千早「ここがギャラリーフェイク……」
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の続編です (ナレーション 石坂浩○)
フェイクだけを扱う画廊として若者のデートスポットとして定着している画廊である。
だが、この画廊には黒い噂が絶えない。
盗品や、表に出せない真作をブラックマーケットに流している、そういう噂である。
今日もこの画廊のオーナー、藤田玲司の所には、表の世界では解決できない話が転がり込ん
で来る……。
三田村『Mr.藤田、貴方の力を借りなければならなくなったかもしれないの、一度、高田美
術館へ来ていただけるかしら?』
藤田「三田村さん? 何か厄介事ですかい?」
サラ「ムッ……」
三田村『厄介といえば厄介ね……とにかく、時間の空いた時でいいからいらしてくださいな』
藤田「はぁ……別に構いませんが……」
三田村『よろしくお願いするわ』プッ ツーツー
藤田「……どうも要領を得ん電話だな……三田村さんらしくもない」
サラ「ミタムラの所に行くの!? ワタシも行くからね!」
藤田「ハイハイ……」
藤田「要件は何ですかな? あまり面倒な事はゴメンですぜ」
三田村「そうね……何から話したものかしら……貴方、765プロって知ってる?」
藤田「……まあ、顧客が一人いらっしゃいますよ」
サラ「如月千早ちゃんにフェイクを一つ売ったヨ!」
三田村「それならば話は早いわ、話というのは、その765プロの四条貴音さんに関する事
なのよ」
藤田「ほう?」
藤田「相変わらずメディアを使うのがお得意のようですな」
三田村「茶化さないで。
それで、監督が主演のかぐや姫のイメージにピタリと合うと見染めて、765プロ
の四条さんに出演を依頼したのだけれど……きっぱりと断られてしまったの」
藤田「ほう?」
サラ「何でダロ?」
三田村「それは分からないわ……でも、諦められなかった監督がしつこく食い下がると、四
条さんは一つの条件を出したの」
藤田「条件?」
演を考えてもいいと……」
藤田「!」
サラ「ナンダイ?」
サラ、かぐや姫の物語は知っているな?」
サラ「ウ、ウン、日本語ベンキョーしている時に絵本読んだコトあるよ」
藤田「じゃあ、ざっとでいいからあらすじを喋ってみな」
サラ「エーッと……確か……おじいさんが山に竹を取りに行ったら光る竹があって、その中
から小さな女の子が出てきて、女の子はぐんぐん成長してスゴイ美人になったけど、
キゾクの求婚も全部断って、ミカドの求婚も断って、月に帰る時にミカドに不死の薬
を贈ったけど、ミカドはそれを日本で一番高い山の上で焼かせたから、その山が不死
の山……つまりフジサンになった……だいたいこんな話ダヨネ?」
三田村「凄いわ、サラちゃん、外国人でなかなかそこまで知っている人はいないわよ?」
サラ「そ、そう? エヘヘ……」
藤田「そのかぐや姫が、貴族の男達の求婚を断る為に突きつけたのが、有名な『五つの難題』
だ。
全部言えるか?」
サラ「え? エーッと……忘れたヨ……」
これを五人の貴族にそれぞれ課し、持ってきたなら求婚を受け入れてもいいという、
いわゆる無理難題の類いだな」
サラ「そのシジョーさんはそれを持ってくれば映画に出ると言っているんダネ?
ギャラリーの在庫に……」
藤田「ある訳ないだろ」
サラ「アウウ……」
三田村「私も、そんな伝説上の宝物を持って来いだなんて無理は言いません。
この際、四条さんを納得させられるようなフェイクをMr.藤田に用意して頂ければ
と思って……」
藤田「フェイクねぇ……それじゃあ姫君を余計に怒らせる事になりませんかね?」
三田村「その可能性は……否定できませんけど……それ以外にどうしようもないじゃあり
ませんか?」
藤田「ともかく会ってみようじゃありませんか、その無理難題を言う姫君に」
藤田達が扉を開けようとした時、丁度外に出ようとした如月千早と鉢合わせた。
千早「きゃっ……! す、すみません……あら? 藤田さんとサラさん?」
藤田「これは失礼……如月さん、その後も順調なようで何よりです」
千早「はい……あの『月光』が部屋にあると、どんどんインスピレーションが湧いてくるん
です! その節は本当にありがとうございました!」
サラ「お客様に喜んでいただいて何よりネー。
温度管理と湿度管理はちゃんとしてクダサイネ?」
千早「はい、気を付けています。
今日は765プロに御用ですか?」
藤田「今日は四条さんに用があってね……アポは取っている筈だが」
千早「ああ、四条さんなら談話室に居ますよ。
それじゃ、私はレコーディングがあるのでこれで失礼しますね」
サラ「千早ちゃん、ガンバッテネー!」
藤田達が談話室に入ると、その銀髪の女性はソファから立ち上がって優雅にお辞儀をした。
貴音「初めまして……わたくしは四条貴音と申します」
三田村「初めまして、私は映画『かぐや姫』の時代考証と美術を担当させていただいている
高田美術館の館長、三田村小夜子と申します」
藤田「藤田玲司です……しがない画商をやっております、お見知りおきを」
サラ「助手のサラ=ハリファです、ヨロシク」
貴音「藤田さん……ああ、貴方でしたか、千早に『ふぇいく』を売ったのは……わたくしも眼福に
預からせていただきましたが、あれはなかなかに良い『ふぇいく』ですね」
藤田「……それはどうも」
貴音「いいえ、脚本を読ませていただきましたが、大変優れた構成だと思っております。
この映画に関われたなら、どんなに素晴らしい事でしょうか……」
三田村「ならば、何故あのような難題を……!」
貴音「……『竹取物語』は、わたくしにとって特別な物なのです」
三田村「特別?」
貴音「それをわたくしの拙い演技で汚してしまう事は、古典に対する冒涜であると思ってお
ります」
三田村「しかし、監督は貴女でなくてはメガホンを取らないとまで言っています」
貴音「わたくしは何も『出ない』とは言っておりません。
指定した品物を持ってきていただければ、出演を了承いたします」
う?
