都内某所
往来の盛んなビル街の一角に一際目を引く劇場がある
765プロ劇場
今をときめくアイドルたちが定期公演を行っている劇場である
人々に希望を与えるアイドルたち、我々はその日常を追った
冬も間近に迫り、肌寒さを感じる午前7時
警備員の足音だけが聞こえるはずの劇場内に聞きなれない音が響いていた
音の出元である給湯室のドアを開けると、引き締まった朝の空気と共に一人の少女の姿が目に入った
『最上静香』
765プロダクション所属アイドルにして、うどん職人
彼女の真剣な表情に、我々スタッフも今回の取材に対して改めて気が引き締まった
Q. いつもこんなに朝早く?
静香「おはよう未来、今日はレッスンが午前中だから今のうちに仕込みを……未来、そのビデオは何?」
朝の挨拶をしながら、麺棒に込める力は常に一定である。ここにもうどん職人の熟練の技を感じる
静香「え?なに、どうしたの?」
アイドルの日常のドキュメント番組を制作していることを伝えると、彼女は僅かに動揺を見せた
静香「えっ!?聞いてないわよ!?」
言わない方が面白いだろってプロデューサーさんが
静香「まったくあの人は…、アイドルを芸人か何かと勘違いしてるんじゃないかしら…」
一通り呆れた様子を見せると、彼女は生地を一度撫でてから再び捏ね始めた
手を止めてしまったため生地の状態を確認したのだろうか
一般人である我々には到底理解できないが、うどん職人として培ってきた経験が垣間見得た
静香「ちょっと未来!変な解説入れないでよ!私はアイドルよ!」
一通り捏ね終わると、彼女は生地をプラスチックのパックに入れて徐に靴を脱ぎ始めた
Q. 一体何を始めるんですか?
静香「生地を足で踏むのよ。私は男の人よりも力が弱いから、この作業を特に念入りにやる必要があるの」
そう言うと、彼女は靴下も脱ぎ始めた
無駄な肉の一切無い、白く透き通った脚がスラリと伸びる
Q. なぜ裸足でやるのですか?
静香「どこがダマになってるとか、弾力がどの程度あるとか、素足じゃないと分からないからよ」
まだ気温も低いにも関わらず、うどんに関しては一切妥協は許さない
『プライド』
うどん職人としての譲れない想いがそこにはあった
静香「だからそのうどん職人っていうの辞めなさい!職人さんに失礼でしょう!」
あー、気にするのそっちなんだー
ガチャ
星梨花「おはようございます!」
箱崎星梨花
765プロダクション所属アイドル
純粋無垢で可愛らしく、メディアで目にする機会も増えてきている注目のアイドルだ。
静香「なんか私の時と紹介が違くない?」
星梨花「あ!静香さん、うどん作ってるんですね!」
静香「お昼に一緒に食べましょう」
星梨花「わぁ!私、静香さんのうどん大好きです♪」
アイドルがうどんを作っていることに誰も疑問を抱かない、これが人気アイドルを擁する765プロダクションだ。
星梨花「未来さん、そのカメラはどうされたんですか?」
ドキュメント番組を作るんだよ!
