「すみません、このみさん。遅くまで事務仕事手伝わせてしまって」
「あら、いいのよ。最近みんなの仕事が増えてきたからプロデューサーも忙しいでしょ?」
階段を上る足音がふたつ響いている。
2人は劇場の事務室での仕事にキリをつけ、休憩のため屋上へ続く階段を上っているところだ。
あのミリオンスターズが夢みた舞台、武道館ライブから3ヶ月が経った。
37人が描いた虹色の看板から始まったライブは、観客たちすべてを熱狂へと誘った。
変わっていったのは季節だけではなく、彼女たちを取り巻く環境もまた同じで。
全員で作り上げたあのステージは多くのメディアに取り上げられ、劇場の外での仕事も大きく増えていった。
階段を上がり扉を開けた先は、大きくひらけた屋上へと続いていた。
屋上全体は照明で明るく照らされており、屋上の端までしっかり見渡せるようになっていた。
「プロデューサーも大変よね。昼もあちこち行ってたんでしょう?」
「ええ、局の挨拶回りに、みんなの撮影現場もいくつか。あと今度の撮影の打ち合わせもですね。」
「最近になってようやくこの仕事量にも慣れてきましたよ。」
「あまり根を詰めすぎないようにね。最近のプロデューサー、ちょっと心配だから。」
「・・・そう、ですね。」
そう言って彼はフェンスを背にゆっくりと腰を下ろした。
「プロデューサー、もしかして何か悩み事でもあるの?」
「え?」
「だって最近、何か浮かない顔してるもの。それくらいわかるわよ?」
「そんな、悩みなんてほどのことじゃ・・・」
「ほら、心当たりがあるんじゃない。」
彼はしまった、といった表情を浮かべた。
話をするかどうか逡巡していたが、
「相談するのに私じゃ頼りないかしら?」
そんなこと言われたら話さざるを得ないじゃないか、
彼はかなわないなといった顔でこう答えた。
「・・・このみさんはずるいですね。」
「武道館の時の話です。」
「みんなにとってあの場所でライブをすることはすごく特別で。俺自身の夢でもあったんです。」
「でも、日にちが近づくにつれてだんだん不安になっていったんです。」
「ライブが終わった後の命運がこのライブで全部決まってしまうんじゃないか。そう考えてしまうことがよくあったんです。」
「もちろんみんなを信頼していなかったという訳では全然なくて、むしろそこは安心していましたんです。」
「ただ、自分がもっと何かできないか、何かが足りてないんじゃないか、って思ってしまって。」
「最近、時々思うことがあるんです。みんなの頑張りに俺が追いつけているのかな、ってことを。」
「ねぇ、プロデューサー。こんな話知ってる?」
彼の話にかぶせるようにして彼女は話し始める。
彼女は体を預けていたフェンスから体を起こし、彼の目を見て続けた。
「ある女の子がアイドルになった話。」
「もともと事務員志望だった女の子が、ステージで輝く道を選んだ話を。」
馬場このみ(24)Da/An
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1. CHANGIN' MY WORLD
〇
====1. CHANGIN' MY WORLD!!====
とある事務所にある女の子がやってきた。
彼女ははじめ事務員としてその事務所へやってきたはずだったのだが。
「私が、アイドルに・・・?」
書類の手違いでアイドル志望として話が進んでいたのだった。
結局、事務所としてはどちらか本人の選択を受け入れる、と言うことになった。
彼女は子どもの頃、アイドルに惹かれていた。
テレビの向こう側でキラキラと輝く姿を見て、いつか自分もこんな風に・・・。
医者になるのが夢だった子どもは、大人になって医者になれたのだろうか。
将来の夢はスポーツ選手だと言った子どものうち、どれだけがその夢を叶えられたのだろうか。
自分の小柄な体格を気にして、早く大人だと認められたかったからなのか。
長女として、妹にしっかりした所を見せたかったからなのか。
