私はボタンをリズミカルに弾いていく。それに応じて液晶内のキャラクターは滑らかに動く……はずだった。
しかし、現実は厳しいもの。思い通り動くはずの私のキャラクターは、隣人の手によって操作されるキャラクターの猛攻を受けてなすがままにされてしまう。
「むむむ。……だけど、こんなものが私の全力だと思わないでね! 追い詰められた私の秘めたる力を見せてあげ――――」
「うん。そうすると、思った……。確殺コンボ入れるね…………?」
ズガガッ、ドドッ、ドバーンッ!
一発逆転を狙う、私の大ぶりでスタイリッシュな一撃は無駄のないタイミングで回避され、そして生まれた隙に迅速なコマンド操作による精錬された猛攻を叩き込まれてしまった。
快音とともに私のキャラクターは画面外に飛び出していった。無念……。
くはーっ、よくわからない声が口から洩れてしまう。
「杏奈ちゃん、やっぱり強いよー。全然かなわないや」
私の言葉に、杏奈ちゃんはいつもの桃色のウサギパーカーを深くかぶってしまった。だけどそれは私と目を合わせようとしていないのではなく、照れているんだと思う。可愛い……、と口にしないで個々のの中で思った。
「百合子さんは…………自分のしたいコマンドだけじゃなくて、相手のコマンドも警戒したほうがいいと思う……よ?」
「うう、耳が痛い」
私もゲームの腕にはある程度自信があったけれど、杏奈ちゃんにはなかなか敵わない。
やっぱり、愛の差なのかもしれない。
私はゲームももちろん好きだけど、本を読むことも好き。だけど杏奈ちゃんの趣味はゲーム一筋って感じがする。その差なのかも。
あい、アイ、愛。
カーライトを五回点滅させたらなんとやら、
「ねえ、百合子さん……」
「んんっ? 何かな杏奈ちゃん」
明後日の方向へそれていった思考を、杏奈ちゃんが断ち切った。そんな彼女に向き合うとすっごい眠そうな顔を浮かべていた。
「うん……。実は、夜更かしして……練習してた…………」
うつらうつら、そんな表現がこれ以上にないほど、杏奈ちゃんの表情にはあうようだ。
「練習って、今レッスンで習ってるダンス? そうそう、私もあれ苦手でね」
「ううん。杏奈、あのダンスはできるから……」
上げて落とされたような、そんな気分。
うう……勝手に自爆してしまった。ダンス、もっと上手くならないとね。
そんな私を尻目に杏奈ちゃんは、少し頬を赤らめながら言う。
「そうじゃなくて、このゲームの練習…………。百合子さんといっしょにやるの、楽しみだったから……」
「杏奈ちゃん……!」
杏奈ちゃん可愛い! 声に出さないけど、すごく言いたい!
その代わりに私は目の前の世界一可愛い女の子を抱きしめます。女の子特有の、いやそれ以上のふわふわでやわらかい感触。ずっと抱きしめていたいような杏奈ちゃん。
ぎゅーっと。
ぎゅーっと。
いつもなら杏奈ちゃんが何も言ってこない。いつもだったら「暑苦しい…………」とか「どきどきするから……駄目…………」とか言ってくるのに。
どうしたんだろう杏奈ちゃん。
抱きついたままなので杏奈ちゃんの表情はうかがえない。耳元に、ささやくように声を出す……なにか、卑猥な気配がする文字列だ、なんて思わなくもない。
「おーい。杏奈ちゃん」
「……………………ぐぅ」
「ね、寝てる!?」
なんということでしょう。杏奈ちゃんは、抱きつく体制のまま眠りに落ちてしまったようです。
いやいや……杏奈ちゃん、器用すぎるでしょ。というかのび太君並みに寝るの早いね。
「よほど眠かったんだね……よほど、楽しみにしてくれたのかな? なんて」
「むにゃ…………ぐう……」
だけど、そうだったら嬉しいな。
答えは杏奈ちゃんのみぞ知る、ってね。
ともかく私は体勢のきつそうな杏奈ちゃんを起こさないようにそっと動かして、自分の膝の上に寝かせることにした。所謂膝枕である。ソファの上にそのまま寝かすと首を痛めそうだもんね、他意はないよ。
