芹沢「え~っと、被害者は赤羽根…芸能プロダクションに勤めているみたいですね」
伊丹「事務か何かか?」
芹沢「ガイシャの所持品の名刺を見ると、どうやらプロデューサーみたいですね」
伊丹「プロデューサー?フン、そいつは色々とありそうだな」
芹沢「ですね」
冠城「へぇー、アイドルのプロデューサーが遺体で発見。ねえ」
青木「これ、面白くないですか?」
冠城「確かに、被害者が芸能界の関係者というのは興味深い」
青木「でしょ?」
冠城「でも、右京さんが同じ様に興味を抱くかは分からないな」
青木「そうですかね?杉下さんも興味を持つと思いますよ。何せ、容疑者が同じ事務所のアイドルなんですから」
冠城「ええ。それが例のプロデューサー殺しの容疑者で、被害者と同じ事務所のアイドルだそうです」
右京「彼女を犯人とする根拠は何なのでしょう?」
冠城「青木から聞いた話ですと、被害者と最後に会っていたのが如月千早で、現場にも彼女のものと思われる指紋が残されていたそうです」
右京「被害者の死因については?」
冠城「腹をナイフで一突き。刺殺ですね。背の高さも丁度彼女くらいだそうです」
右京「そうですか」
伊丹「……」
千早「……」
伊丹「…いい加減、何か喋ったらどうなんだ?」
千早「……」
芹沢「…これは時間掛かりそうですね」
伊丹「…ああ。こいつは我慢比べになりそうだな」
冠城「黙秘…みたいですね彼女」
右京「ええ。そのようですねぇ」
右京「ええ。拝見させて頂きます」
青木「まあ、僕にかかればこの程度造作も無いですが、感謝はして頂いてもいいですよ?」
右京「ふむふむ、なるほど」
青木「…って、無視かよ!」
冠城「まあ、そう膨れるな。また飲みに行こう」
青木「じゃあ、今夜どうです?」
冠城「あー、今夜は用事が入ってて無理だ」
青木「……」
冠城「どうしました?何か気になることでも?」
右京「被害者の刺された箇所についてですが、ここを見て下さい」
冠城「えーっと、刺し傷は約20cm」
右京「そして凶器のナイフの長さは」
冠城「20cm…これ、刃が全部刺さってるってことですか?」
右京「ええ、その通りです」
冠城「気になりますか?」
右京「腹部へ刃を根元まで突き刺す。これにはかなりの力を必要とします。力のある男性でもなかなか困難かと思われるのに、あのような少女がというのは考え難い」
冠城「なるほど」
右京「そもそも、刃渡り20cmものナイフを10代の少女が所持しているというのが不自然です」
冠城「刃渡り20cm…小刀くらいはありますからね」
右京「これは調べる必要があるかと思いますよ」
冠城「ええ、如月千早の所属する芸能プロダクションです。事件の後ですからマスコミが囲んでいますね」
右京「そのようですねぇ」
冠城「取りあえず、裏口から入ってみましょうか?」
右京「おや?事務所からどなたか出てきましたねぇ」
冠城「早速、マスコミに囲まれてますね。助けます?」
右京「ええ。そうした方がいいでしょうねぇ」
右京「失礼します」
小鳥「はい?」
右京「765プロダクションの方でしょうか?」
小鳥「…どちら様でしょうか?」
冠城「こういうものです」
小鳥「警察?また事情聴取ですか?」
右京「申し訳ございません。何分、課が違うもので、お手数お掛けいたします」
右京「察しが早くて助かります」
小鳥「他の警察の方にも言いましたが、私は何も知らないんですよ」
冠城「被害者は如月千早のプロデューサーだったそうですが?」
小鳥「はい。でも、プライベートのことは何も…」
右京「では、仕事のことはどうでしょうか?」
小鳥「仕事、ですか?そうですね。あまり上手くいってはいなかったと思いますよ」
冠城「上手くいっていなかった、とは?」
冠城「確かに、見た目からもそんな雰囲気は感じられましたね」
小鳥「プロデューサーさんとは意見の相違が結構あって、その度に衝突してました」
右京「衝突…ですか。どういったことで衝突していたか分かりますでしょうか?」
小鳥「そうですね…。ウチはそのアイドル事務所でして、当然所属している子たちはアイドルとして売ち出しているんですけど、千早ちゃんはアイドルと呼ばれるのがあまり好きじゃないみたいで。自分のことをボーカリストと言っていましたね」
