たくさんの拍手。
「おめでとう」の声。
その全てを一身に受ける女の子。
歩み寄ると、気付いたその子は目に涙を浮かべて振り返った。
「おめでとう」
そう言うと、その子は「ありがとう」とにっこり笑った。
花が咲いたような笑顔につられて、こちらまで笑顔になってしまう。
可愛らしい声に心がじんわりと温かくなる。
そうだ、『アイドル』に選ばれるっていうのは、きっとこういうこと。
……いつか、きっと。
自分もいつかアイドルになって、そして――
・
・
薄暗い部屋で、少女は目を覚ました。
白いシーツと対照的な黒い長髪は、暗い中でもよく映えて見える。
長髪の少女は、まず初めに目に映った見慣れぬ天井を眺めた。
少し経って体を起こすと、やはり見慣れない部屋の、
一番端のベッドに自分が居ることを確認した。
カーテンの隙間から漏れ入る光に気付いた頃になって
意識がはっきりし出し、少女はようやく思い出した。
自分は、昨日からここで生活を始めたのだと。
その時、少女の意識が冴えるのを待っていたかのように鐘が鳴った。
起床の合図だ。
鐘の音は優しく、だがしっかりと部屋いっぱいに響き、
まだ夢の中に居た他の者達を呼び起こした。
ユキホ「うん、おはようマコトちゃん」
目覚めて初めに声を発したのは、マコトと呼ばれた少女と、
それに挨拶を返したユキホと呼ばれた少女。
寝ぼけ眼をこすっている者も居る中で、
マコトの快活な声は起床の鐘以上によく響いた。
と、すぐ隣のベッドから唸るような声が聞こえる。
イオリ「学年の始めからうるさいわね……。
今年からはちょっとはマシになってくれるものだと思ってたけど」
マコト「む……なんだよイオリ、そんな言い方ないだろ?」
イオリ「何回も言わせるあなたが悪いのよ。まったく……」
気だるそうにそう言って、イオリと呼ばれた気の強そうな少女はベッドを降りる。
そして去っていくその背中に、今度は別の方向から笑い声が投げかけられた。
ほら、こーんないい天気なのにそれじゃあもったいないぞ!」
マコト「そうそう、ヒビキの言う通りだよ」
イオリ「ふんっ、余計なお世話よ」
カーテンを開けて笑う、マコトとはまた違ったタイプの快活さを見せる少女ヒビキ。
朝の日差しに包まれ太陽さながらの笑顔を浮かべる彼女から、
イオリはつんと顔を逸らして洗面所へと向かった。
そんな彼女らの様子を、いち早く目覚めた黒髪の少女――
チハヤは、ただ黙って眺めていた。
しかしその横から彼女に向け、また別の大きな声が届く。
ヤヨイ「あのっ! おはようございます、チハヤさんっ!」
チハヤ「えっ? え、えぇ、おはようございます」
勢いの良い挨拶にチハヤが目を向けた先に居たのは、
ふわふわとした栗毛が特徴的なまだ幼さの残る小柄な少女。
大きな声に少しだけたじろいでしまうチハヤだが、
その少女は構うことなしに明るい笑顔で続けた。
私、初めてここに来た時はドキドキして全然眠れなくって……。
あっ、でもチハヤさんならきっと平気ですよね!
