これはミリマスssです
魔法を使うって、ズルをする事なのかもしれません。
空を飛べるって事は、本来歩かなきゃいけないところを歩かずに済みますし。
時間を止められるって事は、他の人達よりも多くの時間を手に入れられますし。
未来を視れるって事は、他の人達より先に何かを知る事が出来ますし。
願ったことを叶えられるって事は、本来必要な努力をせずに済みますし。
だから、私が願った事が叶ったとして。
それ相応の罰があるのも、当然の事で。
それでも、私は。
どうしても、口にする事が出来なかったから……
はぁ……今日も言えなかったな……
トボトボと足を動かしながら、私は自宅を目指していました。
既に十二月を迎えた日本の夕方は、コートなしでは過ごせないほど冷たい風が吹き続けています。
でもそれ以上に冷え切っているのは、私の心のせいで。
伸びていく影は私を置いていくみたいに、どんどん勝手に先に行ってしまいます。
事務所でのやりとりは、いつも通りありふれた会話。
せっかく二人きりになれた時は、緊張しちゃって全然喋れなくて。
他の女の子達と楽しそうに話している姿を見て、他の女の子達の事を楽しそうに話す貴方を見て。
心が締め付けられるのに、言葉に出す事は出来なくて。
貴方の事が、好きです。
たったそれだけの、文字にしちゃえば十文字程度にしかならない短い言葉なのに。
私はずっと、言い出せずに。
今日もまたいつもと同じ道を歩いて、一人で家に向かって。
何もないままさよならを言って、もどかしいまま不安を募らせます。
名前を呼ばれるだけで嬉しいから。
毎日会えるだけで充分だから。
瞳が合うだけで幸せだから。
今の関係が壊れてしまうのが怖いから。
言い訳を並べて、涙を堪えます。
きっと、今日もまたあの人の事を夢に見るのに。
夢の中でなら伝えられるのに。
現実の私は、怖くて言い出せずに。
あの人と私の距離はかわらないまま、恋の花が咲く日は訪れない。
「はぁ……こんなに好きなのに」
どうしても、伝えられない。
どうしても、言葉に出来ない。
一層の事、プロデューサーさんから私に告白してくれれば……ううん、それはダメだよね。
でも、だとしたら私から伝えるしかない、なのに……
……恋を叶えてくれる魔法があればいいのにな。
商店街を歩く頃には、既に太陽は殆ど沈んでいました。
冷たい風が、私の頭を冷ましてくれます。
早く帰らないと、少し走ろうかな。
なんて、閉まり始める商店街のシャッターにさよならをしようとしたところで。
紫色のプリムラが、目に入りました。
閉店作業をしているお花屋さんの店頭に置かれた、青春の恋の花。
私がアイドルとして歌った、青春の始まりと悲しみの花。
それがあまりにも綺麗で、私はプランターに駆け寄りました。
寒い風の吹く冬の夜に見たそれは、私に見つけられる為に咲いているみたいで。
私の恋も、この花みたいに咲いてくれればいいのに。
そう願いながら、せっかく出会ったんだしと店員さんに話しかけました。
閉店作業をしていて迷惑かな?とも思ったんですが、それでもどうしても手に入れたかったですから。
少し軽くなったお財布を鞄にしまい直し、改めて帰路に着きます。
今度は、この恋の花と一緒に。
家に帰って、部屋の机にプリムラを飾りました。
少し幅を取りますけど、部屋が明るくなったみたいです。
さて、今日は早く寝ないといけませんね。
明日は午前中にレッスンがありますから。
ピロンッ。
私のスマホに連絡が届きました。
SNSアプリを起動すれば、送り主はプロデューサーさん。
たったそれだけで、あの人から連絡が来たと言うだけで。
私の心は一気に跳ね上がります。
なんでしょう?デートのお誘いとかですかね?!
なんて、欲望全開の想像を浮かべました。
そんなはずないですよね、きっと明日のレッスンについての連絡だと思います。
はぁ……とため息を更に増やして、文面を確認します。
『百合子、好きだ。俺と付き合って欲しい』
なるほど、明日のレッスンは午前10時から……で……
……え?
見間違いでしょうか?
プロデューサーさんからの連絡が、私への告白の様に見えました。
おかしいですね、疲れてるのかもしれません。
『百合子、好きだ。俺と付き合って欲しい』
何度見直しても、文面は変わりません。
送り主は間違いなくプロデューサーさん。
って事は……夢?