冠城「なるほど。アイドルとして売りたいプロデューサーとボーカリストとして売られたい少女。それは衝突するでしょうね」
右京「つまり、そのことが動機であるとあなたは思っている?」
小鳥「…はい。あの、もう行ってもいいですか?」
右京「お忙しい中、ご協力感謝します」
小鳥「それでは…」
冠城「同じ事務所の仲間だというのに、彼女の無実を信じていないんですね」
右京「それほどまでに二人は険悪に見えた。ということなのでしょうねぇ」
千早「……」
芹沢「……」
ガチャ
右京「失礼」
伊丹「ちょっと、入って来ないで下さいよ警部殿。今、取調べ中なんですから!」
右京「1分だけで十分です」
伊丹「だから、そういうの…」
右京「あなたに聞きたいことが一つあります」
伊丹「だから警部殿!」
千早「……」
右京「衝突の原因は、互いの価値観の違い。これも間違いは無いでしょうか?」
千早「……」
冠城「相変わらず黙秘ですね」
芹沢「さっきからずっとこの調子」
伊丹「流石の警部殿も口を割らせることは出来ねえみたいだな」
右京「…なるほど。分かりました」
冠城「え?ああ、はい」
伊丹「ちょっとどういう…行っちまった」
芹沢「一体、何が分かったんでしょうかね?」
伊丹「知るか!」
千早「……」
右京「おやおや。君、分かりませんか?」
冠城「…後学の為、右京さんの見解の方を先にお聞き出来れば、と」
右京「おやおや。…僕は、鑑識の情報を見たとき、一つ引っ掛かりを感じたことがあります」
冠城「引っ掛かり?」
右京「被害者の所持品です。ところで、冠城君に聞きますが、被害者は眼鏡を掛けていましたか?」
冠城「写真を見る限りでは掛けていなかったと記憶していますが」
右京「しかし、所持品の中にはメガネケースがありました」
冠城「メガネケース?」
冠城「人と会うのに視力が悪い状態ってのは確かに不自然ですね」
右京「つまり、犯行当時に被害者は眼鏡をしていた可能性が高いということになります」
冠城「しかし、眼鏡は現場から消えた。確かにこれはMysteryですね」
右京「消えた眼鏡は果たして何処へ行ってしまったのでしょう」
冠城「普通に考えれば犯人が持ち去ったということになりますかね?」
右京「では、犯人は何の為に持ち去ったのでしょう?眼鏡など、持ち去る必要は無いじゃありませんか」
冠城「それでも持ち去るとしたら…犯人に繋がる証拠が付着している、とかですかね?」
右京「ええ。僕もそう考えています」
冠城「何処かへ隠したか或いは捨ててしまったんじゃ?事件から彼女が逮捕されるまで時間はあった筈ですからね」
右京「しかし、彼女はすぐに逮捕されていますし、黙秘という形ではありますが事件を否認してはいません。もし、犯人だと疑われないように証拠品を隠そうとする人物であるならば、否認しないのは些か不自然ではありませんかねぇ?」
冠城「…確かに」
右京「先ほど質問した時も彼女は何も答えずに黙秘を貫いた。黙秘を貫くことは逆に警察の心証を悪くし、その後自身へ不利に働く可能性がある。犯人であるならばなるべくそれは避けたいと思うのが自然だと思いますよ」
冠城「つまり、右京さんは彼女が犯人ではないと考えてるんですか?」
右京「ええ。しかし、少なくとも、彼女は何かを隠している。そして、そのことがこの事件の真実に深く関わっているのではないかと僕は考えています」
冠城「なるほど。では、次はどうしましょう?」
右京「事件現場へ行って見ましょう」
右京「しかし、紙に書かれた情報と実際に目で見るのとではまた違ったものが見えてくるものですよ」
冠城「なるほど。勉強になります」
右京「ここは人目につかない場所のようですねぇ」
冠城「ええ。だから、現場周辺の目撃証言も無かったようです」
右京「人目につかない場所で二人は会っていた…」
冠城「そこはかとなく、いやらしい想像をしてしまいますね」
右京「でも、二人は険悪だったそうですよ?」
冠城「あ、右京さん。こういうのはどうです?」
右京「はい?」
右京「まあ、一課もその程度の想像はしているかと思いますよ」
冠城「…でしょうね」
右京「しかし、二人は少なくともプロデューサーと所属タレント以上の関係であった可能性は高いかと思いますよ」
冠城「何故、そう思うんです?」