だって私と違って、すっごく落ち着いてるかなーって!」
チハヤ「ええ、まぁ……」
元気に話し続ける彼女に対し、チハヤの口からは短い言葉しか出てこない。
とその時、栗毛の少女の後ろから、頭一つ分ほど背の高い少女がすっと歩み出てきた。
ヤヨイ「あっ、アズサさん! おはようございまーす!」
アズサ「ふふっ、おはよう。ヤヨイちゃんも朝からとっても元気ですごいわね~。
でも、チハヤちゃんはちょっとびっくりしちゃってるみたいよ?」
少女、というよりは女性と表現した方が、
彼女の大人びた雰囲気を表すには合っているかも知れない。
栗毛の少女――ヤヨイは、アズサの言葉を受けてチハヤに向き直った。
ヤヨイ「はわっ! す、すみません~。
初めましての人だからって思って、つい……。
ごめんなさい、チハヤさん。私、うるさかったですよね……?」
チハヤ「いえ……気にしないでください。気を遣ってくれてありがとうございます」
一言残し、慣れない賑やかさから距離を置くように、
チハヤはその場をあとにして洗面台へと向かった。
・
・
チハヤ「ご機嫌よう、ティーチャー・リツコ」
皆の輪を離れて一人先に食堂に着いたチハヤは、窓に向かって立っていた女性に挨拶する。
女性は振り返り、微笑みと挨拶を返した。
リツコ「ご機嫌よう、チハヤさん」
凛とした佇まいと、慈しみの中に厳しさを感じさせるはっきりとした声。
きっちりと纏められた髪と眼鏡からはどこか知性を感じさせる。
リツコ「あなた一人ですか? 他の皆は?」
チハヤ「着替えが済んだので、私だけで先に来ました。
他の人たちももうすぐ来ると思います」
リツコ「そうですか。行動が早いのは良いことです」
友人との好ましい関係を築くことも大事ですからね」
チハヤ「……はい。以後気をつけます、ティーチャー・リツコ」
リツコ「結構。では着席を」
チハヤ「はい」
軽く頭を下げたのちにきびきびと次の行動に移ったチハヤの背を、
リツコは薄い笑みを崩さずに見つめ続ける。
その時、食堂の外から話し声と足音が聞こえ、
そちらに目を向けると同時に、先程までとは打って変わって賑やかな挨拶が食堂に響いた。
ヒビキ「ご機嫌よう、ティーチャーリツコ!」
ヤヨイ「ごきげんよう!」
はーい、と元気に返事をしてヒビキたちは食堂奥へと向かい、
他の者も皆、既に朝食が並んでいる食卓へとつき始めた。
イオリ「ほら、ちゃんと居たでしょ?」
ヤヨイ「うん……えへへっ。良かったー」
イオリ「心配性ね、まったく。小さな子供じゃないんだし、
ヤヨイだって言ってたじゃない。しっかりしてそうだって」
自分の席へ移動しながら小声で話す二人の声は、チハヤにも聞こえてきた。
多分先に行ってしまった自分のことを言っているんだろうな、
と思い当たったのと、イオリが話しかけてきたのは、ほとんど同時だった。
イオリ「あなたも、この子に心配かけるようなことはやめなさいよね。
新入りだから忠告してあげるけど、次からは一人で勝手にどこかに行ったりしないの。
この学園って結構広いんだから、うっかりしてると本当に迷子になっちゃうわよ」
ごめんなさい。次からは気を付けます」
イオリ「そうね、気をつけて頂戴」
ぶっきらぼうにそう言って、つんと前を向くイオリ。
しかしその時、どこか含蓄のありそうな笑みを浮かべて正面に座っていたマコトと目があった。
イオリ「……? 何よマコト、にやにやしちゃって」
マコト「別に。ただ……イオリも結構世話焼きだよね」
アズサ「うふふっ。私もイオリちゃんを見習って、
チハヤちゃんに色々教えてあげないといけないわね~」
イオリ「だっ……誰が世話焼きよ!
ただ新入りに勝手されたら迷惑だと思って忠告しただけなんだから!」
ヒビキ「あはは、素直じゃないなぁイオリは」
イオリ「う、うるさいわね! あなたまで入ってくるんじゃないわよ!」
しかしその喧騒に終止符を打つように、パンパンと手を叩く音が食堂に響く。
リツコ「賑やかなのは良いことですが、皆さんも言っている通り、
昨日から新しい友人が加わっています。
良き友人として、またこの学園に通う先輩として、模範となる行動を心がけてくださいね」
穏やかながらも厳粛な声色に、その場は水を打ったように静かになる。
そして一瞬の静寂の後、
リツコ「さ、せっかくの温かなスープが冷めてしまいます。いただきましょう」
優しく笑い、リツコは目を閉じて胸の前で両手を組む。
イオリたちは各々、安堵や申し訳なさを含んだ笑みを浮かべて目配せしたのち、
リツコに倣って目を閉じて両手を組み、
「いただきます」
声を揃え、食事を始めた。
大半の者が笑顔で談笑し、少し前まで不機嫌そうだったイオリも、
柔らかな表情で食事を口に運んでいる。
そんな中チハヤは、リツコの言葉を頭の中で復唱した。
そして一人思考する。
「友人との好ましい関係」、「良き友人として」――
自分に上手くやれるだろうか。
少なくともこれまでの経験では、上手くいった記憶がない。
自分から積極的に行動しなかったというのもある。
だが、だからと言って自分から進んで友人を作ろうとは……
と、チハヤは何気なく手元から目線を上げ、食卓に並ぶ少女たちの顔を見た。
すると正面のアズサと目が合い、
アズサ「ね、チハヤちゃんはどう思う?」
チハヤ「え?」
アズサ「ほら、川の向こう側に丘があったでしょう?