ほっぺを引っ張って……痛い。
じゃあ、これは本当に本当で。
プロデューサーさんは、私が好きって事で。
プロデューサーさんから、私は告白されてるって事で。
私達は……恋人に……
『はい!こちらこそよろしくお願いします!!』
何度も誤字が無いように確認して、ようやく返信出来ました。
そのまま床のカーペットにダイブして、脚をバタつかせます。
本当に……!プロデューサーさんから告白が……!
帰り道にプリムラを見つけて良かったです。
もしかしたら、この花が私の願いを叶えてくれたのかもしれませんね!
恋の花の、恋の魔法。
とっても素敵で、ロマンチックなラブストーリーが始まる予感がします!
あまりにも舞い上がっちゃって、勢いでプロデューサーさんに電話を掛けちゃいました。
どうせなら、言葉であの人の想いを聞きたいですから。
あ、でも私、どんなこと言えばいいんだろう……
どうしよう、まだ何言えばいいのか決まってないのに!
「あ、も、もしもし?ぷ、ぷろ……プロデューサーさんですよね?!」
口が上手く動かず、かみかみです。
プロデューサーさんに掛けてるんだからプロデューサーさんに決まってるのに。
落ち着いて、落ち着くのよ百合子。
文学少女らしく、おしとやかで大人な女性に……
「……あれ?」
通話は始まっている筈なのに、プロデューサーさんの声が聞こえません。
どうしたのかな?電波が悪いんでしょうか?
もしかしたら、私が舞い上がって留守電サービスの音声を聞き逃していたのかもしれませんね。
仕方が無いので通話を終わらせ、再びプリムラに向き直ります。
「ありがとうございます!」
願いを叶えてくれたんですから、お礼も忘れません。
明日、どんな感じで事務所に行けばいいでしょう?
きちんと、顔合わせられるかな……
あ、えっと、他の誰かには……伝えない方が良いかな。
今までの不安が、魔法で喜びに変えられたみたいに。
私の心は熱いまま、嬉しい不安が重なります。
急いでお風呂に入って、明日を楽しみに待って。
なかなか寝れないのに、ずっと幸せなままで。
部屋に置かれたプリムラは、此方へ微笑む様でした。
翌日、起きて最初にプロデューサーとの連絡を確認しました。
『百合子、好きだ。俺と付き合って欲しい』
何度見ても、夢から覚めても文面が変わる様子はありません。
ガッツポーズをしながら、私は飛び上がりました。
あ、どんな格好して事務所に行こうかな……
この服の方が大人っぽいけど……こっちの方が可愛いし……
朝ごはんも一瞬で食べて、身支度もすぐに終わらせて。
私は幸せな気持ちで事務所へと向かいました。
雲一つない青空は、まるで私の心を写しているかのよう。
心地よい日差しを浴びながら、普段とは違う風景に見える道を進みます。
商店街を抜けるときも。
電車に揺られているときも。
改札でチャージが足りなくてつっかえたときも。
頭の中は、プロデューサーさんの事ばかりで。
勢いよく階段を駆け上がり、事務所の扉を開けました。
「おはようございます!」
「あ、おはようございます百合子ちゃん。今日も元気ね」
事務員の小鳥さんが笑顔で出迎えてくれました。
「プロデューサーさんはもう来てますか?」
「今社長とお話ししてるとこだけど……もうすぐ終わると思うわ」
ガチャン。
社長室の扉が開いて、プロデューサーさんが出て来ました。
それだけで顔が真っ赤になって、直視出来ません。
あ……えっと、何を言えば……!
とりあえず挨拶ですよね!
「お、おはようございます!プロデューサーさん!」
……あれ?プロデューサーさん?
なかなか返事が返って来ません。
「おはようございます、プロデューサーさん!」
プロデューサーさん、どうかしたんでしょうか。
口は動かしてるみたいですけど、喉が痛くて上手く声が出ないのかな。
「……プロデューサーさん?」
とても、嫌な予感がします。
「……ねぇ、百合子ちゃん、プロデューサーさん……」
小鳥さんが、不安そうな顔をしながら此方を向きました。
い、いやですね小鳥さん。
そんな顔しないで下さい、こっちまで不安になっちゃうじゃないですか。
なんて誤魔化そうとしたのに。
怖くて、口を開けなくて……
「なんで二人とも、何度も挨拶してるんですか……?」
一旦乙です
七尾百合子(15) Vi/Pr
http://i.imgur.com/PABrgaq.jpg
http://i.imgur.com/cOBTJeA.jpg
「プリムラ」
http://youtu.be/dVZ9Xo2aPk4?t=79
どうなることやら
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