こちらの藤田氏に協力してもらえば、本物と見まがうような『フェイク』を作って
くださいます。
それで満足してはいただけませんでしょうか?」
しかし、貴音は首を横に振った。
貴音「いくら精巧に出来ていても、所詮『ふぇいく』は『ふぇいく』です。
まがい物では人の心を動かす事は出来ません……」
藤田「聞き捨てなりませんな」
藤田はソファから立ち上がった。
藤田「ニセモノ屋にはニセモノ屋のプライドがあります。
そうまで言われては引き下がれません。
私が『本物のかぐや姫の求めた宝物』を持ってきて差し上げましょう」
三田村「Mr.藤田!? 本物って……本気!?」
藤田「フッ……『かぐや姫の難題』、解いてみせますよ」
貴音「……」
サラ「フジタ! 宝物を探すって本気カ!?
海外に行くノ?」
藤田「いや……」
藤田はニヤリと笑った。
藤田「まずはホームレスに会いに行くのさ」
サラ「ホームレスぅ!?」
藤田「よう、源内先生、元気にしてるかい?」
源内「藤田さんじゃありませんか、またホームレスになりに来たんですか?」
藤田「ちゃうわっ!!
……本名は知らんが、現代の平賀源内を名乗るアンタの事だ、多少なりとも平賀源内
の事には詳しいと思ってな」
源内「ほう……何が知りたいので?」
藤田「率直に聞く、平賀源内は『火浣布』の再現に成功したと思うかい?」
源内「ふむ……火浣布ですか」
サラ(か、カカンプ? 何のコトネ?)
藤田「ほう……」
源内「源内は『火浣布略説』などのパンフレットを作ってアピールしたようですが、実際に
作れたのは折りたたむ事も出来ない小さな物……オランダ人はそれでも驚いたよう
ですが、まあ、かぐや姫の基準で言えば失敗でしょうな」
藤田「ふーむ……」
源内「しかしまた、なんであんな危険な物の事について知りたがるんです?」
サラ(危険!?)
藤田「訳アリでね、どうしてもかぐや姫の難題を解かにゃならないのさ」
源内「ほう……それなら、昔の知り合いの紡績工場を紹介しますよ。
医者時代から源内には興味があって、火浣布を再現しようと試みた事があるんです。
今ならずっといい物が出来るかもしれませんよ」
藤田「本当か!? 手間が省けたぜ! 感謝するぞ、源内先生よ!」
サラ「フジター! カカンプってなんなノー? 危ない物ナノ?」
藤田「自分で調べてみるんだな、これは宿題だ。
ただしネットで調べるのは禁止だ。
すぐに答えが出るのはつまらないからな……」
サラ「ケチー!」
藤田「どうだ、サラ、火浣布については調べてみたか?」
サラ「百科事典と首ったけで調べたヨ……眼が疲れた~」
藤田「フフ……それで、解答は?」
サラ「ズバリ、火浣布って、『火鼠の皮衣』のコトでショ?」
藤田「正解だ……調べた事を喋ってみな」
サラ「えーっとネ……」
鼠で、火から出た時に水をかけられると死んでしまうと言われているネ。
この鼠の毛で作られた布は、汚れたら火の中に入れれば、汚れだけ燃えて、布は燃え
ずに新品同様に白くなるネ。
つまり、火で浣う布、火浣布ネ。
これが竹取物語に出てくる火鼠の皮衣と特徴が一致するネー」
藤田「まあ、そういう事だ。
他の宝物でなく、何故俺が火鼠の皮衣に目を付けたか分かるか?」
サラ「それも調べたヨ、日本人の大好きな『三国志』に話が移るヨ」
藤田「フフ……続けてみろ」
デモ、後漢末の混乱で朝貢が途絶えて、魏の時代になると、その存在さえ疑われる
ようになったネ。
それで魏の文帝、曹丕が、「火は激烈な性質を持つからその中で燃えない布などあり
えない」って自分の著書「典論」で述べたネ。
次の皇帝、明帝の曹叡が、先代の著書は名著だから石に刻んで永遠に残せって命令し
て、実際に石に掘らせたヨ。
でも魏に西域から火浣布が献上されちゃったからサア大変。
結局その箇所は間違いだって事で、石から削って、天下の物笑いにナッタネ」
藤田「つまり?」
サラ「火浣布、つまり火鼠の皮衣は、他の宝物と違って、中国の史書にハッキリ実在すると
証明されてる、実在の宝物だってコト」
藤田「良くできました」
サラ「エヘヘ……デモ、何で紡績工場に行くノ?
