゆっくりすると良いさ」
美希「うん!」
小鳥「あ、Pさんも明日お休みですよ」
P「えっ?」
社長が先ほど、出られて行く前にこう言ってましたよ」
高木『明日の事は自分に任せて休んでくれたまえ、はっはっは!』
小鳥「ということで、晴れて明日はお休みです」
P「そんな……いきなり言われても」
小鳥「まあまあ、いいじゃないですか。幸い仕事も溜まってませんし
明日はPさんだけにしか出来ない業務はないから、社長の好意に甘えましょう」
P「はぁ……」
イイコトきいちゃったの!
これは二人でデートに出かけるチャンスなの!
美希「ハニー、明日は予定とかないんだよね?」
P「まあ、いきなりの休みだからな。予定なんて決めてないさ」
美希「じゃあじゃあ、ミキの買い物に付き合ってほしいな」
P「んー、まあいいけど、変装、その呼び方、しっかり気をつけろよ?」
美希「はいなの!」
小鳥「よかったわね、美希ちゃん」
美希「えへへー、うん!」
P「じゃあ明日いつどこで集まる?」
美希「10時に駅前の噴水がいいな」
P「オッケー、わかった。それじゃあ、おれはこの後の事務処理をして帰るから
また明日な」
美希「うん、またね! ハニー、小鳥」
P「おう、おつかれー」
小鳥「お疲れ様ー」
小鳥「美希ちゃん、嬉しそうでしたね」
P「そうですね。しかし、なんでそんなに嬉しいんだか……」
小鳥「ふふ、でも本当にそう思ってます?」
P「えっ?」
小鳥「美希ちゃん、最初の頃とはうってかわって
破竹の勢いでAランクになって、Sランクも圏内に入ってきましたよね」
P「えぇ、そうですね。目覚ましい活躍です」
小鳥「それの原動力ってなんだと思います?」
P「さぁ」
だけど、それ以上にプロデューサーさんが好きだから。だから、頑張って喜ばせよう。ただその一点なんですよ、きっと。」
P「そう、でしょうか」
小鳥「そうに決まってます!
そして、いい加減、美希ちゃんの想いに気付かないふりをやめて、真摯に応えてあげたらどうですか?」
P「……」
小鳥「飾れば飾るほど、言葉って真実味を失いますよね。
だけど、美希ちゃんは飾らないで堂々とプロデューサーさんに好意を示してます」
小鳥「それってとっても勇気が必要で、難しいことだとおもいませんか?」
P「はい」
小鳥「だれだってここまでされれば、疑う余地すらないはずです」
P「そう……ですね」
小鳥「だから、明日その想いに、いい機会ですから、応えてあげてくださいね?」
P「……」
「……」
なんでだろう。
ハニーが好き、それだけを、伝えたいだけなのに。
なんで、いつも時間だけが過ぎちゃってるんだろう。
ハニーとキラキラしたいだけなのに。
「なんでなんだろう」
ステキな恋がしたいだけ、それだけなのに、どうしてかなあ。
例えばハニーが『おれ以外にも良い奴が今後出てくるさ』
なんていうけど、ゼーッタイ! ハニーを超える人なんているわけないの。
ハニーとそれ以外の人なんて月とシャッキリポン、だとおもうな。
あれ? 月とユズポンだっけ?
「とはいっても、なの」
ここまでハニーを好きって、それだけを伝えてるのに……。
なんで上手く行かないの……!
「この状態、モドカシイってやつかも」
ともかく、明日は念願のデート! 気合を入れて、念入りに体を洗うの!
買ってきた晩飯と、ビールを冷蔵庫へと放り込んで、お湯を湯船に入れる。
その間、暇なのでテレビでも見ていよう。
P「お、今日は美希の特集か。そういえばこの前密着取材あってたなあ」
P「『ここ最近、メキメキと頭角を現してきた星井美希! 彼女の力の源にせまる!』か」
リポーター『ここまで、どうして頑張ってこれたの?』
美希『えーっと、やっぱりみんなにキラキラを届けたいから、かな』
リポーター『それはどういう事?』
美希『ミキのファンの人たちに、もっともっと楽しくなってもらいたいってこと!』
リポーター『なるほど~。そう思うようになった出来事はなにかあるの?』
美希『ん~それはね……ヒ・ミ・ツなの!
