「さて、どうしたものか・・・」
音楽が鳴り止んでもイヤホンを耳から外すことが出来なかった私の口から、ため息と共に独り言が漏れた。
今朝、新人アイドルに歌わせるために、かねてから作曲家の先生にお願いしていた曲のデモテープが届いた。
彼女の初ライブに向けてぴったりのものを準備したいと、いくつかの注文を添えて馴染みの作曲家先生に
歌声を録音したカセットを添えて作曲を依頼したところ、向こうの琴線に触れたのか、
なんと歌詞とタイトル、応援メッセージまでついて返ってきた。
「彼女の歌声のイメージと、名前からアイディアをもらいました。収録楽しみにしています。」とのこと。
そこからステップを踏むようにテンポが上がり、重ねられたストリングスの音が新しい朝を連れてくる。
そんなイントロに迎えられ、明日の輝きに夢を見る詩が始まる。
ピンときた。この歌に余計なものはいらない、と確信した。
もし歌番組で披露するなら、カメラは一つで良い。今の時流に合うかは分からないがダンスもシンプルにしよう。
あわよくば、この歌を劇場でだけ皆に聴かせたい。この歌と共に、ステージに自慢のアイドルが在ることを、ステージの価値を証明したい。
・・・まだ彼女はデビューもしていない新人だが。
ただ、だからこそ懸念があった。
あの子の歌唱力でこの曲を殺してしまわないだろうか。
作曲家の先生が認めるほどに素質は十分。だが技術や経験が足りないことは理解している。
だから、とても惜しい。ドラマ性などを考えると、この曲を世に出すには一曲目の、ステージの、このデビューのタイミングでしかありえないのだ。
私は茫然としていた。この曲を彼女に歌わせることができない哀しさや、アイドルを信じぬくことができない自分の無力さに。
分かってはくれるはずだが、作曲家の先生への謝罪を考えると気が滅入った。
---------------------------------------------------------
「さて、どうしたものか・・・」
まいった。本当にまいった。
とうとう始まった「39プロジェクト」。そのアイドル、桜守歌織についてだ。
先日デビューした紬にはスカウトの時点で明確なイメージがあったので、
デビュー曲について難なく決まったのだが、歌織さんのデビュー曲についてのプロデュース方針が固まらない。
ビジュアル、所作、歌唱力。どれをとっても申し分ないのだが、その武器を活かすには・・・
コールを前提に考えたアイドル感の強い曲は確実に違う。
かといって、歌唱力を活かそうにも千早の「蒼い鳥」のような曲も違う。
事務室で頭を抱えていると、普段劇場の舞台裏では聞かない男性の声がした。
「おぉ、居た居た。劇場は広くて迷ってしまいそうだ。」
「社長、おはようございます。こちらにいらっしゃるなんて珍しいですね。」
その手に厚みのある封筒をひらひらさせながら、社長が近づいてきた。
「いやいや、会長から私宛の荷物に君へのコレが同封されていてね。忙しいとは思うが、目は通しておいてくれ。」
「はい、もちろんです。わざわざお忙しいなか、ありがとうございます。」
「会長のことだ、何か面白いことを思いついたのだろう。君の活動のヒントくらいにはなるんじゃあないかと思うよ?」
「今難航しているので、そうだと助かるんですが・・・」
「はは、桜守君の件か。頑張ってくれたまえ。」
私に封筒を渡すと、他に用事があるらしく事務室から早々に出て行ってしまった。
わざわざ会社から劇場まで届けに来るなんて、いったい何が入っているのだろう。
プロジェクトで手一杯のなか、新たに仕事を抱える余裕は正直なところ無い。
ため息をつきながら封を開けると、手紙と、カセットテープが入っていた。
「39プロジェクトの発足、本当におめでとう。
順二郎からデビューするアイドルたちのオーディション映像を見せてもらったよ。
私はカセットテープ世代だが、いやはやパソコンができて便利になったものだ。
いやはや昔話はさておき、君にあるものを託したい。同封したカセットテープに、ある曲が入っている。
ちょうどデビューシングルを考える時期だと思うが、その曲を39プロジェクトの誰かに歌ってもらいたい。
これは業務とは関係のない個人的なお願いだ。
もし君がピンとこなければ、そのカセットは捨ててしまってかまわない。
使ってくれるのなら、歌唱指導については、きっと音無君に聞いてくれれば何かつかめるはずだと思う。
最後に、海の向こうに君たちの歌声が届くのを楽しみに待っている。
アイドルたちのため、頑張ってくれたまえ。 高木順一朗」
「・・・実質的に業務じゃないか。」
一人愚痴りつつ、カセットを再生できる機械を探す。
練習用にと本社からもってきた再生機があったはずだ。もともとは音無さんの私物だったか。
ラジカセの置いてあるレッスン室では、当の歌織さんが歩とストレッチをしている最中だった。
「あ、プロデューサーさん。お疲れさまです。」
「お疲れさまです。ちょっと音楽を流したいんですけど、大丈夫ですか?」
「えぇ、もちろん。」
歌織さんから了承を得て、ラジカセを引っ張り出す。
「ハミングバード」とシールが貼られたそのカセットをラジカセに入れると、歩が物珍しそうにそれを眺める。
「へぇ、アタシ、カセットテープの実物ってそんなに見たことないかも。何の曲が入ってるの?」
「んー・・・内緒だ。」
実は自分も知らないのだが、もしかしたらと思い、歩をはぐらかす。
運命の出会いを信じて、再生ボタンを押した。
テープの再生ノイズが聞こえると、部屋の中はしんと静まる。
その沈黙の中、スローなピアノのメロディが始まり、広がり、新たな朝を祝福するかのようなストリングスが響く。
頭の中にイメージのピースが無限に湧き上がり、一つのビジョンに組みあがる。舞台演出、歌詞、デビューのタイミング。この曲しか、ありえない。
「素敵な曲ですね。昔のアイドルの曲ですか?」
「・・・歌織さんのデビュー曲です。」
「えぇっ!?」
「不服でしたか?」
「いえ、その、いきなりのことで驚いてしまって・・・」
彼女をお祝いする歩。戸惑いつつも綻んだ彼女の口元を見逃さなかった。
それから歌詞カードを彼女に渡し、しばらく見守ることにした。
音源を聴きこむ彼女の背中を見て、きっと最高のステージが待ってると確信できた。
なんといったって、ピンときたのだ。
ハミングバードを初めて聴いたとき、なんか小鳥さんに歌い方が似てるなぁ、という思い込みから
妄想をここまで膨らませました。
新アイドルのソロ曲、どちらも良かったのでM@STER SPARKLEが楽しみですね!
あ、CD買うと変な番号が書いてある紙が入っていると思うので、特に他意はないけど要らなかったら番号ください
乙です
>>7
桜守歌織(23) An
http://i.imgur.com/bbLI7l0.png
http://i.imgur.com/IEeRRNf.png
舞浜歩(19) Da/Fa
http://i.imgur.com/31HLkqW.jpg
http://i.imgur.com/LhM3HZX.jpg
初ステージが楽しみだわ
0 件のコメント :
コメントを投稿