桜の木が一本だけ立った、小さな丘」
が、どうにも覚えがない。
しかし彼女がそう言うからには自分が見落としていただけなのだろう、
とチハヤは黙ってアズサの言葉を聞き続けた。
アズサ「それでね、今日のお昼休みはみんなであそこで過ごそうって、
今お話してたところだったの」
マコト「今の季節だと、桜を一望できてすっごく景色がいいんだ。
歩いて登ればちょっとした運動にもなるし、風も気持ちいいよ!」
アズサはにこにこと穏やかな、
マコトはハツラツとした笑顔をそれぞれチハヤに向ける。
また、その隣のユキホも会話に加わっていたのだろう。
視線に気付いたチハヤが顔を向けると、
一瞬恥ずかしそうに目を逸らしたのち、ぎこちなくも優しい笑みを返した。
チハヤは始め、断ってしまおうかと思った。
昼食後に昼休みがあることは聞いていたが、敢えて誰かと居るつもりはなかった。
しかしすぐにリツコの言葉を思い出し、
チハヤ「……ええ、そうですね。良いと思います」
その表情には感情めいたものは浮かんではいなかったが、
アズサたちは嬉しそうに笑い、
それから時折チハヤにも話を振りながら談笑と食事を続けた。
今日の午前中は転校生であるチハヤに学園の敷地内を案内する、ということになっている。
チハヤを中心に据えて歩きながら、今はこの並木道について紹介しているところだ。
ヤヨイ「ここの桜、すっごく綺麗ですよね!
私、初めて見たときはびっくりしちゃいました!」
マコト「チハヤの居たところはどうだったの?
ティーチャーリツコが言うには、ここの桜はすごく立派らしいんだけど」
チハヤ「はい……私も、とても立派だと思います」
その表情にはやはりあまり変化は見られなかったが、これはチハヤの本心であった。
空を覆い隠さんばかりの満開の桜は樹上のみならず石畳にも彩りを加え、
舞い散る花びらもあって視界いっぱいに春の色が広がっている。
その光景はチハヤの目にも美しく見えた。
また、桜だけではない。
少し視線を外した先には小川が流れ、耳をすませばせせらぎが聞こえてくる。
手漕ぎのボートのようなものも見える。
知らないものが見ればここが学校であろうなどとは到底思い寄らないだろう。
ただ制服姿の女学生が居るということだけが、
その光景に学校らしさを僅かばかり加えていた。
学校らしさもよりはっきりとしたものになっていただろう。
しかしこの光景に映る学生は、七人のみ。
いや、学園の敷地内のどこを見ても、彼女ら以外に学生は見当たらない。
そして教師は、先ほど食堂に居たリツコ一人だけ。
これこそが、この学園の最も特殊な点のうちの一つであった。
ヒビキ「チハヤもびっくりしたんじゃないか?
転校した先にまさか生徒が六人しか居ないなんてさ」
チハヤ「いえ……。大体のことは、もう聞いていましたから」
マコト「僕たちの方こそびっくりしたよね。
だってこの学園に新しく来る生徒って言ったら小さい子ばっかりだと思ってたからさ」
イオリ「本当、ティーチャーリツコってばいきなり仰るんだもの。
あなたのためにみんな大急ぎで準備を整えたのよ」
チハヤ「……そうでしたか。ご迷惑をおかけして、すみません」
アズサ「あらあら、何も謝らなくてもいいのよ~」
ヒビキ「そうそう。っていうか、別にそこまで大変でもなかったしね。
ベッドとか色々、ちょうど一人分余ってたところだし」
うふふっ、なんだかイオリちゃんやヤヨイちゃんが来た時のことを思い出しちゃうわ」
ユキホ「あ……そうですね、懐かしいなぁ。二人ともすごく可愛かったですよね……。
あっ! い、今ももちろん可愛いよ!」
イオリ「そんなに慌てなくたって別に気にしてないわよ……」
ヤヨイ「えへへっ、でも私もなんだか懐かしいかも!」
そんな他愛ない会話を聞きながら、チハヤはふと目線を脇に逸らす。
その先には、朝食の際に話題にのぼった小高い丘があった。
ずらりと並ぶ木々の隙間から覗く、離れた場所に一本だけ立った桜。
言われるまでは存在にすら気付かなかったが、
なるほど、確かに行ってみてもいいかもしれない。
そんな風にチハヤが思った、その時であった。
チハヤ「……?」
その一本桜の下に、誰かが立っていた。
舞い散る桜と遠く離れた距離のおかげではっきりとは見えないが、
確かに誰か居る。
黒を基調とした……あれは、制服だろうか。
だがこの学園のものではない。
いや、でも、なんだろう。
あの制服、どこかで見たような……。
現実に意識を引き戻される感覚。
反射的に顔を向けた先には、きょとんとしたアズサの顔があった。
アズサ「どうかしたの? 向こうの方に何か……あっ、さっきお話してた丘ね?