そして、手持無沙汰な手でなんとなく杏奈ちゃんのうさ耳の目立つ頭を撫でてみる。
「…………可愛い」
杏奈ちゃんにに聞こえてないなら声に出しても恥ずかしくない。
杏奈ちゃんは可愛い。
もちもち、ぷにぷに、ふかふかしてて小動物みたいな女の子。
自分の魅力に無自覚そうなところも一層可愛さを引き立ててる。
そんな娘が妹みたいに私に懐いてくれるなんて……ふへへ。
「可愛い。杏奈ちゃん、可愛いよっ」
「ぐう…………」
なんて、杏奈ちゃんに夢中になっている私だけど、きっと側から見たら亜利沙さんみたいに見えてるよね。
いや、亜利沙さんと同じにしないで欲しいなっ。私は杏奈ちゃん一筋だから! …………ちょっと恥ずかしいこと考えてちゃったかも。
なでなでと手を止めずに、少し反省。
「亜利沙さんと言えば……確か」
亜利沙さんが私に頼んできたことがあったのだ。
『百合子ちゃん! あなたを杏奈ちゃんの親友と見込んでお願いがあります!』
私が事務所で暇を持て余していると、亜利沙さんがそんなことを言ってきた。
それにしても、杏奈ちゃんの親友……一番大切な人、なんて……照れちゃうなぁ。
『うへへ……。って、亜利沙さん。お願いってなんですか?』
『それはですねー』
そう言うと亜利沙さんはガサゴソと自分の鞄を漁り始める。なんとなく目線をその中に向けてみた。カメラ、カメラ、盗撮っぽいアングルの写真、カメラ、お菓子、三脚…………。
そうこうしてると亜利沙さんは一つのものをとりだした。
『コレです!』
『ええっと……。枕、ですか?』
亜利沙さんが取り出したのは新品の枕。枕カバーも付いていて、桃色の背景に可愛らしい兎さんたちがくつろいでいる。
なんとなく、杏奈ちゃんが好きそうだな、と思った。
しかし、それがどうしたのか。
『それと杏奈ちゃんにどう言う関係が』
『実はですね。これを杏奈ちゃんにあげて欲しいんです』
『…………? 自分であげれば良いんじゃないですか?』
よく分からなかった。確かに杏奈ちゃんは亜利沙さんに少し冷たい反応をすることはあるけど、だけど亜利沙さんを嫌ってるわけじゃない。むしろ好きだ。
だから自分で渡せば喜ばれるはず……。
『それだと警戒されちゃうじゃないですか! 百合子ちゃんにやって欲しいのは、これを杏奈ちゃんに渡してーー使ってもらった後に、もう一枚の同じ枕カバーと付け替えて欲しいんです!』
『ええ……。つまり、杏奈ちゃんの』
『はい! ありさは杏奈ちゃんの使用済みの匂いが染み込んだ枕カバーが欲しいんです!』
「ぐぅ…………えへへ……」
亜利沙さんもよくあんなこと思いつくなぁ。杏奈ちゃんの使用済み枕カバー、なんてさ。
まあ確かに、そんなものがあったら自分の枕につけて寝るたびに杏奈ちゃんの匂いを堪能するけどね。
しかも、匂いが薄れてももう一回杏奈ちゃんのカバーと入れ替えればいいし……はっ、しかもそうしたら私の匂いが付いたカバーを杏奈ちゃんが使うんだ! うへへ……。
杏奈ちゃんが私の匂いに包まれて、私も杏奈ちゃんの匂いに包まれる。
ふへへ。
「……はっ。おかしくなってた」
いやいや私は親友の匂いを好むなんて、そんな変態じゃない……はず。
ちらりと眼下で寝ている可愛い杏奈ちゃんに目をむける。心地よさそうな寝顔、つい無防備なその顔に触れる。
ぷにぷに、もちもち。
「んぎゅ………………」
杏奈ちゃんが苦しそうな声を出したので指を離す。するとすぐに甘やかな表情に戻っていった。……私はなんということをしてしまったのか。杏奈ちゃんの眠りを妨げるなど……うう、反省。
しかし、触るのがダメとなると……嗅ぐしか、ない。
「亜利沙さんと違って、保存しようとはしないから……セーフ、だよね?」
「んん……ぐう…………」
沈黙は肯定とみなす、なんてね。
胸の鼓動が早くなるのを感じないではいられない。杏奈ちゃんの無垢な寝顔を前に、邪な気持ちを持つこと自体罪のようなものだから。
だけど、杏奈ちゃんが、杏奈ちゃんが可愛いから……!