ヒミツの多いオンナの方がいいオンナって貴音が言ってたの!』
リポーター『え~そこをなんとか~』
美希『ダメ~!』
P「はは、仕事してる時はちゃんとしてるから、すごいよな、あいつ」
P「しかし……まあ、あの態度はどうにかならないものか」
度重なる自分へ対する行動。いくら鈍感な自分でも、気付いてしまった。
けれど、美希のそれは一時的なあこがれみたいなもの。
そして、同時に自分の美希への想いにも気がついてしまった。
だけど、それは決していけないものだ。
お互いの立場、年齢、責任。それらに依って。
「いや、体の良い言い訳にしてるだけか」
ピー、と無機質な音が響く。思案しているうちに、風呂の準備ができたようだ。
今日はどうも考えこんでしまう。明日のこともあるし、さっぱりして、ビールをあおって寝よう。
ぐっすりねたし、完璧なの!
そう、ぐっすり寝たの。時間ギリギリまで。
美希「あーもー! なんで今日に限ってこんなのなの! なんなのなの!」
素早くシャワーを浴びて、髪を乾かして、メイクして、と~っても重要な下着を選んで、服も選んで。
こんなにテキパキ動いたのは、生まれてこの方初めてかも。
美希「よし! 準備出来た! いってきまーす!」
家を文字通り飛び出すように出て、目指すは駅前! いそげー!
美希「ふう……ふう……なんとか間に合ったの……」
駅前の時計は10時丁度。
美希「さてと、ハニーはどこかな~」
ぐるーっと噴水周りを眺めてみると、手持ち無沙汰そうな男の人。
私服でもすぐわかっちゃう。
こっそり後ろから近づいて、手で目を塞ぐ。
美希「だーれだ?」
P「すみません、不審な人の知り合いは居ないもので……」
美希「ちょ、ひどいの!」
P「嘘だよ。おはよう美希」
美希「もー! おはようハニィ」
美希「あう……ごめんなさい」
P「ま、まぁ今回は見逃すから、気をつけろよ?」
美希「ふふん、わかったの!」
ハニーってばチョロ甘なの。でも、そんなところも好きだよ。
P「さーて、今日はどこいく?」
美希「むー」
P「な、なんだ?」
美希「ハニーってば女心がわかってないの。まず、今日の格好をほめてくれてもいいと思うんだけどなー。
変装しながら、かなり頑張ったんだよ?」
P「あぁ……カワイイヨ、スッゴク」
美希「なんだか心がこもってない気がするけど……まあ良いの。
んーと今日はね、まず行きつけのカフェでお昼取って、その後お目当てのアクセサリー屋さんにいこ?」
P「よっし、じゃあ行くか」
スタスタと一人歩き出すハニー。
美希「もう!」
ギュッと手を握りに行く。
P「おいおい、変装しているからといって、ばれない保証はないんだから」
美希「ダメ……なの?」
P「うぅ……わかった、わかった! ただしここではダメだ。人通りの少ないところだけな」
やっぱりチョロ甘なの。
美希「ふふ~ん、わかったの!」
なかなかいい新作が沢山あったから、選ぶのに迷っちゃったけど、ハニーが選んでくれたの。
ただ、お仕事の上で似合うものばっかり最初は選ぶから、まいっちゃうの!