うふふっ、チハヤちゃんも楽しみにしてくれてるみたいで嬉しいわ~」
両手を合わせてにこにこと微笑むアズサから、
チハヤはもう一度あの丘へ視線を移す。
しかしほんの一瞬前までそこにあった人影は、既にどこにもなかった。
ヒビキ「おーい、早くしないとお昼までに案内終わらないぞー!」
アズサ「あらあら、大変。さ、行きましょうチハヤちゃん」
チハヤ「……ええ」
前方から自分たちを急かす声に、チハヤは再び向き直る。
見間違い……気のせいだったのだろうか?
まあ、仮にそうでなかったとしても、この学園に居る限りは、
いずれ何かの形であの人影の正体はわかるだろう。
そう思い、チハヤは些細な疑問をそっと頭の片隅に追いやって、
アズサのあとに続いて歩き出した。
チハヤにとって興味を引かれるようなものはそう多くはなかった。
ただ、多くの蔵書が揃っている図書室と、
歌唱の授業に使うという大きな堂の二つには心を動かされた。
特に後者に関しては、一歩足を踏み入れた時のチハヤの表情の変化は、
他の者の目にも明らかだったようだ。
ヒビキ「チハヤ、歌が好きなのか?」
チハヤ「ええ……嫌いではありません」
大きな窓から差し込む太陽光。
必要なものを揃えれば聖堂にでも食堂にでもなりそうなほど
十分な広さを持っていながら、そういったものが一切ない、ただの堂。
見るものが見れば殺風景と感じるだろうが、それがチハヤにとっては良かった。
嫌いではない、と言いながらも、それまで見せたことのない瞳の輝きに、
周りの少女たちは優しい笑みを浮かべるのだった。
アズサ「案内する場所はここが最後だし、もう少しこの場所でのんびりしてもいいのよ~?」
チハヤ「……ありがとうございます。でも大丈夫です。
昼食までに、午後の講義の準備もしておきたいので」
アズサ「あらあら。それじゃあ、私たちの部屋に戻りましょうか」
案内など不要、無駄な時間だと思っていたが、
思っていたよりは有意義な時間を過ごせたかも知れない。
そんな風に思いながら、チハヤは皆と共に寝室のある校舎へと戻る。
しかしその時、ふと気が付いた。
案内は終わったと言っていたが、まだ行っていない場所が一つだけある。
チハヤ「あの……向こうの校舎には、行かなくても?」
チハヤの方から声を掛けてきたことを、
表情に出さない程度に意外に思いながら、皆チハヤへと顔を向ける。
そしてチハヤの指し示す方を見て、
マコト「ああ、あれは旧校舎だよ」
チハヤ「旧校舎?」
イオリ「もう使われてないし、老朽化が進んで危ないから近付くなって言われてるの」
他の校舎と同じく石造りではあるが、
言われてみれば確かに外壁の風化が進んでいるようで、随分古びて見えた。
ヒビキ「小さい頃に一度だけ忍び込んだけど、特に面白いものはなかったよね。
古い本とかがいっぱいあるくらいで」
ユキホ「あの時、みんなティーチャーリツコに怒られたよね……。
私はやめようって言ったのに……うぅ……」
マコト「そうそう、確かヒビキが言い出したんだよ。『探検しよう!』ってさ」
ヒビキ「ご、ごめんってば。でも今となってはそれもいい思い出……って、
あの時はマコトだって乗り気だったじゃないか!」
マコト「あれっ、そうだっけ? あははっ! まあいい思い出だよ、いい思い出!」
半ば無理矢理ごまかした形ではあるがマコトが話題を終わらせた。
それを見てアズサはチハヤに向き直り、
アズサ「というわけで、あそこは案内できないの。ごめんなさいね」
チハヤ「いえ。こちらこそ、要らないことを聞いてすみませんでした」
チハヤは軽く頭を下げ、再び歩き出した。
・
・
マコト「うーん、毎年のことだけどやっぱりここは眺めがいいなぁ」
ユキホ「えへへっ。今年も晴れてて良かったね、マコトちゃん」
昼食が終わり、楽しみにしていた昼休みが訪れた。
少女たちは朝に話していた通り、一本桜の丘に集っている。
チハヤ「あの……昼休みには、いつもこうしてみんなで集まるんですか?」
イオリ「いつもってわけじゃないわ。いつの間にか恒例になっちゃった感じね。
学年の初めのお昼休みはみんなでここで過ごそう、って」
ヒビキ「ね、気持ちいいところでしょ!