「ごめんね、杏奈ちゃん」
顔を近づける。
被っているうさ耳フードを少し剥がして可愛い杏奈ちゃんの素顔に触れそうなくらい近づいて、そしていよいよ鼻先が杏奈ちゃんに届いて――――、
「百合子、さん……?」
「ひいぃ!?」
あと数ミリ、そんな距離を残して私は潜水艦のごとく浮上させられた。
あ、杏奈ちゃん。なんてタイミングで起きるの…………。
だけど罪に手を汚すよりはマシだったのかも?
「お、起きたんだ。杏奈ちゃん」
「うん……おはよう、百合子さん…………」
ふわぁ、とあくびをする杏奈ちゃん、可愛い。
「杏奈、どれくらい寝てた…………?」
「えっと、どうだろう。三十分くらい?」
杏奈ちゃんに夢中で時間を気にしてなかったけど、長くてもそれくらいだよね。
と、そう思って私は事務所の時計を見てみる。
と、
「杏奈、二、三時間も寝てたんだ…………」
私の思っていた数倍は時針が回っていたようで、よく見たら窓の外は夜の帳が下りてきていました。
門限もあるし、早く帰らないと!
「早く帰ろう? 杏奈ちゃん!」
「うん……。一緒に、ね…………?」
「はうわっ」
上目遣いで帰り道のお誘いなんて、ずるい……! ずる可愛いよ杏奈ちゃん!
そんな風に誘われたからには付いていかない選択肢は無く、いそいそとゲーム機やらなんやらを自分のカバンに詰め込んでいきます。
「ねえ……百合子さん…………」
「うん? 何、杏奈ちゃん」
このタオルは私のだったかな、使ってないから畳んで置いて帰ろうかな、なんて思っていた矢先だった。
「え、えぇ!?」
まさかの追求。
杏奈ちゃん、寝ぼけてて誤魔化せるかな、と軽く見ていたけれどまったくの検討違いのよう。
杏奈ちゃんの方へ振り向くと、じっと杏奈ちゃんが見つめ返す。
どうしよう、誤魔化さなきゃ。
杏奈ちゃんの顔にゴミがついてたから取ろうとしてて……顔を近づける必要はないか。
私も眠くて、猫背になってた……これ良いかも!
「実は」
「もしかして、百合子さん…………」
そんな言い訳を挟む余裕を杏奈ちゃんはくれないみたいだった。
口を開けたまま、私は杏奈ちゃんの言葉を待ちうけます。
どんなことを言われても動揺せず、先程の出来事を隠せるように。
「好き、なの……?」
「――!!?」
す、好き。杏奈ちゃんのことを? 好きの定義によるよね。親愛的な意味だったら大好きだけど、恋愛的に好きかは別だし。
ただ一緒にゲームしたり、匂いを嗅いだり、触ったりしたいだけ――――いや、
そうだ。これはもう恋でしかない。
私は杏奈ちゃんのことが好きなんだ。頭がおかしくなりそうなくらい、夢中で、大好き。
「うん。実は、好き――大好きなんだ」
声は震えていたと思う。初めてステージに立った時のように、変化を前にして、怖くなって、だけど踏み出す時の緊張感。
そんな言葉に、杏奈ちゃんは。
「そうなんだ……。杏奈も、好き…………」
杏奈ちゃん! 私と同じ気持ちだったんだ。
これ以上の喜びって無い。杏奈ちゃん、杏奈ちゃん、杏奈ちゃん――――。
「この、兎さんパーカーのこと……」
「えっ」
…………えっ。
「あ、えっと」
言わなきゃ。見ていたのはパーカーじゃなくて杏奈ちゃんだって。
だけど、振り絞った度胸が空振りした今の私にはそれは荷が重く……。
「そ、そうなの。好きだなーって、……そのパーカー」
うぅ…………ヘタレな私。
だけど、こうやって衝動に身を任せて告白しても失敗しそうだから。
「じゃ、じゃあ……百合子さん…………!」
そんな、悶々ときた思いを飲み込んでいると、杏奈ちゃんが少し踊るような声を上げる。
頰は少し紅潮していて、とても可愛い。
「今度のお休み、一緒にお買い物いこ…………? お揃いのパーカー、買おう……?」
と、さらなるお誘いを受ける。
お買い物、文字通りの買い物もそうだし、一緒にお昼ご飯とかおやつを食べたり、ゲームセンターに行ったり。
そんな未来予想図を考えると、私の選択肢はたった一つ。
そう言うと杏奈ちゃんは嬉しそうに笑顔を晒してくれた。
お買い物、二人でお買い物。つまり、
「これってもしかして、デート?」