右京「如月千早が着けていた腕輪ですよ。よく見ると被害者の鞄に同じものが付けられています。このように付けられていると分かり難いですが、これは彼女がしているものと同じ形状のものに間違いないと思いますよ」
冠城「なるほど。お揃いの腕輪ってことか。しかし、よくそんなところ見ていましたね」
右京「先に被害者の所持品を見ていたので、気になりました。順序が逆だったら気付かなかったかも知れませんねぇ」
右京「二人のことを知る人たちにもっと話を聞きたいところですねぇ」
冠城「つまり、765プロダクションへ行くということですか」
右京「ええ、行きましょうか」
冠城「お供します」
続きが楽しみ
右京「ええ」
冠城「相変わらずマスコミが多いですね」
右京「では、裏から入りましょうか」
冠城「そうですね」
右京「何分、課が違うものでして…申し訳ない」
冠城「我々は警視庁の特命係の者です」
律子「特命係…聞いたことないですね」
右京「あなたは事務所の職員でしょうか?」
律子「はい。私も彼女たちのプロデュースを担当しています」
冠城「つまり、被害者と同じということですね」
律子「そうなりますね」
律子「ええ。そうですが」
右京「冠城君。知り合いだったのですか?」
冠城「いえ、法務省の頃、付き合いで行ったアイドルが見られる店で、舞台に立つ彼女を見たことがあったんですよ。それを思い出しましてね」
右京「と、いうことはあなたもアイドルだった?」
律子「ええ。昔のことです」
右京「なるほど。そうでしたか。道理であなたの佇まいには隙が無い。他者から見られる仕事をしていたのであれば納得です」
律子「そ、そうですか?」
律子「はい。でも、以前他の方にお話したことと大きな違いは無いと思いますよ?」
冠城「大丈夫、問題ないです」
右京「如月千早さんとは険悪だったと以前ここの方に伺ったんですが、律子さんから見てもそうだったんでしょうか?」
律子「ええ…。でも、険悪というのは少し違いますね」
冠城「と、言いますと?」
律子「私の印象なんですが、ぶつかり合いはしていても、その信頼みたいなのはあるんじゃないかなと思ってました」
右京「なるほど…大変参考になりました。ところで律子さんも眼鏡をかけていらっしゃいますね」
律子「え?ああ、はい」
右京「この事務所は眼鏡を掛けている人は多いのでしょうか?」
律子「いえ、私と彼と…あと小鳥さんもしてたのを見たことがありますね。普段はつけてないので、もしかするとコンタクトレンズかも知れませんが」
右京「小鳥さん…というのは、もしかしてここで事務をやっている?」
律子「ええ。知っているんですか?」
冠城「以前、ここへ来た時に話を聞かせて貰いました。あの時は今よりマスコミでごった返していたんで事務所の中に入るのは断念したんですが」
右京「なるほど…そうでしたか」
律子「?」
右京「被害者は金銭に困っていた…ということはありませんでしたでしょうか?」
律子「え?いや、まあウチは薄給ですので、困っていないってことは無かったと思いますが」
右京「そうでしたか。改めまして、ご協力感謝いたします」
律子「事件の参考になればいいんですが…」
右京「いえ、大変貴重な情報でした」
右京「事件が事件ですからねぇ。彼女たちの心情を慮ってということでしょう。もしかして、君、会いたかったんですか?」
冠城「いや、そういう気持ちが全くないってわけじゃないですが、単純にいなかったことが気になっただけですって。ところで右京さん」
右京「はい?」
冠城「被害者の金銭事情なんて何で聞いたんです?」
右京「被害者の遺留品のサイフの中に金融会社のチラシの端のようなものがありましたので、気になりました。細かいところが気になる僕の悪い癖」
冠城「別にチラシくらいあってもおかしくはないじゃないですか?」
右京「これがポケットティッシュの類であればそうかも知れません。しかし、チラシとなるとある程度の興味が無いと手には取らないと思いますよ?」
冠城「…確かに、金銭に困っている事情でもなければ敢えてそんなチラシを手に取ろうなんて思わないですね」
冠城「本当ですか?」
右京「僕の考えが正しければ、事件当日何が起きたのか、何故如月千早は黙秘を続けるのか、二人の関係は、それら全てに辻褄が合います。その為にも行かなければならない場所があります」
冠城「それって、もしかして…