星梨花「えっ!?じゃあこれが放送されるんですか!?」
星梨花「えっと、みなさんおはようございます!箱崎星梨花です!…あれ?こんばんはの方が良いでしょうか?」
星梨花は今日も可愛いなぁ
星梨花「あっ、…えへへ♪」
スタッフが念入りに撫でておきました。
午前8時
静香「…ふぅ」
職人が一仕事終えたように息を吐いた
Q. 終わったんですか?
静香「これからレッスンだから、冷蔵庫で熟成させるのよ」
静香「レッスンが12時までだから、ちょっと熟成が深くなっちゃうと思うけど仕方ないわね」
何を言ってるのかよく分からないけど、静香ちゃんが楽しそうだから良しとした。
8時20分
最上静香と箱崎星梨花とスタッフが談笑していると外から小気味良い笑い声と階段を上がる音が聞こえた
ガチャ
奈緒「おはようさん」
ミリP(以下P)「おはよう」
横山奈緒
765プロダクション所属アイドル
確かなダンスの実力と関西特有のノリの良さを併せ持ち、一緒にいると元気になるスタイル抜群の17歳
P「未来、ちゃんと取材できてるか?カメラ壊してないか?」
むっ、私だってこれくらいできますよー
P
765プロ所属プロデューサー
50人のアイドルを一人で担当する敏腕プロデューサー
分身してる、字が読めない、ハゲなど諸説あり実体が掴めない
この人が私の、いや765プロのプロデューサーです
静香ちゃんは頼りないって言ってるけどいつも私たちのことを第一に考えてくれて……でへへ
奈緒「なんや、未来はビデオ撮ってるんか」
奈緒「私、横山奈緒っていいます~。いえ~いピースピース」
奈緒「ほれほれ、静香もちゃんとニコニコせんとあかんで」
静香「プロデューサー、取材があるなんて聞いてないんですけど」
奈緒「そんな堅苦しいことええやんええやん。ほれほれ星梨花も」
星梨花「えへへ、ピースです♪」
奈緒「星梨花は素直でかわいいなぁ」ナデナデ
静香「わかります」ナデナデ
ガチャ
翼「ごめんなさ~い、遅刻しちゃいました~♪」
伊吹翼
765プロ所属アイドル
甘え上手だがステージ上でのパフォーマンスは天性のものを感じさせ、理不尽なプロポーションを持つ14歳
翼「ってあれ?みんないる?なんで?」
奈緒「翼が早く来るなんて珍しいこともあるもんやな」
静香「どうせ遅刻すると思ってレッスンの時間を8時からって言っておいたんで」
翼「え~、静香ちゃんひど~い」
翼「じゃあわたし、時間までコンビニで立ち読みしてきまーす」スタスタ
静香「逃がさないわよ」ガシッ
翼「えへへ、ダメぇ?」
静香「ダメよ」
静香「真面目にレッスンしたら私の作ったうどん食べさせてあげるから」
翼「じゃあじゃあ、お肉!お肉いっぱい入れてよ!ね?」
静香「ダメよ。今回は打ちたてだから素うどん以外認めないわ」
翼「え~、静香ちゃんのうどんいっつも具が少なくてつまんない~」
静香「麺と出汁の味がわからないなんて翼もまだまだね」
星梨花「わ、私は静香さんのうどん大好きですよ!」
静香「ありがとう、星梨花」
今日も劇場は職人が作るうどんを中心に話題が広がる
765プロの和気藹々とした雰囲気も職人のお陰かもしれない
午前8時45分
レッスンが始まった
静香「・・・」グッグッ
柔軟をする職人の表情は真剣そのもの
丹念に身体を伸ばしつつ、今も考えていることは先ほど伸ばした生地のことだろうか
どんなときでも職人の気が休まることはない
静香「ちょっと未来、変な解説入れないで!」
翼「静香ちゃんの取材されてるの?いいなぁー」グイッ
奈緒「ちょお翼!いたっ!痛い!」
星梨花「静香さん、痛くないですか?」グイグイ
静香「星梨花はもう少し力を入れてもいいわね」
その後トレーナーが現れ本格的なレッスンが始まった。
本日はダンスレッスンのようだ。
熟練のうどん職人も今はひとりのアイドルとしてレッスンに臨む
本業との両立は大変だろうが職人の目に迷いは無い
きっとレッスンの後に食べるうどんのことを考えているのだろう
レッスンが終わった
Q. お疲れ様でした。疲れてないですか?
静香「疲れてるにきまってるでしょう・・・」
Q. スポーツドリンクをどうぞ
静香「未来にしては気が利くわね。ありがとう。」
Q. やっぱあげない
静香「あっ!じょ、冗談よ!冗談!」
静香「さぁっ!うどんを作るわよ!」
職人の一言で場が引きしまる
星梨花「わくわくです♪」