ぼそりと、そうつぶやくと実感が湧いてきて凄く次の土日が楽しみになってくる。最近忙しくてあんまり遊べなかったし。
「百合子さん…………、何か言った……?」
「ううん。なんか、デートのお誘いみたいだなー、ってね」
「で、デート…………」
そう言うと、どうしたのか杏奈ちゃんはそそくさと事務所から出て行こうとする。私もそれに置いていかれないように、荷物をまとめてその背中を追いかけるのだった。
「おはよう、百合子さん……。おまたせ…………」
紫陽花色のルーズなワンピースに身を包む天女――――杏奈ちゃんがぱたぱたとこちらへ駆けてくる。可愛い。
今日は待ちに待った土曜日。天気はちょっとイマイチだけど問題ないよね。
「百合子さん、待った……?」
うぅ、すごくデートっぽい発言。可愛い杏奈ちゃん可愛いよ。
しかし、どう答えるべきか。私は杏奈ちゃんを待たせるわけにはいかない、と約束の一時間前にはここにいたわけだけど、それを伝えると気を遣わせちゃうよね。
「今さっき来たところだよ」
「そっか……」
「うん。それじゃあ、まず、どこ行く?」
私としてはもっと長引かせたいところ。
そんな風に思っていると、 杏奈ちゃんの視線がある広告に集まっているのを見つけた。
何見てるんだろう。と、視線を追うと、
「SNOWKNIGHT……」
それが広告に載っている新作ゲームの名前。
「うん……。このゲーム、予約するの忘れちゃった…………」
「じゃあ、今から買いに行こうよ!」
これならデートも長引かせられるし、杏奈ちゃんも笑顔になれる。完璧だね!
「えっ、でも……。元は予約し忘れた杏奈が悪いのに…………」
「大丈夫、大丈夫。服は逃げないからね。新作ゲームは売り切れるかもしれないけど」
そう言ってゲーム屋の方向に舵を切る私。杏奈ちゃんはまだ何か言いたげだったけれど、少しすると私の隣に追いついて来た。
「うん……。結構、人気のやつだから…………」
なんということでしょう。急いで店に向かうも、目の前で最後の一つを掠め取られてしまう惨事に。
そんな……、
「杏奈ちゃんとのお揃いのパーカーが…………」
そう、ゲームは買えた。
しかし、その後に杏奈ちゃんのお気に入りの服屋さんに行くと桃色のパーカーが買えなくなってしまったのです。
あんなに人気だったとは……。
杏奈ちゃんがいつも着てるから? と思ったけど事務所か家でしか着てないから関係ないか。
「ゲーム買いに行かなかったら買えたね…………」
はっ、と。
杏奈ちゃんが暗い表情を浮かべているのに気づかされる。いや、確かにその通りかもしれないけど、そういうことじゃなくて、
「それを言うなら、私が先にゲーム屋行くなんて言わなければ……」
気まずい沈黙が私たちの間に生まれてしまう。杏奈ちゃんを責めようなんて全然思わないのに、本人からしたらこういうの気にしちゃうよね。
どうにかしないと、と周りを見渡す。すると、
「あっ、あれ良いかも!」
「ゆ、百合子さん……?」
私は見つけたそれが売っているエリアに近づいていく。見間違っていなければ、あの服には――、
駆けつけて、棚から一着取り出して鏡の前へ向かう。
「百合子さん……どうしたの…………?」
「やっぱりね。桃色の兎って、私には可愛すぎるよ」
だから、と言って私は杏奈ちゃんに見せつける。
私が身に纏うのは薄い黄色に、同じく淡い青色のラインの入ったパーカー。
そして頭部には杏奈ちゃんとお揃いで、うさ耳が付いている。
うん、こっちの方がしっくりくるよ。
桃色のパーカーは可愛いけど、杏奈ちゃん以上にアレが似合う人なんていない気がする。
「うん……! 似合ってるよ、百合子さん…………! 可愛い……!」
「えへへ。良かった」
さっきまでの気まずい雰囲気はどこかへ飛んで行って、私と杏奈ちゃんの間にはいつもののどかな雰囲気が戻ってくる。
せっかくのデート、居心地が悪いなんて嫌だもんね。
「ゆ、百合子さん……! あそこで一旦雨宿りしよ…………!」
杏奈ちゃんが指差す方向に私もついていくことに。目的地は喫茶店。とりあえず屋根のあるところへ、という感じ。
自動ドアの中へ飛び込んでいく。鼻をくすぐるコーヒーの香りが落ち着かせてくれた。
