これはミリマスssです
「私がプロデューサーさんの恋人って事になりませんかね!」
読書の季節、秋の昼下がり。
俺の担当アイドルである七尾百合子から飛び出した言葉は、魔法の如く時を止めた。
流石風の戦士だ、時間操作なんて最上位クラスの魔法なんじゃないか?
……なんて、そんなアホな事を考えてしまってるのはそれほど驚いていたからだ。
七尾百合子、15歳。
読書好きな夢見る文学少女で少々人見知りをする向きがあり、ダンスレッスンなどの運動系は苦手。
特技はペン回しらしいが、活かされた経験は記憶の何処にも無い。
ここまでは、割と一般的な文学少女だ。
気になる事には一直線、好きなものに全力投球。
人見知りではあるが引っ込み思案ではなく、ステージの上ではいつもキラキラ輝いている。
普段も事務所では色んなアイドル達と仲良く話し、楽しそうに過ごしている。
見ているこちらが幸せになれるくらい、素敵な女の子。
ただ割と妄想癖なところがあり、何かと妄想の世界に飛び込む事がある。
自称風の戦士である百合子は、一度トリップするとしばらく返ってこない。
想像力豊かなのは素晴らしい事だが、会話中にとんでいっちゃうのはやめて頂きたい。
まぁ、そんなちょっと抜けたところがある可愛らしい少女だ。
そんな彼女としていた会話は、
「百合子ってそう言えば男友達とかいるのか?」
だった気がする。
「うーん、あまり……クラスの男子とたまに喋るくらいです。何かあったんですか?」
「いやほら、百合子くらいの年齢だと恋愛とかそんな話題が出てもおかしくないんじゃないかなーって。困るけどさ」
「アイドルですから!恋人なんて以ての外だ、ってプロデューサーさん以前言ってませんでした?」
「そこまで強くは言ってない気がするけどな……」
まぁ、割とありふれてるであろう日常会話。
そこから俺の話になって……
「そう言えば、プロデューサーは恋人とかいるんですか?」
「いない、欲しい、辛い」
「辛いのは私達も一緒です!私達の恋愛を禁じるプロデューサーさんも恋愛を禁じるべきでは?!」
「婚期完全に逃すじゃん……いや、相手とかいないんだけどさ」
からの。
冒頭に戻る。
「じゃあ……私がプロデューサーさんの恋人って事になりませんかね!」
何故そうなったんだろう。
不思議だ、この世は不思議で満ちている。
百合子に恋人はいない。
それは分かる。
俺に恋人はいない。
それも哀しいけど分かる。
じゃあ、百合子と俺が恋人同士になろう←new!
これが分からない。
何が起きた、どうなった。
何段階か飛ばされたであろう思考の過程が全く分からない。
「だって、プロデューサーさんには恋人がいませんよね?」
「何度も言わせないで、哀しくなるから」
「で、私にも恋人はいません」
「あぁ、そうだな、さっき聞いたわ」
「だったら!私とプロデューサーさんは恋人同士って事になりませんか?!」
「なるほど……なるほど?」
さっぱり分からない。
きっと彼女には彼女なりの方程式が成り立っているんだろうが、残念ながら俺には等号の真ん中に斜線が引いてある。
風が吹けば桶屋が木から落ちる並みの謎理論だ。
いやまぁ、強風なら落ちるだろうが。
「と言うわけで、私とプロデューサーさんは今日から恋人です!いいですね?一緒に恋しますよ?!」
「お、おう……」
流されてしまった。
まぁしばらく恋人ごっこに付き合ってあげれば満足して次の妄想に移ってくれるだろう。
「では早速、プロデューサーさん!」
「なんだ?」
手を握って下さいとか、デートの約束とかだろうか。
無理のない範囲で、叶えてやるとしよう。
確かに、百合子が恋人なら毎日退屈はしないだろうな。
もちろんそんな関係は演じるだけに留めておかないと俺の頭が胴体と御別れする羽目になるが。
さてさて、早速俺に何かを求めようとしている百合子。
少し下を向いて、顔を赤らめ。
意を決したように、口を開けた。
「携帯、見せて下さい」
……おかしい、風の戦士の目に光がない。
さてはお前、闇堕ちしたな?