火浣布を世界中で探すんじゃナイノ?」
藤田「そこまで調べておいて、火浣布の正体には辿りつかなかったのか……それじゃ、合格
点はやれんな」
サラ「ブー……」
藤田「そろそろ着くぞ、これを着けておけ」
藤田はそう言って高機能マスクをサラに渡した。
映画スタッフと三田村、四条貴音とプロデューサー、それに藤田達が一堂に会していた。
藤田「約束通り、本物のかぐや姫の求めた宝物、『火鼠の皮衣』をお持ちいたしましたぜ」
監督「ほ、本当かね!?」
貴音「……」
藤田「どうぞ、改めてみてください」
藤田は一枚の厚手の白い着物を差し出した。
貴音「……」
貴音は無言でその着物に持っていたジュースを振りかけた。
P「貴音! 何を……!?」
貴音「これが本物の火鼠の皮衣なら、火にかければ汚れが落ちる筈。
検証、お願いします」
監督「おお……!」
P「汚れだけが……消えていく……!」
三田村「まさか……これは火浣布!?」
藤田は火の中から着物を取り出し、貴音に差し出した。
貴音がその着物に袖を通そうとすると、三田村が待ったをかけた。
三田村「ま、待って! その着物に触れてはいけません!!」
貴音「……それは、この着物がアスベスト製だからですか?」
P「アスベストだって!?」
三田村「知っていたの……?」
藤田「……そう、これが火鼠の皮衣の正体、東洋で言う火浣布、西洋で言うサラマンドラの
繭、その実態は石綿、つまりアスベストの織物ですよ」
貴音「ふふ……心配御無用です、プロデューサー殿、江戸期の女性は毒である鉛を含んだ
白粉を塗って美しさを保っていたといいます……たかがアスベストに少し触れるの
を恐れているようでは、とてもアイドルなど務まりません」
そう言って貴音は着物を羽織り、まるで昔を懐かしむかのように我が身を抱いた。
藤田(……なるほど……監督が惚れ込むのも分かる気がするぜ……まるで本物の姫君の様
だ)
P「何をだ……?」
貴音「……いえ、言えませぬ。
それでも、これだけの熱意を向けられれば、断る事など出来ません。
わたくし、映画の主演を受けようと思います」
監督「い……いやったあああぁぁぁっ!! インスピレーションがどんどん湧いてくるぞ
おおおぉぉっ!!」
貴音「かぐや姫は、月の都で罪を犯したせいで地上に堕とされたそうですね……。
果たして、その罪とはどのような物だったのでしょうね……?」
藤田「……それは、かぐや姫本人しか知り得ない秘密ですな」
貴音「……つれづれと……空ぞ見らるる……思ふ人……」
藤田「……天降り来む……ものならなくに……」
サラ「……? どういう意味?」
藤田「……さあな……」
藤田は煙草を咥えて火を点け、スタジオを後にした。
藤田とサラはテーブルを出し、月見酒を楽しんでいた。
サラ「シジョーサンの映画、大ヒットみたいネー」
藤田「そりゃ、あれだけ優秀な人材が揃ってりゃ成功するだろ、三田村さんの時代考証も
正確だったみたいだしな」
サラ「フジタも協力したんだから、クレジットに名前載せてもらえば良かったのに」
藤田「馬鹿言え、柄じゃない……いや、そうだな」
サラ「?」
藤田「千年の後に、かぐや姫の難題を解いた男が居たと語られるのも悪くないかもな」
藤田はそう言って盃を掲げ、月に乾杯した。
月の姫君が、その時笑いかけてくれたような、そんな気がした。
(終)
HTML化依頼出してきます
樹海はコンパスも使えないほどの場所で迷い混んだら最後だから危険な場所で最も安全な場所でもあるからとか
というかページ構成がぴったり一話分って感じがすごい
乙
脳内で貴音が細野絵で再生されたわ
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