ちらりと杏奈ちゃんに目線をやると、杏奈ちゃんはアイスココアを口にしていた。甘い、可愛い。
「ビックリしたー。急に雨が降るんだもん……」
「杏奈、お母さんに二人分の傘持って来てもらうね…………? 家、結構近いから……」
そう言ってスマホを手に取る杏奈ちゃん。ここは御言葉に甘えることにしよう。
あの後、昼ご飯を食べたり、ゲームセンターで対戦したりと一しきり楽しんで名残惜しくも帰ろうとした時だった。
急に天気が崩れて、傘のない私たちはこの喫茶店から出れないことになってしまった。
「お母さん、持って来てくれるって…………」
「ありがとう! 杏奈ちゃんのお母さんにもお礼言わなきゃ」
ここは駅から少し歩く必要もあるから、傘なしではなかなか厳しい。杏奈ちゃんのお母さんには感謝しても感謝しきれない。
そう思うと、アイスコーヒーも一層美味しく感じるというもの――苦っ、普通に甘い方が良かったかも。
「百合子さん……。ココア、飲む…………?」
「あっ、良いの?」
「うん…………」
それは嬉しい申し出だった。失礼して、杏奈ちゃんのコップを手にとって一口。
うーん甘い。やっぱり女の子だから、甘いものが好きなんだよね。
「ゆ、百合子さん……」
そんな風に甘味を堪能してると、杏奈ちゃんが顔を赤く染めて声をかけてくる。どうしたんだろう。
「? どうしたの、杏奈ちゃん。もしかして、飲みすぎた?」
「そ、そうじゃ……なくて…………うぅ」
杏奈ちゃんは少しだけ言い淀んで、改めて口を開く。
「か、間接キス……だね…………」
「あ……」
杏奈ちゃんの頰の赤色が私に伝わってしまったように、私の頰も熱を持っていく。
なんとなく言葉が見つからなくて、手元のコップに口をつける――馬鹿に甘い、あっ。
「だ、だから……百合子さん…………!」
「ご、ごめん。杏奈ちゃん!」
それから杏奈ちゃんのお母さんがやってくるまで、何を話していたのかまるで思い出せなかった。
と、私。
「もう時間も遅いから、泊まっていけば?」
と、杏奈ちゃんのお母さん。
「百合子さんとお泊まり……? 嬉しい…………」
と、杏奈ちゃん。
ついでに、今日買ったあのうさ耳のルームウェアを着て、杏奈ちゃんとお揃いな感じである。
「百合子さん、支援お願い……」
「うん。『揺り動くは輝きの花弁。ホーリーヒーリング』!!」
私のオリジナル詠唱とともに回復魔法が杏奈ちゃんに降り注ぐ。それを受けて杏奈ちゃんをは無駄のない順序で剣戟を放つ。
それを繰り返すこと幾度。
「やっと、倒せた…………」
「うん。疲れたかも」
最初は全然手がつけられなかったボス。そんな難易度のそれを、私たちは時間をかけつつも二人で倒したのだった。
やっぱり杏奈ちゃんといると、なんでもできる気がする。諦められないって、心が叫んでいるみたい。
「あ、杏奈ちゃん」
そう言うと杏奈ちゃんは私に寄りかかる。杏奈ちゃんからは疲れが見えて、それだけさっきのバトルに全力だったんだってことが伝わってきた。
時計を見上げると、そろそろ日付が変わりそうだ。
「杏奈ちゃん。今日は付き合ってくれて、ありがとうね。楽しかった」
「うん……。杏奈も……楽しかった…………」
そう言ってもらえると、嬉しい。色々あったけど最終的にお泊まりまでしちゃって、一日中杏奈ちゃんといれて私も楽しくないはずがなかった。
と、危ない危ない。
杏奈ちゃんの頭がうつらうつらとしている。
「杏奈ちゃん。眠っちゃうなら、ベッドで寝た方がいいよ」
「ん……そうかも、です…………」
杏奈ちゃんはそう言って、拙い足取りでベッドまで移動した。そう言えば、私も杏奈ちゃんのお母さんに布団借りてるから、床に敷こうかな。
と、その時。
杏奈ちゃんから心地よい寝息が聞こえ始めた。
「ぐう……」
ベッドで眠る杏奈ちゃんを覗き見る。純真な表情を浮かべて、楽しい夢でも見ているのか偶に「えへへ」なんてこぼしている。
と、ここで私の脳裏に電撃が走ります。
「今なら、杏奈ちゃんの匂いを嗅いでもバレない……?」
そうです。そもそもの発端は杏奈ちゃんの匂いを嗅ぎかけたこと。だったらその騒動の最後には私が杏奈ちゃんの匂いを堪能しなければいけないのでは?