奈緒「静香ぁ~はよ~。お腹すいた~」
翼「おーなーかーすーいーたー」
周りの声も聞こえていないかのように職人はエプロンの帯を締めた
職人の孤独の戦いが始まる
静香「・・・」グッグッ
丸く広げた生地を職人が麺棒で伸ばしていく
奈緒「この瞬間がいかにも『うどんつくってます~』って感じやな」
星梨花「静香さん、私もやってみたいです!」
静香「いいわよ、均一に広がるように頑張ってね」
星梨花「ありがとうございます♪」
星梨花「えい、えい」グッグッ
翼「わたしも!わたしもやってみたい!」
Q. 大切な生地を、よろしいのですか?
静香「えぇ、うどんの良さやうどん作りの楽しさが伝わってくれればそれでいいのよ」
目の前のうどんに囚われず、うどん界の将来を見据えている
そう述べた職人の目は少し遠くを見つめていた
静香「あのねぇ・・・」
静香「それでは、麺を切ります」
そういって職人が取り出したのは給湯室にある包丁だった
Q. うどん用のすごいやつじゃないんですね
静香「ご期待に副えなくてごめんなさいね。あれ結構良い値段するのよ」
道具に頼らず、自分の技術で勝負する
ぎじゅちゅ大国日本の意思がそこにはあった。
静香「噛んでるじゃないの」
トントントン
リズミカルな音が事務所に響く
奈緒「ほぉ~、何度見てもうまいもんやな~」
翼「ダンスもそれくらいリズム感あればいいのにねー」
静香「翼うるさい!」
トントントントン
突っ込みを入れながらもその手は淀みなく動く
いつしかアシスタントになっていた星梨花が鍋にお湯を沸かしていた
--うどんの時間だ
あとは麺を茹でるだけ
スタッフが油断したその瞬間だった
職人がテキパキと動き始めたのだ
Q. いったい何を?
静香「麺を茹でてる間に出汁を用意します」
スタッフがすっかり忘れていた工程を、職人は忘れていなかった
静香「当たり前でしょ!」
静香「できました!」ジャーン
翼「う・ど・ん♪う・ど・ん♪」チンチン
星梨花「う・ど・ん♪う・ど・ん♪」
奈緒「なんやこの状況・・・」
白く艶やかな麺
透通った黄金の出汁
静香「今日は奈緒さんもいるので関西風にしてみました」
奈緒「わかってるやーん、ありがとうな」
翼「それじゃあそれじゃあ!」
静香「未来もカメラ置いて食べましょう」
そうします
「「「「「いただきます!!!」」」」」
ズズズズッ
未来「もごごご!もごごごごごごご!(おいしい!おいしいよ静香ちゃん!)」ズズズズッ
静香「食べてから喋りなさい」
奈緒「静香、おかわり」
静香「はいはい」ガタッ
翼「静香ちゃ~ん、わたしも~♪」
星梨花「おいしいです♪」モグモグ
未来「うどんを通じて世界に笑顔を、職人の意思は劇場に根付き始めていた」
静香「・・・」ツルツル
未来「お味はどうですか?」
静香「美味しいわよ・・・って未来それいつまで続けるの?」
未来「静香ちゃんがうどん食べ終わるまでだよ」
静香「あきれた、本当にうどんの取材だったのね」
未来「うん、だって・・・」
未来「静香ちゃんは、私の最高のうどん職人だから!」
静香「未来・・・!!」
静香「だから私はうどん職人じゃないからー!」
未来「あ、気付いた?でへへ・・・」
おわり
関西風うどんのようにあっさりと、それでいて素材の良さを生かした良いみらしずでした
乙です
>>1
最上静香(14) Vo
http://i.imgur.com/elElgN9.jpg
http://i.imgur.com/BE1XQSj.jpg
>>2
春日未来(14) Vo
http://i.imgur.com/aQyOApp.jpg
http://i.imgur.com/LBASYmq.jpg
>>4
箱崎星梨花(13) Vo
http://i.imgur.com/owLL9p9.jpg
http://i.imgur.com/tofxwtC.jpg
>>9
横山奈緒(17) Da
http://i.imgur.com/ZnisCLI.jpg
http://i.imgur.com/m16HYU5.jpg
>>11
伊吹翼(14) Vi
http://i.imgur.com/pHtr5IL.jpg
http://i.imgur.com/vPw1mZ8.jpg
ちょっと丸亀行ってくる
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