お前にとって恋ってなんだ、相手の携帯チェックから始まる恋なんて間違いなく長続きしないぞ。
あとこれ仕事用だから、割と重要なメールあるから消されると物凄く困るから。
「百合子、恋って……なんだろうな?」
「え?今の私、純情な恋人っぽくありませんでした?」
「なーんだ、演技か!」
「いえ、別にそう言う訳でもありませんが。ところで、携帯、早く」
純情、純情ってなんだ。
文学少女にとっての純情とは……
口は災いの元。
俺はこの日この時。
そんな教訓を得ると引き換えに、とんでもないモノを抱え込んでしまった気がする。
一旦乙です
>>2
七尾百合子(15) Vi/Pr
https://i.imgur.com/oNaYKxk.jpg
https://i.imgur.com/j8rnCXI.jpg
「ふー……そろそろお昼にするか」
パソコンとの睨めっこを切り上げ、時計を見れば短針と長針は真上で重なっていた。
せっかくだし何処か食べに行こうか……とスマホで近くの良さげな店を何店か見つける。
お、安くてなかなか量もありそうじゃないか。
さて、膳は急げと言うしさっさと向かおう。
ザーッ
雨が降っていた、神は死んでいた。
多分通り雨だと思うが、なかなか強くて店に着くまでには絞られてない雑巾になってしまうだろう。
はぁ……仕方ないか、隣のコンビニで済まそう。
そう思って、事務所共用の傘を開こうとしたところで。
「あ、おはようございます!プロデューサーさん!」
「お、おはよう。雨濡れなかったか?」
傘を片手に、百合子がこちらへ手を振っていた。
かなり力の入った私服のようで、15歳にしてはとても大人びて見える。
笑顔で走り寄る姿はとても可愛らしい。
雨が降っていて傘をさしているからこそ、よりその中の百合子の笑顔が引き立っている気もする。
写真に撮れば、ファンは喉から手が出るほど欲しがるだろう。
「そんな、ぬ、濡れるなんて……プロデューサーさん、まだお昼なのに……」
「カムバック百合子。そして入れ違いで俺はコンビニ行ってくるから」
「……あ、プロデューサーさんまたお昼コンビニ弁当で済まそうとしてませんか?」
「おいおい、馬鹿にするなよ百合子、コンビニ弁当なんて高いもの買うはず無いだろ?カップ麺だよ」
「尚更!尚更ダメじゃないですか!」
雨の中、15歳の女の子に説教される社会人がそこに居た。
だってほら、お弁当作るほどの技術ないし。
作ってくれる人もいないし……何故だろう、悲しくなってきた。
それにカップ麺だって美味しいんだぞ?
「にしても、随分気合の入った服じゃないか。午前中何かあったのか?」
「可愛いと言ってくれた事に関しては部分点をあげましょう……でも、何故か分からなかったのなら大幅減点ですね」
言ってない、思ったけど。
いや、確かに可愛いけどさ。
「だって、その……私とプロデューサーさんは……恋人になったじゃないですか」
「……あー、なるほどね?」
可愛いやつだな、こいつはもう。
あれか、恋人にオシャレして可愛い姿を見せたい的なアレか。
「そんな……襲いたくなっただなんて……」
言ってない、思ってもない。
「それに、恋人が可愛いと……」
「嬉しいよな、彼氏側としては」
「他の女に見向きをさせずに済みますから」
怖い。
……な、なるほどね。
そう言うメリットもあるのか、オシャレって奥が深いな。
俺はまた1つ賢くなった、気がする。
取り敢えず目に光を取り戻せ、愛は取り戻さなくていいから。
なんてまあ、わざわざ事務所先でする会話でもないだろう。
こんな会話で雨に濡れるなんてアホらしいし、一回事務所内に戻るとしようか。
「さて、今までお弁当を作ってくれる恋人がいなかったプロデューサーさん」
「なんでそんなぶっ刺さる言い方するん?」
「恋人の重要性を改めて認識して貰うために……じゃん!お弁当作ってきました!」
そう言ってカバンからお弁当箱を取り出す百合子。
「ありがとう百合子。なんだかいいな、恋人って感じがして」
「そう言ってもらえると作ってきた甲斐があります!」
俺の為に作って来てくれたのか……
嬉しいな、こう言うのって。
「早速開けるぞ……ん?」
お弁当の上には、小さめなメッセージカードが載っていた。
「あ、プロデューサーさん!そ、そのですね……目の前で読まれるのは恥ずかしいので、食べた後に読んでもらえると……」
なんだこいつ、めっちゃ可愛いかよ。
でもだからこそ、少しいじめたくなってくる。
百合子の目の前で読み上げてみるのも面白いだろう。
どんな反応をしてくれるんだろうか。
さて、それじゃ、と。
メッセージカードを開いて、俺は目を通した。
『他の女に靡かないで下さい』
「さて!んじゃ後で読ませて貰うか!早速お弁当箱を開けていこう!!」
大人に大事なのはスルースキルだ。
俺は何も見ていない。
震えてもいない。
「1段目は……ん、おはぎか。確か百合子っておはぎ作るの得意なんだよな」
「はい、折角だから最初は自信のあるおはぎにしようかな、って」
「デザートに頂くとするよ。2段目は……おはぎかよ!」
何故2段に分けた。
主食はどこだ?
あ、おはぎだから米かこれ。
「ひゅーひゅー、見てるこっちが胃もたれするほど甘いシーンを見せつけてくれるじゃないですか!!」
いつの間にか戻ってきていた小鳥さんがヤジを飛ばしてくる。
いや流石にこの量のおはぎ食べたら俺が胃もたれするって。
「小鳥さん」
百合子が小鳥さんの方を向いた。
「……ぁ、あの、プロデューサーさん、私お昼買ってきますね……」
バタン。
小鳥さんが出て行った。
「……ゆ、百合子?」
「どうしましたか?プロデューサーさん!」
満面の笑顔だ、うん、満点をあげたくなる。
何があったのかは聞かないでおこう。
知りたくないし、知っちゃいけない気がする。
この世には知らない方が幸せな事だってあるだろうし。
「にしても、米はこれでいいとしてなんかおかずが欲しいな」
「あ、なら……」
顔を赤らめながら、百合子が俯く。
「オカズは私、って事になりませんかね……?」
あぁ……帰ってきてくれ、純情だった百合子……
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