幸い、あの時と違って杏奈ちゃんは今寝始めたばかり。突然目を覚ます危険性も低い……!
なら、やらねば!
「ぐう…………」
杏奈ちゃんは寝ているみたい。
私は1回目よりも精錬された動きで杏奈ちゃんに這い寄ります。そして、同じく1回目よりも少ない罪悪感で行動を進める。
杏奈ちゃんの可愛い寝顔を眺めて、うさ耳フードを外して、そして。
「百合子さん……」
「ひやぁ!」
突然杏奈ちゃんは目を開いて、そう声を掛ける。私は驚いて尻餅をつかされてしまった。
そんなことより、
「うん……。分かってるよ……百合子さん…………」
というと、杏奈ちゃんは自分の桃色のうさ耳フードを指差す。そうそう、この前と同じ流れだよね。
白々しくも私はこの前と同じ流れに乗ることにする。
「そう、好きなの。そのうさ耳――――」
「百合子さん……。杏奈のこと、好きなんだね…………」
今、杏奈ちゃん。なんて言ったの?
頭がクラクラしてきそう。もしかして私はゲーム中に寝落ちしていて、今の状況は私の夢の中だったりするんだろうか。
だって、こんなの、おかしい。
「杏奈の匂い、嗅ぎたい……?」
「あ、杏奈ちゃん。な、何言ってるのかな?」
「百合子さん……。そういうの、良いから…………」
ああ、と今更気づかされてしまった。
杏奈ちゃんはきっと、最初に私が匂いを嗅ごうとした時から気づいていたんだろう。
それなのに指摘しないで、自分の良い方向に話を運んで――デートの約束に結びつけた。
なんて、悪女。杏奈ちゃん……!
杏奈ちゃんは優しく、そしてどこか妖艶さを含んでいる笑顔をして、言った。
「一緒に、寝よ……?」
「――――よ、よろしくお願いします」
断るすべもなく、元より断る気なんてまるで湧かなかった。
杏奈ちゃんのことが好き。
ぷにぷにしたいし、なでなでしたいし、匂いも嗅ぎたい。
抱きしめたいし、キスもきたいし、もっといけないこともいっぱいしたい。
だったら、流されてしまおう。
「うん。杏奈も…………」
言ってしまった。
本当はもっとロマンチックなシチュエーションで言いたかったのになぁ。
だけど、仕方ないよね。
一秒でも早く想いを伝えて、杏奈ちゃんも同じ気持ちをしてるんだって、知りたかったから。
二人で一つのベッドに入る。狭いけど、その狭さに感謝している自分も確かにいた。
吸い込むと杏奈ちゃんの匂いが鼻腔をくすぐる。落ち着くような、一方で落ち着いていられないような感じ。
「杏奈ちゃんの匂い、好き」
「は、恥ずかしいから…………」
そう言うと杏奈ちゃんが私の体に抱きつく。私もそれに逆らわずに抱きしめ返した。
逃げ場もなく伝わる杏奈ちゃんの熱、鼓動が私を昂らせていく。
今日の夜は長そうだ、そんな予感がした。
乙です
>>1
七尾百合子(15)Vi/Pr
http://i.imgur.com/o3k8t5t.jpg
http://i.imgur.com/X6C3jqq.jpg
望月杏奈(14)Vo/An
http://i.imgur.com/olHxThh.jpg
http://i.imgur.com/ArqHl3f.jpg
>>6
松田亜利沙(16)Vo/Pr
http://i.imgur.com/xEyU3V8.jpg
http://i.imgur.com/tpiVulQ.jpg
あんゆりは正義
Saikou……
0 件のコメント :
コメントを投稿