彼女が日々を過ごすたびに、夢は遠ざかっていった。
子どもが話すような"くだらない"夢は心の片隅へ追いやられ、その分だけ"現実的"な将来を考えるようになっていった。
表計算ソフトの使い方も覚えた。
就職に有利になるように資格の勉強もして、普通の会社に就職した。
「私がアイドルだなんて。」
今の彼女の年齢は世間一般でいうアイドルよりも、確かに少し高いだろう。
彼女にとってアイドルという不安定な職業に就くということも不安に感じられた。
しかし何よりも、アイドルになった自分の姿を想像できなかったのだ。
「そういう経験もないし、きっと私には・・・。」
事務所に電話をかけて、「アイドルはできない」とそう伝えるだけだった。
受話器を取って、メモに書いておいた電話番号を一つずつ押していく。
しかしその度に受話器を途中で戻してしまう。
彼女は閉まったままの窓からふと外をのぞいてみた。
窓の向こうに見えた曇り空は街を灰色に染めあげてしまっている。
それはまるで彼女自身の心を映しているように感じられ、思わずため息が溢れた。
結局彼女はその日のうちに決めることができなかった。
次の日、答えが決まらない彼女の元に一本の電話が鳴る。
それは事務所からの電話だった。
「もしどちらか決めかねているようなら、劇場に今日の公演を見にきてくれませんか?」
会場前の広場にはすでに大勢の人々が集まっていた。
物販列に並んでいる人たち、入場待機列に集まっている人たち、彼らを誘導するスタッフたち。
イベントごととしてはよくある光景だが、この時の彼女の目には少し違ってみえた。
少し小走りで近づいてくる男性を見つけた彼女はそう声をかけた。
彼の腕には、スーツの上からSTAFFと書かれた腕章がつけられている。
「急に呼び出してしまってすみません。どうしても、どちらか決めてしまう前に公演を見てほしくて。」
「ごめんなさいね、プロデューサー。今日は忙しいでしょうに。」
「えっと、チケット代いくらだったかしら?」
彼女が財布を取り出しながらそういうと、男性はきょとんとした顔を見せたあと少し笑って、
「ああ、それなら大丈夫ですよ。」
「えっ?大丈夫って・・・?」
「それより、もう入った方がよさそうですね。行きましょうか。」
彼は時計を確認してそう言った。
彼が案内する先は公演のお客さんが列を作っている入場口とは逆向きの方向。
建物の裏側にある扉の前でふたりは立ち止まった。
「え?これって通用口じゃない。もしかして・・・」
「ええ。あなたはもうシアターの仲間なんですから。」
彼はそう言ってポケットからネックストラップにつけられたカードを取り出し、扉の横に取り付けられた機械にかざした。
電子音とともに鍵が開く音がなり、彼はゆっくりとその扉を開けた。
「ようこそ、765プロライブ劇場へ。」
当然それは仕方のないことだろう。
舞台袖に入る機会なんて今までなかったし、考えたこともなかったのだから。
そこでは今日の公演に出演するアイドルたちが素敵な衣装を着て準備していた。
彼女にとっては事務所で少し話したことがある子もいれば、まだ会ったことのない子もいた。
進行表の最終確認を行う子や、イヤホンで曲を聴いている子、待ちきれずに体を動かしている子とさまざま。
彼女は、慣れない状況に困惑しているのとは違った心情を自身に感じていた。
自分が出演するわけではないのに、アイドルたちの緊張や期待が自分に伝わってきたかのようであった。
出演者やスタッフの待機場所にもなっているところに彼女は座っていた。
そこには10脚ほどの折りたたみ式の椅子が置かれ、設置されているいくつものモニタにはそれぞれ別のカメラからのステージ映像が映されていた。
客席から聞こえる大きな歓声は、舞台裏にいた彼女にその熱気を伝えるのに十分すぎるほどだった。
アイドルたちが一斉に暗転しているステージの上へと上がっていく。