太陽はぽかぽかで風も優しくて、ついうとうとしちゃいそうだぞ」
チハヤ「そう……ですね。確かに、良いところではないかと」
満開の桜に囲まれた並木道も美しいとは思えたが、
あちらは少し圧倒される感覚があった。
それに比べ、こちらの一本桜の下の方は落ち着ける。
満開の桜もこうして上から見下ろす分には、落ち着いて眺めることができた。
また視線をずらせば、先ほど見た旧校舎が静かに佇んでいる。
案内の時には気が付かなかったが、この丘は旧校舎のすぐ裏に位置していたようだ。
もう使われていない校舎の近くということもあり、
喧騒から離れた静かな雰囲気を持った丘である、とチハヤは感じた。
これから空いた時間は一人、ここで過ごすのもいいかもしれない。
イオリ「ところで、ずっと気になってたんだけど……
チハヤ、あなたいつまで私たちにそんな口調なの?」
チハヤ「えっ?」
ここで過ごす時間に思いを馳せていたところに思わぬ言葉をかけられ、
チハヤは意表をつかれたような顔で振り向く。
イオリはそんなチハヤに、少し呆れたような顔を向けた。
私たちには別に普通に話してもいいんじゃない?」
チハヤ「それは……」
ヒビキ「うん、確かに。私もちょっと気になってたんだよ!
この学園の生徒はみんな家族みたいなものなんだからさ。
話し方くらいは普通にして欲しいぞ!」
マコト「へー、いいこと言うじゃないかヒビキ!
家族みたいなもの……ボクも同感だよ!」
ユキホ「わ、私も賛成です……。と、時々は私も敬語になっちゃいますけど……」
イオリ「言ってるそばからもう敬語じゃないの」
ユキホ「ひうっ! ご、ごめんなさい~!」
ヤヨイ「私も賛成でーす! チハヤさんは私よりもお姉さんだから、
普通に話してくれた方が私もあんまり気にならないかなーって!」
と、唯一黙って見ていたアズサと目があった。
何も言わずにただ優しく微笑むアズサと数秒、視線が触れ合う。
そしてチハヤは、斜め下に目を伏せ、
チハヤ「……みんながそう言うなら、そうするわ」
その表情は不慣れなことに戸惑っている様子ではあったが、
決して不快さを表すものではないことを、少女らは全員わかっていた。
だから皆、各々笑顔を浮かべ、改めて「これからよろしく」と、
新たな友人に、家族に、口々に声をかけた。
チハヤ「あ、でも……ごめんなさい。
アズサさんはやっぱり、年上だから……敬語を使わせてください。
それが礼儀だと、思うので」
アズサ「あらあら、謝らなくてもいいわよ~。
うふふっ、チハヤちゃんったら本当に真面目なのね」
申し訳なさそうに言うチハヤにアズサは笑顔を返し、
他の皆もにこやかな笑みを彼女に向けるのだった。
完全に打ち解けるにはまだ時間が必要かもしれない。
でもきっと、これが新たな家族としての第一歩になると、少女たちは信じていた。
劇中劇「眠り姫」のSSです
n番煎じです
長いです
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