最終的には、本当にミキに似合うものを選んでくれるからすごいんだけどね。
P「さーて、もうそろそろ夕方だな。晩飯はどうするんだ?」
美希「特に決めてないかな。まだハニーと一緒にいたいから、どこか食べに行こうよ」
P「そうか。どこか行きたい所あるか?」
美希「んーと、特に無いから、ハニ―のおすすめのところがいいなぁ」
P「おすすめかあ……正直女の子と行くところじゃない、ムードもへったくれもない飯屋ばっかりだな。
後は居酒屋とか、バーとか」
美希「お酒のお店かぁ……ちょっとミキには無理だね。じゃあ、おすすめにいくの!」
P「いいのか? おしゃれなお店じゃないんだぞ?」
美希「ハニ―のこともっと知りたいから」
P「お、おぉ……ほんとこいつは……。じゃあ、そうだ。あそこいくか」
美希「? はーい」
美希「……おおぅ、なの……」
確かにハニーの言ってたことは正しかったの。いかにもな、ちょっと悪く言ったらぼろっちいお店なの。
P「ま、まあ味は確かだ! 他のところに行ってたら、時間が遅くなるし入るぞ」
美希「はぁぃ」
ちょっと立て付けの悪い引き戸。きゅるきゅる音を立てて開けると、いい匂いがしてきたの。
これは、見てくれは悪いけど味はいい、ってやつなのかな?
P「すみません、2名で」
店員「はーい。奥の席へどうぞ」
案内されて席につくと、豪快な料理の写真がのったメニューがあるの。
美希「ハニー、ここ、ちょっと量が多すぎじゃない?」
P「呼び方……はもういいや……。
まあ、男同士でくるようなところだからな。量は多くて当然だ」
美希「ちょっと全部入りそうにないの……」
P「大丈夫だ。ここに連れてきたのには理由がある。メニューはおれに任せてくれ」
美希「そこまで言うなら任せたの!」
P「すみませーん」
店員「はーい」
おにぎり!
店員「唐翌揚げと、おにぎりね。はい、じゃあ少々お待ちくださいね」
美希「あれ、おにぎり定食なんてメニューにはないよ?」
P「ここ、メニューに乗ってなくて、調理場の上だけに貼ってあるメニューたくさんあってさ。
しかもそれも大分色あせて見づらいんだ」
ハニーの指差す先に、確かに色あせてほとんど文字の読めない張り紙があった。
その中に、ギリギリおにぎ……まで読める物が。
美希「ほんとだ。ものすごくわかりづらいけどあるの……」
P「だろ? まあ、あとは来てのお楽しみだ」
ちょっとたって、先にハニーの唐翌揚げ定食がきたの。
ものすごく唐翌揚げが盛ってあって、見てるだけで胸焼け起こしそうなの……。
その後、美希のおにぎり定食が来た。
美希「!!」
P「どうだ? 気に入ったか?」
美希「これはすごいの! おにぎりソムリエの美希だからこそわかるけど、まずお米のツヤの良さが半端ないの。
コレは並大抵お米じゃないし、ひょっとしたら、土鍋とか使ってる……? というのもね、普通炊き上げただけだったら、たしかにツヤツヤなんだけど、お米のね……」
P「そ、そうか。ほら、ひとまず食べよう?」
美希「あっ、そうだね。じゃあ早速いただくの!」
美希がよく行くおにぎり専門店と並ぶくらいにね。
こんな時に貴音だったら気の利いたコメントを言えそうなんだけど、あいにくミキには
フィーリングで語るしかないの。
美希「備え付けの卵焼きもふわとろで、程よいしょっぱさがすんごく合うの! 具もミキの好きな梅と鮭
それから、辛子高菜?っていうの、初めて食べたけどおいしかったの」
P「だろ? 美希にうってつけのところと思って連れてきたんだ」
美希「うん! ありがと!」
あっという間に食べ終わって、後はハニ―待ちなんだけど、結構苦しそうなの。
P「歳かな。ここまで前はきつくなかった気がするんだけどなぁ……」
ちょっとアイシュウが溢れてるの……。
P「さて、ちょっときついが帰ろうか」
美希「うん」
お会計を済ませて外へ。
チョットだけ肌寒い、初春。
駅に向かって歩いていると、ハニ―が苦しそうに『ちょっと、そこの公園で休憩を……』と言ってきたの。
美希「何言ってるの、まだまだハニーはカッコイイお兄さんなの」
P「ありがとな」
美希「えへへ」
ハニーの横に座る。会話はないんだけど、居心地の良い不思議なカンジ。
P「月、でてるなあ」
ハニーが見る先には、まんまるなお月様。
美希「そうだね。キレイ」
そこでまた会話が途切れる。また、不思議なカンジ。
自然とハニ―の肩にもたれかかって、腕に抱きつく。
普段は、なにか一言言われるんだけど、今はキツいからか、不思議なカンジだからか、何も言われなかった。
これからハニーとは、どうなっていくんだろう?