彼女は舞台裏で、自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
楽曲のイントロが流れ、スポットライトが一斉にアイドルたちを照らす。
いっそうに強くなる歓声。
これが、アイドル。
彼女はそう強く感じさせられた。
歌うパートひとつ取っても楽曲は様々な色に彩られていくのだ。
ひとつひとつの色は全て違っていて、ある一つの形になっていく。
この曲も、また次の曲も。
カラフルに彩られた時間はあっという間に過ぎて行き、公演はますます盛り上がりを見せていった。
それは公演の中盤ごろだっただろうか。
彼女は突然あらわれたある少女に抱きしめられた。
「この子かわいい!ねぇプロデューサーさん、この子新しく入ってきたんですか?」
近くで見ていたプロデューサーはそれを見ながら少し笑っていた。
「もう、未来。急にどうしたの~?」
髪留めの少女に話しかけたのは、棒付きのキャンディを持った髪のハネた少女。
なんとなく猫っぽい印象を受けるような子だ。
「あ、翼!ほら見て、この子!」
「ちょっとちょっと。私はこう見えても、24歳のオトナなのよ?」
「ほら?この子カワイイでしょ?」
「ちょ、ちょっと、本当なんだからね!?プロデューサーからも説明して!」
このまま様子を見ているのも面白そうだと彼は思ったが、髪留めの少女に彼女が撫でられそうになっていたので彼も説明に加わった。
彼女がどういう理由でここにいるのかも含めて。そして・・・。
「本当に本当に24歳!」
髪のハネた少女がその会話を見て笑う。
説明のために取り出した免許証をしまいながら彼女は、まったくもう、ともらした。
髪のハネた少女に何気なくそう言われ、彼女は考え込んでしまう。
確かにそうだ。ライブに圧倒されてはいたが、もともと自分の中でどうするか決めるために来たんじゃないか。
私は───。
「あ、静香ちゃん!遅いよ~。」
「未来、翼、遅くなっちゃってごめんなさい。」
メイク直しが少し手間取っちゃって、そう言いながら入って来たのは黒髪の少女だった。
少女は彼女と一度偶然事務所で話したことがあったので、彼女に会釈をした。
それから少女たちが何でもない話でわちゃわちゃしているところを見るに、やはりアイドルと言っても年頃の中学生ね、と彼女は感じた。
ステージ前にも関わらず少女たち3人に無用な緊張は感じられなかった。
「翼、もう袖のところまで行くわよ?」
黒髪の少女はステージ脇の階段に足をかけながら、そう声をかけた。
ステージセットは後方ほど高くなるように段差がつけられているので、このように舞台に上がるための階段が組まれているのだ。
とはいえ今回使うのはせいぜい3,4段の、小さなものである。
「え?もう?」
髪のハネた少女が意外そうに答えた。
少し慌てた様子で黒髪の少女の方へ向かおうとして、自分が手に持っていたものの存在を思い出した。
「あ、そうだ。これ持っててくれますか?」
「わ、私?」
驚きつつも彼女は、少女の持っていたキャンディを受け取った。
ふとそれに目を向けたが、よくあるなんの変哲も無いようなものに見えた。
「それじゃあ2人とも、私たちのことちゃ~んと、見ててくださいね!」
それじゃあ行って来ますね~、と言って、少女は袖のところで待つ2人の少女のもとへと駆けていった。
舞台の方向へ向かう少女の後ろ姿は、彼女にとってとても眩しく見えた。
イントロ部分がない楽曲で、3人の登場と同時に歌唱が始まるという演出に客席からの歓声も一気に高まった。
この曲は彼女も知っているアイドルのカバー曲。
彼女はそれを舞台袖のところから見ていた。
カバー曲というのはどうしてもオリジナルと比較をされる。
そういう意味ではとても難しいものでもあるはずだ。
アップテンポな曲調に乗せて披露されるパフォーマンスは、細かく見れば荒いところも数多くあった。
歌やダンスが完璧であったとは決して言えないだろう。
彼女がそう感じたのはあることに気がついてからだった。
それはステージ上のアイドルたちの見つめる先。