右京「ええ。その通りです。そして、君にはやってもらいたいことがあります」
冠城「僕にですか?」
右京「ええ、君には…」
次回で完結予定。
ガチャ
右京「……」
冠城「……」
右京「今日はあなたに真実を確認しに来ました」
千早「……」
右京「単刀直入に言います。被害者を殺害したのは、あなたではありませんね?」
千早「!?」
右京「被害者を殺害した犯人は他にいます」
冠城「そこで君は見てしまったんじゃないかな?事件の一部始終を」
右京「そしてあなたは殺害された被害者の元へ行き、現場に残された凶器と被害者へ自らの指紋を残した」
冠城「犯人を庇うため…でしょうか?」
右京「いえ、そうではありません。そうであれば黙秘などせず、自分が犯人だと認めてしまえばいいわけですから」
冠城「では、何のためなんでしょう?」
右京「庇おうとしたのは、被害者の方では無いでしょうか?」
千早「……くっ!」
千早「……」
右京「被害者は事務所のプロデューサーである一方で、ある仕事をしていました。それは、借金の取り立てです」
冠城「それも違法な取り立てです」
右京「冠城君にこのチラシの金融会社へ行って貰いました」
冠城「そこで身分を隠し、借金をしました。案の定、金利は法なんて関係無いものでした」
右京「所謂、闇金という奴ですよ」
冠城「ちなみにその会社は速やかに摘発されました」
冠城「被害者は相当な借金があったそうで、その返済のために働かされていたそうです」
右京「債務者を取り立てに使っていたということです」
千早「……」
冠城「芸能界に携わる者が、裏の社会と繋がっている。このことが世間に知られれば事務所は終わってしまう」
右京「だからあなたは黙秘を続け、万が一の場合には自分が犯人であるように見せかけた」
冠城「容疑者が固まった状態で捜査すれば、闇金の方まで捜査の手は行かないですからね」
右京「黙秘していたのは、下手なことを言ってしまえばそこから嘘がばれてしまうかも知れないという計算もあったのかも知れません」
千早「…くっ」
右京「つまり、あなたはもう黙秘する必要は無くなったというわけですよ」
千早「…どうして」
右京「はい?」
千早「どうして、私を犯人にしてくれなかったの!?私が犯人になれば、他の皆まで…」
右京「だから、あなたは自ら孤立していたのですね?」
千早「そうよ。私は皆と馴れ合わなかった。私に何かが起きたとき、皆に迷惑を掛けないように」
冠城「でも、君は被害者と付き合っていた」
千早「…プロデューサーは私の孤独の本当の理由を知ってくれたから」
右京「でも、あなたのしたことは決して許されることではありません」
千早「!!」
千早「……」
右京「あなたが真犯人の存在を隠したことで、また新たな犯罪を生むことになるかも知れなかったんですよ?」
千早「でも、皆が…」
右京「あなたは未成年です。重い罪には問われないかも知れません。しかし、あなたの心には残ったはずです。罪という名の十字架が」
冠城「…右京さん、それ以上は」
右京「誰かを守るために罪を犯す。それが正しいとは僕には思えません」
千早「…うっ、うっ、うわあああああああああああ」
角田「暇か?」
冠城「課長ほどじゃないですよ」
角田「俺は別に暇じゃねえよ!」
右京「課長、先日は有難うございました」
角田「おお、例の闇金の摘発か」
右京「課長の手際の良さが事件を早期解決に導きました」
角田「例はコーヒーでいいよ」
冠城「…右京さん」
右京「はい?」
右京「しかし、聞くところによりますと他の所属タレントの子たちは皆個々に活動を始めたそうですよ」
冠城「…そうですか。皆、強いんですね」
右京「ええ、アイドルも戦国時代と言いますからねぇ。この程度で負けていられないということでしょう。ところで、君」
冠城「はい?」
右京「それは何ですか?」
冠城「これはμ´sっていう…あ、いえ、別に好きってわけじゃないですよ。付き合いです付き合い」
右京「君も好きですねぇ」
冠城「ちょ、右京さん!!」
角田「な~に、やってんだか」
完
あまりアイマス関係なくてすみません。
さすが暇課長、有能過ぎるわ
ノンキャリア希望の星
冠城はラブライバーだったか…
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