まだまだ子供だから、ってあしらわれるのかな?
ミキがアイドルだから、って遠ざけるのかな?
一時のスキだって、いわれるのかな?
ハニーの指が、頬にふれる。指先には、お月様で照らされた雫。
美希「あれっ」
ミキ、なんでか泣いてたみたい。
美希「あはっ、ごめんね」
手で拭って、拭って。だけどどんどん、溢れてくる。
美希「あ、あれ。おかしいな」
なんでだろ?
声も不思議と震えてきた。やんなちゃうの、ハニーとの折角のデートなのに。
美希「あはは、ゴミがたく、さん入っちゃ、たのかな? ちょっと待……てね」
水道へと行こうと立ち上がろうとすると、不意に腕を引っ張られた。
ぽすん、と抱きしめられた。
大きな手が頭をなでてくれてる。
なんでハニーが謝るんだろう。突然泣き出すミキがわるいのに。
P「今まで美希の気持ちに向き合ってやらなくて、ごめんな。
ただ、美希のその想いが怖かったんだろうな。なんだかんだ言い訳して、遠ざけてた」
ミキはもう何も言えなくて腕の中で頭を振るだけ。
ハニーの迷惑も考えずにやったミキが悪いんだから、何も悪くないんだよ?
P「だけど、ここまで言ってなんだが、今すぐに答えをだすことも出来ない。すまん。
おれ一人の手でミキの未来を、潰やしてしまうかもしれないから」
なんとなく解ってたけど、解ってたけど、直接言われるときついな。
美希「ひっく……うぇえん」
それでも、おれのことを好いてくれているなら」
P「その時は美希の想いに絶対応えるよ」
これって……。
美希「っ、ひっく、それってジジツ、ジョーのプロポー、ズだよね」
P「まぁ、そうなるな」
照れくさそうな声。
美希「っく……すんっ……えへへ、両想い、だったんだぁ」
P「まぁ、そういうことだな」
美希「んへへ、へへっ、ぅ、っ、うぇぇぇえん」
今度は悲しくないのに、また泣いてしまった。
P「本当に今日の美希は泣き虫だな」
頭を撫でながら、つぶやくハニー。
そんなにしたのはハニーのせいなの!
P「美希を超える人なんているわけないの!」
美希「ハニー……ミキのマネ、ちょっときもいの」
P「うるせい」
乱暴に頭をなでられる。
美希「わー! せっかく髪の毛整えてきたのに、ぐしゃぐしゃしないでほしいのー!」
どちらからともなく笑い出す。ミキは泣きながら笑うからめちゃくちゃだったけどね。
この恋はどこに行くんだろう……。神様が、もしいたら教えてほしいな。
だけどミキはきっと明るい未来だと思うな。直感の鋭いミキが言うから間違いないの。
P「さてと、美希、遅くなるから帰ろうか」
美希「うん!」
差し出された手をとって、立ち上がる。
美希「今は手をつなぐぐらいで我慢しててあげるの。
でも、想いがジョウジュしたら、こんなものじゃないから、覚悟しててね? ハァニィ♪」
P「お、お手柔らかにな」
月明かりが二人分の影を伸ばす。
それぞれの身長よりもちょっと長めの影。
まるで、二人の未来での在り方を、示しているようだった。
元ネタというかイメージしたのは、風味堂の『もどかしさが奏でるブルース』って曲です。
読んでいただいて、ありがとうございました。
HTML化依頼してきます。
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