観客たちひとりひとりであった。
モニタ越しの映像だったならそれは気がつかなかっただろう。
すごく素敵な笑顔だ、と。
その観客たちが見つめるアイドルたちもまたそれは同じことであった。
汗を飛ばしながら、それでいて観客たちをさらに煽っていく。
観客たちはそれに応えるようにますます盛り上がっていく。
それはまるで観客たちとひとつになるように。
その光景は、彼女のモノクロだった世界をも塗り替えていくようであった。
気がつけば彼女は受け取ったキャンディを両手で持っていた。
体の正面で、優しくぎゅっと握るように。
その楽曲の名前は『GO MY WAY!!』。
背中を押されたような不思議な感覚だった。
公演が終わり、劇場の客席は先ほどまでとの熱気が嘘のように静まり返っている。
客席側の照明はほとんど落とされ、舞台の上も簡素なオレンジ色の照明だけがつけられていた。
彼女はそんな誰1人としていない客席を見つめて舞台の上に立っていた。
目を閉じれば先ほどまでの熱狂が見え、歓声が聞こえてくるように感じられた。
しかし彼女は──だからこそなのかもしれないが──今のこの誰もいない客席の、端から端まで見回して。
静けさにただ耳をすまして。
しばらくの間ずっとそうしていた。
ガチャリとドアが開く音が聞こえた。
階段状になっている舞台の段の部分に腰掛けていた彼女は、それを待っていたかのように、ゆっくりとその方向を向いた。
「プロデューサー。」
「ここに居たんですね。」
「もしかして、探させちゃったかしら?」
「・・・いえ、きっとここにいるだろうと思っていました。」
彼女にとってその返事はある意味予感していた言葉だった。
やっぱり見透かされていたのね、なんて言葉は口にはしなかった。
彼はそのまま袖の階段を上がり、彼女の座っている段のすぐ隣の段差に腰を下ろした。
「プロデューサー。」
「はい。」
「・・・私ね、子供の頃夢があったの。」
「ううん、今の今まで忘れてただけなのかもしれない。」
自身が夢を追うことだなんて、考えたこともなかった。
その理由は彼女が一番知っていた。
今思い返すとそれにどんな意味があっただろうか?
「・・・私、まだ間に合うのかしら?」
消え入りそうな声で、彼女はそう呟いた。
その言葉は決して単純なものではなくて、複数の感情が複雑に絡み合ったようなものであった。
「大丈夫です。」
彼は迷いのない声で、すぐに答えた。
「確かに今あなたがしようとしている決断は、決して簡単なものではないでしょう。」
「ですが、」
そう彼は言葉を区切る。
続く言葉を慎重に選ぶようにして。
「その道を選んだあなたは、決してひとりではありません。」
「私にあなたが輝く手助けをさせてください。」
「一歩、前へ踏み出してみませんか?」
そう言って彼は、彼女に右手を差し出した。
彼女はゆっくりと目を閉じた。
そこでは、彼女はとあるステージに立っていた。
ここよりももっと大きなところだ。
彼女が立つステージを取り囲むように、そして見上げるほど高い位置まで客席が埋め尽くされている。
彼女からはその観客たちの顔がひとりひとりはっきり見えるようであった。
赤と青、そして金を基調とした衣装に身を包んだ彼女は、波のように揺れるコンサートライトの光に包まれて歌うのだ。
それは鮮明に見えるようであった。
大きなステージに立つ、自分自身の姿が。
彼女はゆっくりと瞼をあげた。
彼女が今立っている場所はまだ観客のいない舞台の上。
その足元には舞台の立ち位置を表す印がつけられていた。
「ありがとう。プロデューサー。」
「おかげで私の気持ちは決まったわ。」
「プロデューサー、私を・・・」
彼女自身が囚われていた籠はもう何処にもない。
彼女の手が動き出す。
それはずっと言えなかった言葉。
だけどそれは同時に、何より言いたかった言葉でもあった。
「私を、アイドルにして!」
差し出した右手をお互いに握り合った。
その目線はまっすぐ前を見据えていた。
「ええ、任せてください。このみさんを必ず、トップまで導いてみせます!」
劇場の屋上には2人の影があった。
それはアイドルとプロデューサーであり、お互いがお互いのパートナーである。
彼女のプロデューサーが、プロデューサーとしての能力を十二分にも持っていることを。
彼の心配は杞憂だということを、彼女は誰よりも知っていた。
だから───。
「あの日聞いた音色を、もう一度聞きたくて。」
それはかつての彼女の願いだった。
「いつか声の届く場所へ行きたくて。」
それはかつての彼女の憧れだった。
「このみさん、それって・・・」
「劇場のみんなと、何よりあなたが背中を押してくれたの。」
「私がアイドルをすることを決めて、プロデューサーについて行って。」
「いろんなことがあったけど、それを後悔なんてしたことは一度だってないわよ?」
「一歩を踏み出す勇気がどれほど大切か、それはあなたに教えてもらったこと。」
「だからプロデューサー。もっと自分に自信を持ちなさい。」
彼女は彼のすぐ脇に、ゆっくりと腰かけた。
「ねぇ。プロデューサーは、アイドルをやってる私を頼りないと思ってる?」
突然の問いかけに驚きつつも、彼はすぐにその問いに答えた。
「そんな訳ないじゃないですか!」
「このみさんはたまに突っ走っちゃう時もありますけど・・・。
責任感があって、みんなのことすごく見てくれてます。
すごく信頼してますし、そういうところ、いつも尊敬してるんですから。」
「なら大丈夫。お姉さんが保証してあげる!」
「このみさん・・・。」
それからしばらくの間お互いに会話は交わさなかった。
風が木々の枝を揺らす音。微かに聞こえる波の音。
お互いがすぐ隣にいることを感じながら、ゆるやかに流れる時間を感じていた。
時間でいえば1分も経ってなかったかもしれない。
ある時、ちょっとした拍子で手が触れ合い、妙に恥ずかしくなった2人はゆっくりと立ち上がった。
「星、きれいですね。」
季節柄この時期は雨や曇りが多いのだが、今ではきれいな星空が見える。
予報によるとしばらくはずっと晴れが続くらしい。
「ちょっと前まで雨が続いてましたから。こうして見上げるのも久しぶりって感じですね。」
「普段こうやってゆっくり星を見ることって、なかなかできないものだものね。」
彼女はそのままずっと夜空を見上げていた。
「今まで、本当にいろんなことがあったわね。」
そう言って彼女は屋上の柵にもたれかかった。
瞬く星の一つ一つを数えるように、彼女は振り返る。
「プラチナスターライブでユニットを組んだり、キャラバンで色々なところへ行ったり。」
「武道館でいっぱいのファンの前で私が歌うなんて、ここに来る前の自分に言っても信じなかったでしょうね♪」
彼女は夜空を見上げながらそう言った。
彼女のその横顔はまさしく大人の女性のそれであった。
「あの場所で見た景色、プロデューサーが見せてくれたあの景色は、今でもずっと目に焼き付いてるわ。」
「初めての単独ライブも、みんなで出演した武道館も。アイドルになってプロデューサーやみんなと作ってきたこの時間全部が、ずっと私の宝物なの。」
「このみさん・・・!」
彼女にとってそれがどんなに大きい存在だっただろうか。
彼にとってその言葉がどんなに大きなものだっただろうか。
それはもう、最高の軌跡だろう。
「わたしをステージに立たせてくれてありがとう、プロデューサー。」
「わたしをアイドルにしてくれて、本当にありがとう。」
「そっ、そんなこと・・・。俺は、ただ、背中を押しただけですからっ・・・!」
彼は胸にこみ上げるその想いに耐えかねて、思わず目線を外してしまった。
「あれ?プロデューサー。ちょっと泣いてるんじゃないの?」
彼女はあえてわざとらしく、彼をからかうようにそう言った。
「な、泣いてなんかないですって・・・。」
「ほらほら。お姉さんの方、まっすぐ見てごらんなさい?」
「こ、このみさんが小さいから、どこにいるのか分からないんです!」
「こーら、プロデューサー。そうやってごまかさないの。」
彼は親指で目元をぬぐって、一呼吸してから、彼女に向かい合った。
「俺だって、アイドルのみんなと、このみさんと出会えて本当によかった。このみさんがいたから今の自分があるんです。」
彼は溢れ出そうなものを止めるように、何秒かだけ目を閉じた。
出会ってから色々な想いが重なって、夜空を彩る星々のように広がっていった。
彼女の目をまっすぐ見据えて。
この想いを今の自分で伝えるために。
「このみさんを、もっとずっと輝かせられるように頑張ります!だから・・・」
「だからこれからも、隣で歩いてくれますか?」
彼女の答えはあの日からずっと変わらない。
きっと、この先もずっと。
「ええ、もちろんよ、プロデューサー。アイドルの道はまだまだこれからだものね。」
「これからもよろしくね、プロデューサー♪」
それから2人はあの日のように、手を握り合った。
もう一度この場所から、新しい始まりを。
ある人魚は、あの日見たきらめきを求めて。
あの場所は今まで住んでいた場所とは全く違う世界。
踏み出さなければ今までとなんら変わりない生活を送れたはずだろう。
しかし、彼女は魅せられてしまったのだ。
海の外の世界に。
あの光り輝く舞台に。
泡になり消えてしまうことだって覚悟の上で、一歩を踏み出す脚を手に入れた。
もう後戻りはできない、それもわかっている。
海の色しか見えなかった彼女にとって、この世界のすべてがとても色鮮やかで。
この胸の高鳴りが彼女を突き動かすのだ。
彼女に脚を授けた男はいま、彼女の隣にいる。
焦って周りが見えなくなることもあるだろう。
不安に駆られて立ちすくんでしまうこともあるだろう。
でも、彼女たちならきっと平気だろう。
振り返ればそこには今まで歩いて来た道があるはずで。
しっかりと前を向けばその道はずっと先へ続いているのが見えるはずだ。
時には星空だって見上げればいい。
その景色はきっと、先へ進むたびに輝きを増していくもので。
海の底では見えなかったものがそこにはあるはずだから。
彼女たちはどこまでも進んでいくのだろう。
彼女たちの前にまだ知らぬ扉がある限り。
その先に、夢が叶う場所がある限り。
4年目を迎えて、武道館を超えて、新たなステージへとあがった先からは何が見えるのだろう。
そんな思いから書いたものとなっています。
>>1に挟み込み損ねてしまったのですが、拙作は、
【ミリマス】 『新しい舞台と変わらない想い』
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497193758/
と関連したものとなっています。
直接的なつながりはありませんが、こちらも読んでいただければ幸いです。
今年もこうしてこのみさんをお祝いできるのが本当にうれしいです。
このみさん、誕生日おめでとうございます!!
【ミリマス】 踏み出す一歩と胸の高鳴り
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1465663295/
(こっちでした)
乙です
>>20
春日未来(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/CPQLOTY.jpg
http://i.imgur.com/3ZGepze.jpg
最上静香(14) Vo/Fa
http://i.imgur.com/aW1JkPS.jpg
http://i.imgur.com/tRy1qP7.jpg
伊吹翼(14) Vi/An
http://i.imgur.com/Y6QEN5Q.jpg
http://i.imgur.com/B5I0o4U.jpg
水中キャンディ踏まえて本当にいい大人だよね
乙
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